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アルバの高等学園編

レクリエーション開始!

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 レクリエーションの話が出てから数日後、正式に内容が発表された。
 ジュール君が聞いてきた内容は正しかったらしく、班ごとにチェックポイントの問題に取り組み、正確さと速さ、そして決断力などを総合して競うイベントとなった。
 勝ったからといって何かがあるわけではないけれど、問題が解けない、ゴールが出来ない状態になったら不名誉となるようなことを教師に言われて、ああこれは皆張り切るヤツだ、と遠い目をする。
 班は自由なわけではなくて、爵位があまり偏らないように調整されるらしい。と言う訳で、俺とセドリック君、ジュール君が同じ班になることはなくなった。
 え、俺が代表になるってこと? それはちょっと遠慮したいなあ。
 班わけはすでに行われた後で、正式発表のすぐ後に廊下に張り出された。
 レクリエーションは、十班にわけられていた。
 各班の代表者の名前に、俺とセドリック君とジュール君の名前が普通にある。後は中等学園総会で活躍した人達の名前がズラリ。俺場違いだよ。でもこうして見ると、この学年の上位貴族の子息ご令嬢ってそんなに多くないんだね。そもそもが一学年にそこまでの人数がいないんだけれども。
 公爵侯爵伯爵家の子息ご令嬢が十人程度。下位貴族の生徒がだいたい三十数人、そして市井の人が五人。全部で五十人弱くらいの人数なんだ。一班五人で、市井の生徒たちは一人一人別の班の所属になっている。
 俺の班には、医者志望のフレッド君が来た。
 他の名前を見ると、アーチー君の名前があって、すごくホッとした。友人の名前があると嬉しいよね。たった一日だけれど、せっかくの学園行事、気まずくなりたくなかったから中等学園Aクラスの人が一人もいなくてよかったと胸をなで下ろした。



 
「ああ、今年は僕たちと同じことをするんだね」
「そうなんです。班ごとに分かれてチェックポイントの問題を解いて早く正確に仲良くゴールした班の勝ちになるそうです」
「懐かしいなあ」

 夜に兄様と並んでホットミルクを飲みながら、レクリエーションの話を兄様に伝えた。
 俺が班長なんだよと口を尖らせると、兄様は目を細めて「大丈夫」と微笑んだ。

「アルバはちゃんと出来るよ。僕たちの司令塔でしょ」
「それは厄災の魔物のときだけじゃないですか」
「あそこであれだけの指示が出せる人が、この国に何人いるだろうね。僕にも無理だよ。ブルーノなら出来そうだけれど」

 采配をするアルバはとてもかっこよかったよと言われたら、頑張るしかないじゃないか。兄様にかっこいいって思われたい。

「ちなみに次の年はポイントを回るんじゃなくて、学園内の隠れ鬼をしたんだよ。一年が一斉に学園内に隠れて、それを上級生が見つけていくというやつ。それも面白かったなあ。三年生の時は、学園内の決められた場所を使った隠し物探し。多く見つけた班の勝ちっていうもの」 

 うわあ、そんなことをしたんだ。ちょっと楽しそうだな。

「隠れるのって、ご令嬢は大変じゃないですか?」
「そうでもなかったよ。むしろご令嬢の方が見つけるのが大変だったよ。とても細い場所に上手に入り込んだり、先生がたと取引をして準備室の奥の置物と並んで布を掛けて貰っていたり。時間が過ぎても見つからなかったのは女生徒の方が多かったよ」
「頭使わないとダメってことですね。先生の協力もありなのがすごい」
「救済措置でね。それを女生徒は逆手にとったんだよ」

 すごすぎる。そういうのも楽しそう。
 兄様は見つける方だったんだよね。隠れるとしたらどこに隠れるのか想像も付かない。
 ワクワクしながら兄様の高等学園時代の話を聞いた俺は、さらにレクリエーションへの期待を高めた。
 
