3 / 125
1巻
1-3
しおりを挟む
兄様の問いにどう答えていいかわからなくて俯くと、繋がれていた兄様の手にギュッと力が入った。
「説明が難しいなら、聞かない。それに地図があったら迷子にならないね」
俺の顔を覗き込んで、兄様が俺を安心させるようににこりと笑う。
う、うう、心が痛い。でもどう説明すればいいか本当にわからないんだ。
まだ黙っていると、兄様は地図に視線を移して、一点を指した。
「アルバが行きたいのは、ここだね。『新種の薬草発見場所』って書かれているところ」
「……あい」
「現在地は、どこらへんだろう。道はあるけれど、目印がないからいまいちわからないね。星が見えれば天星の出ている方向で進行方向だけはわかるのに」
兄様の呟きで、慌てて周りを見回した。
確かに、すぐ近くに道はあるし、見覚えのある光景ではあるけれど、どっちに向かえばいいかや、この道がゲーム内でのどの道に当たるかはまったくわからない。立て札も特にはなかったんだよな、この森。
森を攻略する場合は、スタート地点から森に突っ込んで行って、その道をひたすらたどればよかったけど、こんな中途半端な場所に出てきたらわからない。
太陽が規則的に東から西へ、っていう世界じゃないみたいだし。そこらへんあんまり勉強できてないから方角がさっぱりわからない。方向を一番的確に知ることが出来るのが、兄様の言う『天星』だ。必ず北の空にひと際明るい星が瞬いているから、そこから方角を推測できる。でもそれは夜じゃないとわからない。
詰んだ。
準備万端だと思っていたこの計画のあまりの杜撰さに頭痛がしてくる。
でも、出る前は「完璧!」なんて思ってたんだ。
もしかして俺、今、知識だけは持っていても、考える頭脳は五歳児そのものなのか……?
おやつに大好きな物が出ると嬉しくてウキウキするとか、嫌いな野菜が出るとどうしても手が伸びないとか。それをそっと食べてくれる兄様が女神様に見えるところとか、ああ、まんま五歳児。いや、五歳児じゃなくても兄様は女神様並みの存在だけれども。
ゲームではどうだっただろう。
記憶をたどってみるけれど、森の背景はどこまで行っても同じだったから、全然どうしていいかわからない。
無意識に兄様の手をギュッと握ると、兄様は俺の頭をそっと撫でた。
「うん、むやみに進むのもよくないね」
「はい……」
でも、ここで立ち止まっていても、時間がいたずらに過ぎていくだけだ。魔物の出る森の中でただ立ち止まっているだけというのは、それはそれでとても危ないだろう。
「兄様……」
兄様が魔物に襲われる想像をしてしまって、怖くなった。兄様にくっつくと、兄様が力強い笑顔を浮かべた。
「大丈夫。もうすぐ父上が来てくれるから、そうしたら相談しよう」
「えっ!?」
意外な言葉に、驚いて兄様を見上げた。するとさらに兄様は笑みを深めた。
「アルバ、目がまん丸になっているよ。さっき飛ばしたあの蝶は緊急時にしか使っちゃいけないんだ。それを飛ばしたんだからすぐ来てくれるはずだよ。その前に少しだけこの地図のこと教えてくれる?」
そ、そういえば義父に伝えるって言ってた⁉
「……僕、連れ帰られちゃう?」
「事情を説明すれば、父上もきっと協力してくれるよ」
「……でも、父様は、お仕事で忙しいから」
「でも、父上はアルバのことを放っておくような薄情な人ではないよ」
「兄様……」
「大丈夫。ねえ、それよりここに書いてある『きのうろにかくれているひとをたすける』って、どういうこと?」
きっと兄様は、俺をあえて不安にさせないようにしてくれているんだと思う。
俺と手を繋いだまま、兄様は笑顔で地図を覗き込んでいた。
おろおろとしながらも、俺は地図を一緒に見つめる。
同時に森で迷う不安、義父がやってきて俺を連れ戻すんじゃないかという不安、兄様に怪我をさせてしまうんじゃないかという不安が、今更ドッと押し寄せてくるけれど、兄様の笑顔はその不安をちょっとずつ溶かしてくれる。女神……
俺はそんな兄様の疑問に少しでも報いられるように、一生懸命記憶をたどる。
「それは、変異種の魔狼が出て、一年生が樹の洞に逃げ込んだところを助ける場所です」
「変異種の魔狼⁉ じゃあ、こっちの真ん中の道の『まものようわなはかい』っていうのは?」
「魔物が大量発生した際にセットされた罠の残骸がそこに残っているんです。それによって怪我した生徒を助けるために、氷魔法で罠を一斉に壊す場所です。ガキンガキンって。大迫力です」
「うわ……え、氷魔法……? 氷魔法は代々僕たちの血筋に現れる特殊属性だけれども……それってもしかして父上?」
「兄様です! すっごくカッコイイんです!」
