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アルバの高等学園編

口以外は出せないのが辛い

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 今回俺が入った道は、ゲームではツヴァイト閣下が大物の魔物と出会って苦戦する道だ。
 ゲームでレベルを上げたい場合はこの道に入ると比較的経験値が高い魔物が出てくることから、最推しとのイベントがあるとき以外はたいていこの道を選んでいた。
 と言う訳で、出てくる魔物は結構強いのが多いんだけど。
 セドリック君とランド君はセピア嬢の手すら患わせずに二人だけで着々と経験値を稼いでいた。
 まあこの世界に経験値という実質的な数値はないし、一緒にいたからって俺まで経験値が上がるわけではないんだけど。
 怪我一つ負わずにゴール地点まで一年生の力だけで進めるのは結構すごいことらしい。
 三年生が二人の力を絶賛していた。

「鍛錬所でも思ったけど、ああいうまっすぐなヤツって素直だから技術の伸びもすごいんだよなあ。欲しいなあ剣術クラブに」
「あれ、アザール先輩って剣術クラブだったんですか?」
「ああ。レクリエーションのときは鍛錬所担当だったけど、他の鍛錬所担当も一応剣術クラブのヤツらだったよ。勿論剣術が好きであれば上手下手関係なくいつでも歓迎だから、どうかなセピア嬢」
「そこはアルバ様を誘うところではございませんか?」
「クラブデートとかしたいじゃん」
「クラ……ッ」

 ボッとセピア嬢の顔が赤くなる。
 確かにクラブデートしたいね。俺は兄様とクラブ棟デート予約済みだけどね。
 今のところまだそのデートは実現していない。だから、俺も実父のクラブ日誌はまだ見ていない。一人だと楽しみも半減するからね。

「私、魔術クラブに興味がありますの」
「魔術もいいね。セピア嬢に似合うよ。強い子って素敵だよな。ああほらセドリック様、横から来てるよ」
「ナンパはほどほど、にっと」

 話しかけながらもちゃんと索敵をするアザール先輩は実は有能なのかもしれない、と思いながら、俺はまたも二人の間からそっと逃げ出した。


 終盤までは順調だったけれど、もうすぐゴールというところで、魔物の集団にかち合ってしまった。
 普通はたとえ集団でも多くて四、五匹くらいなんだけれど、今回の集団は多すぎる気がする。この魔物は羽は生えているけど空は飛ばず地面を進む大型のトカゲみたいな魔物だった。経験値が結構手に入るし、魔法と剣の両方を上手いこと使えばそんなに苦でもなく倒せるので、経験値稼ぎにはもってこいの魔物だったんだけど。
 流石に数が多すぎて、今まで余裕な顔をしていたセドリック君も険しい顔になった。

「アルバは自分の身を守る事に集中! 先輩方! 怪我したらアルバが治してくれるそうですからおもいっきり行きますよ!」

 セドリック君が最初に飛び出して行き、それに続いてランド君と先輩達も飛び出して行く。セピア嬢とご令嬢先輩は俺の前に陣取って魔法を飛ばし始める。
 総勢十四体。こんなに一気に魔物が出る事ってあったっけ。もう魔核は発生しないはずなのに。ああでも、魔物が現れるってことは小さい魔核は普通にあるって事なんだろうか。そこら辺のことはいまいちわからないんだよなあ。変にゲーム知識と混じってるのが仇になって。

「その魔物は魔法が当たった一瞬だけ怯むので、その時を狙って剣で攻撃をして下さい! ランド君達は魔法が飛んだ瞬間攻撃を! セドリック君は風魔法を使いながら剣で攻撃! 先輩達も同じように! 怯んでいないときは物理が効きづらいですし、元々魔法防御力は高いんです!」

 俺の言葉に皆がハッとしたようにこっちを向く。けれどそれが隙になってセドリック君が腕を爪で攻撃された。

「よそ見ダメ絶対!」

 俺の言葉に「ごめん!」と叫び返したセドリック君は、二匹もの魔物を即座に倒していた。
 先輩達もランド君もセドリック君に負けておらず、すぐに対応してくれた。
 それほど時間は掛からずに全ての魔物が討伐された
 けれど、皆無傷とは行かず、どこかしら怪我をしていた。特に前衛が取り逃がした魔物に迫られ渾身の魔法を叩きつけた女性の先輩は、顔に傷を負ってしまった。

「いたた、やだこれ、傷が残ったらどうしよう……」

 ハンカチで傷を押さえ、半泣きになる先輩に駆け寄る。

「僕が治癒魔法で治せるといいんですが、試しても大丈夫ですか……?」
「治るなら是非お願いしたいわ!」

 力強く答えられ、俺は気合いを入れる。前に兄様の手を治癒したときはうっすら傷が残ってしまって二度掛けしてようやく治したけれど、今度はどうだろう。ダメでも二度掛けすれば大丈夫かな。
 傷口を押さえたハンカチはじわりと血が滲んでいる。頬だから、傷が残ったら絶対に大変だ。
 ハンカチを外してもらうと、結構酷いひっかき傷ができていた。

