マイ・ドリーム~県立伊豆南高校演劇部物語~

keisuke_genso

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第三話 入学式は波乱の幕開け≪後篇≫

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 しばらくして、担任の橋崎や恩田が教室へと戻って来た。保護者や警察への対応で疲れたのか、橋崎はクタクタだった。それとは逆に、副担任の恩田は平然とした顔だ。結果的にオモチャの銃だったとはいえ、自分から果敢に銃を持つ者に平気で近づいて行く恩田。いったい何者なんだろうか、と感じてしまう。
 颯太と美緒は、橋崎たちが来る前に2人一緒で教室へ戻って来た。しっかり仲直りができたのか心配になってしまうが、とりあえず見た感じでは大丈夫そうだ。
 教室でのオリエンテーションが一通り終わって、今日のところは解散となった。新入生はこのまま下校する事もできるし、在校生の部活動見学をするのも良いと言う事になった。ほとんどの新入生は、部活動見学をするらしい。
 颯太はさっそく男子バスケ部に挨拶に行くらしい。美緒に関しては、どの部活に入るのかは今のところ一応、未定との事だ。案の定と言うべきなのか颯太の後を付いて行こうとしたのだが、颯太が教室を出たところで颯太に気づかれて追い返され、涙目を明香里に見せていた。
 明香里はそれを見て、仕方なく、今日のところは明香里の部活動見学に付き添ってくれるか提案し、美緒はそれを了承した。
 明香里と美緒の2人は教室から廊下に出て歩き始めた時、隣にいた美緒が明香里に聞いてきた。
 「ところで、明香里っちはもうどこの部活に入るか決めてあったりするの?」
 「え?」
 「ほら、さっき聞こうと思ったんだけど、色々あって聞けなかったじゃん?」
 「ああ、そうだったね。うん、私、どの部活に入るか決めてあるよ。」
 「そうなの? どこどこ?」
 「うん、演劇部!」
 「演劇部か~。何で?」
 明香里は美緒に、演劇部に入る目的を伝えた。
 「そっか~、舞台の上で輝いている自分を両親に見せてあげたいんだ~。良いね、アタシ、応援するよ。」
 「ホント?」
 「ホントだって。何だったら、アタシが明香里っちの第一号ファンになってあげても良いよ。今のうちからサイン貰っとこうかな。」
 「フフッ、ありがとう。」
 「でも良いなぁ~。明香里っちには、そういう目的があって。アタシなんか、ずっとアイツの後を追いかけてばっかりだったからなぁ~。向こうは、ちっとも気づいてくれない超鈍感野郎だけど。」
 「久坂部君と同じ部活にマネージャーとして入ったのも、久坂部君の傍にいて、ずっと傍で彼の事を見ていたかったからでしょ? もしかして、この学校に来たのも?」
 「当たり。颯太も言っていたけど、アタシ、本当に頭バカだったんだよね。ヘマも色々やっちゃって、結果的に颯太に色々と迷惑かけちゃって…。でも、颯太の近くにいると何だか安心するんだよね。楽って言うか、居心地が良いって言うか…。中学から高校になって、それを失いたくなかったから、アタシ必死に勉強して、どうにかこの学校に受かったんだ。で、運よく颯太と一緒のクラスにもなれたし、こうして明香里っちと友達にもなれたし、これで良かったと思っているよ。」
 「私もさ、実はちょっと同じだったんだよね。家の近くにも別の高校があって、中学の友達とか大半はその高校に進んじゃって、この高校に友達とかいないんだ。演劇部に入って好きな劇が出来るなら、それでも良いかなと思ったけど、やっぱり楽しさが半減しちゃうし難しそうだなって思ったし。そんな時に久坂部君や立花さんに出逢えたから、そんな不安が消えちゃったかな、って…。」
 「明香里っち、思っていたよりも良い子だね。良い役者になるよ、きっと。」
 「なれれば良いんだけどね。」
 そうこうしている間に、明香里と美緒の2人は演劇部室の前までやって来ていた。
 「明香里っち。ここが演劇部室だね。」
 「うん。」
 「どうしたの、明香里っち。不安そうな顔しているけど…。」
 「色々考えちゃうんだ、私…。どのくらい部員がいるんだろう、大勢なのか少数なのか、演劇部なんだからきっと沢山いるんだろう、でもその人達に私なんかが受け入れられてもらえるのだろうか、私は輝けられるのだろうか…って。」
 「でも、夢は叶えたいんでしょ? その為には、自分からその殻を破らなきゃ!」
 「うん…、そうだよね。」
 「行こう、明香里っち!」
 「…うん!」
