12 / 31
デートの準備
しおりを挟む
私の実家、スリタール子爵家に関する問題。
お父様が離縁を公表するまでには時間があるとのことで、その件に関してはいったん置いておくことになって。
きっかけはリアさんの不意な一言だった。
「兄上に義姉上。デートのひとつでもしたらどうだろうか」
「デ、デート……?」
リアさんの言葉に、エルヴィスは困惑する。
私も同様に首をかしげた。
そういえば……まだエルヴィスと一緒にお出かけしたことがないかも。
「兄上、あなたはもう少し奥方を見てはどうかな。義姉上が着ているドレスは、母上の形見だ。お美しい義姉上が何を着ても似合うことは自明だが、やはり夫の兄上からドレスは買うべきだろうね」
呆れたように言い放つリアさんに、そばに立っていたオーバンさんもうなずく。
「そうですぞ、旦那様。いつか奥様にドレスを買うとおっしゃっていたではないですか」
「あ、あぁ……忘れていたわけではないんだ。ただ、どうやってデートに誘おうか考えていたら時間が過ぎて言ってだな……」
「聞くに堪えない。言い訳を並べている暇があったら、今すぐにでも義姉上を誘うことだ」
鋭いひとことにエルヴィスは怯んだ。
たぶん、彼のことだからずっとデートに誘う口実を考えていたのだろう。
すでに性格が予想できるようになってきた。
「私はエルヴィスと一緒にたくさん思い出を作りたいです! ドレスがほしい、とかそういうわけじゃないですけど……あなたと一緒にお出かけしたら楽しそうだなって」
「ディアナ……君がそう言ってくれるのなら。ぜひ俺と一緒に出かけよう。なんなら明日にでも出かけるか?」
「はい! ぜひぜひ……あ、行き先はどこになさいますか?」
「どこがいいのだろうな。俺はまったく外に出ないからわからん」
エルヴィスの率直な言葉に、その場の全員が苦笑いした。
私自身も殿方にエスコートなんてされたことないから、似た者同士だと思う。
「無難に都でお買い物……はどうでしょう?」
「そうだな。ディアナには失礼な話だが、俺は都の店をあまり把握していない。エスコートできるか、かなり不安な点がある……」
「そこは私も同じですよ、エルヴィス。一緒に都の流行をお勉強しましょう」
「わかった。明日までにおすすめの店を使用人たちに聞いておくとしよう」
私も情報をリサーチしておかないと。
……そういうわけで。
エルヴィスと約束を交わしたあと、私はさっそく情報収集を開始した。
まずはオーバンさん。
「都のおすすめの店、ですか。最近の流行はわかりませんが、私の若いころには男女の逢瀬といえばランチが定番でしたな。貴族街には男女が会食するためのランチハウスもあり、雰囲気は間違いなくよいでしょう」
「なるほど……ランチといえば、エルヴィスのお好きな食べ物は?」
「菜食がお好きですな。旦那様は園芸の一環で野菜も育てられることがあり、野菜をご自身で調理されることもあるのです。また、肉と魚でいえば魚の方が好みなようです」
「おお……長いことアリフォメン侯爵家に勤めているだけありますね! エルヴィスの好みについて、もっと勉強しておかなければ……!」
ちなみに私も野菜は嫌いではない。
……ただ、苦いピーマンだけはちょっと。
もちろん食事を残すなんてマナーの悪いことはしないけど。
さて、お次は侍女のミレーヌ。
「旦那様と都でデートですか……それは喜ばしいですね。ただ、旦那様は令嬢がたの流行など把握していないかと思いますので……」
ミレーヌはそう言うと紙にペンを走らせた。
渡された紙を見て、私はハッと目を光らせる。
「こ、これは……!」
「最先端の流行を軽くまとめてみました。今はリバーレースとレーステープをかけ合わせたドレスが流行しているのですよ。帝国から輸入した布地を使ったものが、ご令嬢の間で特に人気ですね。殿方のドレスは黒めのフロックコートが人気のようです。旦那様の衣装選びの参考に、ぜひ」
す、すごい……!
こんなに流行を押さえているなんて。
もしかしてドリカお姉様よりも流行に詳しいのでは?
