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第3章 魔術講義
理論を求めて
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『またキラキラしてる……』
庭で駆け回ることを日課としていたエレオノーラは、またしても煌めく光を見つけた。
土で汚れた腕で光を摘み取ると、それは微妙に温かい熱を持っていて。
触っているとなんだか安心する。
まるで母に触れているかのように。
彼女は光を摘むや否や、イアリズ伯爵家の裏手へと走り出した。
小さな彼女にとっては屋敷の敷地内が世界のすべてで、広大だった。
『おかあさまーっ!』
視線の先、花壇の縁に屈みこむ婦人。
エレオノーラの母……エウフェミア・アイラリティルは娘の元気な姿を見て微笑む。
息を切らして走ってきたエレオノーラは両手をいっぱいに広げ、七色の光を母に見せた。
『またあったよ、キラキラ!』
『あら。エレオノーラは見つけるのが上手なのね。いつもお庭で遊んでるからかしら?』
『ん-……でも、これ家の中にもあるよ』
エレオノーラの行く先どこにでも。
謎の光が出てきては消えていく。
母は花壇の花から手を離し、そっとエレオノーラの手を取った。
指先は光をすり抜けてエレオノーラの肌に触れる。
『エレオノーラ。あなたはお母さんのぶんまで元気になるのよ』
『……? うん!』
『ふふ、いい子ね』
どうして母が頭を撫でたのか。
あの言葉の意味はなんだったのか。
ついぞエレオノーラは理解することがなかった。
ただ、母が亡くなってから光が見えることはなくなった。
◇◇◇◇
「うーん……ハッ!」
覚醒。
深い海底から浮上するように、ノーラは沈んでいた意識を呼び起こす。
目覚めてすぐに周囲を見渡すと、そこは魔術の講義をしていた場の片隅だった。
「あ、起きた起きた。ノーラ、大丈夫そう?」
「ぁ……コルラードさん。あの、わたし……どうなったの?」
「なんか魔力がダーッで爆発して、気絶しちゃったよ。俺と先生の見立てじゃ、単に魔力を出しすぎて気を失っただけだから体調に支障はないはず。痛いところとかないよな?」
思い出した。
魔術の実践授業で魔術を発動しようとして……靄みたいなのが出て、なんか光って。
そして今に至る。
「はい。あの、ご迷惑をおかけしました……」
「ははっ、最初はそんなもんさ! ちょっと先生呼んでくるから待っててな」
コルラードの貴重な時間を奪ってしまった。
自分がペアでなければ、もっとしっかり授業を受けられていただろうに。
どうしてこうも他人の足を引っ張ってしまうのか。
憂鬱な気分で項垂れていると、コルラードに導かれて教師が気だるげな様子で歩いてきた。
「んん、おー、起きたかノーラ・ピルット。お前の気絶した要因は、魔力の出しすぎによるもの……んまあ、貧血みたいなもん。今日はここまでにしておけ」
「は、はい……すみません。わたし初心者で……」
「初心者でもこうはならねぇけどね。普通、ん魔力を出しすぎたら体が『これ以上はヤバい』って感じて、放出を抑えるもんだ。お前の入学時の適正検査によると……んん、魔力はめっちゃ多いみたいだけどな。暴走しがちな体質なんかねぇ……こればっかりはどうにもならんし。あと属性もよくわかんねえ」
生徒の情報が書かれた資料をペラペラとめくって教師は渋面した。
よくわからないが、ノーラには才能がないということだろうか。
隣に立っていたコルラードが口を挟む。
「先生。たしかに生まれつきの暴走制御は治せないけど、属性によっては暴走制御に左右されない魔術もあります。まずはちゃんとノーラを休ませて、もっかいリベンジしましょ! 俺もとことん付き合いますから!」
「お、おう……まあコルラードがいいってんなら。努力の形が見えれば成績としては評価するし、ん魔術が使えなくても進級できないなんてことはねぇから安心しろ」
