無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています

朝露ココア

文字の大きさ
上 下
3 / 31

もちろん承諾で

しおりを挟む
「さて、ディアナ嬢。今回の婚姻に関してだが……白紙に戻しても構わない。どうする?」

……うん?
唐突な提案に私は面食らった。
小首をかしげてエルヴィス様に尋ねてみる。

「どうしてですか? これはお父様とエルヴィス様、両者の合意の上で決められた婚姻ですよね?」

「そうだ。だが……いちばん重要なのはディアナ嬢の意思だろう。お、俺はディアナ嬢との婚姻は嫌じゃないけど……ディアナ嬢は俺みたいな『陰険侯爵』と結ばれたくないんじゃないか?」

正直びっくりした。
普通、貴族の婚姻というものは親が決めるものだ。
今回だって家族の意向で一方的に決められたものだし、私に意思なんてなかったのに。

「婚姻を白紙に戻すことに関して、気後れする必要はない。一応すでに婚姻関係にあるわけだし、手切れ金も出せる。君のお父上……スリタール子爵には申し訳ないことになるが」

「そもそも……どうして私の姉に縁談を持ち込んだのですか? そして、どうして代わりに妹の私が来てもお断りしなかったのですか?」

エルヴィス様は悩まし気にうなった。
それから長い赤髪の中に手を入れて、頭を悩ませて……

「……最初からディアナ嬢が嫁いでくることは決まっていたんだ。まあ、この話はそのうちするさ」

「へ?」

「で、どうする? どうせ他に好きな殿方がいるのだろう?」

卑屈にエルヴィス様は言い放った。
むしろ婚姻を破棄してほしそうな調子で。
たぶん私のことが嫌なのではなく、私を心配して言ってくれているのだ。

返答は決まっていた。
私はなんだか、彼のことがもっと知ってみたくなったのだ。

「もちろん婚姻を承諾させていただきます……!」

「あぁ、そうだよな。結局俺なんて……ん? 今なんて言った?」

「私、エルヴィス様と結婚させていただきますと」

「……おいオーバン、これは想定外なんだが。どうしたらいい?」

「すぐに私に尋ねるのはご遠慮くださいませ、旦那様。それよりもやるべきことがあるのでは?」

オーバンさんが笑顔で、それでいてなんだか怖さを秘めた表情で言う。
エルヴィス様はハッと顔を上げて居住まいを正した。

「あ、あぁ……ありがとう、ディアナ嬢。俺も……まぁ、及第点の夫くらいになれるように努力する。長いこと馬車に揺られてお疲れだろうから、君に用意した部屋で休むといい」

「はい、わかりました」

及第点の夫……自己評価の低いお方だ。
そこら辺も相まって陰険呼ばわりされているのかも。
ただ、思っていたよりはしっかりしているし、仲よくなれば話せそうな方ではある。

私は席から立ち、こちらへどうぞと案内してくれたメイドに続く。
応接間から出る直前……言っておくべきことがあるのだと思い出す。
くるりと踵を返してエルヴィス様に向かって頭を下げた。

「エルヴィス様。私を妻として認めてくださり、ありがとうございます! 侯爵夫人として立派な振る舞いができるよう、これからがんばりますね!」

「あ、あぁ……お礼を言うべきはこちらの方だ」

再び部屋の出口へと戻り、応接間を後にする。
去り際に『あの礼儀正しすぎる令嬢はなんだ?』『俺にはもったいない……』などと聞こえてきて、なんだかこそばゆい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

殿下、私は困ります!!

IchikoMiyagi
恋愛
 公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。  すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて? 「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」  ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。  皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。  そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?  だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。  なろうにも投稿しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

ある日突然、醜いと有名な次期公爵様と結婚させられることになりました

八代奏多
恋愛
 クライシス伯爵令嬢のアレシアはアルバラン公爵令息のクラウスに嫁ぐことが決まった。  両家の友好のための婚姻と言えば聞こえはいいが、実際は義母や義妹そして実の父から追い出されただけだった。  おまけに、クラウスは性格までもが醜いと噂されている。  でもいいんです。義母や義妹たちからいじめられる地獄のような日々から解放されるのだから!  そう思っていたけれど、噂は事実ではなくて……

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...