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アルバの高等学園編
第二の課題はメノウの森
しおりを挟む食堂を出た俺たちは、正規のルートである表の広い廊下に出ることなく、裏の勝手口のような場所から外に出た。
ここからまっすぐ狭い道なりに行けば、メノウの森の入り口の方に行けるはず。
茂みが多くて歩きにくいかと思われた裏道は、細いけれどちゃんと手入れされていて、生け垣に花まで咲いていた。人通りもなくて、散歩にちょうどいいのでは、と思うような道だった。
「こんな道があるのですね……」
「手入れがしっかりとなされていて、素敵な道ですね」
「足下の石畳もすごく歩きやすい」
皆この道が気に入ったらしい。俺も気に入った。
途中花壇に囲まれた東屋が設置されていたり、ベンチが置かれていたり、ここも生徒が来て大丈夫なようになっている。
「静かそうなので昼どきなどいいですね」
フレッド君も感心したように周りを確認している。
食堂がいづらい場合はこっちの方がいいよね。裏に抜けてくればここにつくわけだし。
「本当に。晴れた日なんかはそこら辺でランチをするのもいいですね」
今度セドリック君たちを誘ってみよう、とワクワクしながら先に進んでいく。
メノウの森の入り口までは、校舎内から行っても結構遠いんだけれど、何やらこの道はショートカットになるらしく、景色を見ながら歩いていたらそれほど経たずについてしまった。
前に来たこともある監視塔の前では上級生たちが待っていた。
立てられている旗は、食堂のものとはちょっと違っていた。やっぱりこれが場所をしめすマークみたいなものなんだろうな。
俺たちが近付いて行くと、上級生は大歓迎をしてくれた。
「ここって離れているから、こんなに早く来る生徒がいるとは思わなかったよ」
「課題はこちらです。向こうにテーブルを設置しているので、そこで大いに相談して記入してください。解答用紙にはこの課題の点数を書き込みますね」
小冊子のような束を渡されて、俺たちは示されたテーブルに向かった。
上級生のいるところの後ろには、箱に入った図鑑のようなものが山積みになっている。
アレは、魔物図鑑……? 同じような本がたくさんあった。
五人でテーブルに着いて、課題を開くと、そこには魔物の姿絵と、穴あきの説明があった。
説明を埋めろ、ということらしい。
これ、まんま攻略サイトの魔物図鑑だ。流石にイラストはデジタルで描いたものとは比べものにならないけれど、上手に特徴を捉えており、感嘆の声が上がる。この魔物の絵を描いた人に賞賛の声を送りたい……
感動していると、アーチー君が「わかる場所だけ書いてしまいますね」と筆を執り、穴あきに次々記入していった。
「アーチー君すごい……」
これくらいです、と渡された冊子は、八割方回答が書き入れられていた。
「すごくないですよ。中等学園の合同キャンプの時に、アルバ様がとても的確に魔物の弱点を教えてくださったので、それにとても感動して、同じように出来たらいいなと僕も魔物の勉強をしていたんです。アルバ様の知識には遠く及びませんが……」
照れ笑いでアーチー君が俺に対するハードルを上げてくれた。褒められるのは素直に嬉しいけれど、ここでそれを出されたらわからなかったときに上級生から辞書を借りづらくなるよね!