「ミレーヌさん、すごく情報を仕入れるのが早いのですね……!」
「一応、服飾で有名なネマルキス伯爵の家系に連なる者なので。最低限の流行は押さえるようにしています」
「そうだったのですね……道理で美容にお詳しいと思いました。あ、それじゃあ夜会に参加するようなときは、事前にミレーヌさんの意見を仰ぐことにしますね」
「私でよろしければお力になります。旦那様とのデート、存分にお楽しみになってくださいね」
そして、最後にリアさん。
「提案した身で恐縮至極なのだが、私は男女の逢引に関して無知なのでね。兄上と同じく、都のどこに行くべきか的確な助言ができない」
「あら? リアさんは婚約者は?」
「いない。幼くして両親を亡くしたという要因もあるが、何より私の性格が破綻していることが大きいだろう。兄上とは別の意味で陰険なもので、私は色恋の類を経験したことはないのだよ」
すごく美人なのに……もったいない。
たしかに、こんなに学者みたいな性格の令嬢は見たことないけど。
たぶん本人から恋愛を遠ざけているのだろう。
「だが……そうだな。兄上と義姉上の趣味を鑑みるに、読書や園芸の類か。デートで訪れる場所ではないように思うが、国立の図書館や博物館はどうだろうか」
「図書館、博物館……!」
私は目を輝かせた。
普通のご令嬢がデートで行くような場所ではないけど、私はすごく行ってみたい!
きっとエルヴィスとの話も弾むだろう。
そういうわけで、屋敷の方々から知識をご教示いただいた。
明日は最高のデートにしよう……!
お父様が離縁を公表するまでには時間があるとのことで、その件に関してはいったん置いておくことになって。
きっかけはリアさんの不意な一言だった。
「兄上に義姉上。デートのひとつでもしたらどうだろうか」
「デ、デート……?」
リアさんの言葉に、エルヴィスは困惑する。
私も同様に首をかしげた。
そういえば……まだエルヴィスと一緒にお出かけしたことがないかも。
「兄上、あなたはもう少し奥方を見てはどうかな。義姉上が着ているドレスは、母上の形見だ。お美しい義姉上が何を着ても似合うことは自明だが、やはり夫の兄上からドレスは買うべきだろうね」
呆れたように言い放つリアさんに、そばに立っていたオーバンさんもうなずく。
「そうですぞ、旦那様。いつか奥様にドレスを買うとおっしゃっていたではないですか」
「あ、あぁ……忘れていたわけではないんだ。ただ、どうやってデートに誘おうか考えていたら時間が過ぎて言ってだな……」
「聞くに堪えない。言い訳を並べている暇があったら、今すぐにでも義姉上を誘うことだ」
鋭いひとことにエルヴィスは怯んだ。
たぶん、彼のことだからずっとデートに誘う口実を考えていたのだろう。
すでに性格が予想できるようになってきた。
「私はエルヴィスと一緒にたくさん思い出を作りたいです! ドレスがほしい、とかそういうわけじゃないですけど……あなたと一緒にお出かけしたら楽しそうだなって」
「ディアナ……君がそう言ってくれるのなら。ぜひ俺と一緒に出かけよう。なんなら明日にでも出かけるか?」
「はい! ぜひぜひ……あ、行き先はどこになさいますか?」
「どこがいいのだろうな。俺はまったく外に出ないからわからん」
エルヴィスの率直な言葉に、その場の全員が苦笑いした。
私自身も殿方にエスコートなんてされたことないから、似た者同士だと思う。
「無難に都でお買い物……はどうでしょう?」
「そうだな。ディアナには失礼な話だが、俺は都の店をあまり把握していない。エスコートできるか、かなり不安な点がある……」
「そこは私も同じですよ、エルヴィス。一緒に都の流行をお勉強しましょう」
「わかった。明日までにおすすめの店を使用人たちに聞いておくとしよう」
私も情報をリサーチしておかないと。
……そういうわけで。
エルヴィスと約束を交わしたあと、私はさっそく情報収集を開始した。
まずはオーバンさん。
「都のおすすめの店、ですか。最近の流行はわかりませんが、私の若いころには男女の逢瀬といえばランチが定番でしたな。貴族街には男女が会食するためのランチハウスもあり、雰囲気は間違いなくよいでしょう」
「なるほど……ランチといえば、エルヴィスのお好きな食べ物は?」
「菜食がお好きですな。旦那様は園芸の一環で野菜も育てられることがあり、野菜をご自身で調理されることもあるのです。また、肉と魚でいえば魚の方が好みなようです」
「おお……長いことアリフォメン侯爵家に勤めているだけありますね! エルヴィスの好みについて、もっと勉強しておかなければ……!」
ちなみに私も野菜は嫌いではない。
……ただ、苦いピーマンだけはちょっと。
もちろん食事を残すなんてマナーの悪いことはしないけど。
さて、お次は侍女のミレーヌ。
「旦那様と都でデートですか……それは喜ばしいですね。ただ、旦那様は令嬢がたの流行など把握していないかと思いますので……」
ミレーヌはそう言うと紙にペンを走らせた。
渡された紙を見て、私はハッと目を光らせる。
「こ、これは……!」
「最先端の流行を軽くまとめてみました。今はリバーレースとレーステープをかけ合わせたドレスが流行しているのですよ。帝国から輸入した布地を使ったものが、ご令嬢の間で特に人気ですね。殿方のドレスは黒めのフロックコートが人気のようです。旦那様の衣装選びの参考に、ぜひ」
す、すごい……!
