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アルバの高等学園編

最推しと皆でランチタイム

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 その日俺は、学園から帰って来るなりブルーノ君のところに突撃した。

「学園の見学をここに入れられないかって? 難しいんじゃないか? 機密事項も多いし」
「でも、フレッド君の六歳の弟がラオネン病だからそれを治すために医師を目指しているんです」
「その気持ちはよくわかる。俺も同じだったからな。でも、学園の不特定多数を連れてくるのは流石に許可出来ないな。希望に添えなくて悪いな」
「……いえ、無茶をいいました。そうですよね。少しでも情報が漏洩したら大変ですし。他の手を考えます」

 ブルーノ君のせいではないし、俺が無茶を言っているのはわかっているけれど、やっぱりがっかりと肩が下がる。
 俯いていると、目の前に薬草茶が出された。ふわりと安心できる香りが俺を包み込む。

「今、かなり急いで方針を決めて、ヴォルフラム陛下とミラ王妃殿下と元老院で共に法整備を詰めてるんだ。土台はだいぶ前に作ったんだが、そこからが難航していて。でももうすぐだから」

 それまで頑張れ、とはなかなか言えない。ラオネン病は本当に、毎回発作が起こるたびに次に目を開けられるかわからない病気だから。兄様のように魔力を沢山分けてくれる人が近くにいるか、ちゃんと十分な薬を手に入れることが出来る人ならなんとか持つかもしれないけれど、そうじゃないと簡単に川の向こうに渡ってしまうから。
 ブルーノ君もそれをわかっていて、待っててもらうとは口に出さなかった。でも色々と取り決めてからじゃないと、その後が大変なんだそうだ。粗悪品が出回ってもそれを取り締まる法がなければ、その粗悪品で命を落とす者が出たり、うちの家名に泥が塗られたりとかさらにもっと大変な色々があるらしく、それをまとめるのが難しいんだそうだ。
 俺が完治したって発表したときにある程度作りはしたけど、法整備の本格始動は始まってまだ二年も経ってない状態。土台は出来上がっているけれど、細かい内容は今まさに義父とブルーノ君のお父さんとセドリック君のお父さんが頭を突き合わせて話し合っている。
 これがしっかりと決まり次第次々ラオネン病患者を受け入れ始めるんだそうだ。その出来上がった法の告知もこれから必要になってくるし、特効薬を使う順番も悩ましい問題で。国内のラオネン病患者全員の把握もまだ出来ていないし、他国からの使者への対応も大変らしいけれどやっぱりこれは全世界的に初の発見だからこの国だけの話には留まらないんだとか。
 だからまだ、ラオネン病が完治したのは世界で俺だけ。
 俺が大人になった兄様の笑顔が見たいだけのために記憶を頼りに探したレガーレだけど、実は世界を揺るがす発見だったってブルーノ君は言ってたからね。
 ごめんなさいと頑張れを心の中で繰り返していると、その説明をしてくれたブルーノ君はふむ、と顎を指でトントンした。

「でも六歳か……ちょっと怖いな」
「はい。でもすごくいい子らしくて、苦しくても笑ってフレッド君が絶対に助けてくれるから大丈夫って逆に励まされるんだそうです」
「ん……?」
「僕としても人ごとじゃないから、なんとかしてあげたくて」
「……」

 がっかりする気持ちを浮上させるためにお茶に口を付けると、ブルーノ君が何やら考えながら黙り込んだ。
 しばらくそのままお茶を味わい、まだ長考中のブルーノ君にお礼を言って席を立ち上がると、ブルーノ君がようやく顔を上げた。

「さっきのラオネン病の弟がいる生徒の名前って、フレッドだっけ」
「はい」
「そっか。……アルバ、夜更かしはほどほどにな」

 ブルーノ君は俺の頭をくしゃっと手でかきまぜると、にこやかに俺を見送ってくれた。

   ◆◆◆

 今日はとうとう兄様と一緒にクラブ日誌を読みに行く日。
 兄様は午前中には引き継ぎして学園に来るからと約束して、朝早く出仕して行った。
 俺も用意して、母とルーナ、そしてブルーノ君とスウェンに見送られて学園に登園した。
 セドリック君が教室にいたので声を掛けると、振り返って二パッとよそ行きじゃない笑顔を浮かべた。

