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アルバの高等学園編

お祝いは激レアアイテム

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 ツヴァイト閣下は、セネット公爵家でお祝いをするんだと意気揚々とセドリック君の馬車に乗り込んでいった。
 兄様も王宮に戻ることなく、俺たちの馬車に乗り込んでくる。
 ルーナも思わぬところで兄様に会えて嬉しかったのか、兄様の膝の上でご機嫌で、母に俺とルーナが同じ顔をしていると笑われてしまった。

「今日は私が花を飾るの! オルシス兄様の時は出来なかったから」

 ルーナは気合いを入れて一日メイドと化した。
 俺は制服を皆にしっかりとお披露目するために、制服で晩餐。勿論学園に着ていった制服からは別のものに着替えさせられたけれども。
 晩餐用の大きなテーブルは、ルーナによってとても可愛らしいテーブルに様変わりしていた。
 ピンクや紫の花で可愛らしく飾られたブーケが目に楽しく、横に立つ兄様をとても美しく引き立たせている。
 出て来た料理も、料理長が腕によりを掛けて作った美味しい物ばかりで、俺もいつもより沢山食べて大満足だった。
 義父と母からはお祝いとしてとても素晴らしい装飾の道具箱を貰い、中を開けるとそこには魔術陣を描くための特殊な紙とインクが沢山入っていた。

「素敵なプレゼントをありがとうございます。これで心置きなく練習して、在学中に魔術陣国家資格を取れるかもしれません」
 
 そうすれば学園在学中でも宮廷魔術陣研究室所属になって、堂々と兄様と王宮に行けるから。刻魔法で何かを見た時にこそこそとヴォルフラム陛下に報告に行くのではなく、魔術陣技師として堂々と。
 兄様がキリッと王宮で働く姿を見た過ぎる。あの白い詰襟風の制服を纏ってキリッと仕事をする兄様はきっとかっこよくて最高で最強に素敵すぎる。
 俺はどうしてもそれをこの目で見たくて、合法的に見るにはどうするか考えたんだ。最終案はやっぱり宮廷魔術陣技師になって堂々と通うことだよなと、贈られた道具箱を抱き締めて気合いを入れた。
 沢山祝ってもらって大満足で自室に帰って来た俺は、早速贈られた魔術陣用紙を取り出して、前に義父に貰った羽ペンを手にした。
 そしていざ描こう、としたところで、部屋をノックする音が聞こえて来た。

「はい」
 
 返事をすると、部屋のドアが開いて兄様が入って来た。既に着替えてラフな部屋着になっている。

「アルバ、改めて高等学園入学おめでとう」

 兄様は俺の近くまで来ると、そう囁いて両手を開いた。
 条件反射でその腕に吸い込まれるように抱き着いてしまう。薄着のシャツは少し扇情的で、兄様の胸筋の感触がもろに頬に感じて、心臓が跳ねた。
 アワアワしながら離れようとすると、腕に力を込められた抱き締められた。

「あ、ありがとうございます……」

 自分でも頬が茹で上がっているのが分かったので、顔を上げられないままお礼を呟く。
 
「僕からのお祝い、受け取ってくれる?」
「お祝いなら、先ほど……」

 いただきましたけど、という前に、兄様が何やら俺の首にネックレスのような物を付けてくれた。
 少し兄様から離れて首元を見ると、綺麗な銀の鎖に、紫色の何やら薄い綺麗な宝石のようなものが付けられている。
 魔力のようなものがそのネックレスから感じられて、俺は顔を上げた。
 これはもしや、とても高価な物じゃなかろうか。

「これ……」
「これはね、僕の魔力を込めたアクセサリ―。加工してもらったんだ」
「これって、竜の……っ」

 なんてことないように言う兄様の言葉に、俺は目を剥いた。
 見たことのあるこのシルエットは、本当に稀に攻略対象者から貰えると言われているアイテムで、一緒に何度も竜種を倒すとごくまれに発生するイベントでだけ貰えるアイテムだった。
 竜というと、魔物の中でも上位種に位置するとても強い魔物で、俺なんか鼻息で飛ばされてしまいそうなほど大きくて恐ろしい。アプリでも最後の方で幅を利かせていた魔物で、倒すのはだいぶ苦労した魔物だ。まあ、『厄災の魔物』よりは弱かったけれど。ごくごく稀にドロップする竜の鱗自体も自分でアクセサリー加工が出来て、魔力を回復することのできるアイテムになる優れもの。竜の鱗が欲しくて何度か攻略対象者と共に竜の居るダンジョンを周回した記憶が……
 自分でゲットした鱗は白いけれど、プレゼントされた場合の鱗は大抵相手のパーソナルカラーで、オルシス様の場合、その綺麗な瞳と同じ紫色……
 兄様の顔を見て、自分の首元に下げられたアクセサリーを見て、冷や汗がダラダラと出てくる。
 これ、竜の鱗だ。
 
「……お金じゃ買えない激レアアイテム……」

 ぐぅ、と変な声が出た気がする。
 ということは、兄様は竜種を倒しに行ったわけで。
 
「竜種を倒す兄様の激カッコいい雄姿を見逃した……だと……?」

 何度も一緒に行ってようやく貰えるものだというのに。俺は兄様と一緒に竜種なんて倒したことないけど。
 俺の呟きは兄様の耳にも聞こえたらしく、クスクスと笑うセクシーな声で俺は我に返った。

「あ、やっぱり竜の鱗だって気づいちゃうんだ。流石アルバだね。これはね、南の隣国からこの国に飛んできたハグレ竜だったんだけど、丁度南がきな臭いと視察に行っていてね。見つけたから狩って来たんだ。その時に鱗を拾ってね、あまりにも綺麗だったからアルバにあげようと思って」

 確かに綺麗だけれども。その屈託のない笑顔でハグレ竜を倒したのですかそうですか。絶対カッコいい一択でしょ。兄様最高過ぎる。見ることは出来なかったけれど、想像に難くない。既にその雄姿が脳裏に浮かぶ気がする。

「こんな素晴らしい物を僕が貰ってしまってもいいんですか?」
「むしろアルバに貰って欲しくてツヴァイト閣下に相談したら、魔力を溜めておく性質だから、僕の魔力を込めておけばアルバの魔力が減った時に助けになるって教えて貰ってね」

 兄様、ありがとうございます。
 大事に大事に使います。
 嬉しさのあまりつっかえつっかえお礼を言うと、俺は改めてその竜の鱗を両手で包み込んだ。
 嬉しすぎて昇天しそうだ。
 だって、これを貰えるっていうことは、好感度90%以上ってことだから。
 密かに魔石を交換して、義父も公認の婚約者兼義弟という立場ではあるけれど、こうして好感度が分かるアイテムを貰うっていうのは思った以上に嬉しくて。
 
「大事にします……!」

 目を潤ませて喜ぶ俺を、兄様はまるで女神のような笑顔で見守ってくれていた。
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