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夫の変化
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翌日。
見知らぬ天井を見上げ、私は戸惑った。
そうだ……ここはスリタール子爵家じゃない。
やけに寝覚めがいいと感じたのは、ふかふかのベッドのおかげだろう。
鈴を鳴らすと侍女になったミレーヌがやってくる。
「おはようございます、ディアナ様。昨晩はよく眠れましたか?」
「はい。ベッドは快適でしたし、お風呂も気持ちよかったですし、ぐっすり眠れましたよ。……あ、でも眠りに入るまでは長かったですよ。気になることがあって……」
「気になること……もしや旦那様の髪型に関してですか? 私も今朝、旦那様の姿を見たときは驚きましたよ」
「そう、それです! エルヴィス様のお顔がどんな感じなのかなぁ……と楽しみで眠れませんでした!」
「ふふ……きっと驚かれると思いますよ。身支度をして旦那様にお会いしましょう」
さっそく身支度に取りかかり、髪をさらさらと流す。
昨日アロマオイルを加えたお風呂に入ったからなのか、すごく肌や髪のツヤが増している気がする。
色々なドレスをミレーヌから「これが似合います」「これもすてきです」などと推薦された後、私は無難に落ち着いた色のドレスを着る。
ルビーをあしらったネックレスも身につけて……。
「ではエルヴィス様のもとに行ってきますね」
心を躍らせながらエルヴィス様のもとに向かった。
彼は居間にいるらしい。
広大な侯爵家を迷いながら、ときに使用人に道を聞きながら進んで……ようやく居間の前にたどり着いた。
この扉の先に新たなエルヴィス様がいらっしゃるのだ。
私は胸を高鳴らせて扉を開いた。
「おはようございます!」
居間の中央で姿勢よく座る男性が目についた。
燃えるような情熱的な赤い髪。
切れ長の碧瞳がこちらを見ている。
「おはよう、ディアナ嬢」
「は……へ……?」
彼の姿を見た瞬間、私の胸がはねて思考が停止した。
そこにいたのは大貴族の夜会でも滅多に見ないような、本当に容姿端麗な殿方で。
声色からエルヴィス様だということは察せられたのに、まったく以前のイメージと結びつかなかった。
私は恐るおそるエルヴィス様に歩み寄り、まじまじと見つめた。
見つめれば見つめるほど、鼓動が早くなっていく。
「そ、その反応はなんだ? やはり俺の容姿は妙か……そういうことか」
「か、かっこいいです!」
「かっこいい……だと……?」
「はい! やっぱりエルヴィス様はお顔を出した方がいいですよ。他の人に話しかけられるのが面倒……というのも納得です。こんなに綺麗なら、たくさんの令嬢から声がかかりますからね」
「そ、そうか……べつに他人から褒められても嬉しくはないが、ディアナ嬢に褒められるのは嬉しいな。俺も見た目を整えた価値があったというものだ」
控えめに笑うエルヴィス様。
昨日までは笑顔も口元しか見えなかったけど、今ははっきりと見える。
宝石のように綺麗な瞳に魅入ってしまいそう。
「ああ……額が冷たくて落ち着かん。世界がよく見えすぎている……眩しい」
「世界が見えすぎている、ですか? では私と一緒に、これからたくさん世界を見ていきましょう……!」
「そうだな。ディアナ嬢に言われると、不思議と嫌なことも喜ばしいことのように聞こえてくる。君の隣に立つのだから、まともに振る舞わないといけないしな」
前が見えなくて転んでしまったら大変。
それに、私とこれから過ごす日々をしっかりと見ていてほしいという思いもある。
大きく見た目が変わったとしても、エルヴィス様の内面は変わらない。
私と同じガーデニング好きで、物静かな侯爵様。
彼の強さも弱さも理解して寄り添っていかなければならない。
「使用人たちも俺の容姿に驚いていたが、そのうち慣れるだろう。とりあえず朝食にしようか。外見が変わっても、俺の日々はいつもどおりだ」
