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何も知らないけど
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「こちらがディアナ様のお部屋です」
屋敷のメイドに案内されたのは、広大な一室だった。
大きなカバンを床に下ろして私は驚愕する。
「こ、侯爵様のお屋敷って本当に広いのですね……! この部屋だけでも、私の実家の居間くらいの大きさですよ……」
「元は旦那様の母君……先代侯爵夫人様のお部屋でした。長らく使われていなかったこの部屋も、新たな持ち主を見つけて嬉しく思っているでしょう」
メイドさんは嬉しそうに笑った。
きっと先代の侯爵夫妻を知っているのだろう。
「申し遅れました。私はアリフォメン侯爵家の使用人、ミレーヌと申します。これから新たに侯爵夫人となるディアナ様の侍女を務めさせていただきます」
「よろしくお願いします、ミレーヌさん。私は至らないところも多々あると思いますが……がんばりますね」
実家から侍女は連れてこなかった……というよりも母に侍女の付き添いを許してもらえなかったので、ミレーヌさんの存在はありがたい。
急に決まった縁談、婚約を飛ばしての婚姻。
まだまだ困惑していることも多いなか、支えてくれる同性の侍女は頼もしい。
とりあえずお母様のような浪費家の夫人にはならないようにしよう。
私は強く決意した。
「まずはお荷物の整理をしましょうか。ドレスや宝飾品の類はすべて侯爵家が用意しますので、ご心配には及びません」
「あら、そうなんですか? たくさんドレスを持ってきたけれど……ぜんぶ古い物ですし、お言葉に甘えますね!」
姉が散財するもので、私には古びたドレスしか回ってこなかった。
別に夜会にも出ないし構わなかったのだけど、侯爵家の一員になるからにはそうも言ってられない。
大きなカバンを開く。
そこにはドレスの他に、お気に入りの小説や、ハサミやグローブも入っていた。
中身を見たミレーヌが首を傾げる。
「これは……ハサミ、シャベル、グローブ……?」
「ガーデニングが趣味なんです。実家でも花を育てていて、日々の癒しでした」
「あら、旦那様もガーデニングが趣味なのですよ。お屋敷の庭園は旦那様が趣味でお作りになられているのです」
「エルヴィス様がガーデニングを……!? 私と同じ趣味をお持ちだなんて。花が好きな方に悪い人はいませんからね」
これは話題ができたな、と私の心は躍る。
夫となる人と共通の趣味を持てているだけで、関係性はずっと良好になるかもしれない。
「よかったらエルヴィス様と一緒に花をお育てしたいです! あ、でも侯爵様だから領地経営でお忙しいかしら……?」
「それは……大丈夫だと思いますよ。旦那様はゆえあって領地経営に携わるお仕事をほとんどされていないので……時間を共にしたい際は、お気軽に誘ってみればよろしいかと」
領地経営をしていない?
それはどういう意味なのだろう。
「隠していても仕方がありませんから、申し上げますね。これから旦那様をいちばん近くで支える方ですし」
私の疑問を感じとったのだろうか、ミレーヌは少し後ろめたそうに口を開いた。
「『陰険侯爵』と社交界で囁かれているように、旦那様は何に対してもやる気がないのです。社交も領地経営も着手されず……実質的な統治は、妹君と従弟の子爵様に任せきりです。色々と複雑な事情があるのですが……現状はそういうことになっていますね」
「領主様なのに統治をしない……って、大丈夫なんですか!?」
「はい、問題なく治世は保てています。代理人の手腕がそれほど優れているのです。私個人としては……。いえ、屋敷に勤める臣下たちとしては、また昔のようにやる気のある旦那様に戻っていただきたいのですが……」
昔はやる気があったんだ。
何がきっかけでやる気を失ってしまったのだろう。
私と同じく家族が嫌で引き籠ったか、それとも別の要因があるのか。
とにもかくにも、私はアリフォメン侯爵家のことに無知すぎる。
いきなり縁談が決まったから仕方ないけど、もう少し家のことを知っていこう。
「私もエルヴィス様を元気づけるの、協力します。だって妻ですもの」
「ディアナ様……」
「そのためには積極的にエルヴィス様と関わっていかないとですね! ……というわけでエルヴィス様にお褒めいただけるよう、綺麗に着飾りましょう。手伝ってくれますか、ミレーヌさん?」