   ◆◆◆

「では、学園の中を自分たちの目で見て、自分たちの足で歩いて、どのようなことがあるのかを自分たちで確認しながら、楽しんでください」

 学園長の挨拶に、皆が「はい!」と返事をする。
 学園長が講堂の壇上から降りると、上級生から袋が各班に一つ配られた。
 その袋に入っていたのは、チェックポイントの場所が記された学園内の見取り図と、出された課題の返答を書く用紙。それと人数分のメモ代わりの用紙とペン。そして、小さな魔石。
 『この魔石を効率よく使って課題を進めて下さい』と書かれた袋に人数分の魔石が入っていた。
 解散の声を聞き、他の班の生徒たちは一斉に講堂を出て行った。
 俺の班の生徒も早速動こうとしていたので、俺は四人に一声掛けて足を止めさせた。

「アルバ様、もう皆いっちゃいましたよ」

 アーチー君が講堂の入り口をチラチラ見ながら焦ったような顔になる。

「あんなに走ったらご令嬢が付いて行けなそうですよね……」

 男爵家のランド君が俺の隣にいる伯爵家のご令嬢セピア嬢を見下ろしながら眉を寄せている。

「こういうときは各人の状態もしっかりと把握し、全てをまとめきりながら課題をこなしていくのが一番高得点となると思いますの。早ければいいというものではないわ」

 そのセピア嬢はおっとりした表情でそんなことを言いながらランド君を見上げた。その身長差が頭一つ分くらいあるので、首が大変そうだ。俺も人のこと言えないけど。
 そして俺の班に組み込まれたフレッド君はじっと無言で俺たちの話を聞いていた。

「とりあえず、最初は打ち合わせかと思いまして。この場を借りて、どのルートで巡るかを考えようと思ってます」

 俺はとりあえず講堂の端の方にあるテーブルに移動すると、そこで皆の前に見取り図を開いた。
 それはアプリで見知った見取り図で、思わず懐かしいなと頬が緩む。

「チェックポイントは八個。四年前のポイントの場所とまったく同じようです。この広い学園の中で、すごくバラバラに設置されてます」

 皆が地図を覗き込む。
 本当に全てがバラバラで、これを今日中に終わらせるには課題に時間を掛けられないのでは、と思わせる。だって学園内広いんだもん。アプリの時みたいにタップで移動なんて出来ないから自分の足で動かないといけないんだ。

「きっと皆走り出したのは、まずここから一番近い図書室に向かったんだと推測されます。もしくは一番遠い場所から順に、と考えている方もいるかもしれません。だったら、まずは僕たちは、ここ、食堂からいきませんか? ちょうど中間地点ですし、人が少ないと課題もやりやすいかもしれません」

 俺が指さしたのは、学生棟の奥に位置する食堂。一番中途半端で、まず最初に行こうとは思わない場所。

「でも、それだとその後のルートに無駄が出ませんか?」

 ランド君の言葉に、皆が険しい顔になる。
 でもね、まず食堂に行ってから裏手に抜けて奥に進むと、メノウの森の入り口があるんだよ。校舎内から行く正規ルートは長い渡り廊下を歩かないといけないけれど、食堂から裏に行けばかなりのショートカットになるんだ。そしてメノウの森からクラブ棟を回って鍛錬所、その後特別教室棟に回ると、メインの校舎以外を全て一気に回れると思うんだ。もちろん、クラブ棟と特別教室棟の間にある校舎は通らず、裏にある鍛錬所に抜ける道を通ればこれもショートカットになるはず。
 説明をしつつ指で辿ると、皆が目をキラキラさせていた。

「アルバ様は高等学園のなかにお詳しいですね。お兄様にお聞きしたのですか?」
「いえ、中等学園の時に見学させていただいたときがあったんですよ。でも兄様からルートなどは聞いていないので、ずるではないはずです」

 ゲーム知識ですから。こういう裏ルートはツヴァイト閣下ルートの場合よく出ていたんだ。オルシス様ルートはほぼ正規ルートだったから、その違いを楽しんだこともあったんだ。

「メモ用紙やペンも支給されていますが、今のうちに渡しておきますね。途中なにがヒントになるかわからないので」
「アルバ様はオルシス様から課題内容などは、聞いていないですよね」

 ランド君の言葉に、俺は首を横に振った。

「課題を考えるのは今年の上級生方ですからね。では、行動開始しましょう」

 見取り図をしまい、俺たちは講堂に残っている先生たちに見送られながら、食堂を目指した。
 やっぱりその間フレッド君は口を開かなかった。

 
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