上 下
9 / 9
第八話

振りまわされる

しおりを挟む
義父と母親は相変わらず頻繁に喧嘩をしていた。
私はこっちの学校にも友達ができ、お店の手伝いにはあまり行かなくなっていた。

商売をしてから喧嘩ばかりの親。
喧嘩する度に母親は私達の暮らす家へ帰ってきていた。
「もうお父さんとはやっていけない・・・」
「これからは大変だけど家族だけで頑張っていこう」

これが母親の毎回帰ってきた時のセリフ・・・
私はその度に母親との暮らしが嬉しくて、母親に甘えれる事が嬉しくて、心を躍らせていた。

でも必ず数時間で家の電話が鳴る。
義父からだ・・・

母親は必ず私に電話を取らせた。
「お母さんにかわって」
義父が言うと私は母親に電話をかわり、母親は不機嫌気味で電話に出る・・・

その電話の後には必ず
「お父さんがいるとお金も安心だし、あんた達のために帰るね・・・」
と毎回同じセリフで母親は義父のもとへ帰っていく。

嬉しさからの孤独は本当に辛く寂しかった・・・
そんなのが、月に何度もくり返される。

他の人からしたら、毎回信じるな・・・毎回ならなれるだろ・・・と思うかもしれないけど、私は毎回期待してしまっていた・・・

何度も繰り返させると、今度もきっと帰ってしまう・・・電話がもうすぐかかってくる・・・
と思っていても、心のどこかで、今度こそ・・・もしかしたら・・・と思っている私がいる。
姉は何にも言わないけど、姉もきっとそうだったと思う・・・

私は電話がなり、母親が帰る事に寂しい、帰らないで、とは言えなかった。
母親の
「あんた達のために・・・」
という言葉が私を黙らせていた。

きっと母親も我慢してる・・・頑張ってる・・・
と思っていたから・・・

今思うと、ただの色ぼけババアでしかない。
子供に何も言わせないような言葉を吐き、自分のためなくせに子供のためと正当化をして、毎回子供を振り回す・・・

母親がいない方が寂しさは耐えられてきたのに何度も孤独という穴に突き落とされるのはどれほどきついか・・・

真っ暗な穴の底にいるなら、慣れてもくるし耐えられる
せっかく暗闇になれたのに引っ張り上げられ明るさを、楽しさを味わい、そこからまた暗闇になれなければならない。
またなれた頃に、母親は帰ってくるのだ・・・

一度だけ母親にぐずった事がある。
今でも覚えてる・・・
あの日もいつものように喧嘩をして帰ってきた。

私はその時風邪をひて寝込んでいた。
母親は心配そうに看病してくれた。
「何か食べたいものある?」
そんな言葉が嬉しくて、母親の熱を測るおでこにあてた手が心地よくて幸せだった。

でも電話はいつものように鳴る・・・
そしていつものように義父と話した母親は、今回は言葉に詰まっているのが私にも分かった。

私は母親が何を言いたいか分かってたし、言いずらそうなのも気がついたけど
私は母親が言葉をいう前に言わなくちゃ・・・と
「帰らないで・・・今日はここにいて・・・貧乏でもいいから・・・お金いらないから・・・」
と母親に言った。

「大丈夫・・・帰らないから・・・」
と母親は私の頭を撫でてくれた。
その心地よさと安心感で私は眠ってしまった。

体のダルさと苦しさで目を覚ますと家は真っ暗・・・祖母と姉の寝息が聞こえる・・・
夜中だし雷もなっていた。

雷なんかいつも怖くないのに、その時は具合が悪いからか、心細くて怖くて母親を呼んだ。
母親は義父のもとへ帰っていた・・・
私は怖くて泣いたのか、寂しくて泣いたのか分からないけど、1人泣いていた・・・
私12歳だった。


あの時は子供で分からなかったけど、今自分が親になって、本当に母親はクズだと思う。
あの時は子供で分からなかったけど今自分が大人になって、分かった・・・
私達のためではなく自分のために生きている母親の事を無駄に信じ、生きていた事を・・・