「僕が……?」
アプリの戦闘シーンを思い出しながら説明していたら、最推しスチルが脳裏を過って思わず興奮したせいで見てきたような説明までしてしまった。
危ない危ない、と表情を取り繕っていると、兄様は何かを探るように俺を見下ろした。
「アルバは自分の属性を調べたことがないんだよね」
「はい。属性検査は、僕にとって命を削るものだと言われましたから」
「そうだよね。属性を調べる魔石は一度触れるととことんまで魔力を吸うから……」
その後も兄様は考え込むように地図を睨んでいたけれど、後ろから聞こえた俺たちを呼ぶ声に、ハッと顔を上げた。
「オルシス、アルバ!」
振り返ると、怒った顔つきの義父と数人の騎士たちが俺たちに向かって走り寄ってくるところだった。
「父様……」
義父はちょっと泥のついている俺と兄様の前に跪くと、両手で俺たちを抱き締めた。
いつも柔らかい表情を浮かべている義父の荒い呼吸と、どうしてこんなところに……という呟きにとんでもない心労をかけてしまったことを知る。
義父の腕の中で兄様と顔を見合わせて、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「ああ……いや、無事だからよかったが、二人きりでこんな森なんて遊びにしては遠出すぎないか?」
「「遊びじゃないです」」
義父の苦い声に、俺と兄様は同時にそう答えた。義父の表情が怪訝そうに歪む。
「遊びじゃないならどうして?」
「アルバの病を治すためです」
「新種の薬草を探すためです」
やっぱり同時に答えると、義父は混乱したように眉根を寄せた。
なんと言えばいいのかわからずおろおろしていると、兄様が手に持っていた森の地図を義父に見せた。
「父上、これを見てください」
「これは、この森の地図か……? 私の持っている森の地図と道が合致するがこれは……この字、アルバが書いたのか? いつ私の地図を見たんだい?」
「父様はこの森の地図を持っていたのですか! 借りた方が早かったのかな」
「アルバ、そもそも父上に借りるには最初から説明しないといけなかったから、ちょっと無理だったと思うよ」
「あ、そうですね。あ、いいえ、本物の地図は見たことないです。地図は僕が描きました」
義父の手にある地図らしき巻物を見つめて首を振る。
この森の地図って、普通だとどんな風に描かれているのかちょっと気になる。この世界では地図一枚がバカ高くて、手に入れるのはとても難しかったはずだ。
それにアプリ内の地図はゴージャスな感じに装飾がされていたけど、手書きでかなり見辛かった。木とかたくさん生い茂って描かれていたりして、地図にそれ必要か? と首を傾げたこともある。
俺の答えを聞いた義父が、兄様の手の中の地図をじっと見つめる。
「じゃあ、これは……ん? 『きのうろにかくれているひとをたすける』?」
俺の汚い字を解読しているようだ。幼児は手先がまだ思うように動かないから、文字も綺麗じゃないので許してほしい。
「『しんしゅのやくそうはっけんばしょ』……? こちらの道は『まものようわなはかい』……これを書いたのも全てアルバかい?」
「はい。地図を描いているとき、色々と楽しくなっちゃってたくさん書いちゃいました」
キリッと答えると、義父は俺の顔に視線を移した。腰を落としているので視線は同じだ。幼児に視線を合わせる人っていいよね。
ちょっぴり嬉しくて微笑むと、兄様が義父と俺の間に割り込んだ。
「父上、僕たちはこの『新種の薬草発見場所』に行きたいのです。ここで、アルバの病が治る薬草が手に入るかもしれないんです」
「……許可できない、と言ったら?」
「僕だけでも行きます。今はちょっと方向を見失っていますけど」
兄様がかっこよく宣言した。けれど、最後の一言がとても可愛くて尊かった。
かっこよく言うセリフじゃないのが余計に可愛い。
義父はそれを聞いて、一瞬眉根を寄せた。
「この地点へ向かうならあちらへ進むのが正解だ。でも、切り立った場所の近くを通るし、雨でぬかるむと地盤が緩んでいることもある。このチェックされた場所がまさにそこだ。こんな大人でも危ない場所に子供二人で行くのはどうかと思うよ。オルシス、君は年少であるアルバを諭す立場にあるんじゃないのか?」
少しだけ顔を険しくして義父が兄様を非難したので、俺は慌てて義父の袖を引いた。
兄様は俺を諭してくれたし、その上で俺の話を聞いて一緒に探すって言ってくれたんだ。
俺に巻き込まれただけなのに非難されるのは間違ってると思う。
「父様。これは、僕が一人で考えた計画で、兄様は僕に巻き込まれただけなのです。だから、兄様を怒らないでください。兄様はいつもいい子なのです。全面的に僕が悪いので、お家に帰ったら僕が罰を受けます。だからいかせてください」