「よっしゃ! ノーラ、俺と一緒にがんばろうな!」
「コルラードさん……ありがとう」
なんという聖人か。
眩しすぎて直視できない。
ノーラが瞳を輝かせていると、教師が腕組をして怪訝な視線をコルラードに向けた。
「お前、コイツの属性が知りたいだけなんだろ?」
「ええっ!? ま、まぁそういう理由もありますけど……ノーラが魔術を使えるようになってほしいって理由もありますよ!」
「ふーん、んん……そんなにノーラの属性が気になるなら、お前の師匠にでも聞いてみたらどうだ? 『サンロックの賢者』様によ」
「いやぁ……師匠はおっかないんで。それに隣の大陸から来てもらうのも気が引けます」
「そうかよ。んじゃま、俺は他の生徒たちの授業に戻るから。ノーラ、今日は絶対に魔力を使うんじゃねえぞ。体調崩すからな」
「は、はい」
教師は踵を返し、またしても気だるげな足取りで引き返していった。
とりあえず今日は言いつけ通り休むしかなさそうだ。
コルラードは鼻歌まじりにノーラの隣に座る。
「コルラードさんの師匠って……有名な方なんですか?」
「うーん……グラン帝国ではあんまり有名じゃないかも。隣の大陸の人だから。魔術師の中ではそれなりに有名で、魔導学士院っていう組織の一員なんだ。すっごい実力のある人なんだけどさ、あの人おっかねえんだよなぁ……」
「そういえばコルラードさん、外国から来たって言ってたような。師匠のもとを離れて留学に?」
「そんな感じ。俺の知見を頼りたいって人がグラン帝国にいたみたいで。ついでだから、師匠に学園で魔術以外も学んでこいって命令されたんだ。俺、あんまり魔術以外に関心はなかったんだけど……歴史とか学んでみると意外と楽しいもんだな!」
学びに楽しさを見出すこと。
ノーラはまだ勉強が楽しい……なんて思えないが、やがてその境地に至れるのだろうか。
とりあえず喫緊の課題は魔術の勉強。
コルラードだけではなく、他の魔術に詳しい人も頼ってみるべきかもしれない。
コルラードは感覚派のようだし、理論派の人を頼ればあるいは。
ノーラは思い当たる節を探った。
庭で駆け回ることを日課としていたエレオノーラは、またしても煌めく光を見つけた。
土で汚れた腕で光を摘み取ると、それは微妙に温かい熱を持っていて。
触っているとなんだか安心する。
まるで母に触れているかのように。
彼女は光を摘むや否や、イアリズ伯爵家の裏手へと走り出した。
小さな彼女にとっては屋敷の敷地内が世界のすべてで、広大だった。
『おかあさまーっ!』
視線の先、花壇の縁に屈みこむ婦人。
エレオノーラの母……エウフェミア・アイラリティルは娘の元気な姿を見て微笑む。
息を切らして走ってきたエレオノーラは両手をいっぱいに広げ、七色の光を母に見せた。
『またあったよ、キラキラ!』
『あら。エレオノーラは見つけるのが上手なのね。いつもお庭で遊んでるからかしら?』
『ん-……でも、これ家の中にもあるよ』
エレオノーラの行く先どこにでも。
謎の光が出てきては消えていく。
母は花壇の花から手を離し、そっとエレオノーラの手を取った。
指先は光をすり抜けてエレオノーラの肌に触れる。
『エレオノーラ。あなたはお母さんのぶんまで元気になるのよ』
『……? うん!』
『ふふ、いい子ね』
どうして母が頭を撫でたのか。
あの言葉の意味はなんだったのか。
ついぞエレオノーラは理解することがなかった。
ただ、母が亡くなってから光が見えることはなくなった。
◇◇◇◇
「うーん……ハッ!」
覚醒。
深い海底から浮上するように、ノーラは沈んでいた意識を呼び起こす。
目覚めてすぐに周囲を見渡すと、そこは魔術の講義をしていた場の片隅だった。
「あ、起きた起きた。ノーラ、大丈夫そう?」
「ぁ……コルラードさん。あの、わたし……どうなったの?」
「なんか魔力がダーッで爆発して、気絶しちゃったよ。俺と先生の見立てじゃ、単に魔力を出しすぎて気を失っただけだから体調に支障はないはず。痛いところとかないよな?」
