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アルバの高等学園編

楽しくて嬉しい

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 目が合った瞬間、その代表はにこりと笑った。

「アルバ様はいいですね。剣技がお得意じゃないから動かなくても文句を言われなくて」
「そうですね。僕がかかっていっても情報を貰えず日が暮れてしまいますね。班のメンバーには感謝しています。皆とても頼りになりますから」

 すごい嫌みが飛んで来たけれど、それは笑ってスルーした。
 確かに俺が剣技で挑んだら何年経っても情報は貰えないよ。わかりきってることをするわけないじゃないか。むしろ何してもいいって言われたんだから、他の方法を考えようよ。
 その言い方が可笑しくて、思わずクスリと笑ってしまう。

「きっとここは僕の出番はないです」

 堂々とそう言い返すと、タタタッと走ってくる足音が聞こえた。
 すぐ横に人の気配がしたと思うと、さらに二つ三つの駆け寄る足音が近付いてきた。
 あっという間に俺は皆の背中に隠されてしまった。

「アルバ様の活躍の場はここではありません。こういうところでないと僕たちの出番がないので、むしろじっとしていて欲しいくらいです」
「ほんとそれ。俺もここでしか活躍できそうもないですから。アルバ様は頭脳派なんですー」
「僕たちは情報を全て手に入れましたので、残りの情報入手頑張って下さい」
「ただ下をこき使うだけが上に立つもののすることではありませんわよ」

 皆が次々他班の代表に言葉を投げつける。
 的になった生徒は悔しそうに顔を歪めてから、そのまま先生の方に走っていってしまった。
 それを俺は、感動しながら見送っていた。だって、皆が優しい。こんな風に庇われたことが本当に嬉しくて、鼻の奥がツンとした。ぐっと奥歯を噛みしめて、そっと皆の背中に「ありがとうございます」と伝えた。



「アルバ様、課題用紙を出してください。答えを書きますから」

 アーチー君に急かされて、俺は手にしていた紙を渡した。すると本当に四人分の欄が埋まってしまった。
 驚いていると、どうやらフレッド君がレビナ先生の情報とリコル先生情報の確認、アーチー君がドナウド先生の情報をゲットしてきたらしい。

「フレッド君二人分の情報……」
「ではないです。アルバ様がリコル先生の情報をくれたんじゃないですか。それの確認をしただけなので、僕は一人分しか入手してませんよ」
「なる程」

 納得していると、ランド君が「あーーーー!」と声を上げた。

「ってことは、俺まだマルテ先生と決着ついてないのにもう決着つけなくていいってことですか!? 俺の見せ場が! 剣しかとりえないのに!」

 ぐぬぬ、と苦悩するランド君は、まだ手に模擬剣を持っている。

「じゃあ僕たちはランド君の剣技の見学ですね。リコル先生のいる辺りで見学しますね。頑張って下さい」

 最後までやりたいんだろうなあと思ってそう言うと、ランド君は驚いた様に目をまんまるにした。

「え、でも先に進まないとですよね……」
「僕ちょっと疲れちゃったので、リコル先生のところで休みたいなって思ったんですけど、ダメでしょうか。ランド君は休憩とはほど遠いでしょうけど。さっき何度も果敢に向かっていく姿は見ていて圧巻でした。もちろんもう満足だというのであれば先に進みますけれど」

 疲れたのは本当。ずっと歩き続けていたから。だけど、別にここで休まなくてももう少ししたら昼食の時間になる。
 でもランド君が先生との勝負の途中で俺を助けに来てくれたから、そして最後までやりたそうだったからの提案だった。
 ランド君はぐっと眉を寄せて、手にした模擬剣を見下ろすと、皆を見回した。

「行ってきてもいいですか? 質問はもういらないけど、俺が勝ったら一つ質問に答えてくれるって先生が言ってたんです。その質問、好物の質問じゃなくてもいいですよね。何がいいか考えててください」

 ニッと笑ったランド君は、俺たちが頷くとだっと走って行ってしまった。
 マルテ先生はむこうの班の人に勝負を挑まれても、まだこっちの勝負が付いていないとランド君を待っているみたいだった。

「お願いします!」
「よしこい!」

 模擬剣がぶつかる音が響く中、俺たちは邪魔にならないようにリコル先生の横に向かった。
 リコル先生と並ぶと、ニコッと微笑まれた。

「楽しんでいるようで何よりです。アルバ君の班はよくまとまっていますね」
「皆とても頼りになるんですよ。すごく助けられてます」

 先生との打ち合いを頑張っているランド君を視界に入れて、フフッと笑う。

「高等学園はとても楽しいですね。こんな風に学園を楽しめるのが嬉しいです」

 全て答えの入った課題の用紙を手にしながら俺がそういうと、リコル先生が俺の頭をそっと撫でた。中等学園生の時にたまにしてくれていたその仕草がホッとする。
 俺はそっと片手で胸元を押さえて、そういえばと務めて明るく声を上げた。