行かせてください、というよりは生かしてほしい、というのが正しいかもしれない。
俺が生きられるチャンスが欲しい。あわよくばもう少しだけ兄様の成長を見守らせてほしい。
「僕はまだ、帰れません」
義父をまっすぐ見つめると、義父は少しだけ眉尻を下げて困ったような顔をした後、兄様の頭をグリグリと撫でてから、俺を抱き上げた。
「……じゃあ、父様をアルバの計画に交ぜてくれないかい? もちろん、お家に帰ったらアルバにはきついお説教が待っているからね」
「う……はい。でも兄様を叱るのはなしでお願いします」
「わかった。罰は君だけにあたえよう。では目的地はここだね。――全員地図に沿って目的地に進む。子供たち二人への危険を排除することを徹底せよ」
怖い内容を柔らかい声で告げてから、義父が後ろの兵士に号令をかける。厳しい声音は、俺を抱っこしていることで大分緩和されちゃってるけどいいのかな。
自分で歩くから、と義父に言っても、義父にここでアルバが倒れたら応急治療すら出来ないんだよ、と諭されてしまった。
ちなみに安い薬だけど発作の経口薬は持ってきたよ、と見せると、義父は破顔してアルバは賢いねと俺に頬擦りした。
それから俺たちは細い道を進んだ。
途中木が倒れていたり、草が生い茂りすぎて道がわからなくなりかけていたりする場所があったけど、しばらく歩いて、目的地付近までやってきた。
道の横は、義父が言っていた通り、地面が崩れて緩やかな崖になっている。その下には、渓谷が見えていて、ここが大分高い位置なのがわかる。
義父の腕の中から渓谷の方を見下ろすと、足元から冷たい何かが身体を駆け抜けた。
ここが、ゲーム内でオルシス様と主人公が落ちた場所だ、と直感する。
たっか。めっちゃ高いよここ。え、どうやってここから落ちて生きて帰れたの、兄様。
切実にそれを聞きたい。死ぬからこれ。
「さて、地図に示されていたのはここら辺だ。アルバの言う『新種の薬草』というものは、どうやって見つけるんだい?」
「あ、足を踏み外して下に落ちると、渓谷に落ちきる前に段差があって、そこから洞窟に入るとその中に生えているんですけど……諦めます。帰りましょう父様」
下を向いただけでゾクゾクと嫌な感覚が湧いてきて、勝手に身体が震える。
正直なところたどり着ける気がしない。
俺、もしかして高いところ苦手なのかな。今まで高いところと言ったら家の三階窓の景色程度しか見たことなかったからわからなかった。これからは二階より上の部屋で窓に寄るのはやめよう。
俺の言葉を聞いて、義父はふむ、と足を止めた。
「落ちるのはちょっと止めた方がいいね。中腹に洞窟か……ソレム、確認できるか?」
「はっ!」
義父の声に、騎士さんの一人がハッと敬礼して、崖のギリギリまで進んでいく。
落ちる、落ちるからあんまりそっちに行っちゃダメ!
自分じゃない人だとしても高い場所にいるのを見たくなくて、俺はたまらず義父の服にしがみ付いて顔を埋めた。
「高いところが怖いのかい?」
「こ、怖いです……人が崖に近付くのを見るのも怖い」
兄様に質問されて誤魔化す余裕もなく答えると、兄様の眉がギュッと寄せられた。
「そんなに怖いのに、一人で来ようとするなんて」
「僕もこんなに高いところが怖いとは思いませんでした……」
不甲斐ない思いで俯くと、義父がそっと僕の頭を撫でた。
「父様の騎士は強いから大丈夫だよ。怖いなら発作が起きないように、そのまま顔を埋めていなさい。大丈夫。何があっても父様がアルバを護るからね」
「僕はいいので、兄様を護ってほしいです……」
「言い換えよう。父様は強いから君もオルシスもしっかり護るよ。これでいいかい? 父様にとっては、オルシスも君も大事な父様の子なんだから」
血が繋がっていないのにここまでしてもらっていいんだろうか。このポンコツの俺に。
なんだかとても心強くて嬉しくて、目の奥がジンとした。思わず鼻を啜ると、義父の袖を握りしめる俺の手に、もう一つ手が重なった。
今世で一番安心できる、兄様の手だった。
それと同時に、高らかな声が聞こえる。
「ありました! 崖から少し下に足場となる岩棚があり、その奥に亀裂を見つけました!」
義父は「ほら言っただろう?」と言わんばかりの笑みを俺たちに向けてから、崖の下に視線を向ける。
「降りることは可能かい?」
「縄の準備がないので難しいかと」
「わかった。下がっていい」
義父は騎士を労うと、じゃあ行こうか、と兄様に手を差し出した。
待って。今騎士さんが難しいって言ってたよね。どうやって行くの。怖いんだけど!
