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アルバの高等学園編

魔術訓練所の課題

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 答案用紙を出して満点をもらった俺たちは、ニコニコしながら次に向かった。入ってきた入り口とは反対の方から出て、少し先に行ったところに建っている建物が次の目的地『魔術訓練所』だ。鍛錬所とさほど離れていない場所に位置しているここに行ってから特別教室棟、そして図書室と自主学習教室に行けば効率的に回れる感じだ。
 魔術訓練所は俺にとってなじみのない場所だった。中等学園にもあるけれど、魔術の授業で一緒に参加したことは一度もなかったから、どんな授業内容なのかもわからない。今年だって参加はできるけど、皆は応用の中、俺だけ基礎からだから、やっぱり別教室でリコル先生と個人授業になる。なんだかそのために高等学園に戻ってきたようなことを言っていたし。ありがたい。
 それに皆がガンガン魔法を打っているところを見たことがあるけれど、正直攻撃魔法がまったく使えない俺は絶対にあそこに入ることはできないと思う。
 秋の森の鍛錬は絶対に皆の足を引っ張るだろうから、今から申し訳ない。
 今回のチェックポイントになっている特別教室棟をぐるりと裏に回るように足を進め、魔術訓練所に辿り着く。
 魔法が飛んでも大丈夫なように、周りは壁で覆われていた。

「ここではどんな課題なんでしょうね」
「お昼時間がなくなる前に終わる課題だといいんですが」

 あともう少しでお昼時間になるからか、皆少しそわそわしている。お腹すくよね。俺も沢山歩いたからだいぶお腹すいた。
 ここで戻って食堂で何かを食べてもいいんだけど、多分昼どきってお昼に行きつつ課題をこなす生徒が多そうだから、今行くと待ち時間が絶対に長くなる気がするんだ。ちなみに俺はやっぱりランチボックスを持ってきているから、食堂はあまり関係ない。

「皆お昼は食堂ですか?」

 魔術訓練所に足を踏み入れる前にそう訊くと、皆今日は食堂を使わないようにランチを持ってきているみたいだった。

「だって事前情報で食堂があるってきいたら、昼食いっぱぐれそうだなって。家の人に頼んで持ってきました。いつもは食堂で山盛りたべるんですけどね」
「私はいつも仲良し数人でサロンをお借りしてます。小さな部屋ですけれど、お昼くらいは楽しく気楽に食べたくて」
「僕は食堂です。今日も食堂に行く予定だったんですけど、課題が食堂にあるって聞いて、どうしようかなって」
「僕は、他の皆といつも食堂を使ってました。ただ、今日は時間を合わせるのは難しいから昼一食くらいは抜いてもいいかと思ってました」

 フレッド君は昼抜き予定か。それはちょっと育ち盛りとしてよろしくない。
 皆がもしランチボックスもちだったら、さっき見つけた食堂から裏に行ったところで一緒に食べようかとおもったんだけど。
 購買は文具は売っていても食品は売ってないし、どうしようかなあ。

「とりあえずここの課題が終わったらお昼休憩にすることは決定ということでいいですか?」
「「「「はい」」」」

 皆の返事を聞いて、俺たちは魔術訓練所に足を踏み入れた。
 そこにはまたしてもセドリック君の班がいた。

「また会ったなアルバ。ここで何カ所目だ」
「五カ所目ですね。ここが終わったらお昼休憩にしようと思って」
「僕たちもだよ。もしタイミングが合えば、皆で一緒に食べないか? 今日は班ごとの行動だからと大きめのサロンを特別に予約していたんだ。三十人くらいは入るから、ここにジュールの班が合流しても大丈夫だぞ」

 セドリック君がそう言って胸を張ったので、思わずおおーと感嘆の声を上げてしまう。

「というか今日に限っては食堂に上級生達が行けなくて、いつものサロンを使えないだろうからって父の名を借りて強引に予約したんだ。侯爵以上の生徒だけが使える特別ルームだな。最初のところでジュールと一緒になったからそっちも誘っておいたよ」

 特別ルームというと、何かイベントがあるときに予約できる、普段は使えないサロンの最高級ルームだ。王族なんかはいつ使ってもいいらしいけれど、流石に普段使いする場所じゃないはず。
 その話を聞いて、フレッド君とルーツ君が揃って固まっていた。
 いきなり侯爵以上しか使えないっていうサロンを使えるとなると、確かに緊張するよね。
 と周りを見回したら、他のメンバーも緊張した面持ちをしていた。
 そんな皆の姿を見て、セドリック君が笑った。

「あそこは食事の注文も受け付けて貰えるから、ランチを持ってきていない人は注文するから安心してほしい。ルーツとフレッドは食堂を使用していただろ。他には」
「アーチー君は食堂だそうです」
「私とシア様はランチを持ってきていますわ」

