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アルバの高等学園編

覚悟ってどんな覚悟ですか……!?

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 次の日までゆっくりたっぷり休んで、朝一で俺達は目的の場所まで移動することになった。
 移動は馬で。ダンジョン入り口を見つけたら、馬は騎士達に預けて、俺達だけが入ることになる。セドリック君とジュール君は散々ミラ妃殿下に騎士達と待ちなさいと言われたけれど、二人とも首を縦に振らなかった。
 なので、総勢八人という大所帯でのダンジョン走破となる。とはいえ、騎士達にとっては八人なんて少なすぎてハラハラドキドキらしいけどね。しかも俺が一緒に入ることにずっと難色を示している。
 貴重な刻属性、そして貴重な新人魔術陣技師だからね。そう思っていたら、違ったらしい。
 俺に何かあったら兄様が怖いんだって。
 どう怖いのかめちゃくちゃ気になるところだけど、ダンジョン内で俺に何かあったら多分もう二度と地上の地を踏めないので、何もなくあってほしい。


 俺は兄様の前に座らせて貰って、兄様ガード。ううう、タンデム! タンデムして貰えただけで来た甲斐があったなあ!
 ミラ妃殿下すら自分馬に乗ってるので、タンデムなのは俺と兄様だけだけど! リコル先生は大荷物を馬にくくりつけている。回復薬をありったけ持ってきたらしい。液体とガラス瓶だよね。重そう。

「今日の目的はダンジョン入り口を見つけること。発見し次第入ります。その際、騎士達は外部で近付く者がいないか警戒を」
「はっ」
「もし危険があると判断すれば即時退却します! では、出発!」

 ミラ妃殿下の号令と共に、出発。
 馬で軽く流すように走る集団は、国と国を繋ぐ道をかっこよく進んでいる。
 しばらく走ると、ミラ妃殿下の指示で俺達集団は足を止めた。

「ブルーノ、周辺の植物を介して探索」
「はっ」

 ブルーノ君が地面に手を付けて、そこからシュルシュルと伸びてきた蔦を手に絡ませた。
 しばらくは皆微動だにせず、ブルーノ君を見守っていた。

「ここより南南西方面に空洞を発見しました。距離は……約一キロ。私が先頭道案内をいたします」

 ミラ妃殿下が頷くのを確認してから、ブルーノ君は道から逸れて森の中に馬を進めた。
 道なき道をゆっくりめに進む。
 ブルーノ君は迷うことなく正面を見据えている。
 地属性実はものすごく強い属性なのでは。
 索敵も出来る、状態異常に出来る、拘束やデバフがものすごいって。相手にしたくないやつだ。ブルーノ君が対人でやりたくないっていうわけだ。殺傷能力高すぎる。だって、足場を崩して落とし穴作ったらもうそこで勝負はついたも同然。

「すごいなあ、地属性……」

 思わず呟くと、兄様にフフッと笑われた。

「索敵は光属性でもできるんだよ。きっとアルバも出来るようになるんじゃないかな」
「本当ですか?」

 思わず振り返ると、兄様の腕のホールドがキュッとキツくなった。

「うん、閣下はそういうのがとても得意だから、教わるのもいいかもしれないね」
「そっかあ。僕もそういうので力になれたらいいなあ。隠し扉を探すとか、誰も気付かない空きスペースを探したりとか、怪しげな魔道具を見つけ出したりとか出来たらすごく有用なのに」
「そういう発想はなかったなあ……今度二人でこっそり公爵邸の中を索敵してみる? 歴史だけはある邸だから、きっと父上も全ての部屋を把握しているわけではないと思うよ」
「わあ……! すごく楽しそうです! ルーナもきっと一緒に来るんだろうなあ! 三人で探しましょう!」
「そうだね。兄妹三人で探索はとても楽しそうだね」

 考えただけで胸が弾む。
 そうやって家の中を探索したら、探索魔法のレベルも上がりそうだ。
 流石にうちに隠し部屋なんてないとは思うけど、有事の際に使う隠し通路的なものはどこかにありそう。

「あ、でも当主しか知らない隠し通路とかを発見してしまったら記憶は墓の中まで持っていくのでそっと教えてくださいね」
「アルバも当主の伴侶になるんだから知っていないとだめなヤツだねそれは。僕と結婚すること……自覚して?」

 最後の声の響きがとても甘くて、俺は一瞬にして茹で上がった。
 自覚してって……自覚、兄様と結婚の、自覚……!
 してるつもりでもこうして改めて本人に突きつけられると、ヤバい……破壊力がヤバい……!