心の中で悲鳴を上げて義父にしがみ付いたら、義父はそんな俺の様子にくすっと笑って、何かを詠唱した。
義父の手から氷が飛び出して固まっていく。
パキパキと音をさせて螺旋状に伸びていく氷は、まるでこの世のものとは思えないほどに綺麗だった。氷は崖の下まで伸びていき、見えなくなった。あっという間に出来上がった氷の階段を、義父は俺を抱いたまま優雅に進み始める。
氷の階段は、崖の岩棚まで続いていた。
「す、すごい……!」
下を見ると、渓谷が怖いけれど、階段はとても美しい。
しっかりと手摺まで付いていて、階段は下りやすいよう緩やかに丸くカーブを描いていた。こんなに繊細な氷の階段を作れるなんて義父すごい。
これ、本気で一人で来てたら詰んでたよ。兄様と義父には感謝しかない。
その言葉は感嘆と共に零れていたらしく、義父に小さくお礼を言われてしまった。独り言なんだからスルーしてほしい。
振り返ると、兄様も小さいながらにしっかりした足取りで氷の階段を下りていた。義父の肩越しに兄様を見ていたけれど、まるで氷の城の王子様のような兄様にノックアウト寸前だった。美しい物が似合いすぎる。
残念だったのは、服にちょっと汚れがついてしまっていることだけれど、そんな汚れを吹き飛ばすほどに最推しショタと氷のコラボレーションは眼福だった。
あまりの眩しさに両手で目を覆うと、義父に「怖いなら父様にしがみ付いていなさい」と見当違いの気遣いをされてしまった。もう下なんて見る余裕はないよ。最推しの一瞬一瞬が心に刻まれているので!
程なくして岩の裂け目に辿り着いた。
岩、崩れないよね。ここの奥から上に行く道があるはずなんだけど、暗くてよく見えない。
上を見ると、先程覗いたところから結構な距離があった。
ホント、最推しはどうやってここから落ちて致命傷を受けなかったんだろう。聞いてみたいけれど、答えてくれる人はいないのが残念だ。
「さて。中に入ってみようか。ダム、光を」
「はっ!」
義父が振り返ると、先程とは違う騎士が前に出て、手に光を掲げてくれる。
細い道だったけど、岩棚はある程度の広さがあるからもう怖くはなかった。
真っ暗で何も見えなかった亀裂の中がほんのり見えるようになると、奥に奥に洞窟は続いている。その中に目を走らせた騎士が義父を振り向く。
「魔物二体確認。排除します」
その言葉と共に、サッと二人の騎士が前に出て、裂け目の中に入っていく。何やら音がしたと思ったら、すぐに二人は帰ってきた。
「入り口の魔物、排除完了いたしました。私が前に立って道の確保をします」
「頼んだ」
ハッと敬礼した騎士とダムと呼ばれた騎士が前に立ち、進み始める。
「ほら、オルシス」
義父は俺を片手で抱くと、もう片手で兄様と手を繋いだ。おずおずと義父の手を握り返す兄様の照れ顔はいただきました! 今日は夢の中で照れ兄様を愛でることにします。
俺たちの後ろにも騎士が立ち、奥へ奥へと進む。
たまに先頭の騎士が走っていっては魔物を斃して帰ってくる。でも奥に消えてから帰ってくるまで、一分もかかっていない。どれだけ強いのあの騎士さん。
「すっご」「つっよ」と思わず呟いたら、義父が「ここにいる護衛は全員あれくらいは出来るよ」と教えてくれて、さらに俺を驚かせた。
しかも今は落盤の危険性を考えて剣しか使っていないけれど、魔法攻撃ならさらに強いらしい。
すごいなあ、と感激していたら、後ろの騎士が「主様の方が恥ずかしながら私どもよりお強いですよ」と教えてくれて、俺は思わずきらきらした目で義父を見てしまった。
やっぱり父様も兄様もすごい!
そんなこんなで順調に俺たち一行は奥に進んでいった。
広くなったりいきなり狭くなったりと、全然安定しない道を、義父は俺を抱いてこともなげに進んでいく。途中兄様がこけかけたのを片手で引き上げるという技まで見せて、義父がいる安心感の大きさに胸が熱くなったりもした。……兄様の可愛らしくも尊い転びかけた姿よりは、記憶領域の使用優先順位は落ちるけれども。
「……だいぶ深いな」
義父が呟くと同時に、前を歩んでいた騎士が目を瞠る。そして、振り返って敬礼をした。
「先に日光の射す場所があります。魔物の気配はないようです」
「わかった。行こう」
義父の返答に、騎士は短く「はっ」と答えた。
少しだけ歩む速度を上げて、さらに奥へと進む。
するとやがてパッと目の前が開けた。
「ここって……!」
思わず声が漏れてしまう。
そこは、別世界と言っていいほどに美しい場所だった。
天井の岩はわずかに割れていて、そこから陽の光が届くのか、辺り一面に緑が繁っていた。
「見慣れない木の実もあるようですね」
きょろきょろと辺りを見回した騎士の視線の先を見る。
すると開けた土地の中央には数本の木があり、その木に実が生っていた。
みずみずしそうな実はまるで、メロンのようで……っておかしい。メロンは木に生らないはず。この世界では木に生るのが当たり前なの?