「子供を持てばわかる・・・」
「大人になればわかる・・・」

そんな言葉を言われ続け、いつかきっと分かると思ってた。
今母親のいう大人になり子供を産んだ私がいる・・・

それを踏まえて母親に言いたい・・・
今でもあなたのしてきた事を理解はできない・・・
知らなかった昔より、知った今の私は、あなたの事が不快です・・・
分かった事は、そんな言い訳がましい大人は母親以外にも溢れるほど多いということ・・・

人は何かに依存しないと生きられない生き物だと私は思う。
それが仕事だったり、子供だったり、男だったり、女だったり、趣味だったり・・・

人間は感情のある生き物・・・
子供の時は親に生かされ、友達に生かされ、仕事に生かされ、女男に生かされ、子供に生かされ・・・

暴力を振る男と別れられない女は、何かに生かされてると感じてるからそこにとどまるんだと思う。
辛い仕事なのに頑張れるのは、そこに居場所があるからだと思う。

他人から見たら「なぜわざわざ薔薇の道を???」
と思う事でも、本人にしか分からない何かがそこにあるから抜けられない・・・

いろんな人の相談を受け私はそう感じた。
1番良い道を分かっていてもそこを歩けない人はたくさんいる。
そこに何もないと気がつくまできっと薔薇の道でも進んでしまう・・・

母親もきっとそうだったんだろう・・・
今私は男に惑わされる事なく子供と過ごしているけれど、いつかここに私の生きる意味を抱けなくなった時
私も子供に、友達に、大切な人に酷い事をする時が来るかもしれない・・・

私は今そうならないよう、今目の前のモノを見つめ生きていこうと思う。
今のココが私の居場所・・・今あるモノを今よりも幸せにする事に目を向け今を生きる・・・
母親のようにはなりたくない・・・そう思う。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

おかしな日記

明智 颯茄
エッセイ・ノンフィクション
 この日記は常軌を脱しているのだ――   霊感を持ち、あの世のことと、この世のことが同時進行している日々の、おかしな日記。  もっと、簡潔に日々の記録を残しておきたいという、非常に私的なエッセイです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハカタ

味噌村 幸太郎
エッセイ・ノンフィクション
キャッチコピー 「社会復帰、やらないか!?」 時は202X年……世は例のウイルスがまん延し、人々は新しい生活を余儀なくされた。 職を失い、心を病み、様々な家庭を絶望へと引きずり込んでいく……。 だが、そんな暗黒時代に一筋の光を当てる存在が、博多のどっかに誕生した。 これは一人の中年男性が経験した。 とても奇妙な体験談である。

『犯性(反省)人生 上』

シロ
エッセイ・ノンフィクション
僕は、三重県で生まれ、現在は愛知県内に住む、38歳のサラリーマンです。 僕の生まれてから、38歳になるまでの人生 『山あり谷ありの壮絶な人生』 をつづった、ほぼノンフィクションの話です。 タイトルは、『犯性(反省)人生』 貧乏生活から月収120万 性奴隷の学生時代 起業してからの地獄 訳して『犯性危』の人生を綴った作品です。 『犯罪。性。危機。』の内容です。 2話ずつ書いて、小話を間に入れますので、よろしくお願いします! ※名前バレ防止のため、一部フィクションもあります。 ※誤字脱字ばかりです。 気軽に感想やお気に入り登録も、よろしくお願いします。

あなたの隣で愛を囁く

ハゼミ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、夫が腸穿孔を起こし緊急入院してしまった。 しかしそれはこれから起こる事の序盤でしかなかった。 命の危機に見舞われる夫と、何もできないもどかしさを感じながらも、奮闘する妻のお話。

作品のオマケ(AIイラスト、キャラ設定、裏設定等公開中)

迷い人
エッセイ・ノンフィクション
連載中作品の解説、AIによるイラスト、ショートショートを投稿。 設定魔による、趣味の設定が連ねられています。 頂きモノに耐えきれずR18にしちゃう(´艸`*) 回避マーク入れるので、回避したほうが良い方は回避してね。

処理中です...