婚約者から用済みにされた聖女 〜私を処分するおつもりなら、国から逃げようと思います〜

朝露ココア

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31. 再会

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久方ぶりにサンドリア王国の城に来た。
城壁には王子の結婚を祝うように、華々しい装飾が施されている。

私たちは遅めに式に参加した。
事前に話を交わしていたオルランド第二王子と面会し、今回の手筈を整える。
オルランド王子は私が生きていることを知っていたようだが、やはり本物の私を見て驚いていた。

彼はゼパルグの凶行を止められなかったことを深く詫びた。
二度と聖女をないがしろにしないこと、そして帝国とより関係性を深めいていく方針を述べる。
オルランド第二王子と親交はほとんどなかったし、今後も帝国と親密にしてくれるなら文句はない。

それよりも、大切なのは計画の成功。
各国の重鎮が集まるこの場で、聖女に対するゼパルグの凶行を詳らかにする。
これだけは何としても成功させなければ。
最悪、戦争になってしまう。
それだけは避けたいところだ。

「帝国の皆さま。入場をお願いいたします」

私はあえて目立たぬように顔を隠していた。
事前に私が生きていることが知られて、入場を拒否されては意味がない。

「行こうか。大丈夫、君は俺が守る」
「はい。信じています」

すぐ隣にはグリムが控えている。
そして大勢の帝国騎士の護衛。
私は最も安全な場所に位置し、結婚式会場へと足を踏み入れた。

先頭のバルトロメイ殿下は堂々とした足取りで進んでいく。
拍手で迎えられる帝国貴族の面々。
見る限り、サンドリア王国とクラジュ帝国の他にも、数か国の貴族や王族が集まっていた。

聖女の力を欲するのは、どの国も同じ。
微笑を湛えて祝福を送る諸侯たちだが……王国だけ抜け駆けしようとしたと知れば、彼らも顔色を変えるかもしれない。

顔を隠したまま機を待つ。
バルトロメイ殿下やグリムを中心に、他国の貴族たちが挨拶を交わしていた。
みな計画を知っているのに、まったく緊迫した表情を出さない。


そうして待っているうちに。
いよいよ主役が現れた。

「お集まりの皆さま! 今日は私、ゼパルグ・カウディーノのためにお越しいただき、誠にありがとうございます!」

声高で、自身に満ちていて。
私はその姿に苛立ちと不快感を覚えた。
婚約者だったころは何も感じていなかったけれど。

私を殺したと思い込み、それでもなお生きて。
すっかり人に働いた悪意など忘れて、新しく作った婚約者と幸せになろうとしていて……どうして許せるだろうか。

「ああ、君の気持ちはよくわかる。密偵としてとはいえ、俺もあの王子に仕えているのは屈辱だったよ」

グリムが同情するようにささやく。
彼が言葉をかけてくれるだけで苛立ちが和らいだ。

「まずは私の妻となる女性を紹介しましょう!
 ――ベリス・エイル侯爵令嬢です!」

知っていた。
きっとゼパルグの妻になる人は、私の妹だろうと。

ベリスは昔からそうだった。
夜会のドレス、お菓子、本……すべて私から横取りしていって。
でも、エイル侯爵令嬢としての地位は、ゼパルグの婚約者という立場だけは……奪ってくれて感謝している。

ベリスは優雅にカーテシーする。
拍手が送られる中、私も怪しまれないために渋々拍手を送った。

「まずは皆さまに礼を取らせていただきます。今後ともサンドリア王国と善き関係を築いていただきますよう、次期国王の私が……まずは帝国貴族の皆さまにご挨拶を!」

ゼパルグは言い放ち、ベリスと共に私たちに向かってきた。
最も規模の大きい帝国を最優先にするのは当然だろう。

……そろそろ始まる。
私はちらりとオルランド殿下、ロックス伯を見た。
心強い協力者たちだ。


ゼパルグとベリスが寄ってくる。
バルトロメイ殿下に二人が迫ったとき、私はおもむろに顔を隠しているウィンブルを外した。

瞬間、ゼパルグの足が停止。
私の顔を驚いたように凝視していた。

「……ねえ、殿下? どうしたの?」
「どうかしたか、ゼパルグ王子」

ベリスは何も知らず、バルトロメイ殿下はすべてを知った上で。
ゼパルグに問いをぶつけていた。
何が起こっているのかわからない……そんな様子で目を丸くしている。

「え、え……なんで? なんで生きてるんだよ……?」

生きていては悪いのか?
そんな疑念と怒りが沸々と浮かんだ。
だけど、私に生きていてほしいと願ってくれる人が隣にいる。

急停止したゼパルグに、諸侯が怪訝な視線を向ける。
ある程度会場が静まったところで、バルトロメイ殿下が口を挟んだ。

「彼女が気になるのか? 彼女は帝国公爵、エムザラ・ルベルジュ女公だ。『わが国』の聖女でもある」

ようやくベリスも私の顔を捉えたのか、彼女は目を見開いた。

「な、なんでお姉様がここにいるのよ!? あなたは殿下に殺されたはずじゃ……」

ベリスは慌てて口を閉ざす。
そうか、彼女も知っていたんだ。
姉が殺されても何が思わない程度には、嫌われていたらしい。

グリムが私の前に庇うように立つ。

「へぇ、殺された……か。たしかにエムザラはサンドリア王国の聖女だった。だが、彼女は王族に殺されかけたのでね。帝国が丁重に迎えることにしたよ」
「お、お前は……! 俺の雇っていた……!?」
「グリム・レクタリア。一応、クラジュ帝国の第三皇子だ。ゼパルグ王子とは初対面のはずだが、どこかで会ったことがあったかな?」

言質は取ったと言わんばかりにバルトロメイ殿下が動き出す。

「申し訳ないが、ゼパルグ王子。私は君が聖女様の暗殺を企てたことを知っている。弁明があるなら聞かせてもらおうか」
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