でも薄緑色の球体に白い網目状の線が入っていて、どう見てもメロンだ。しかも大きさは、俺の頭くらいある。でっか。
というか……
「美味しそう」
その実からちょっと甘い匂いが漂っている。風は岩の裂け目の方に舞い上がっていくので、洞窟の方にこの匂いは届かなかったようだ。
「見たことのない木の実だ……」
義父の呟きに、やっぱりここでもメロンは木に生らないのか、とホッとする。そして気付く。この世界にはメロンはないのか、がっかりだ。
メロンもどきの果実は、見た感じ質量と重量が十分にありそうなのに、枝が重みで垂れ下がっているということはなく、一つ一つがしっかりと木に生っていた。
「アルバ、その……新種の薬草がどれかはわかるの?」
「あ」
遠慮がちに兄様に手を引かれて思い出した。
俺はラオネン病に効く薬草を探しに来たんだった。
薬草薬草、と辺りを見回すけれど、義父の見る限り新種のものは生えていないようだ。
あれ、どういうのが魔力を閉じ込める新種の薬草だっけ。
必死で記憶を掘り起こそうと、脳みそをフル回転させる。
確かゲームのスチルでは、崖下に落ちた最推しに少しだけ頬に傷がついていた。そして洞窟内部での一枚と、何かを見つけてほんの少しだけ目を見開いている感じの最推しを下からのアングルで写したのが一枚。
このスチルでは、最推しの手元は描かれていなかった。
その時のセリフは確か「これは、見たことがない物だね。調べてみようか」だったはず。
そこでその植物の鑑定をする流れになるんだけれど、鑑定をレベルマックスまで上げていると『魔力を吸収し取り込む植物。魔物が嫌がる成分が入っている』と表されて、トゥルーエンドに向かっていくきっかけになるんだ。
一つ思い出すとずるずると思い出が連なっていく。
鑑定レベルが低いまま進むと『なんらかの植物』としか出なくて、最推しの友人ルートに向かっていくから、あえて鑑定レベルは低くして進むことが多かった。
尊し、友人ルートの最推し。
――でも、植物?
ずっと、ラオネン病を治すとしたら、その植物は『薬草』だと思い込んでいたけど、ゲームでは、ハッキリと薬草と言ってなかった気がする。
「あの……薬草って地図に書いちゃったけど、新種の植物としかわかりません。でも、薬を作るなら薬草かなって思い込んでいて」
そう言いながら、ふと気が付いた。
もしかしたら、目の前にあるこの実がそうなのかもしれない。というかそれ関係なしにちょっと食べたい。メロン食べたい。メロン超好き……はっ、思考が今五歳児になっていた気がする。
慌てて義父を見上げると、義父は微笑んで頷いた。そして、俺の頭を撫でて、「一度帰ろう」と言う。
「父様?」
「やることが出来た。今は帰ろう。それも大急ぎでだ。あの実がもしかしたらアルバの命を助けるかもしれないんだろう?」
その言葉に俺が目を丸くする間に、兄様が割って入る。
「ここまで来て帰ってしまうのは……! ようやく新種らしきものを見つけたのに、あの実を採取しないのですか!?」
「そうだね。『新種の薬草』を探しに来て、本当に新種の『何か』が見つかったのは僥倖だ。でもね、オルシス。この木は父様も初めて見る。もし、この実を採ったことで実の成分が低下もしくは消滅したら? 実を持ち帰ったとして、本当は葉の方が正しい素材だったら? もしくは葉が木から離れた瞬間劣化してしまったら? ――色々考えると、今すぐにどうこうすることは出来ないんだ。でも、最善は尽くす」
ぐうの音も出ないほどの正論をかました義父は、ちょっとだけ悔しそうな兄様の手を繋ぎ直した。
「――あとはいいかい? じゃあ、帰ろうか」
義父はそう言うと、周りの騎士に帰るよう促した。騎士たちが敬礼と共に岩の裂け目を戻っていく。
あれ? 俺たちは? と思って瞬きした一瞬後にはお家の玄関ホールにいた。もしかして父様って魔術陣を使わなくても転移魔法使えるのかな。……まさかね。
「スウェン、今帰った」
「おかえりなさいませ旦那様。無事お二人が見つかってようございました」
俺たちがいきなり現れたにもかかわらず、老齢に差し掛かろうとする執事であるスウェンは頭を下げて俺たちをお出迎えしてくれた。
義父は俺をまず地面に下ろすと、彼に上着を渡してかすかに頷いた。
「オルシスがちゃんと情報をくれたからね。お手柄だ。時にスウェン、手配してほしい物がある」
「かしこまりました」
スウェンが深々と頭を下げる。
「よし。ではアルバとオルシスは早く休みなさいね」
義父の言葉に、今度はメイド長さんに抱き上げられた。
「アルバさまはまずはお体を綺麗にしなくてはいけませんね。オルシス様はご一緒になさいますか」
「はい。アルバと一緒に湯あみをします」
キリッと答える兄様の返答に、俺は固まった。
湯あみ。お風呂。それは、あれか。サービスシーンか。あれぇ、スチルではそんなサービスシーンなかったよ? 全年齢対象の健全なアプリゲームだったからね。
クリア後に手を繋ぐとかキスくらいはあった気がするけれど、最推しのルートではキスすらなかったからね。
真顔で「君と共に歩みたい」とか言われただけだからな! いやもうそのセリフだけでいいから言われてえぇぇって思ってたし、めっちゃ言われた時は幸せだったんだけど! だからキスがなくても大満足だったんだけど!
