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アルバの高等学園編

もうボッチじゃないよ

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「待って、まって……っ、想像するだけで絵面が……っ!」

 笑いの合間に呟かれたセドリック君の震えた声に、周りの生徒たちも一斉に噴き出す。
 え、今の笑えるところ? 確かに今の身長で兄様を姫抱きしたら絵面的にはちょっと……って感じだけれど。
 溜息を呑み込んでいると、今の一言で皆の緊張も取れたらしく、ようやく和やかな雰囲気になった。セドリック君はソファの上で腹を抱えて震えているけれど。放置してランチ食べよう。
 市井組も笑顔で料理に手を伸ばし、皆がのびのびとくつろいだ。

 午後は、レクリエーションの開始時間は決まっているんだけれど、新入生達はいつから再開してもいいことになっている。ランチ時間を早めてさっさと課題を終わらせてしまってもいいし、ちょっとゆっくりして他の班と被らないように動いてもいい。夕方の終了時間までに回りきれなくても点数が引かれるだけだから、特に問題はないみたい。上位を目指す班にとっては時間は有限だろうけれど。
 セドリック君達の班は俺たちと同じ五カ所制覇、ジュール君はまだ四カ所らしい。
 二人ともクラブ棟で苦戦したんだそうだ。
 解答用紙を見せて貰ったら、セドリック君はゼロ点、ジュール君は五十点だった。

「……どうしてアルバの班はパーフェクトなんだ……」
「秘密です」

 呆然と呟くセドリック君に、俺たちは顔を見合わせて笑い合った。あの課題は大変だったからね。演出はすごく楽しかったけれど。

「さ、午後も頑張ろう皆。ゆっくりゆったりなくせに僕たちと同じ数課題をこなして、しかもパーフェクトが並ぶアルバたちには負けないようにしないとな!」
「セドリック様、すでにだいぶ負けてますよ。もう気楽に行きません?」

 セドリック君の班の生徒がそんなことを言い始めて、余計にセドリック君の勝負魂に火を付けた。
 ランチ解散後すぐにセドリック班はだーっとサロンを飛び出して行き、ジュール君達もそのあとを追うようにサロンを後にした。
 俺たちの班は幾分ゆっくりと片付けをして、ようやく午後の行動を開始した。それもこれも、俺が食べるのが遅いからなんだけど。足引っ張りまくりだよ。ごめんね。休憩終了まではまだ時間はあるんだけどね。

 
 俺たちだけになったサロンで、俺はランチボックスをしまったあと、最初にもらった学園地図を開いた。
 残りの課題は『特別教室棟』と『図書室』と『自主学習教室』の三カ所。
 図書室と自主学習教室は、最初に他の班が詰めかけたからもうガラガラだと思う。ただ、特別教室棟はさっきまでいた鍛錬所に近い場所に建っていて、残り二つは通常の校舎内にあるんだよね。

「どっちから行ったらいいかなあ」

 唸りながら地図を覗くと、皆も覗き込んだ。

「私は先に図書室に行ったらいいと思いますわ。だって皆そろそろ特別教室棟に向かっていると思われますから。他の班と重なると待ち時間も発生するし効率も悪く、いらぬ敵愾心を産んでしまいそうですし。特にあの鍛錬所で会った班とは一緒になりたくないですわ……」
「あーそっすね。俺もやだ。俺の家格だと確実に下に見られるんで距離を置きたいです。アルバ様は家格で人を見ないし穏やかなので、俺この班で良かったなってマジで思いました」

 ランド君がしみじみと呟く。
 ほんとにね。俺もこのメンバーが同じ班でよかった。すごく楽しいもの。

「ランド君ありがとうございます。買いかぶりすぎな気もしますけど嬉しいです」

 テレッと笑うと、セピア嬢が頬を押さえて天を仰いだ。

「アルバ様、お顔がお可愛らしすぎてその笑顔は反則ですわ」
「え、か、可愛い? あれ、セピア嬢はあのクラブ棟の先ぱ……」

 可愛いなんてそんな言われ慣れていない言葉に動転して、先輩の顔が好みでは? と言おうとした瞬間「わーーー!」と乙女にあるまじき声を上げてセピア嬢が地図を俺の顔に押しつけた。

「いくらアルバ様でも言っていいことと悪いことがありましてよ!」

 プリプリ怒るセピア嬢にこれ以上は揶揄ってはいけない雰囲気を感じた俺は、話題転換を試みた。

「では、まず校舎に向かって図書室から自主学習教室、そして特別教室棟にいってからゴールの講堂、という道順でいいですか?」

 俺の言葉に、皆一斉に返事をした。



 空になったランチボックスを部屋にいたスタッフに頼んで、俺たちもサロンをあとにする。
 食堂近くは通らないからか、移動中他の班に会うことはなかった。
 きっともう皆違う場所に行ってるんだろうなあ。