「おはようアルバ。今日は昼、ツヴァイト兄上が学園に来るらしいから、昼は一緒に食べないかって言われたんだ」

 セドリック君の言葉に、俺は驚いて動きを止めた。

「え、うちも今日兄様が学園に来てくれるっていってたんですよ」
「ほんとか? じゃあ何かあったのかも。二人とも学園に来るってちょっとおかしいよな。オルシス様はどうして学園に来るのかわかるか?」
「ええ。僕と一緒にクラブ棟に行く約束をしていたんです」
「クラブ棟?」

 なんか入りたいのか? と首を傾げたセドリック君に、にこやかに父のことを教える。

「えっ、アルバの実父のクラブ日誌!? それ、僕も見てみたい!」
「ツヴァイト閣下と用事があったんじゃないんですか?」

 ワクワクし始めたセドリック君に、釘を刺すと、セドリック君はいいんだよと身を乗り出してきた。

「だって昼を一緒に食べる約束しただけだから! この間使った特別サロンをまた予約するから一緒に食べて、その後は僕はアルバとオルシス様のお邪魔虫をするんだ」
「セドリック君……」

 半眼を向けようとして、二人の甘々を見るの楽しみ過ぎると呟いたセドリック君の言葉を拾ってしまい、全てを許すことにする。俺と兄様を応援してくれる人はいい人だから。

「でも、閣下までヴォルフラム陛下の側を離れて大丈夫なんでしょうかね」
「他にも優秀な人はいるから大丈夫じゃないかな。うちの父上意欲的な人しか残してないから。野心家は逆に外されたらしいけど。話をしていて嫌になるんだって、野心家の人は。アピールポイント間違えてグイグイくるから聞いてて時間が無駄って言ってたよ」
「セドリック君のお父さん実は結構辛辣だね……」

 ミラ王妃殿下に対する態度とか、すごく優しそうに見えたんだけど。ああでも、ミラ殿下の実の兄を処分したのはセドリック君のお父さんか。もう二度と表に名前も出てこなかったから、どうなったのか検討もつかない。聞くの怖いし。
 そんなこんなしている間に授業が始まったので、俺はそっと自分の机に戻って教科書を開いた。


 そして、待ちに待った昼休み。
 セドリック君と共にジュール君の教室に向かおうと席を立ったところで、教室のドアから兄様が入ってきた。

「アルバ。一緒にお昼を食べよう」
「兄様!」

 兄様の声に思わずガタッと椅子を倒してしまう。
 その椅子に足を取られて転びそうになったところで、身体がふわっと宙に浮いた。
 兄様が素早く移動して、俺が転ぶのを阻止してくれたらしい。
 流石ヒーロー。助け方がスムーズアンドスタイリッシュ。かっこよすぎる。

「ありがとうございます。早々にかっこ悪いところを見せちゃいました」
「どんなアルバでもカッコいいし可愛いよ。慌てたアルバの顔もいい」

 ね、と笑顔を向けられたところで、足下の椅子が直された。
 椅子を直してくれたセドリック君は、面白そうにニヤニヤと俺を見上げた。

「アルバを見上げるなんて貴重な体験……!」
「セドリック君うるさいですよ」

 口を尖らせると、俺を抱き上げたままだった兄様がクスクスと笑った。

「相変わらず仲良しだね?」

 ちらり、とセドリック君を見る兄様はフッと魔王の笑顔になって、そのブラック笑顔のまま「嫉妬しちゃうよ?」と呟いた。
 ぐ……最高に最凶な感じがかっこよすぎか。心臓が止まりそう。
 兄様の手の中で悶えていると、さらにドアからひょっこり顔を出したツヴァイト閣下が「こらオルシス」と兄様を呼んだ。

「なあにうちのセディをいじめてるんだよ。ほらあ、固まってるじゃん。セディも。アルバと友人でいるんだったらオルシスの絶対零度な笑顔は慣れないとダメだぞ」
「慣れる前に命を狩られそうですけどね」

 だかだかと近付いて来たツヴァイト閣下が兄様の頭を遠慮なくペシンと叩く。
 さらにその後ろからジュール君が、そしてブルーノ君が顔を出した。

「あれ、ブルーノ君も来たんですか?」
「そうそう。そして今年の市井の生徒を一緒に特別サロンに招待しようと思って。セディ、予約は?」
「ばっちりですよ。皆も入れます。あれ、でもルーツたちも誘うの?」
「ああ。俺らが始めた制度だろ。だから当人達にも話を聞きたくてさ」

 なる程、と頷いていると、ブルーノ君が呆れたような視線を俺に向けた。

「オルシス、教室の生徒全員に注目されてるから、そろそろアルバを下ろせよ」
「婚約者であり、義弟でもあるアルバを抱き上げて何が悪い」

 キリッとそう返した兄様の頭を、今度はブルーノ君が同じようにペシンと叩いた。
 叩かれても兄様は怒りもせず、口を尖らせていいだろ別になんて可愛らしく反論している。いいよいいよ。いつでもどこでも抱き上げて欲しい。むしろ嬉しい。そして兄様可愛すぎか。
 ぎゅっと抱きつくと、兄様はふわりと笑って「名残惜しい」と俺を下ろした。


 廊下にはちゃんと市井組五人が俺たちを待っていてくれた。総勢十一人でサロンの最上階に移動する。
 三人は一度入っているからいいけれど、初めて特別サロンに入るトミィ君とダミアン君は、緊張のあまりカチンコチンになって動いていた。
 兄様と一緒に昼を取るため、今日はうちからランチボックスを持ってきていなかったので、全員分のメニューを頼む。
 ジュール君も昨日のうちに今日ブルーノ君が学園に顔を出すことを聞いていて、ランチを持ってこなかったらしい。
 ブルーノ君も来るなんて聞いてなかったんだけど……俺よりもジュール君に連絡を入れるっていうのは、兄弟仲良しになったって事で本当に喜ばしい事だと思う。
 届いたメニューはこの間とは違ったものだったけれど、やっぱりすごく豪華だった。最後のデザートまで美味しくいただけて、小食を自認する俺も、最後まで美味しくいただけた。めっちゃお腹いっぱいだけれども。
 食器が全て片付けられたところで、今度はティータイムに突入した。
 俺にはブルーノ君自ら薬草茶を淹れてくれた。そして、その茶葉をフレッド君の前にほい、と差し出す。

「身体が弱い者の体内環境を整える程度のものだけど、弟君に飲ませてやれよ。俺特製ブレンド茶だ」
「え、あ、ありがとうございます」
「フレッド君にちょっと聞きたいことがあってさ。こっちに来てくれるか?」

 ブルーノ君がフレッド君をちょいちょい手招きする。そして、隣にある控え室のほうに連れて行ってしまった。
 残りの四人の前に、ツヴァイト閣下と兄様が座り、早速学園のことを質問し始める。
 俺たちは三人で一つのテーブルに座り、兄様達の話を聞いていた。
 学園で何を学びたいか。不備はないか。心ない者はいないか。そして、その後何をやりたいのか。
 そんなことを冗談を交えながら、聞いていく。
 ツヴァイト閣下は聞き上手であり、話の誘導が上手だった。聞きたいことをひたすらその話術で聞き出していくのを聞いていると、コミュ強恐ろしい……と震えてしまう。ツヴァイト閣下に隠し事をするのはすごく難しい気がする。でもそれを言ったら、兄様にもブルーノ君にも、ミラ妃殿下とかヴォルフラム陛下、果てはアドリアン君だってすぐに隠し事があることを暴いてしまう。
 実は乙女ゲームの攻略対象者ってめちゃくちゃハイスペック……? 知ってた。顔だけじゃないって。もし顔だけゲームだったら流石にあそこまでハマらなかった。きっかけは最推しのご尊顔だったけれど。
 ストーリーはごくありふれた、と言っていいのか、国の救済ストーリーだったけれど、それが出来る高スペックな魔力とご尊顔、そして頭脳と家柄。性格は今現在彼のゲームと同じ人は誰一人いないので割愛する。
 四人が根掘り葉掘り学園のことを搾り取られている間中、ブルーノ君達は控え室から戻ってこなかった。

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