 明香里は意を決した後、ノックと「失礼します」と言って演劇部室の扉を開けた。
 その扉の先にいたのは、上下、黒スーツ姿の若い男2人と金髪の若い女が1人。つい最近どこかで見た記憶がハッキリある人達がいた。
 3人は扉を開けた明香里と美緒を見たが、明香里は「…えっ?」という顔をしたまま石のように固まっていた。そして明香里は、そのまま演劇部室の中に入ることなく、自分で扉を一旦ゆっくりと閉めて隣にいた美緒を見た。美緒も明香里を見た。
 「…ねえ、立花さん。」
 「…アタシ、基本、頭バカだけど、今、明香里っちが言いたい事分かるよ。」
 「…どうしよう、凄く嫌な予感しかしないんだけど…。」
 「み、見間違えだよ、きっと!」
 「私、目が合っちゃったんだけど?」
 「だ、大丈夫! 見間違えだって。もう一回扉を開けたらいないよ、たぶん…。」
 明香里たちは恐る恐る、再び演劇部室の扉をゆっくりと開けた。3人が先ほどと同じように視線を明香里たちに向けていた。それが分かると、明香里たちは再び扉を閉じて、お互いの顔を見合わせた。
 「…(やっぱり中に)いるじゃん!! また目があったし!!」
 「あっれぇ~っ、おっかしいなぁ~。てっきり見間違えだと思ったんだけど?」
 「…どうしよう、凄く嫌な予感しかしないんだけど…。」
 「明香里っち、そのセリフ2回目だよ!! でも、ここは一旦出直してみる?」
 「うん、そうしよう。そうした方が良い! これは絶対に何かの間違いだって思いたい!!」
 明香里たちは今すぐこの場から立ち去ろうとした瞬間、演劇部室の扉が突然開き、中にいた3人が明香里たちの腕を掴んで強引に中へと引きずりこまれてしまった。
 明香里と美緒を引きずり込んだのは、若い男2人だった。若い男2人はそれぞれ明香里たちを羽交い絞めして、更に口を手で塞いでいた。金髪の女は、明香里たちを引きずりこんだ後、急いで扉を閉めて、外の廊下の様子を伺っていた。明香里たちは暴れていたが、男たちに羽交い締めにされて身動きできなかった。
 「友紀美(ゆきみ)、外の様子はどうだ?」
と、明香里を羽交い絞めにしているモヒカン頭の男が、扉を抑え込んでいる友紀美と呼ばれた金髪の女に向かって言った。友紀美はこっそり扉を開けて廊下の様子を伺った。
 「大丈夫。誰もいない、けど…」
 「そうか、分かった。」
 安全だと分かると、男たちは明香里たちを羽交い絞めから解放した。口も解放され、話せるようになった。
 「い、いきなり何をするんですか!!」
 当然だが、明香里は3人に向かって怒った。
 「シー! 静かに!! まだ完全に安全だとは言い切れないんだ。」
と、モヒカン頭の男が言った。
 「何をそんなに怯えているんですか?」
 「良いか。我々はまだ危険な任務の途中なんだ。敵に発見されると非常にマズイ。今後の任務に支障が出るんだ。それを分かって欲しい。それにキミ達が敵のスパイだと言う事も考えられる。任務が終わるまでは、この部屋から出る事を許さない。良いな?」
 何を言っているんだ、この人は。敵って誰だ。明香里たちは、いつからスパイになったのだ。とりあえず今、明香里たちは監禁…いや軟禁状態だ。
 「敵って?」
と、美緒がモヒカン頭の男に聞いた。
 「ああ…。図体がでかいだけの頑固野郎とその配下たちさ。見つかると非常に厄介だ。」
 “図体がでかいだけの頑固野郎”…。なんか、どこかで聞いたことがあるような、無いような…。
 「…その図体がでかいだけの頑固野郎って、どんなヤツなんだ?」
と、突然、そこにいた明香里たち全員とは別の男の声が聞こえた。約1名を除いて、その声に気づいたが、その約1名…モヒカン頭の男はその声に気づかず、頑固野郎の特徴をペラペラと話し始めた。その内容は、ほとんど悪口だ。
 「…へぇ~、そんなヤツなのか。」
 また、その声がどこからか聞こえた。だが、モヒカン頭の男は構わず続けた。
 「そう、そういうヤツなんだよ。」
 「そいつって、もしかしてこんな感じの男じゃないのかい?」
 「えっ!?」
 モヒカン頭の男を含む全員が、一斉にその声がした方向を見た。すると、その部室の前方に、図体がでかい…もとい、体育教師の後藤とその配下…再びもとい、教員たち数名が仁王立ちしていた。なるほど、確かに彼らにとっては敵だ。
 「うわわわわ~ッ!!!!!???」
 モヒカン頭の男たちは驚きのあまり、教室の後方の壁まで慌てて後ずさりした。私と美緒は、その場で立ち尽くしてしまった。
 「…よう、鵜原_うのはら_。他に言い残すことは無いか?」