っていうかお風呂だよ!
兄様の裸を拝むとか、どんな無理ゲー⁉ 俺、出血多量で死ねる自信があるよ。
ようやく生きる希望が持てる気がしたのに、鼻血で死ぬとか笑い話にもならないんだけど!
そそそそんなことよりも俺の生きる希望、そのままにして帰ってきちゃったよ! 義父がなんとかしてくれるって言っていたけれど、その言葉をどこまで信用したら……! あああ。せめてメロン一つでも隠し持ってきてたらよかったのに……。あ、でも持っているカバンは小さくて、俺の頭大のメロンは入らなかったかも。
ってことは……!
「……服に、服に隠し持って帰ってくればよかったんだ……!」
「アルバ、あの実は大きいから服に隠しても一発でバレるよ……」
兄様の冷静なツッコミで、俺の考えがすべて声に出ていたことが判明した。
あまりの恥ずかしさに、湯あみはせずにもう寝ます、とメイド長さんに申告する。
もう何もする気力がない。疲れた。歩いていたのは義父であり、俺はずっとその腕の中だったけれども。精神的にね。疲れたんだよ。止めが兄様の「一緒にお風呂」発言だったけれども。
俺の申告を聞いたメイド長さんは、兄様にお風呂に行くよう指示して俺のことは寝室に連れて行ってくれた。
身体をお湯で拭われて、着替えをさせられる。そのままベッドに詰め込まれて、その間多分五分くらい。手馴れてるね。
……ちょっと一緒にお風呂したかった気もしないでもないけれど、俺はまだ死にたくないので、回避できたことにホッとして目を瞑った。
だってさ。小さくてもあれそれは反応しちゃうんだよ。そして兄様が目の前にすっぽんぽんで……そんな破廉恥な状態を兄様に見られたら、恥ずかしさじゃない何かで憤死できる。無理すぎる……
だからよかったのだ、うん。そう頷いて俺は温かなベッドに埋もれたのだった。
「説明が難しいなら、聞かない。それに地図があったら迷子にならないね」
俺の顔を覗き込んで、兄様が俺を安心させるようににこりと笑う。
う、うう、心が痛い。でもどう説明すればいいか本当にわからないんだ。
まだ黙っていると、兄様は地図に視線を移して、一点を指した。
「アルバが行きたいのは、ここだね。『新種の薬草発見場所』って書かれているところ」
「……あい」
「現在地は、どこらへんだろう。道はあるけれど、目印がないからいまいちわからないね。星が見えれば天星の出ている方向で進行方向だけはわかるのに」
兄様の呟きで、慌てて周りを見回した。
確かに、すぐ近くに道はあるし、見覚えのある光景ではあるけれど、どっちに向かえばいいかや、この道がゲーム内でのどの道に当たるかはまったくわからない。立て札も特にはなかったんだよな、この森。
森を攻略する場合は、スタート地点から森に突っ込んで行って、その道をひたすらたどればよかったけど、こんな中途半端な場所に出てきたらわからない。
太陽が規則的に東から西へ、っていう世界じゃないみたいだし。そこらへんあんまり勉強できてないから方角がさっぱりわからない。方向を一番的確に知ることが出来るのが、兄様の言う『天星』だ。必ず北の空にひと際明るい星が瞬いているから、そこから方角を推測できる。でもそれは夜じゃないとわからない。
詰んだ。
準備万端だと思っていたこの計画のあまりの杜撰さに頭痛がしてくる。
でも、出る前は「完璧!」なんて思ってたんだ。
もしかして俺、今、知識だけは持っていても、考える頭脳は五歳児そのものなのか……?
