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強引な婚姻
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「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
姉のドリカは満面の笑みで言い放った。
輝かしい黄金の髪をくるくると巻き、絢爛豪華なドレスに身を包む姉。
お母様の美を余すことなく受け継いだ美人のご令嬢だ。
私は姉の笑顔を受けて硬直した。
なにか言い返したい……と思ったけれど、私はあいにく姉に逆らえるような性格ではない。
夜会に出てばかりの姉とは対照的に、ずっと部屋に籠もって読書するか、庭に出て花を愛でているような人間なので。
おまけに外見までもが地味で、暗めの青髪にオーラのない瞳。
どうしてこんなに姉妹間で格差があるのだろうか。
「ええ、そう思うわ。侯爵様に嫁げるだなんて、ディアナはなんて幸せなのかしら!」
姉の言葉に追従するように子爵夫人の母は高笑いした。
これが親切心からの言葉であれば、私は何も文句はない。
しかし姉と母の言葉は、親切の皮を被った嗜虐なのだ。
目の前には一枚の釣書。
そこには赤髪を長く伸ばした……というか伸ばしすぎて目元の隠れた男性が描かれている。
通称『陰険侯爵』――エルヴィス・アリフォメン侯爵。
釣書なのに……もう少し取り繕おうとは思わなかったのかな。
前髪を上げて描くとか、装飾でごまかすとか。
本来は姉に対して申し出のあった縁談だった。
しかし、相手が『陰険侯爵』だと判明した瞬間に姉のテンションは急降下。
どうにか縁談を私に押しつけようとしていた。
「そうよね、お父様? 私はディアナに婚姻を譲ってあげたいわ! 姉として、妹の幸福を願って……!」
「あなた、よく考えてみて? ドリカは相応しいお相手がたくさんいるけれど、ディアナは夜会にも出ないし……これは貴重な機会でしょう?」
スリタール子爵であるお父様は、姉と母の言葉に頭を抱えていた。
なんというか……かわいそう。
母に尻に敷かれ、高慢に育った娘からも強気に言われて……どこで間違えたのだろうか。
強く言い返せない父にも問題はあるけれど、姉と母の浪費ですり減っていく財産を必死に守っているのを私は知っていた。
「……そうだな。仮にもアリフォメン侯爵にドリカを嫁がせるつもりは……ああいや、なんでもない。『実はドリカは裏で婚約が決まっていた』という断りを入れ、代わりにディアナを嫁がせるとしよう」
私の婚姻を決められているのに、私は終始無言だった。
というよりも意見できるような立場ではない。
家に籠もって読書するか、庭で花を育てるだけの人生。
夜会にも出ないし、こうして邪険に扱われるのは仕方のないことなのだ。
なかば諦めた気持ちで私はこくりとうなずいた。
姉のドリカは満面の笑みで言い放った。
輝かしい黄金の髪をくるくると巻き、絢爛豪華なドレスに身を包む姉。
お母様の美を余すことなく受け継いだ美人のご令嬢だ。
私は姉の笑顔を受けて硬直した。
なにか言い返したい……と思ったけれど、私はあいにく姉に逆らえるような性格ではない。
夜会に出てばかりの姉とは対照的に、ずっと部屋に籠もって読書するか、庭に出て花を愛でているような人間なので。
おまけに外見までもが地味で、暗めの青髪にオーラのない瞳。
どうしてこんなに姉妹間で格差があるのだろうか。
「ええ、そう思うわ。侯爵様に嫁げるだなんて、ディアナはなんて幸せなのかしら!」
姉の言葉に追従するように子爵夫人の母は高笑いした。
これが親切心からの言葉であれば、私は何も文句はない。
しかし姉と母の言葉は、親切の皮を被った嗜虐なのだ。
目の前には一枚の釣書。
そこには赤髪を長く伸ばした……というか伸ばしすぎて目元の隠れた男性が描かれている。
通称『陰険侯爵』――エルヴィス・アリフォメン侯爵。
釣書なのに……もう少し取り繕おうとは思わなかったのかな。
前髪を上げて描くとか、装飾でごまかすとか。
本来は姉に対して申し出のあった縁談だった。
しかし、相手が『陰険侯爵』だと判明した瞬間に姉のテンションは急降下。
どうにか縁談を私に押しつけようとしていた。
「そうよね、お父様? 私はディアナに婚姻を譲ってあげたいわ! 姉として、妹の幸福を願って……!」
「あなた、よく考えてみて? ドリカは相応しいお相手がたくさんいるけれど、ディアナは夜会にも出ないし……これは貴重な機会でしょう?」
スリタール子爵であるお父様は、姉と母の言葉に頭を抱えていた。
なんというか……かわいそう。
母に尻に敷かれ、高慢に育った娘からも強気に言われて……どこで間違えたのだろうか。
強く言い返せない父にも問題はあるけれど、姉と母の浪費ですり減っていく財産を必死に守っているのを私は知っていた。
「……そうだな。仮にもアリフォメン侯爵にドリカを嫁がせるつもりは……ああいや、なんでもない。『実はドリカは裏で婚約が決まっていた』という断りを入れ、代わりにディアナを嫁がせるとしよう」
私の婚姻を決められているのに、私は終始無言だった。
というよりも意見できるような立場ではない。
家に籠もって読書するか、庭で花を育てるだけの人生。
夜会にも出ないし、こうして邪険に扱われるのは仕方のないことなのだ。
なかば諦めた気持ちで私はこくりとうなずいた。
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