「少しだけ我慢して下さいね」

 俺は傷の付いた頬にそっと掌を近付けて、魔法を発動した。

「光よ、このご令嬢の美しい肌を元にもどしたまえ」

 ふわりと掲げた掌から魔力が抜けて、傷口がうっすらと光る。
 痛々しかった傷口はじわりじわりと薄皮が張り、もう一度「光よ」と呟いた瞬間フッと傷口が消えた。残ったのは、流れた血の跡のみ。
 きちんと治癒魔法は発動したらしい。よかった。傷跡はない。
 ホッとして腕を下ろすと、先輩は後ろにいた他の先輩に「傷は!?」と詰め寄っていった。

「綺麗に消えてるよ。大丈夫」
「むしろ前の肌よりつややかって説もある」
「良かったな、この間出たって騒いでた吹き出物の痕が消えて」

 最後の言葉を言ったアザール先輩は、まんまとグーで殴られていた。なる程デリカシーが……

「他にも傷が出来てる人は僕の治癒魔法の練習台になって下さい」

 戦闘はまったく役に立たなかったからと声を上げると、皆がぞろぞろと寄ってきた。

「最初は女性を治したらいいよ」

 アザール先輩もだいぶボロボロだったのに、手の甲に掠り傷がついていただけのセピア嬢に先を譲る。そんな行為にセピア嬢の頬が染まった。

「失礼します。手を取っても大丈夫ですか?」 
「ええ。お願いしますわね」

 セピア嬢の手を取って包み込むようにして治癒魔法を発動する。
 またしても魔力が抜けて、すぐに傷は塞がった。練習してきた甲斐があったよ。男性ならまだ傷も勲章って言えるかもしれないけど、女性は一つの傷で将来が左右されるからね。

「ありがとうございます。前のときにはアルバ様の治癒魔法を見る事が出来ませんでしたが、思った以上に素晴らしいですわ……」

 自分の手の甲をじっと見つめながら、セピア嬢が過剰な褒め言葉を紡いでいく。
 俺の魔法はそんな大層なものじゃないんだってば。

「僕の場合、光属性の攻撃魔法が一つも打てないので、これくらいしか貢献出来ないのが辛いところですよね」
「あら、私は剣技が苦手ですわ。ランド様は魔法が苦手そうですし。セドリック様は何でも出来るでしょうけれど、それだって今までそれだけの努力をして来たという事でしょう。アルバ様の治癒魔法はまだ始めたばかりじゃありませんか。それなのにこれほど綺麗に治せるなんて、素晴らしいことですわ。それに、先ほどの魔物知識。流石と言わざるを得ません。アーチー様に聞いていたけれど、予想以上でした」
「……あの、ありがとうございます……」

 褒められたことがこそばゆくて、顔を熱くしながら俯く。するとトンと肩をぶつけられて顔を上げると、そこにはニヤニヤしたセドリック君がいた。

「アルバ照れちゃって、かあわいい! そんな事より僕の傷も治して欲しいなあ。傷が残ったらお婿にいけない」
「セドリック君はお嫁さんをもらう方でしょ。傷、大丈夫ですか?」

 ここここ、と腕のかぎ裂きを見せられる。結構抉られていて、思わず顔を顰めてしまう。
 手をかざして治癒魔法を掛けると、セドリック君の傷も無事消えていった。
 まだまだ魔力は身体の中に残っているので、皆の怪我を治すために回る。
 三年男子の先輩達が「一年を先に治してやれよ」と言ってくれたので、ランド君を治してから先輩の治癒に回ると、先輩が治った場所を見ながら感心したように呟いた。

「習い始めたばっかりだってわりには上手いなあ。こんな綺麗に消えるとは思わなかったよ。それに、戦闘中の指示出しはありがたかった」
「ほんとほんと。さっきの魔物の弱点とか、俺初めて知ったんだけど。あれ授業であたると最悪~って思いながら倒してたよ」
「私もたまに討伐してたけどあんなに簡単に倒せるとは思わなかったわ。魔法も効かない剣もダメな魔物だからほぼ全ての生徒に不人気だったのよね」
「それにあれだけの数が出てきてこれだけの怪我ってすげえじゃん」

 なー、と言い合う先輩達に、そんなものなのかなと首を傾げる。

「それよりアルバ、魔力は大丈夫か?」

 セドリック君に聞かれて、俺は大きく頷いた。治癒魔法を数回掛けたくらいじゃ、枯渇は起きないから。

「もう一度皆に治癒魔法を掛けても問題ないです」
「頼りになりすぎる……ジュールが言ってたことがようやくわかった……」

 はぁ、と盛大に溜息を吐かれて、俺は内心戸惑っていた。
 ジュール君、どんな説明をセドリック君にしたの……
 
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