おやつに大好きな物が出ると嬉しくてウキウキするとか、嫌いな野菜が出るとどうしても手が伸びないとか。それをそっと食べてくれる兄様が女神様に見えるところとか、ああ、まんま五歳児。いや、五歳児じゃなくても兄様は女神様並みの存在だけれども。
ゲームではどうだっただろう。
記憶をたどってみるけれど、森の背景はどこまで行っても同じだったから、全然どうしていいかわからない。
無意識に兄様の手をギュッと握ると、兄様は俺の頭をそっと撫でた。
「うん、むやみに進むのもよくないね」
「はい……」
でも、ここで立ち止まっていても、時間がいたずらに過ぎていくだけだ。魔物の出る森の中でただ立ち止まっているだけというのは、それはそれでとても危ないだろう。
「兄様……」
兄様が魔物に襲われる想像をしてしまって、怖くなった。兄様にくっつくと、兄様が力強い笑顔を浮かべた。
「大丈夫。もうすぐ父上が来てくれるから、そうしたら相談しよう」
「えっ!?」
意外な言葉に、驚いて兄様を見上げた。するとさらに兄様は笑みを深めた。
「アルバ、目がまん丸になっているよ。さっき飛ばしたあの蝶は緊急時にしか使っちゃいけないんだ。それを飛ばしたんだからすぐ来てくれるはずだよ。その前に少しだけこの地図のこと教えてくれる?」
そ、そういえば義父に伝えるって言ってた⁉
「……僕、連れ帰られちゃう?」
「事情を説明すれば、父上もきっと協力してくれるよ」
「……でも、父様は、お仕事で忙しいから」
「でも、父上はアルバのことを放っておくような薄情な人ではないよ」
「兄様……」
「大丈夫。ねえ、それよりここに書いてある『きのうろにかくれているひとをたすける』って、どういうこと?」
きっと兄様は、俺をあえて不安にさせないようにしてくれているんだと思う。
俺と手を繋いだまま、兄様は笑顔で地図を覗き込んでいた。
おろおろとしながらも、俺は地図を一緒に見つめる。
同時に森で迷う不安、義父がやってきて俺を連れ戻すんじゃないかという不安、兄様に怪我をさせてしまうんじゃないかという不安が、今更ドッと押し寄せてくるけれど、兄様の笑顔はその不安をちょっとずつ溶かしてくれる。女神……
俺はそんな兄様の疑問に少しでも報いられるように、一生懸命記憶をたどる。
「それは、変異種の魔狼が出て、一年生が樹の洞に逃げ込んだところを助ける場所です」
「変異種の魔狼⁉ じゃあ、こっちの真ん中の道の『まものようわなはかい』っていうのは?」
「魔物が大量発生した際にセットされた罠の残骸がそこに残っているんです。それによって怪我した生徒を助けるために、氷魔法で罠を一斉に壊す場所です。ガキンガキンって。大迫力です」
「うわ……え、氷魔法……? 氷魔法は代々僕たちの血筋に現れる特殊属性だけれども……それってもしかして父上?」
「兄様です! すっごくカッコイイんです!」
「僕が……?」
アプリの戦闘シーンを思い出しながら説明していたら、最推しスチルが脳裏を過って思わず興奮したせいで見てきたような説明までしてしまった。
危ない危ない、と表情を取り繕っていると、兄様は何かを探るように俺を見下ろした。
「アルバは自分の属性を調べたことがないんだよね」
「はい。属性検査は、僕にとって命を削るものだと言われましたから」
「そうだよね。属性を調べる魔石は一度触れるととことんまで魔力を吸うから……」
その後も兄様は考え込むように地図を睨んでいたけれど、後ろから聞こえた俺たちを呼ぶ声に、ハッと顔を上げた。
「オルシス、アルバ!」
振り返ると、怒った顔つきの義父と数人の騎士たちが俺たちに向かって走り寄ってくるところだった。
「父様……」
義父はちょっと泥のついている俺と兄様の前に跪くと、両手で俺たちを抱き締めた。
いつも柔らかい表情を浮かべている義父の荒い呼吸と、どうしてこんなところに……という呟きにとんでもない心労をかけてしまったことを知る。
義父の腕の中で兄様と顔を見合わせて、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「ああ……いや、無事だからよかったが、二人きりでこんな森なんて遊びにしては遠出すぎないか?」
「「遊びじゃないです」」
義父の苦い声に、俺と兄様は同時にそう答えた。義父の表情が怪訝そうに歪む。
「遊びじゃないならどうして?」
「アルバの病を治すためです」
「新種の薬草を探すためです」
やっぱり同時に答えると、義父は混乱したように眉根を寄せた。
なんと言えばいいのかわからずおろおろしていると、兄様が手に持っていた森の地図を義父に見せた。
「父上、これを見てください」
「これは、この森の地図か……? 私の持っている森の地図と道が合致するがこれは……この字、アルバが書いたのか? いつ私の地図を見たんだい?」
「父様はこの森の地図を持っていたのですか! 借りた方が早かったのかな」
「アルバ、そもそも父上に借りるには最初から説明しないといけなかったから、ちょっと無理だったと思うよ」
「あ、そうですね。あ、いいえ、本物の地図は見たことないです。地図は僕が描きました」
義父の手にある地図らしき巻物を見つめて首を振る。
この森の地図って、普通だとどんな風に描かれているのかちょっと気になる。この世界では地図一枚がバカ高くて、手に入れるのはとても難しかったはずだ。