「僕先ほどナンパの仕方を知ってしまいました……! ああいう上級のテクニックって皆どうやって手に入るんでしょうか」
「ナンパ……ええと、それは使わない方がいいと思いますよ。オルシス君が悲しみますから」
「兄様が悲しむのであれば封印もやむなしです……! 兄様に使ってみてたまには新鮮な刺激をと思ったのですが」
「ああ……それなら、いいのかな……? いいですか、卒業するまでは決して二人きりの時にオルシス君をナンパしないようにしましょうね……? せめてブルーノ君のいる時にしましょうね」

 リコル先生に条件付きのナンパをオッケーしてっもらったので、俺は気合いを入れて返事をした。今夜兄様にあのテクニックを使ってみよう。少しはドキドキしてくれるかな。だって俺がされたら……
 想像してしまって顔を覆う。ダメだ。耐えられそうもない。天に、天に召されてしまう。
 ああああ……と悶えている横で、リコル先生がセピア嬢に「どのようなナンパ方法を知ったんですか?」と訊いて赤面させていたことを、アーチー君とフレッド君が生暖かい顔で見ていたのだった。



 汗だくのランド君が俺たちの元に来る頃には、もう一つの班はすでに違う場所に向かっていて、鍛錬所にはいなかった。

「すいません! 本気になっちゃって。でも最後先生から一本取りました!」

 にかっと笑うランド君はとても満足そうだった。俺たちも声の限り応援して、ランド君が先生の剣を弾いた時には盛大に湧いたし、その後顔を出した班の人達も一緒になってランド君をねぎらってくれた。

「勝った報酬に、マルテ先生にどんな質問をします? ……試験の剣技の得点方法、とか」
「それは僕が訊いてもなんの役にも立たないヤツですね。最低点数邁進中なので。でも皆はそれで点が高くなるならいいと思います」

 冗談でもなくそういうと、皆が声を出して笑った。冗談じゃないからね?

「まあ、実力で点を取りたいから違うのにします。フレッド君は質問したいこととかあるか? セピア嬢は? アーチー様は?」

 皆で顔をつきあわせて、うーんと唸る。特に訊くことがないよなぁと言い合っていると、すぐ近くにいたリコル先生がぽつりと呟いた。

「マルテ先生はオルシス君達の世代もここで剣技指導をしていましたよ」
「僕質問が出来ました」

 リコル先生の言葉を聞いた瞬間、俺ははい! と手を上げた。

「ランド君、質問がないのなら、僕に譲って貰ってもいいでしょうか」
「いいですよ。俺も特になかったですから」
「ありがとうございます!」

 俺はタタタっとマルテ先生に走り寄ると「質問があります」と声を掛けた。

「ランド君の質問権を僕が貰いました。訊いてもいいですか」
「何だ。答えに困るようなこと以外なら何でも答えるぞ」
「はい! 二年前に卒業した学年にオルシス兄様がいたのですが、授業中はどのような感じでしたか?」

 兄様の授業のことを少しでも教えて欲しい。ここでもクール『俺』兄様だったのか。先生から見て兄様の剣技はどうだったか。授業中の態度とか訊きたすぎる。
 ドキドキしながら先生を見上げると、先生はふむ、としっかりと髭を剃った顎を指で撫でた。

「オルシスか……あいつはすごかったな。柔の剣だったら最高峰にいた。力比べになると難しいが、そこまで持ち込ませない立ち会いの巧さがあった。今はヴォルフラム王太子殿下の側近をしているんだろう。もったいないと思ったな。良い騎士になれただろうに。でもそう言うと魔術の先生が嫌な顔をするんだよなあ。あいつは魔術も最高級だったから。愛想はなかったし、生意気だったけどな」
「生意気だったのですか……! 生意気な兄様見たかったなあ……! 先生方に絶賛される兄様すごい……! ありがとうございました! もう胸が一杯です……!」
「おう。君も無理せず頑張れよ」
「はい!」

 大満足で皆のところに戻ってくると、皆が何やら微笑ましく見ていた。

「本当にご兄弟仲良しですのね。アルバ様はお兄様に愛されていますものね。中等学園で仲良く登校してくるところをよく見かけましたわ」
「オルシス様はとても素晴らしい方ですよね。そしてアルバ様をとても可愛がっていましたね」

 セピア嬢とアーチー君の言葉に、ランド君が「知らなかった……」と呟き、そして一瞬後「あっ」と声を上げた。どうやら最終学年の学園氷点け事件を思い出したらしい。

「確かにあの規模の魔法を使えるなら、魔法の先生に絶賛されるのわかる気がします!」

 ぐっと拳を握ったランド君は、一人首を傾げているフレッド君にそっと「アルバ様のお兄さんは学園半分氷で覆えるくらい魔力が豊富なんだ」と教えた。教えるのそこ? 
 
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