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不満(ドリカside)
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「お父様! どうしてドレスを買ってくれないのよ!?」
ドリカは父に怒鳴り散らした。
陰気な妹が侯爵家に嫁いでから数日……家から不快な妹が消えて、ドリカは清々しい気分だった。
しかし、それ以降どうにも父の態度が厳しく、彼女は再び不機嫌になりつつある。
「……先日買ってやったばかりだろう。金も無尽蔵にあるわけではないのだぞ」
「なによ、私はスリタール子爵家の希望よ!? 私がいい男を捕まえて家を繁栄させてあげるの。そのためにはドレスもたくさん必要でしょう?」
「ドリカ……そう言いながらお前は婚約者も作らず、夜会で遊んでばかり。少しはディアナを見習って勤勉に社交してみてはどうだ」
スリタール子爵はわずかな望みに賭けてみた。
ここでドリカが反省し、自身の境遇を恥じるようであれば……まだ救いはあるかもしれない。
しかし、彼女から返ってきた反応は。
「はぁ!? 私がディアナを見習うって……本気で言ってるの!? あんなみすぼらしい妹より、私の方が下なわけないでしょう!」
憤慨してドリカは去っていく。
彼女の怒りの足音が屋敷の中に響いた。
「……やはり駄目か」
スリタール子爵は頭を抱える。
二人のやりとりを見ていた夫人が呆れたように言い放った。
「あなたねぇ……娘にドレスのひとつでも買ってあげなさいよ。仮にも貴族なのでしょう?」
「……お前の散財も財政逼迫の原因なのだ。少しは慎みなさい」
「おほほっ。お金が足りなくなったのなら、税を増やせばいいじゃない。さて、私はこのあと茶会だから行ってくるわね」
「……ふう」
もはや怒りすら湧いてこない。
よく長い間耐えてきたものだと、スリタール子爵は嘆息した。
この苦しみも……もうすぐ終わる。
***
「信じられない! お父様、目が腐ってるんじゃないかしら!」
ドリカは自室で喚き散らした。
最近、本当に父の様子がおかしいのだ。
今までは買いたい物を言えば素直に買ってくれたし、ましてや『ディアナを見習え』など天地がひっくり返っても言わなかったのに。
かつてない事態にドリカは異常な苛立ちを覚える。
なにか……鬱憤を晴らしたい。
いつもはディアナを虐めてストレスを発散しているが、彼女はいない。
「あ……そうだわ」
ひとつ、考えが浮かんだ。
ドレスへの欲求も満たしつつ、妹への嗜虐心も満たせる手段が。
これは名案だとドリカは侍女を呼びつける。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
やってきたのは中年で小太りの侍女。
名前をパウラといい、長年屋敷に勤めている女性だ。
本当ならもっと若くて綺麗な侍女を雇いたいのだが、スリタール子爵家にはそこまでの余裕がない。
「ねえ。ちょっとお使いを頼みたいんだけど」
「……わかりました」
「あのね、ディアナがアリフォメン侯爵家に嫁いだでしょう? ということは……私はアリフォメン侯爵の親戚ってわけ。お父様がドレスを買ってくれないから、侯爵閣下に買ってもらおうかなって」
「それは……問題ないのですか?」
「ええ。あなたは知らないでしょうけど、貴族の関係性はとても密接なのよ。仮にも親戚になったんだから、ドレスくらい買ってくれるわ」
ドリカの言葉は偽りである。
親戚になったとはいえ、安易に関係をもつことは社交界であらぬ噂を流される原因になる。
下手をしたら、アリフォメン侯爵がドリカと浮気しているのでは……なんて噂を流されかねない。
しかし侍女のパウラは貴族出身ではないため、彼女をうまく利用するためにドリカは適当な嘘をついた。
どうせ貴族の関係なんて、平民出身には理解できないだろうと。
「ほら、私がお手紙を書くわ。これをアリフォメン侯爵家に届けて、ドレス購入分のお金を送るようにようにお願いしてきてちょうだい? そしたらお小遣いをあげるわ」
「本当ですか!? ぜひ行かせていただきます!」
めんどくさそうにしていたパウラは急にやる気を出した。
金がもらえるのならば何も問題はない。
それに……『陰険侯爵』とやらの顔を拝見したかったし、久々にディアナに会って鬱憤を晴らしたいと思っていたのだ。