ドキドキしながら冊子をめくり、アーチー君の書き入れてくれた文字と一緒に読んでいく。
ざっと見る限り、この魔物はメノウの森の中に出てくる魔物だけだった。ホッと息を吐く。
なる程。ここでこの森の魔物を俺たちに教えてくれるのか。上級生たちって色々考えてるんだな。
空いてるところを全て書き入れながら、懐かしい、と目を細める。
こういう魔物データの確認、楽しいよね。これは最推しとの相性抜群とかこの魔物がレベルを上げやすいとか。色々調べたなあ。
なんて回想している間に、全て書き入れてしまった。
「あ……すいません。全部書いちゃった……本当は皆で相談したりわいわいしながら調べていくものなんですよね……」
そっとペンを置いて皆を見回すと、皆目をキラキラさせて俺を見ていた。
「アルバ様、本当にすごいですわ……流石座学だけで中等学園の上位に君臨していたお方ですわね」
セピア嬢が絶賛してくれた内容は、素直に喜べない内容で思わず苦笑する。剣がへっぽこってことでいいですよね。座学だけの男ですから。
「すごいです。まだ習っていない魔物学、図鑑も見ずにここまで理解してるなんて……」
フレッド君の視線が痛い。純粋にすごいって視線が伝えてくる。最初の無口無表情どうなったんだ。
「いやでも、まだ内容が当たっているのかはわかりませんから」
じゃあ、上級生方に提出しますね、と席を立つと、皆も一斉に席を立った。
「あ、図鑑使いますか?」
近付いたところで、上級生にそう声を掛けられた。
「記入し終えましたので、採点をよろしくお願いします」
首を横に振って冊子を渡すと、上級生はぽかんとした顔になって、冊子を受け取った。
ハッと我に返って、パラパラとめくっていく。
「ちょ、え、図鑑、貸し出してないよな。早くない?」
「ないよ。だって案内した瞬間向こうに座ったじゃん。え、でもこれ全部当たってる……!」
「なんで? まだ森だって入ってないだろ?」
「実習は半年後の訓練からだろ」
「そうだった。あーえー……コホン。全問正解です。答案用紙を出してください」
こそこそと話をしていた上級生たちは、ニコッと笑顔になって手を差し出した。横にいる上級生たちは一斉に拍手をし始める。
「はい、全問正解。二重丸! 記念に答えの入った冊子を全員にプレゼント。これでメノウの森の魔物を勉強して、怪我なく実習に臨んでください」
ささっと解答用紙の場所に点数を書き込むと、上級生たちは俺たちに今のと同じ冊子を全員分渡してくれた。もちろん問題が入っているものではなく、普通に最初から全て記入されており、そのままで読めるものだった。これは嬉しい。
「「「「「ありがとうございます」」」」」
皆で笑顔になって上級生にお礼をする。
ついでに、俺はそっと質問した。
「この絵を描かれた方は、どのような方でしょうか」
その声が聞こえたのか、図鑑の近くにいた小柄な上級生がスッと手を上げた。笑うとえくぼの出来る丸い顔の女生徒だった。
「私が描かせていただきました。何か間違いがありましたか?」
「いいえ! とても素晴らしい絵でしたので、一言感想を言いたくて。これからもぜひ頑張ってくださいと」
ついつい神絵師に会った時のノリで伝えると、その女生徒が驚いたような顔をしたのち、ふわっと笑った。
「ありがとうござます。魔物の絵を描いても気味悪いとかそういうことしか言われたことがなかったので、とても嬉しいです」
わかる。すっごくわかるその気持ち。最初にいいねをもらった時は、天にも昇る気持ちだった。
それから神絵を見れば賞賛を惜しまないことにしたんだよね。言われたら嬉しい。だったら、他の人だって嬉しいかもしれない。伝わると嬉しいし。そうやってオルシス様推し仲間を増やしたんだよ。
「では、僕たちは次に行きますね」
最後にもう一度お礼を言って、俺たちはメノウの森から校舎の方に向かった。
皆、もらった冊子を開いている。
「確かに、本物のように素晴らしい絵ですね……文や内容ばかりを見ていましたが」
「アルバ様目の付け所が違いますわ……リアルすぎて少し怖いですけれども、素晴らしいですわね」
内容を読んでいるのかと思ったら、皆が絵を見ていたみたいだった。すごいよねこの絵、ね!
共感を得てニコニコしながら、俺たちは今度はやっぱり通常通ってくる校舎に入らずに、クラブ棟の方に向かった。
他の班がすれ違わないからのびのび課題が出来て快適だね。
次こそは皆でわいわいと相談しながら課題しよう!
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