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アルバの高等学園編
クラブ棟の課題
しおりを挟む階段を上っていると、上の方から降りてくる集団と出会った。
「よ、アルバ。どう、順調? 今まで見かけなかったからちょっと心配してたけど」
「セドリック君」
上から降りて来たのはセドリック君の班だった。
ちょうど上のクラブの課題を終わらせて次の場所に行く予定らしい。
「まだここで三つ目ですよ」
「えっ、ほんと? 僕たちの班ここで二つ目だぞ。最初に向かった図書室がかなり混んで時間が掛かったんだよ。皆その後自主学習教室に向かったから僕たちはせめて違う場所にと思ってここまで来たんだ」
「なる程。僕たちは最初食堂に行ったのでとてもゆったり出来ましたよ。しかも班の皆がとても優秀でめちゃくちゃ頼りになるんですよ!」
ニコニコと答えたら、セドリック君がフハッと笑った。
「楽しそうでよかったよ。メンバーによっては揉めてるところもあったからさ」
「そうそう、課題を押し付け合いしている姿はちょっと醜かったですね……」
セドリック君の班の生徒がやれやれとでも言うように肩を竦めた。
そんな班もあるんだね。うちは和やかで良かった。
「フレッド、どう、大丈夫か?」
「うん。よくして貰ってる」
「俺も、セドリック様は俺にやれって命令しないからこの班で良かった。最初はジュール様の班が良かったけど」
「アルバ様も優しいよ」
俺たちの後ろではフレッド君とルーツ君がこそこそと話している。丸聞こえだけど。
「アルバたちには負けられない。皆、次行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
セドリック君と同じようなノリで、皆が一斉に声を上げた。
そして階段を駆け下りていった。女生徒もいるけれど同じように気合いの入った顔をして遅れることなくついて行っているので大丈夫なんだろうと思う。
「シア様楽しそうですわね。良かったわ」
同じように見送っていたセピア嬢が笑いながら呟いた。どうやら友人だったらしい。
「僕にあのノリは難しいですけど、僕たちもおーってやりますか?」
皆を見回して訊いたら、皆が苦笑しながら首を横に振った。恥ずかしいらしい。
残りのクラブは『研究クラブ』と『馬術クラブ』の二つ。
途中にあったメモは『研究3』『馬術1-2』。右という指示メモもあったけれど、それはまあ見るだけで。今回の研究のメモは数字一つだけなのがまた唸らせる。
「この数字に当てはまるものがこのクラブ棟の回答になるんですわよね。数字が一つだと当てはまるものが沢山ありすぎて難しいですわよね」
「本当に。三番目なのか三つのなにかなのか三つ目の答えなのか……とりあえず行ってみよう」
ランド君も一緒に唸っていたけれど、すぐに諦めて階段をさっさと登り切ってしまった。
四階は右が馬術クラブ、左が研究クラブになっている。
とりあえずメモは右だったので右から行くことにした俺たちは、馬術クラブの部室のドアを叩いた。
「どうぞ」
声と共にドアが目の前で開く。
そこから見えた部室の中には、本物の馬がいた。
黒毛の大きな馬だった。大人しく、上級生たちに世話をしてもらっている。
「……ここで飼っているんですか?」
思わず飛び出した俺の言葉に、上級生は全員噴き出した。
ここには女性の上級生は一人もいなかった。皆が馬術用の衣装を身に着けている。
「ふは、いやいやいや、こんな建物の四階で馬を飼うなんてしないから」
「ミランダちゃんは今日の助っ人だから、階段を昇って貰ったんだよ。流石山をも駆け上がれる軍馬候補、階段なんてお手のものだったよ。乗ってる僕の方がちょっと怖かった」
「こいつビビってミランダに心配されてたんだよ。ククク、途中から明らかにスピード落ちたよな、ミランダしきりにお前の心配してるし」
なる程、今日のためにわざわざ来てくれたのか。
「撫でてもいいですか?」
うちの子よりちょっと小さいかな。兄様の黒毛の馬よりもほんの少しだけ色素が薄い気がする。