パウラはドリカの手紙を預かり、アリフォメン侯爵家へ向かった。
ドリカは父に怒鳴り散らした。
陰気な妹が侯爵家に嫁いでから数日……家から不快な妹が消えて、ドリカは清々しい気分だった。
しかし、それ以降どうにも父の態度が厳しく、彼女は再び不機嫌になりつつある。
「……先日買ってやったばかりだろう。金も無尽蔵にあるわけではないのだぞ」
「なによ、私はスリタール子爵家の希望よ!? 私がいい男を捕まえて家を繁栄させてあげるの。そのためにはドレスもたくさん必要でしょう?」
「ドリカ……そう言いながらお前は婚約者も作らず、夜会で遊んでばかり。少しはディアナを見習って勤勉に社交してみてはどうだ」
スリタール子爵はわずかな望みに賭けてみた。
ここでドリカが反省し、自身の境遇を恥じるようであれば……まだ救いはあるかもしれない。
しかし、彼女から返ってきた反応は。
「はぁ!? 私がディアナを見習うって……本気で言ってるの!? あんなみすぼらしい妹より、私の方が下なわけないでしょう!」
憤慨してドリカは去っていく。
彼女の怒りの足音が屋敷の中に響いた。
「……やはり駄目か」
スリタール子爵は頭を抱える。
二人のやりとりを見ていた夫人が呆れたように言い放った。
「あなたねぇ……娘にドレスのひとつでも買ってあげなさいよ。仮にも貴族なのでしょう?」
「……お前の散財も財政逼迫の原因なのだ。少しは慎みなさい」
「おほほっ。お金が足りなくなったのなら、税を増やせばいいじゃない。さて、私はこのあと茶会だから行ってくるわね」
「……ふう」
もはや怒りすら湧いてこない。
よく長い間耐えてきたものだと、スリタール子爵は嘆息した。
この苦しみも……もうすぐ終わる。
***
「信じられない! お父様、目が腐ってるんじゃないかしら!」
ドリカは自室で喚き散らした。
最近、本当に父の様子がおかしいのだ。
今までは買いたい物を言えば素直に買ってくれたし、ましてや『ディアナを見習え』など天地がひっくり返っても言わなかったのに。
かつてない事態にドリカは異常な苛立ちを覚える。
なにか……鬱憤を晴らしたい。
いつもはディアナを虐めてストレスを発散しているが、彼女はいない。
「あ……そうだわ」
ひとつ、考えが浮かんだ。
ドレスへの欲求も満たしつつ、妹への嗜虐心も満たせる手段が。
これは名案だとドリカは侍女を呼びつける。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
やってきたのは中年で小太りの侍女。
名前をパウラといい、長年屋敷に勤めている女性だ。
本当ならもっと若くて綺麗な侍女を雇いたいのだが、スリタール子爵家にはそこまでの余裕がない。
「ねえ。ちょっとお使いを頼みたいんだけど」
「……わかりました」
「あのね、ディアナがアリフォメン侯爵家に嫁いだでしょう? ということは……私はアリフォメン侯爵の親戚ってわけ。お父様がドレスを買ってくれないから、侯爵閣下に買ってもらおうかなって」
「それは……問題ないのですか?」
「ええ。あなたは知らないでしょうけど、貴族の関係性はとても密接なのよ。仮にも親戚になったんだから、ドレスくらい買ってくれるわ」
ドリカの言葉は偽りである。
親戚になったとはいえ、安易に関係をもつことは社交界であらぬ噂を流される原因になる。
下手をしたら、アリフォメン侯爵がドリカと浮気しているのでは……なんて噂を流されかねない。
しかし侍女のパウラは貴族出身ではないため、彼女をうまく利用するためにドリカは適当な嘘をついた。
どうせ貴族の関係なんて、平民出身には理解できないだろうと。
「ほら、私がお手紙を書くわ。これをアリフォメン侯爵家に届けて、ドレス購入分のお金を送るようにようにお願いしてきてちょうだい? そしたらお小遣いをあげるわ」
「本当ですか!? ぜひ行かせていただきます!」
めんどくさそうにしていたパウラは急にやる気を出した。
金がもらえるのならば何も問題はない。
それに……『陰険侯爵』とやらの顔を拝見したかったし、久々にディアナに会って鬱憤を晴らしたいと思っていたのだ。
パウラはドリカの手紙を預かり、アリフォメン侯爵家へ向かった。
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