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アルバの高等学園編

南の雲行きがあやしくて

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 俺が入学のお祝いに兄様から貰ったのも竜の鱗だった。
 あの時は南からきたハグレ竜を倒した時に拾ったって兄様が言ってたはず。
 そして俺が視たものは、竜が沢山いるところで妃殿下と兄様とツヴァイト閣下とアドリアン君が俺の指示の元、ガンガン戦っていたところ。メンバー的にアプリの内容を視たわけでは決してない。だって他の攻略対象者と手を組んで戦うイベントなんて残念ながらないもん。
 フォークでケーキを掬ってパクッとしながら、俺はぐっと眉を寄せた。

『光凛∞夢幻デスティニー』のゲーム内で、竜が沢山出てくる場所はわかってる。
 国の南の方に位置するダンジョンだ。
 地図移動の画面で最終学年のレベルが一定値以上になると選べるようになる場所で、下の方にあるダンジョンをタップすると行ける。俺も鱗欲しさに竜狩り周回をしていた。主に最推しと。
 あれは国内だったのかそれとも隣国だったのか……
 アプリの地図画面じゃちょっとどっちか判別できなかったような。
 でも、ダンジョンか……
 ダンジョンっていうのは地下洞窟のような物なんだけど、そこに地層から滲む魔素が溜まって魔物が次々生み出されて行くところ、だったはず。だから、地上とは違う魔物が出るし、強さも段違いで際限なく湧いてくる、みたいな。
 多分洞窟内そのものが魔核のような状態になってるんじゃないかな、と思う。だってそうでもしないと説明できないもん。あんな竜のレアドロップ品を拾うために周回したなんて普通は無理。弱い魔物以外はそれほどエンカウント率高くないはずだから。
 とはいえどれも推測なんだけど……
 昨日見た魔法では、薄暗い森の中のような場所で、もしかしたらそのダンジョンの内部なのかそこから溢れ出したやつらがこっちの国に来たのか。難しい問題だよね、これ。実際その場に行ったわけじゃないし。

「だったら、入り口はこっちの国で、内部が隣国って感じだと納得出来るんだけど……そうなると入った後国境侵犯に当たるかどうかが一番の問題だ……」
「アルバ?」

 うむむ、と考え込む俺の目の前に、麗しの最推しの顔がバーンと現れた。

「はー最高。そう、最推しと行くダンジョンは本当に最高すぎて……竜を凍り付かせて動きを鈍らせて、すかさずそこを切るあの姿が本当に圧巻の一言に尽きる……」
「アルバ、その内容は全て教えてもらおうかな」

 がしっと最推し……いやいや、兄様の腕に羽交い締めにされて、俺はようやくここが陛下達の御前だということを思い出していた。
 ぐるりと見渡せば、ヴォルフラム陛下以下入り口付近で警護してるはずのアドリアン君まで俺を凝視していた。

「ええと、ですね。南には竜ばかりが闊歩するダンジョンがあるでしょう……?」
「それは初耳だが」
「そうね。ダンジョン……聞いたことはないわ」
「前に確認に行った時も、そのような場所は……」

 陛下と兄様がぐっと眉間に皺を寄せる。

「それは、視たことがあるのか?」

 陛下の問いに、俺は曖昧に頷いた。
 視たのか覚えてるのか、アプリ関連は本当に自覚前だったから曖昧なんだよね。俺自身、元から記憶があったんだと思ってたし。でもその記憶も実は小さい頃に刻魔法で見たものだって言われたら、そうなのかもしれないって思うし。

「とても曖昧なんですが、いいですか?」

 口を開きながら、もしここに義父がいれば、俺の言葉にどんな意味があるのかを考えて動いてくれるんだろうなあ、と思いながら、アプリ画面を思い出して口を開く。

「この国の南の国境付近にある森の中のどこかに、洞窟があるはずなんですよ。その中では結構大量に竜がいる、かもしれない。断言できなくて申し訳ないのですが」
「いい。大丈夫だ。記憶にあることを曖昧でもいいから教えてくれれば大丈夫。それが正しいとか間違えているかもとか、そういうことは考えなくていい。もしその情報が違ったものでも、絶対に罪には問わないから」
「そうそう。何もわからないよりは手を付けるとっかかりがあったほうが絶対に動きやすいもの」

 ね、と陛下と妃殿下がこっちに身を乗り出してくる。それに釣られるようにセドリック君まで。入り口を守っていたアドリアン君までソファのすぐ近くまできていた。
 そこまで来るなら一緒に座っちゃえばいいのに。

「では、僕が知っていることをお伝えしますね」


 
 まずは南のダンジョンのこと。その中にいる竜との連戦のこと。最後の部屋にはボス敵がいること。ここまではアプリでの記憶。
 そして、昨日見た壮大な映画……違った刻魔法の詳しい内容。
 まさに兄様が一回り大きな竜の羽根を凍らせるところは圧巻の一言に尽きる。大満足の迫力だった。……あれが実際に行って肌で感じたらきっと俺震えが止まらないけれども!
 兄様達が行くと行ったら、勿論俺もその勇姿を見逃す手はないのでついて行くけれども。

「もしその洞窟が入り口がこっちの国で中は隣国だった場合、入ったらどうなるんですか?」

 俺の質問に、ヴォルフラム陛下は真顔で気付かれなければ大丈夫と頷いた。

「そもそも、入り口がこっちだった場合は、隣国のものが入ろうとした時には私たちに一言声を掛けなければいけない。むしろ誰かは必ず同行することになる。むしろ入り口が向こうだった場合は、私たちは何一つ手を出さなくてもいい。対処をするのは隣国となるからね」

 なるほどなるほど。
 相槌を打ちながら、話を聞く。

「もしも、向こうが『中はこっちの国なんだから中から出た物をよこせ』と言ってきた場合は、私は喜んで隣国の者に洞窟に入る許可をやろう。そして、ご自身の国なので、中の魔物はご自分で対処を。その代わり、この国を通るのだから、持ち物は関税をかける』と伝える」
「わあ、文句言えなくなるヤツだ」
「そう。ただ我が国に入り口がある場合、中から魔物が溢れたら対処はこちらでしないといけなくなる。その場合は隣国が気付いても、手助けはしてこないだろう。今の王はそういう王だ」
「なるほど。地上で迎え撃つ場合はこっちの国だから手に入れた竜のアイテムは渡さなくて全然オッケーってことですね!」
「その溢れた竜によって国が脅かされるとは考えないんだな」

 ヴォルフラム陛下が肩を揺らす。
 だってそこはほら、うちには最高に強い人達がそろい踏みだから。

「だって僕、ミラ妃殿下が竜をバッタバッタ倒すところ、すでに視てますから」

 にっこりと答えると、ミラ妃殿下の目がキランと光った、気がした。
 
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