「怖くなければどうぞ。でも後ろには立たないで」
「はい。わぁ……女の子かな? 美人ですね」
ゆっくりと近付いて、首をそっと撫でる。すると、ミランダが俺の方に顔を寄せてくれた。睫毛がパサリと動く。
目が優しそう。乗ってる人の心配するのに軍馬なんて出来るのかな。
ひとしきり撫でさせてもらって、俺はそっと後ろに下がった。
「すいません、すごく綺麗な馬だったのでつい……」
「アルバ様は馬がお好きなんですね。前に乗りたいって言ってましたもんね」
アーチー君がニコニコしながら俺と交代で馬を撫で始めた。
そんなこと言ってたっけと首を捻っていると、上級生たちが紙を手に、俺たちの周りを囲んだ。
「今日はミランダちゃんとのふれあいを楽しんで貰おうと思ったんだけど、もうこれは合格かな。乗馬クラブは馬の世話、乗り方、競技、そして特訓までやるんだ。もし興味あるならぜひ顔を出して。初心者で馬に乗れない生徒も大歓迎。馬の可愛さから教えるから」
はい、と手渡された紙には、乗馬クラブの活動一覧が書かれていた。
『1、馬と親しむ 撫でる、またがる、歩かせる
2,乗馬を楽しむ 方向転換、早歩き、駆ける
3,技術を身に着ける 速く走る、飛ぶ、急回転』
こうやって段階的に馬に慣れるんだ。
ふむふむと読んでいると、上級生がミランダの背を撫でながら俺たちに声を掛けてくれた。
「他にもミランダちゃんとふれあいたい一年生いるかい?」
上級生に訊かれて、残りの三人は一斉にミランダちゃんに近付いた。
皆が楽しそうに撫でている。毛並みがすべすべしていてとても心地いいよね。
思わぬ癒やし効果に、顔が綻ぶ。この班には馬が苦手な人がいなくてよかった。それにしても建物の四階まで馬を連れてくるとか、上級生もすごいことを考えるよね。
ニコニコしながら乗馬クラブを後にして、俺たちは最後の研究クラブに向かった。
ノックをして中に入ると、ズラリと並んだテーブルには実験器具的なものが並び、部室の至る所に薬草と思われるものが干されていた。窓際にはズラリと鉢植えが並んでいる。陽が射し込んでいるからか、緑色が瑞々しく輝いている。
「ようこそ研究クラブへ。ここでは皆に簡単な調薬をしてもらいます」
「僕たちが各自横で手伝いますので、一人一人テーブルに着いて下さい」
上級生に案内されて、真ん中くらいのテーブル前に立つと、俺についた上級生が一枚の紙をテーブルに置いた。
「この紙に書かれたものを作ってもらいます。すぐ出来るので、楽しんでください」
「はい」
返事をしつつ紙を覗き込むと、「2,胃腸薬」と書かれていた。手順も絵付きで書かれていて、確かに簡単そうだった。
並んだ薬草や入れる素材も、すでに下処理されて並べられている。
全てのテーブルに並んでいるってことは、次々くる一年生全員にこれをやらせるってことかな。
「ランプに火を点けますね」
上級生が道具で火を点けてくれたので、早速紙に書かれたように順番に混ぜ合わせた。
くるくるガラスの棒でかきまぜると、沸騰したくらいでじわりと薬草の色がしみ出して全体に色が付いたので手を止める。
これを火傷しないように濾過して出来上がりらしい。下処理がすごかったからか、本当に簡単だった。
周りからも「出来た」という声が次々上がる。
すごいなあと上級生を見上げると、にこりと微笑まれてしまった。
「上手に出来ましたね。綺麗に出来上がりましたよ」
「下処理がすごく丁寧だったので、本当に簡単にできました。素晴らしいと思います」
「下処理の大切さがわかるあなたはこのクラブ向きです。ぜひ歓迎します」
まだほかほかする瓶を渡されて、ちょっとだけ感動しつつそれをまじまじ見る。
薄い緑色のその薬は青汁のようなおどろおどろしい色合いではなくて、飲みやすそうだった。
「今作った物は記念に差し上げます。使ってもいいですし、この学園の売店に限り売ることも出来ます。とはいえ、パン一つ分の値段にも満たないくらいですが。賞味期限は三日間です。それを過ぎたら捨てて下さいね。もしこれで興味を持ってこのクラブに来て貰えたら嬉しいです。ちなみに薬草学クラブと合同で活動する場合もあります」