「それにしてもサロンのランチめちゃくちゃ美味かった……」

 歩きながらランド君がとても満足そうに呟く。アーチー君とフレッド君も同意して、同じように満足そうな顔になった。

「私も頼めばよかったかしら……私の家格ではあの部屋を予約できないから……」
「ああ、侯爵家以上限定ですもんね……僕ももう行くことはない気がしますけど。豪華でしたね。あの調度品を壊したら弁償できる家ということなのかなってちょっと思っちゃいました」

 三人の満足そうな様子を見て、セピア嬢も少しだけ残念そうな顔になっていた。確かに豪華な食事だったね。高級レストラン並みだった。学生でアレを注文する人がいるとか、その方が驚きだよ。
 とはいえ、セドリック君はなんの気負いもなくあの部屋を予約してランチを注文していたけれど。家格の差ってこういうときにわかるよね。俺には無理。

 そんな雑談をしている間に、図書室についた。
 高等学園の図書室は、中等学園よりもさらに蔵書が多かった。
 今日はレクリエーション以外では使えないようになっているらしく、普段使いの生徒は見当たらなかった。
 課題受付は貸し出し用のカウンターで行われるらしい。上級生達がこっちだと声を掛けてくれた。
 貸し出し口は二カ所。ってことは受付も二班ずつだったのかな。これは混むわけだ。

「お疲れ様です。お待ちしてました。こちらで受付をお願いします」
「はい」

 代表で俺がカウンターに行くと、トランプのようなカードを五枚目の前に掲げられた。

「ここから一枚ひいてください。そこに書かれている蔵書をここまで持ってきたら課題クリアとなります。質問は受け付けますが、一つ質問をするごとに点数は下がります」
「はい」
「たくさんの班がいる場合はその質問を他の班が聞いていて質問の共有も出来たんですけど、一班だけなので……頑張ってくださいね」

 上級生が残念そうな顔で教えてくれたけれど、もしかして全班が集まるのを見越してそんなルールを作ったのかもしれない。
 そっと上級生の手からカードを一枚引くと、裏側には『グランドドラゴンの生態と素材活用術』と書かれていた。見たこともない本だった。けど、何やら面白そう。
 俺は早速皆にカードを見せた。

「これは魔物系でしょうか、それとも生産系の関連の蔵書でしょうか」
「生態というからには魔物系の場所かしら……?」
「図鑑とは違うんですかね?」
「素材活用術……読んでみたいですね」

 うんうん唸っていると、アーチー君がスッと立ち上がって、「僕知ってます。待っていてください」と本棚の方に歩いて行ってしまった。

「アーチー君、足取りが迷いないですよね」
「本当に知っているみたいですわね」
「すっげえ。俺、本自体数えるくらいしか読んだことないです」
「ランド様は剣が素晴らしかったですからそちらで伸ばすのもいいと思います。それよりもすごいのはピンポイントで本を知っているアーチー様と、そんな本を引いてくるアルバ様です……」

 図書室だからとついつい声を潜めて会話をしていると、アーチー君が手に一冊の本を持って戻って来た。

「これ、僕読んだことがあるんですよ。アルバ様の魔物知識に感銘を受けて魔物図鑑を読み始めたら面白くて、それからこういう魔物系の本を読むのが趣味になってしまいまして。入学後は結構な頻度で図書室に通ってたんですよ。面白い本が沢山あるんですよ」

 はい、とテーブルに置かれたのは、確かに表紙に『グランドドラゴンの生態と素材活用術』と書かれていた。
 ペラリと適当にページをめくってみると、ドラゴンの鱗が活用できる武具や魔道具が描かれていた。

「わ、これはすごい。確かに面白いですね。今度借りて読もう」
「アルバ様も読んでいないっていうのが何やら不思議です」

 アーチー君が首を傾げた。俺、そんなに本の虫に見えたのかな。中等学園で本ばかり読んでたのは時間つぶしがメインだったんだけど。そこまで読んでるわけではないような。それにアーチー君は何やら俺をめちゃくちゃ過大評価している気がする。いつか幻滅されそうでちょっと怖いね。

「では、この本を提出しますね。もしかしてアーチー君は蔵書の場所なんかを把握してますか?」
「おおまかなところは把握しました。探すのが楽になるんですよ。今度一緒にここにきますか?」
「いいんですか? やった。頼もしいです」

 一緒に図書室とか、学生の醍醐味だよね。楽しそう。誘って貰えることがもう嬉しい俺は、今までどれだけボッチだったのかを改めて自覚してしまった。いいんだ。ちゃんと友達いるから。セドリック君とかジュール君とか……他に名前がほぼ出てこないのが悔しいけれども。
 心の中で血涙を流しながら、俺はアーチー君の探し出してくれた本を受付に持っていった。

「質問なしで本を見つけられるとは素晴らしいですね。課題クリアです。お疲れ様でした」

 解答用紙にまたもパーフェクトと書き入れて貰って、俺たちは図書室を後にした。
 次は『自主学習教室』。こっちはむしろ俺がリコル先生と共に魔術の勉強で使っている場所だった。
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