「はい、もちろんです……! ディアナ様にお似合いのドレスをご用意いたします」
屋敷のメイドに案内されたのは、広大な一室だった。
大きなカバンを床に下ろして私は驚愕する。
「こ、侯爵様のお屋敷って本当に広いのですね……! この部屋だけでも、私の実家の居間くらいの大きさですよ……」
「元は旦那様の母君……先代侯爵夫人様のお部屋でした。長らく使われていなかったこの部屋も、新たな持ち主を見つけて嬉しく思っているでしょう」
メイドさんは嬉しそうに笑った。
きっと先代の侯爵夫妻を知っているのだろう。
「申し遅れました。私はアリフォメン侯爵家の使用人、ミレーヌと申します。これから新たに侯爵夫人となるディアナ様の侍女を務めさせていただきます」
「よろしくお願いします、ミレーヌさん。私は至らないところも多々あると思いますが……がんばりますね」
実家から侍女は連れてこなかった……というよりも母に侍女の付き添いを許してもらえなかったので、ミレーヌさんの存在はありがたい。
急に決まった縁談、婚約を飛ばしての婚姻。
まだまだ困惑していることも多いなか、支えてくれる同性の侍女は頼もしい。
とりあえずお母様のような浪費家の夫人にはならないようにしよう。
私は強く決意した。
「まずはお荷物の整理をしましょうか。ドレスや宝飾品の類はすべて侯爵家が用意しますので、ご心配には及びません」
「あら、そうなんですか? たくさんドレスを持ってきたけれど……ぜんぶ古い物ですし、お言葉に甘えますね!」
姉が散財するもので、私には古びたドレスしか回ってこなかった。
別に夜会にも出ないし構わなかったのだけど、侯爵家の一員になるからにはそうも言ってられない。
大きなカバンを開く。
そこにはドレスの他に、お気に入りの小説や、ハサミやグローブも入っていた。
中身を見たミレーヌが首を傾げる。
「これは……ハサミ、シャベル、グローブ……?」
「ガーデニングが趣味なんです。実家でも花を育てていて、日々の癒しでした」
「あら、旦那様もガーデニングが趣味なのですよ。お屋敷の庭園は旦那様が趣味でお作りになられているのです」
「エルヴィス様がガーデニングを……!? 私と同じ趣味をお持ちだなんて。花が好きな方に悪い人はいませんからね」
これは話題ができたな、と私の心は躍る。
夫となる人と共通の趣味を持てているだけで、関係性はずっと良好になるかもしれない。
「よかったらエルヴィス様と一緒に花をお育てしたいです! あ、でも侯爵様だから領地経営でお忙しいかしら……?」
「それは……大丈夫だと思いますよ。旦那様はゆえあって領地経営に携わるお仕事をほとんどされていないので……時間を共にしたい際は、お気軽に誘ってみればよろしいかと」
領地経営をしていない?
それはどういう意味なのだろう。
「隠していても仕方がありませんから、申し上げますね。これから旦那様をいちばん近くで支える方ですし」
私の疑問を感じとったのだろうか、ミレーヌは少し後ろめたそうに口を開いた。
「『陰険侯爵』と社交界で囁かれているように、旦那様は何に対してもやる気がないのです。社交も領地経営も着手されず……実質的な統治は、妹君と従弟の子爵様に任せきりです。色々と複雑な事情があるのですが……現状はそういうことになっていますね」
「領主様なのに統治をしない……って、大丈夫なんですか!?」
「はい、問題なく治世は保てています。代理人の手腕がそれほど優れているのです。私個人としては……。いえ、屋敷に勤める臣下たちとしては、また昔のようにやる気のある旦那様に戻っていただきたいのですが……」
昔はやる気があったんだ。
何がきっかけでやる気を失ってしまったのだろう。
私と同じく家族が嫌で引き籠ったか、それとも別の要因があるのか。
とにもかくにも、私はアリフォメン侯爵家のことに無知すぎる。
いきなり縁談が決まったから仕方ないけど、もう少し家のことを知っていこう。
「私もエルヴィス様を元気づけるの、協力します。だって妻ですもの」
「ディアナ様……」
「そのためには積極的にエルヴィス様と関わっていかないとですね! ……というわけでエルヴィス様にお褒めいただけるよう、綺麗に着飾りましょう。手伝ってくれますか、ミレーヌさん?」
「はい、もちろんです……! ディアナ様にお似合いのドレスをご用意いたします」
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