 シア嬢はセピア嬢と並んでうんうん頷いている。
 セドリック君の班のメンバーも残りが食堂メンバーだったらしく、セドリック君は数を把握して「注文しておく」と頷いた。

「これが終わったら一緒に移動しよう。ジュールがどこまで進んでいるかはわからないけれど、場所は伝えてあるから」

 話がまとまったところで、俺たちは魔術訓練所の受付に向かった。
 


「ここでの課題は、アレです」

 上級生が指さしたところには、紐でつるされた封筒が六枚ぶら下がっていた。
 封筒がつるされていない紐もあるので、あれはもう他の班が手にしたってことでいいのかな。

「あそこに魔法で攻撃をして、紐を切って封筒を手に入れて貰います。その封筒の中に、課題が入っています。難易度は低いものから高いものまで。運と引き、そして魔法精度がためされます」

 なるほど。アレを落とすこと自体が課題じゃなくて、あそこに課題が入ってるんだ。
 ってことは……

「……僕にはやれることが何一つないということですね……! あの紐を落とす魔法は僕には使えません……!」

 がっくりと膝をつくと、横でセドリック君が笑いを堪えていた。

「大丈夫です。アルバ様は引き続き休んでいてください。むしろ課題を手にしてから是非活躍をお願いします」

 アーチー君に背中をそっと優しく撫でられて、俺は情けない顔で立ち上がった。
 むしろこの行事、俺が活躍できる場は殆どないんじゃないかな! 

「僕に任せてもらえませんか」

 フレッド君がスッと手を上げた。
 こういう場合風魔法とかが一番やりやすいんだけれど、闇魔法だとどんなのがあるんだろう。
 フレッド君は出来ないことをやるとは言わなそうだから、きっと自信があるんだろう。

「是非お願いします。どんな課題内容でも、皆で力を合わせればきっと出来ると思うので、好きなものをよろしくお願いします」
「ありがとうございます」

 フレッド君が指定された場所に足を進める。その時には、すでにセドリック君は自分の風魔法でスパンと紐を切って封筒を拾っていた。セドリック君が戻ってくると、上級生から「始め」と号令が掛かる。
 フレッド君が何やら詠唱すると、紐の辺りに黒い靄が立ち込め、その中でスパンと音がしたと思ったら、ヒラリと封筒が地面に落ちた。

「すごい。精度も抜群。どんな魔法なんだろう」

 思えば闇魔法って前王弟殿下とヴォルフラム陛下が使っている魔法しかみたことがない。
 攻撃魔法もあるのは知っていたけれど、あんな風に切れ味抜群な魔法は初めて見た。
 フレッド君は封筒を拾って、小走りで戻って来た。

「お疲れ様です。すごかったです。一発で紐を切れるなんて」
「あれは、高い木の上になった実を取るために覚えた魔法なんです」

 少しだけ照れたように、フレッド君が教えてくれた。そんな魔法もあったんだ。必要に駆られて覚えたのかな。

「それより、課題を確認してください。難しい課題だった場合はすみません……」

 フレッド君に封筒を渡されて、俺はそっとそれを開いた。
 中には一枚の紙が入っており、文字が書かれていた。

「ええと、『古い老朽化した館があります。ツタに覆われ、土台は傾いた状態です。これを修繕し住めるようにするために必要な魔法を五種類答えよ』だそうです」
「あちらでテーブルがあるので、移動しましょう」

 きちんと書き込みをするテーブルが用意されていたので、皆でそこに移動して、改めて課題に向かう。

「古い家を修繕か。アレかな、地魔法で土台をならす」
「ツタが絡んでいるということは、地魔法でツタを枯らしたり外したりしないといけませんわよね」
「老朽化しているならきっと廊下なんかもきしむんじゃないでしょうか。板を用意するために地魔法で伐採したり形を整えたりでしょうか」

 ランド君とセピア嬢とアーチー君が次々に意見を出してくれる。
 なる程修繕に地属性は有用すぎる。

「ありがとうございます。他には何かあるでしょうか」

 地属性の地ならしと植物系魔法と伐採時に使うカッター系。これは風でもいけるのかな。

「他には何かあるかしら? 五種類と言われても……私、館を修繕と言われましてもどのように修繕するのかよくわからないのですが」

 セピア嬢が首を傾げる。

「僕はよく壁の穴を塞ぐために地属性の人が魔法で柔らかく練った土をペタペタと貼り付けてました。乾くと土壁になるんです。ただ、そういう家は僕たちのような市井の家に限るので、館と言われるとさっぱりなのですが」

 なるほど。でも館と言うと、土壁じゃなくてきっと木製で壁には壁紙が貼ってあったりしそうだよね。
 俺は首を傾げながら、修繕修繕、と呟いた。
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