思い出した。
魔術の実践授業で魔術を発動しようとして……靄みたいなのが出て、なんか光って。
そして今に至る。
「はい。あの、ご迷惑をおかけしました……」
「ははっ、最初はそんなもんさ! ちょっと先生呼んでくるから待っててな」
コルラードの貴重な時間を奪ってしまった。
自分がペアでなければ、もっとしっかり授業を受けられていただろうに。
どうしてこうも他人の足を引っ張ってしまうのか。
憂鬱な気分で項垂れていると、コルラードに導かれて教師が気だるげな様子で歩いてきた。
「んん、おー、起きたかノーラ・ピルット。お前の気絶した要因は、魔力の出しすぎによるもの……んまあ、貧血みたいなもん。今日はここまでにしておけ」
「は、はい……すみません。わたし初心者で……」
「初心者でもこうはならねぇけどね。普通、ん魔力を出しすぎたら体が『これ以上はヤバい』って感じて、放出を抑えるもんだ。お前の入学時の適正検査によると……んん、魔力はめっちゃ多いみたいだけどな。暴走しがちな体質なんかねぇ……こればっかりはどうにもならんし。あと属性もよくわかんねえ」
生徒の情報が書かれた資料をペラペラとめくって教師は渋面した。
よくわからないが、ノーラには才能がないということだろうか。
隣に立っていたコルラードが口を挟む。
「先生。たしかに生まれつきの暴走制御は治せないけど、属性によっては暴走制御に左右されない魔術もあります。まずはちゃんとノーラを休ませて、もっかいリベンジしましょ! 俺もとことん付き合いますから!」
「お、おう……まあコルラードがいいってんなら。努力の形が見えれば成績としては評価するし、ん魔術が使えなくても進級できないなんてことはねぇから安心しろ」
「よっしゃ! ノーラ、俺と一緒にがんばろうな!」
「コルラードさん……ありがとう」
なんという聖人か。
眩しすぎて直視できない。
ノーラが瞳を輝かせていると、教師が腕組をして怪訝な視線をコルラードに向けた。
「お前、コイツの属性が知りたいだけなんだろ?」
「ええっ!? ま、まぁそういう理由もありますけど……ノーラが魔術を使えるようになってほしいって理由もありますよ!」
「ふーん、んん……そんなにノーラの属性が気になるなら、お前の師匠にでも聞いてみたらどうだ? 『サンロックの賢者』様によ」
「いやぁ……師匠はおっかないんで。それに隣の大陸から来てもらうのも気が引けます」
「そうかよ。んじゃま、俺は他の生徒たちの授業に戻るから。ノーラ、今日は絶対に魔力を使うんじゃねえぞ。体調崩すからな」
「は、はい」
教師は踵を返し、またしても気だるげな足取りで引き返していった。
とりあえず今日は言いつけ通り休むしかなさそうだ。
コルラードは鼻歌まじりにノーラの隣に座る。
「コルラードさんの師匠って……有名な方なんですか?」
「うーん……グラン帝国ではあんまり有名じゃないかも。隣の大陸の人だから。魔術師の中ではそれなりに有名で、魔導学士院っていう組織の一員なんだ。すっごい実力のある人なんだけどさ、あの人おっかねえんだよなぁ……」
「そういえばコルラードさん、外国から来たって言ってたような。師匠のもとを離れて留学に?」
「そんな感じ。俺の知見を頼りたいって人がグラン帝国にいたみたいで。ついでだから、師匠に学園で魔術以外も学んでこいって命令されたんだ。俺、あんまり魔術以外に関心はなかったんだけど……歴史とか学んでみると意外と楽しいもんだな!」
学びに楽しさを見出すこと。
ノーラはまだ勉強が楽しい……なんて思えないが、やがてその境地に至れるのだろうか。
とりあえず喫緊の課題は魔術の勉強。
コルラードだけではなく、他の魔術に詳しい人も頼ってみるべきかもしれない。
コルラードは感覚派のようだし、理論派の人を頼ればあるいは。
ノーラは思い当たる節を探った。
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