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まさかの会員制
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天気は快晴。
淡い色のストローハットを抑えて、私は眩しい空を見上げた。
侯爵領から馬車を走らせること一時間。
多くの人で繁盛する都に着いた。
都に来ることは何度かあったけれど、こうして遊びに来るのは初めてのことだった。
私たちの馬車は都の北門から入り、貴族街へと降りる。
基本的に北の貴族街は高位貴族御用達のお店ばかりが並んでいる。
エルヴィスと結婚しなければ、私が訪れることは一生なかっただろう。
「いいお天気ですね! エルヴィス、どこに行きましょうか?」
「ええと……少し待ってくれ。オーバンからもらった地図によると、こっちに屋敷が並んでいて、向こうが宝飾品店……この造りは防火も兼ねているのか? 参考にできそうだな……」
「あの、エルヴィス?」
エルヴィスは地図を見て納得したようにうなっていた。
たぶん領主特有の視点で、地図を見たら町の構造を把握する癖があるのだろう。
領地経営をしていないと言っているけれど、そういう知識はしっかりと持ち合わせているみたい。
「……あぁ、すまない。そろそろ昼時だし、お腹が空いてないか?」
「はい。男女が会食するためのレストランがあると、オーバンさんに教えてもらいました。行ってみませんか?」
「わかった。とりあえず店を探してみようか。できるだけ人の少ない店がいい……と言いたいところだが、今日は我慢だな。雰囲気重視で店を選ぶとしよう」
エルヴィスは騒がしい場所は好きじゃない。
やっぱり私と同じ性質をお持ちのようで。
青空のもと、私たちはお店を探しに歩きだした。
最終的に入ったのは赤レンガの屋根をもつレストランだった。
たくさんお店があって迷ったけど、私とエルヴィスの意見が一致して選んだのがこのお店。
店の扉を開けると心地よい鈴の音が鳴る。
内装は全体的に落ち着いた雰囲気。
席が個室ごとに区切られていて、相手と二人きりの会話を楽しめそう。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
こくり、とエルヴィスはうなずく。
その態度に店員は何かを訝しむような視線を送った。
「……お客様、会員証はお持ちですか?」
「ん、会員証……?」
「はい。当店は会員制になっていまして。基本的に貴族の方のみご利用可能となっているのですが……」
「あ、あぁ。では、いま会員登録できるだろうか」
「構いませんが……こちらに個人情報の登録をお願いいたします」
エルヴィスは気後れした態度で署名する。
まさか会員制のレストランだったなんて……やっぱり都のお店は格式が高い。
やや挙動不審な態度で書類の記入を進めるエルヴィスに、店員は怪訝な視線だ。
「……これでいいだろうか」
「はい、確認いたします。お名前は……エ、エルヴィス・アリフォメン侯爵……?」
店員が信じられないものを見るように顔を上げる。
見開かれた店員の瞳に、エルヴィスは後退った。
「あ、その……やはり俺みたいなやつが高級レストランなんて無理か。そうか、無理か……入店お断りなのか」
「違いますよ、エルヴィス! お店から出て行こうとしないでください」
冷や汗をかいて店から飛び出そうとする彼を必死に止める。
噂の『陰険侯爵』がやってきて、しかもすごく綺麗な男性だったから驚いているだけだと思う。
「い、いえ……失礼いたしました! 無礼をお許しください。たしかに会員登録が完了いたしましたので、店内へどうぞ」
及び腰のエルヴィスの手を引いて店内へと入っていく。
やがて彼は落ち着きを取り戻したのか、臆病な態度も薄れていく。
その後は高級レストランに相応しい、絶品料理を二人で楽しんだ。
淡い色のストローハットを抑えて、私は眩しい空を見上げた。
侯爵領から馬車を走らせること一時間。
多くの人で繁盛する都に着いた。
都に来ることは何度かあったけれど、こうして遊びに来るのは初めてのことだった。
私たちの馬車は都の北門から入り、貴族街へと降りる。
基本的に北の貴族街は高位貴族御用達のお店ばかりが並んでいる。
エルヴィスと結婚しなければ、私が訪れることは一生なかっただろう。
「いいお天気ですね! エルヴィス、どこに行きましょうか?」
「ええと……少し待ってくれ。オーバンからもらった地図によると、こっちに屋敷が並んでいて、向こうが宝飾品店……この造りは防火も兼ねているのか? 参考にできそうだな……」
「あの、エルヴィス?」
エルヴィスは地図を見て納得したようにうなっていた。
たぶん領主特有の視点で、地図を見たら町の構造を把握する癖があるのだろう。
領地経営をしていないと言っているけれど、そういう知識はしっかりと持ち合わせているみたい。
「……あぁ、すまない。そろそろ昼時だし、お腹が空いてないか?」
「はい。男女が会食するためのレストランがあると、オーバンさんに教えてもらいました。行ってみませんか?」
「わかった。とりあえず店を探してみようか。できるだけ人の少ない店がいい……と言いたいところだが、今日は我慢だな。雰囲気重視で店を選ぶとしよう」
エルヴィスは騒がしい場所は好きじゃない。
やっぱり私と同じ性質をお持ちのようで。
青空のもと、私たちはお店を探しに歩きだした。
最終的に入ったのは赤レンガの屋根をもつレストランだった。
たくさんお店があって迷ったけど、私とエルヴィスの意見が一致して選んだのがこのお店。
店の扉を開けると心地よい鈴の音が鳴る。
内装は全体的に落ち着いた雰囲気。
席が個室ごとに区切られていて、相手と二人きりの会話を楽しめそう。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
こくり、とエルヴィスはうなずく。
その態度に店員は何かを訝しむような視線を送った。
「……お客様、会員証はお持ちですか?」
「ん、会員証……?」
「はい。当店は会員制になっていまして。基本的に貴族の方のみご利用可能となっているのですが……」
「あ、あぁ。では、いま会員登録できるだろうか」
「構いませんが……こちらに個人情報の登録をお願いいたします」
エルヴィスは気後れした態度で署名する。
まさか会員制のレストランだったなんて……やっぱり都のお店は格式が高い。
やや挙動不審な態度で書類の記入を進めるエルヴィスに、店員は怪訝な視線だ。
「……これでいいだろうか」
「はい、確認いたします。お名前は……エ、エルヴィス・アリフォメン侯爵……?」
店員が信じられないものを見るように顔を上げる。
見開かれた店員の瞳に、エルヴィスは後退った。
「あ、その……やはり俺みたいなやつが高級レストランなんて無理か。そうか、無理か……入店お断りなのか」
「違いますよ、エルヴィス! お店から出て行こうとしないでください」
冷や汗をかいて店から飛び出そうとする彼を必死に止める。
噂の『陰険侯爵』がやってきて、しかもすごく綺麗な男性だったから驚いているだけだと思う。
「い、いえ……失礼いたしました! 無礼をお許しください。たしかに会員登録が完了いたしましたので、店内へどうぞ」
及び腰のエルヴィスの手を引いて店内へと入っていく。
やがて彼は落ち着きを取り戻したのか、臆病な態度も薄れていく。
その後は高級レストランに相応しい、絶品料理を二人で楽しんだ。
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