見知らぬ天井を見上げ、私は戸惑った。
そうだ……ここはスリタール子爵家じゃない。
やけに寝覚めがいいと感じたのは、ふかふかのベッドのおかげだろう。
鈴を鳴らすと侍女になったミレーヌがやってくる。
「おはようございます、ディアナ様。昨晩はよく眠れましたか?」
「はい。ベッドは快適でしたし、お風呂も気持ちよかったですし、ぐっすり眠れましたよ。……あ、でも眠りに入るまでは長かったですよ。気になることがあって……」
「気になること……もしや旦那様の髪型に関してですか? 私も今朝、旦那様の姿を見たときは驚きましたよ」
「そう、それです! エルヴィス様のお顔がどんな感じなのかなぁ……と楽しみで眠れませんでした!」
「ふふ……きっと驚かれると思いますよ。身支度をして旦那様にお会いしましょう」
さっそく身支度に取りかかり、髪をさらさらと流す。
昨日アロマオイルを加えたお風呂に入ったからなのか、すごく肌や髪のツヤが増している気がする。
色々なドレスをミレーヌから「これが似合います」「これもすてきです」などと推薦された後、私は無難に落ち着いた色のドレスを着る。
ルビーをあしらったネックレスも身につけて……。
「ではエルヴィス様のもとに行ってきますね」
心を躍らせながらエルヴィス様のもとに向かった。
彼は居間にいるらしい。
広大な侯爵家を迷いながら、ときに使用人に道を聞きながら進んで……ようやく居間の前にたどり着いた。
この扉の先に新たなエルヴィス様がいらっしゃるのだ。
私は胸を高鳴らせて扉を開いた。
「おはようございます!」
居間の中央で姿勢よく座る男性が目についた。
燃えるような情熱的な赤い髪。
切れ長の碧瞳がこちらを見ている。
「おはよう、ディアナ嬢」
「は……へ……?」
彼の姿を見た瞬間、私の胸がはねて思考が停止した。
そこにいたのは大貴族の夜会でも滅多に見ないような、本当に容姿端麗な殿方で。
声色からエルヴィス様だということは察せられたのに、まったく以前のイメージと結びつかなかった。
私は恐るおそるエルヴィス様に歩み寄り、まじまじと見つめた。
見つめれば見つめるほど、鼓動が早くなっていく。
「そ、その反応はなんだ? やはり俺の容姿は妙か……そういうことか」
「か、かっこいいです!」
「かっこいい……だと……?」
「はい! やっぱりエルヴィス様はお顔を出した方がいいですよ。他の人に話しかけられるのが面倒……というのも納得です。こんなに綺麗なら、たくさんの令嬢から声がかかりますからね」
「そ、そうか……べつに他人から褒められても嬉しくはないが、ディアナ嬢に褒められるのは嬉しいな。俺も見た目を整えた価値があったというものだ」
控えめに笑うエルヴィス様。
昨日までは笑顔も口元しか見えなかったけど、今ははっきりと見える。
宝石のように綺麗な瞳に魅入ってしまいそう。
「ああ……額が冷たくて落ち着かん。世界がよく見えすぎている……眩しい」
「世界が見えすぎている、ですか? では私と一緒に、これからたくさん世界を見ていきましょう……!」
「そうだな。ディアナ嬢に言われると、不思議と嫌なことも喜ばしいことのように聞こえてくる。君の隣に立つのだから、まともに振る舞わないといけないしな」
前が見えなくて転んでしまったら大変。
それに、私とこれから過ごす日々をしっかりと見ていてほしいという思いもある。
大きく見た目が変わったとしても、エルヴィス様の内面は変わらない。
私と同じガーデニング好きで、物静かな侯爵様。
彼の強さも弱さも理解して寄り添っていかなければならない。
「使用人たちも俺の容姿に驚いていたが、そのうち慣れるだろう。とりあえず朝食にしようか。外見が変わっても、俺の日々はいつもどおりだ」
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