こんなに流行を押さえているなんて。
もしかしてドリカお姉様よりも流行に詳しいのでは?
「ミレーヌさん、すごく情報を仕入れるのが早いのですね……!」
「一応、服飾で有名なネマルキス伯爵の家系に連なる者なので。最低限の流行は押さえるようにしています」
「そうだったのですね……道理で美容にお詳しいと思いました。あ、それじゃあ夜会に参加するようなときは、事前にミレーヌさんの意見を仰ぐことにしますね」
「私でよろしければお力になります。旦那様とのデート、存分にお楽しみになってくださいね」
そして、最後にリアさん。
「提案した身で恐縮至極なのだが、私は男女の逢引に関して無知なのでね。兄上と同じく、都のどこに行くべきか的確な助言ができない」
「あら? リアさんは婚約者は?」
「いない。幼くして両親を亡くしたという要因もあるが、何より私の性格が破綻していることが大きいだろう。兄上とは別の意味で陰険なもので、私は色恋の類を経験したことはないのだよ」
すごく美人なのに……もったいない。
たしかに、こんなに学者みたいな性格の令嬢は見たことないけど。
たぶん本人から恋愛を遠ざけているのだろう。
「だが……そうだな。兄上と義姉上の趣味を鑑みるに、読書や園芸の類か。デートで訪れる場所ではないように思うが、国立の図書館や博物館はどうだろうか」
「図書館、博物館……!」
私は目を輝かせた。
普通のご令嬢がデートで行くような場所ではないけど、私はすごく行ってみたい!
きっとエルヴィスとの話も弾むだろう。
そういうわけで、屋敷の方々から知識をご教示いただいた。
明日は最高のデートにしよう……!
32
お気に入りに追加
1,312
あなたにおすすめの小説
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!
兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります
毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。
侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。
家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。
友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。
「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」
挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。
ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。
「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」
兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。
ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。
王都で聖女が起こした騒動も知らずに……
【完結】【番外編追加】お迎えに来てくれた当日にいなくなったお姉様の代わりに嫁ぎます!
まりぃべる
恋愛
私、アリーシャ。
お姉様は、隣国の大国に輿入れ予定でした。
それは、二年前から決まり、準備を着々としてきた。
和平の象徴として、その意味を理解されていたと思っていたのに。
『私、レナードと生活するわ。あとはお願いね!』
そんな置き手紙だけを残して、姉は消えた。
そんな…!
☆★
書き終わってますので、随時更新していきます。全35話です。
国の名前など、有名な名前(単語)だったと後から気付いたのですが、素敵な響きですのでそのまま使います。現実世界とは全く関係ありません。いつも思いつきで名前を決めてしまいますので…。
読んでいただけたら嬉しいです。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される
佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。
異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。
誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。
ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。
隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。
初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。
しかし、クラウは国へ帰る事となり…。
「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」
「わかりました」
けれど卒業後、ミアが向かったのは……。
※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)
幼馴染に奪われそうな王子と公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
「王子様、本当に愛しているのは誰ですか???」
「私が愛しているのは君だけだ……」
「そんなウソ……これ以上は通用しませんよ???」
背後には幼馴染……どうして???
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる