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アルバの高等学園編

最後の課題は

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 解答用紙にパーフェクトと書き入れてもらい、俺たちは『自主学習教室』を後にした。
 残るは一つ。『特別教室棟』。
 時間はまだまだ余裕がある。
 最初に通った道とは違う、授業の時に使う渡り廊下を進んで、俺たちは特別教室棟に向かった。
 中に入ると、一階の入り口から程近い場所に『受付→』という札が立っている。
 そこには今まですれ違ったことのない班が二組ほど並んでいた。ここに来て渋滞が起きているみたいだった。なるほど。一班ずつ課題をこなす場所か。

「僕たちも並びましょうか」

 皆を促して、一番後ろについた。

「アルバ様……お、お先にどうぞ」

 後ろについた瞬間、前に並んでいた班の代表にいきなりそう言われて場所を空けられた。その人は中等学園の最終学年で同じクラスだった人で、アンディと一緒に行動しているわけじゃなかったけれど、見て見ぬ振りをしていた生徒だった。名は、知らない。

「いいえ。こういうのは来た順に並ぶのが普通だと思うので、先にどうぞ」
「ご遠慮なさらず、前へ……体調の方は、どうですか……?」

 気まずそうな顔をしながら、チラチラと俺を見るその動きは、おれにビビっているようにしか見えなかった。どう考えても周りから悪印象しか受けないと思うんだけれど。やめてほしい。せっかく楽しく行事に参加していたのに。

「次の班どうぞ」

 中から呼ばれて、俺たちのやりとりを見ていた先の班のメンバーが顔を見合わせる。

「僕たちも避けた方がいいのかな……」

 俺たちの前の班が避けちゃったから、その先の班も足止めされちゃったみたいだった。

「いいえ、呼ばれているのでどうぞお先に」

 務めて笑顔を浮かべて、俺はその班を促す。ここでじゃあありがたく、なんて先に入っちゃったら絶対にまた中等学園の時と同じような噂が立ちそうだからここは譲れない。

「でも」
「でもじゃありません。僕たちは後から来たので、待つのが道理ですから。遠慮なさらず先にどうぞ」

 譲られる方が迷惑です。さっさと入って下さい。
 そんな思いを込めながら、もう一度促すと、誰も入ってこないことを不審に思ったのか、ドアが開いて中から上級生が顔を出した。

「どうしたんです? 揉め事?」

 そう訊かれて、俺がはっきりと首を振る。

「違います。ただちょっとご挨拶をしていて遅くなってしまいました。さ、どうぞ入って下さい」

 代表の二人は俺の言葉に反論できなかったらしく、こっちを気にしながら上級生と共に中に消えていった。
 ホッと一息吐いて、後ろを振り返る。

「迷惑を掛けてごめんなさい」

 小さく頭を下げると、四人ともブンブンと顔を横に振った。

「迷惑だなんて! なんの問題もないっす!」
「ええ。それに同学年の生徒に場を譲られるほど切羽詰まってもおりませんわ」
「僕たちが後から来たんですしね」
「大丈夫です」

 皆がにこやかに、けれど俺の意を汲んでくれて、後ろ側を死守してくれたので、ついつい顔が緩んでしまう。

「よかった。お気遣いありがとうございます。でも僕たちも同じ学年で学ぶ生徒同士です。こういう行事で僕を優先することはありません。きちんと誠心誠意全力を出すライバルでいてほしいので、このような気遣いは今後無用です」

 譲ると言い出した班の代表にそう言って頭を下げると、その人はさらにばつが悪そうな顔になって、こちらこそすいませんと頭を下げた。
 


 前の班も大人しく順番通りに部屋に入り、ようやく俺たちの班が呼ばれた。
 待ち時間にして十数分ほどだったけれど、皆と雑談が出来てとても楽しかった。話題はめっきり昼の豪華ランチのことだったけれど。
 中に入ると、本来この教室にある机と椅子はなくなっており、サロンにあるようなテーブルとソファが二組設置されていた。
 一つのテーブルには六人着くことが出来るようになっており、上級生がそこに案内してくれた。

「ようこそ特別教室棟へ。まずはお飲み物を」

 俺たちがわけもわからずソファに座った瞬間、淹れたての紅茶が目の前に出された。同じティーポットから、目の前に座った上級生のカップにも紅茶が注がれる。
 俺のテーブルには俺とセピア嬢とアーチー君、隣のテーブルにはランド君とフレッド君がついた。そしてどっちのテーブルにも上級生が二人ずつ座った。
 困惑していると、目の前のテーブルに次々可愛らしいお菓子が運ばれて来た。

「ここでは私たちと交流して貰います。点数は一応つけないといけないとのことですが、無粋ですので、私たちと楽しくお茶会をしてくれた生徒は皆満点、ということでよろしくお願いします」
「交流……ですか?」
「はい。実はこのレクリエーションは、担当した者たちで好きな課題を出していいのです。私たちは下級生を課題で苦しめるより一緒に短くも楽しい時間を作りたくて、このような形にしました。一緒にお茶をしましょう。そして今年から初の試み、市井の者の入学、とのこと、私たちもとても興味があります。お話を聞かせて欲しいです」

 どうぞ、と薦めながらも、上級生の一人が真っ先にカップを手にして、紅茶を口にする。もしかしてあれは毒味のような物なのかな。
 お菓子も有名どころのをそろえていたらしく、見たことのあるようなものが並んでいた。これは、ランチ後すぐにこっちに来なくてよかったと言わざるを得ない。すぐにこっちに来てたらお腹に余裕がなくて、上級生とのお茶会で何も食べられないところだった。
 ランド君なんて自分の持ってきた物と注文ランチ両方ペロリと食べたから、どれだけお腹に余裕があるのかわからない。食べないっていうのは失礼になるんだよね。
 そこからは、学園の年間行事の話、授業の裏話、自分たちが新入生だったときのレクリエーションの話など、とても楽しい時間を過ごした。時間にして本当に少しの間だったけれど、大満足の課題だった。
 紅茶も美味しく、摘まんだお菓子も美味しかった。時間が短いから食べられたのが一つでも全然失礼じゃないらしく、とても和やかな課題となった。

「私たちの担当箇所は君たちで最後のようですね。とても有意義な時間を過ごさせて貰いました。というかとても話が楽しくて、他の班よりもさらに長い時間を拘束してしまい申し訳ありませんでした」
「出来るならもっと沢山お話を聞いていたかったです。とても楽しい時間をありがとうございました」

 代表で俺が頭を下げると、では解答用紙を出して下さいと言われて、本当にこれが課題だったんだと笑いがこみ上げた。

「他の皆はとても捻ったお題が多かったようですので、ここくらいは息抜きして欲しいと思いまして。といいつつ、この説明をした瞬間時間の無駄だと席を立った班には点数減点して差し上げたんですけれどね」

 パーフェクトの文字を書きながら、上級生がぶっちゃける。苦笑して誤魔化した俺は、解答用紙を返してもらうともう一度お礼を言って部屋を後にした。フレッド君なんかは先輩達に市井の話をせがまれてひたすら喋らされたらしい。お礼にと残っていたお菓子を包んでお土産として貰って困惑していた。俺達のテーブルは主に上級生が話をしていたからひたすら楽しいだけだった。
 


「最後の課題は拍子抜けでしたね」

 講堂に向かいながら、ランド君がニコニコとそんなことを言った。
 たしかにね。ただ交流のためにお茶をする。それを考えた上級生はとても優雅な人なのかもしれない。
 そんなことを思っていたら、セピア嬢が真顔で「いいえ」と首を横に振った。

「あのお茶会はそんな気楽なものではなかったと思いますわ」
「どういうことですか?」

 アーチー君もセピア嬢の言っていることがわからなかったらしく、首を傾げる。

「だって、こういうスピードが勝負の鍵、という時に、一組ずつ部屋に招待してお茶会。それも上級生が満足して初めて終わりの合図がでるわけでしょう? 最初の方に向かった班は、その待ち時間がとても長く感じるでしょうし、長く待った後に課題はない、お茶を飲もう、なんて言われたら、さっきの上級生が言っていたように、時間の無駄だと考えてぐっとお茶を飲んでさっさと席を立ってしまう方もいらっしゃると思うの」
「まあ、確かに」

 さっさと席を立った班の点数は下げたって言ってたしね。まあでも、お茶に呼ばれて相手もせずに席を立つのは普通に考えても失礼だよね。それが新入生歓迎の課題だとしても。

「私たちは気持ちに余裕があったので楽しめましたけれど、きっと半分くらいの班は楽しめなかったと思いますの」
「確かに! 流石セピア嬢、思慮深い。やっぱり今日のMVPはセピア嬢で決まりだとおもうんですが」

 思わず拍手をしてしまうと、セピア嬢は「そういう冗談はよして下さい」と顔を背けた。耳が赤くなっていたのは見なかったことにしよう。
 ああ、でもセピア嬢が言うように、そう考えると難しい課題なのかもしれない終わりの時間は上級生が決めるわけだし。

「僕は楽しかったですけどね」
「あ、俺も楽しかったです。ずっと答えさせられてるフレッド君は大変だっただろうけど」

 なーとランド君に同意を求められて、フレッド君は真面目な顔で「いいえ」と首を振った。

「あの先輩は、僕を慮って話題を振ってくれました。答えにくい質問が一つもなかったです。そして答えるたびにありがとうとお菓子を積み上げてくれたので、ちょっとお腹が苦しいです。こんなにお腹が苦しくなるのなんて、初めてです」

 そっと自分の腹を撫でると、フレッド君は困ったように笑った。
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