「父上と義母上が寝室を共にしているように、僕たちもああいう作りの部屋にちゃんと住むんだからね?」
「追い打ちをかけないで下さい……っ」

 両手で顔を覆ってはわわわと一人騒いでいると、すぐ近くから溜息が聞こえてきた。

「ほんと、二人を見てるとこれから未知の生物と対峙するっていう緊迫感が霧散するわね……」

 ミラ妃殿下に生暖かい目で見られて、俺はもう両手を顔から外せなかった。
 後ろからは笑っている気配がするし。これは俺、兄様に揶揄われた?
 と思ったら、揶揄いじゃ済まないような爆弾呟きをされた。

「アルバが高等学園を卒業したら、覚悟して」
「はわーーーーー!」

 覚悟って! どんな覚悟ですか!
 俺、心臓止まらないかな。


 そんな遊びで周りの緊張感を霧散させた俺達だけれど、無事ブルーノ君の案内により岩場の奥からどこかへ繋がる洞窟入り口を見つけることに成功した。
 アドリアン君が岩の合間からそっと身体を滑り込ませて、動きを止める。そのままこっちに振り返り、剣呑な眼差しになった。

「妃殿下、大量にいますがどうします?」
「行くに決まっているでしょう?」
「ですが……でもどうして一歩入るとこれだけ気配があるのに外ではまったく感じないんだろう……」

 アドリアン君が戻ってきて、首を傾げる。
 俺の場合それがダンジョンというものだ、って言われたら、ふうんそうなんだーって思って終わるけれど、皆にとってはそうじゃない。そこに見えているのに一歩足を踏み入れるとまったく違う場所なんて、普通じゃ考えられないよね。
 アプリではメノウの森も一応ダンジョン認定されているけれど、こっちではそういうわけでもないらしいから。

「ほら、アドリアン進んで進んで」 

 アドリアン君を容赦なくまたも岩の隙間に突っ込んだミラ妃殿下は、後ろに待機していた騎士達に挨拶すると、自分は二番目に洞窟に入っていった。俺達も送れないように入っていく。
 なんか俺が入る時に騎士さんたちがすっごくハラハラした顔をしてたけど、やっぱり俺は足手まといだと思われてたよね。何も攻撃出来ないもんね。でもこれだけ周りに強い人が揃っていたら俺一人攻撃出来なくてもなんとでもなるよ。


 足音が洞窟内でこだまする。
 入り口から程近くで地竜が集団で襲ってきたのをアドリアン君とブルーノ君が剣だけで難なく倒してしまってからは、辺りは静かなものだった。
 何かの気配はなくて、道も一本。
 ブルーノ君は辺りを見回して、「アルバの言った通りだったな」と呟いた。

「僕、何か言いましたっけ?」
「いや、この洞窟、まっすぐ隣国に入ってるから。もうここら辺は国境として決められた境を通り抜けてるはずだから、もう俺達の国じゃないな」
「あああやっぱり。そういう場合どうなるんですか?」
「どうもしない。ここの情報は向こうに渡さないからな。妃殿下は国境に視察に来て一通り見て回って王都に帰った。そんな流れだ」

 うわあ、と思わず声を出す。
 国家間に戦争なんかはなくても、やっぱり色々と国交とかのやりとりはあるもんね。
 嫌な国の王様だったらちょっと関わりたくないよね。

「さてと。ここから少し行くと、アルバが言った通り三本に道が分かれるようだけど……」

 先頭を歩いていたアドリアン君が振り返って伝える。
 遠くに目をこらしても、俺は道が三本になるのがわからなかった。もしかしてアドリアン君夜目が利くタイプかな。と思ったら、俺以外は「確かに」と呟いていたので、皆はちゃんと把握できたらしい。

「どの道を行っても同じような苦労になると思います」

 数は多いからね。魔力が切れたらもうそこで何も出来なくなるからね。

「そうねえ……参謀のアルバ君、あなたはどの道を行きたい?」

 ミラ妃殿下は腰のカバンから折りたたんだ紙を取り出して、それを開きながら俺を指名した。
 紙にはそれぞれの道の特色が書かれている。
 俺的には兄様が魔法でガンガン飛竜を落とすところが見たいけれど、でも多分一番苦労する道だから却下。
 魔力を温存してできる限り物理で行きたいよね。アドリアン君と兄様とブルーノ君がいるからすごく安心だし。
 というわけで、俺のオススメは……

 
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