 体育教師の後藤の背後から、怒りが9割以上込められた何か異様なオーラが感じられた。さすがにコレを見て、モヒカン頭を含む若い男2人と金髪の友紀美はとても震えていた。
 「い、いつから、そこに!?」
 「ずっとだ。貴様らがそこの女子2人と部室内に引き込んだ時から、ずっとな…。」
 「ずっと!? ちょ、ちょっと待って。友紀美! オマエ、さっき誰もいないって言ったよな!?」
と、モヒカン頭の男が友紀美に向かって言った。
 「言ったよ。“廊下には誰もいない、けど…”って。」
 「ほら、見ろ。嘘をつくんじゃねえよ!!」
 「嘘じゃねぇさ。まだ続きがあったんだよ。“廊下には誰もいない、けれどもう部室内に皆さん勢揃いしているよ”ってな。」
 「そうなのか!?」
 「そうだよ。続きを言おうとしたら、陽樹_はるき_が“分かった”って言って遮っちゃったんだから。」
 「そ~なのか~!!」
 「…と言うか、オマエら、普通に気づけよ。」
と、体育教師の後藤が言った。恥ずかしながら、確かにその通りだ。鵜原陽樹(うのはら はるき)という名前らしきモヒカン頭の男が言った。
 「じゃ、じゃあ、俺らがやった、っていう証拠はあるのかよ!!」
 「証拠なら今目の前にあるじゃないか。オマエらが今着ている服、あの時のまんまじゃないか。しかも、ご丁寧に金髪の女までいるし。」
 「しまった~ッ!!!!!!」
 「アホか、オマエら。」
と、悔しがっている鵜原たち3人に向かって、後藤が再び言った。3人もいて誰一人気づかなかったのだろうか。いや、現に気づいていないのだから、やっぱり後藤の言う通りアホである。
 「…というワケで、オマエら全員、その場で正座!!」
 ここから、体育教師の後藤を含む生徒指導担当の教員全員、更には後からやって来た教頭の佐口まで加わった怒りの生徒指導が始まった。鵜原たち3人はその場で正座させられ、なぜなのか明香里と美緒までもその場で正座させられた。
 「…キミたちは、何をしでかしたのか分かっているよね? キミ達はただ新入生たちを歓迎する為にやっただけかもしれん。だが結果的に保護者、更には警察まで駆けつける一大事にまで発展した。こんな事は我が校創立始まって以来だぞ。分かっているのかね? キミ達のおフザけが、大勢の新入生と保護者、そして警察、その処理に追われた教職員、すべてに大迷惑を掛けたのだぞ!?」
と、教頭の佐口が、落ち込んでいる鵜原たちに向かって言った。ちなみに、明香里と美緒は巻き込まれただけで何も悪い事は一切していない。なのに、なぜか正座させられている。よって、今も迷惑を掛けられている最中である。
 「今回の事で、キミ達全員には厳しい処分を下さなければならない。内申書ひいてはキミ達の将来に大きな傷がつくワケだ。それは分かっているよね?」
 「ちょ、ちょっと待ってよ!!」
と、美緒が言った。
 「もしかしてアタシ達にも処分するつもり!? アタシ達2人は、偶然ここを部活見学しに来て巻き込まれた新入生なんですけど!!」
 「あ、ホントだ。」
と、教頭らを含む教員たちは、制服の胸ポケットにつけられた“祝 入学”と書かれた紅白のリボンを見て、明香里と美緒が新入生である事が分かった。
 「“あ、ホントだ”じゃなくて、先生たちこそ早く気づいてよね。」
 「スマン、それは謝る。」
と、教員ら一同は、明香里と美緒に対しては頭を下げて謝罪した。だが、鵜原はそれを断じて許さなかった。
 「裏切るのか、キミ達! 部活見学しに来たと言う事は、この我が演劇部に入部したい、という事だろう? ならば、もうキミ達は演劇部の一員じゃないのか!!」
 「ちょっと待ってよ。確かに部活見学には来たけど、入るのはアタシじゃなくて、明香里っちよ!! 私は、ただの付き添いなんだから!」
 「立花さんッ!?」
 言っている事は間違ってはいないけど、今日出逢ったばかりの友を売ったよ、この人。
 「あ~…、残念だが、演劇部への入部は出来ん。」
と、教頭の佐口が頭を手でポリポリと書きながら、明香里と美緒に向かって言った。明香里は自分の耳を疑った。
 「…入部できない、って何で?」
 「今回の事態に対する処分だ。この騒動を起こした演劇部の現所属部員3名は全員退学。及び演劇部は本日をもって廃部とする!」
 教頭からの突然の処分発表に、現演劇部員3人と明香里たち2人は衝撃のあまり声を失った。もっとも大きな衝撃を受けたのは、この部に入る事を目的にこの学校を受験して入った明香里だった。


 ≪ 第四話 に続く ≫
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