俺たちがお礼を言う間にも、上級生たちはテキパキと俺たちが使った器具を洗い始め、次の生徒用に用意を始めている。まるでブルーノ君たちの研究所の所員のような動きだった。
廊下に出て、皆で紙を見せ合う。俺は『2』だったけれど、ランド君の作った「みず浄化薬」が『3』だった。
「とりあえずメモの言葉は集めたけれど、ここの課題は一体何なんでしょうね。クラブ紹介で終わった感がすごいです」
階段を降りながら首を捻る。全部のクラブ部室を回ったけれど、まだ回答欄は白紙だ。
「どこかでまとめの何かが貰えるんじゃないでしょうか」
「俺ちょっと下見てきます!」
ランド君が飛び出すように階段を駆け下りていった。
皆で苦笑してからランド君を追うようにほんの少しだけ降りる速さをあげると、下の方から「みんなー」というランド君の声が聞こえてきた。
「全部回った生徒用の順路がありました!」
階下からランド君の声が聞こえてきたので、急いで階段を降りる。
ランド君は一階にいたので合流すると、確かに横側に全てを回り終えた人はこちらと矢印があった。
「行きましょうか」
ちょうど俺たちが次に行くときに使おうとしていた出入り口付近だったので、そっちに足を進めると、角を曲がったところにテーブルが設置されていて、上級生が二人待っていた。
「お疲れ様です。クラブは楽しんで貰えましたか? では課題です。こちらを」
渡された一枚の紙には、クラブ名と何かを記入するところ、そして、最後に六個の四角い枠があった。
――――――――――――――――――――
『 クラブ棟課題
魔術クラブ 『 』
研究クラブ 『 』
薬草学クラブ『 』
図書クラブ 『 』
乗馬クラブ 『 』
剣術クラブ 『 』
□□□□□□ ヒント:頭を使って 』
―――――――――――――――――――――
どうやらこの四角枠に入った言葉が課題の回答らしい。
「あのメモで見つけた言葉を入れればいいってことですかね……」
「じゃあ入れてみましょうか」
皆がメモした紙を出してくれたので、見つけた分を入れてみる。「きめられて」「みず浄化薬」「達磨草」「おとずれ」「またがる」「つき」これで正しいかはわからないけれど、見つけてきた文字を書き入れた。
「頭を使うって……」
ここからまたひねりがあるんだろうか。
「あ、わかった気がする……」
俺が頭をフル回転させていると、じっと文字を書き込んだ紙を見ていたフレッド君がぽつりと溢した。
「これ、頭を使うってこの全ての文の最初の文字を使うと、文章が出来上がるのでは……?」
「『き、み、達、お、ま、つ』? ああ、『きみ達をまつ』だ!」
アーチー君がポンと手を叩く。
「え、それでいいんですの? もっと頭を使って内容を捻るとか……」
俺と同じようなことを考えたらしいセピア嬢が腑に落ちない顔をしている。頭を使うっていうヒント自体がひねくれてるよね。
「まあ、間違えても点数が低くなるだけなので、これで行ってみましょう」
フレッド君の答えを書き込み、上級生に出すと、二人に拍手を貰ってしまった。
「先ほどの班の生徒たちは『なんだこれ!』って騒いでました。こんなにストレートに解かれると、もっと捻らないとって思いますわね」
残念そうに上級生が回答欄にパーフェクトの文字を書き入れてくれた。
当たったらしい。
いやいや、これ以上捻られると答えられる生徒がでないんじゃないだろうか。だって結構大変だったし、セピア嬢が一つだけの質問をこれのことにしてくれなかったら多分このかっこ内すら埋められなかったから。
「前の生徒ってセドリック君たちかな。どんな答えだったのか気になりますね……」
ぽつりと本音をこぼすと、上級生も含めた皆が肩を揺らした。
「「私たちは皆様のクラブ参加をお待ちしております」」
上級生達に見送られながら、俺たちはクラブ棟を後にした。
次は横道を抜けて鍛錬所だ。
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