それにアプリ内の地図はゴージャスな感じに装飾がされていたけど、手書きでかなり見辛かった。木とかたくさん生い茂って描かれていたりして、地図にそれ必要か? と首を傾げたこともある。
俺の答えを聞いた義父が、兄様の手の中の地図をじっと見つめる。
「じゃあ、これは……ん? 『きのうろにかくれているひとをたすける』?」
俺の汚い字を解読しているようだ。幼児は手先がまだ思うように動かないから、文字も綺麗じゃないので許してほしい。
「『しんしゅのやくそうはっけんばしょ』……? こちらの道は『まものようわなはかい』……これを書いたのも全てアルバかい?」
「はい。地図を描いているとき、色々と楽しくなっちゃってたくさん書いちゃいました」
キリッと答えると、義父は俺の顔に視線を移した。腰を落としているので視線は同じだ。幼児に視線を合わせる人っていいよね。
ちょっぴり嬉しくて微笑むと、兄様が義父と俺の間に割り込んだ。
「父上、僕たちはこの『新種の薬草発見場所』に行きたいのです。ここで、アルバの病が治る薬草が手に入るかもしれないんです」
「……許可できない、と言ったら?」
「僕だけでも行きます。今はちょっと方向を見失っていますけど」
兄様がかっこよく宣言した。けれど、最後の一言がとても可愛くて尊かった。
かっこよく言うセリフじゃないのが余計に可愛い。
義父はそれを聞いて、一瞬眉根を寄せた。
「この地点へ向かうならあちらへ進むのが正解だ。でも、切り立った場所の近くを通るし、雨でぬかるむと地盤が緩んでいることもある。このチェックされた場所がまさにそこだ。こんな大人でも危ない場所に子供二人で行くのはどうかと思うよ。オルシス、君は年少であるアルバを諭す立場にあるんじゃないのか?」
少しだけ顔を険しくして義父が兄様を非難したので、俺は慌てて義父の袖を引いた。
兄様は俺を諭してくれたし、その上で俺の話を聞いて一緒に探すって言ってくれたんだ。
俺に巻き込まれただけなのに非難されるのは間違ってると思う。
「父様。これは、僕が一人で考えた計画で、兄様は僕に巻き込まれただけなのです。だから、兄様を怒らないでください。兄様はいつもいい子なのです。全面的に僕が悪いので、お家に帰ったら僕が罰を受けます。だからいかせてください」
行かせてください、というよりは生かしてほしい、というのが正しいかもしれない。
俺が生きられるチャンスが欲しい。あわよくばもう少しだけ兄様の成長を見守らせてほしい。
「僕はまだ、帰れません」
義父をまっすぐ見つめると、義父は少しだけ眉尻を下げて困ったような顔をした後、兄様の頭をグリグリと撫でてから、俺を抱き上げた。
「……じゃあ、父様をアルバの計画に交ぜてくれないかい? もちろん、お家に帰ったらアルバにはきついお説教が待っているからね」
「う……はい。でも兄様を叱るのはなしでお願いします」
「わかった。罰は君だけにあたえよう。では目的地はここだね。――全員地図に沿って目的地に進む。子供たち二人への危険を排除することを徹底せよ」
怖い内容を柔らかい声で告げてから、義父が後ろの兵士に号令をかける。厳しい声音は、俺を抱っこしていることで大分緩和されちゃってるけどいいのかな。
自分で歩くから、と義父に言っても、義父にここでアルバが倒れたら応急治療すら出来ないんだよ、と諭されてしまった。
ちなみに安い薬だけど発作の経口薬は持ってきたよ、と見せると、義父は破顔してアルバは賢いねと俺に頬擦りした。
それから俺たちは細い道を進んだ。
途中木が倒れていたり、草が生い茂りすぎて道がわからなくなりかけていたりする場所があったけど、しばらく歩いて、目的地付近までやってきた。
道の横は、義父が言っていた通り、地面が崩れて緩やかな崖になっている。その下には、渓谷が見えていて、ここが大分高い位置なのがわかる。
義父の腕の中から渓谷の方を見下ろすと、足元から冷たい何かが身体を駆け抜けた。
ここが、ゲーム内でオルシス様と主人公が落ちた場所だ、と直感する。
たっか。めっちゃ高いよここ。え、どうやってここから落ちて生きて帰れたの、兄様。
切実にそれを聞きたい。死ぬからこれ。
「さて、地図に示されていたのはここら辺だ。アルバの言う『新種の薬草』というものは、どうやって見つけるんだい?」
「あ、足を踏み外して下に落ちると、渓谷に落ちきる前に段差があって、そこから洞窟に入るとその中に生えているんですけど……諦めます。帰りましょう父様」
下を向いただけでゾクゾクと嫌な感覚が湧いてきて、勝手に身体が震える。
正直なところたどり着ける気がしない。
俺、もしかして高いところ苦手なのかな。今まで高いところと言ったら家の三階窓の景色程度しか見たことなかったからわからなかった。これからは二階より上の部屋で窓に寄るのはやめよう。
俺の言葉を聞いて、義父はふむ、と足を止めた。
「落ちるのはちょっと止めた方がいいね。中腹に洞窟か……ソレム、確認できるか?」
「はっ!」
義父の声に、騎士さんの一人がハッと敬礼して、崖のギリギリまで進んでいく。
落ちる、落ちるからあんまりそっちに行っちゃダメ!
自分じゃない人だとしても高い場所にいるのを見たくなくて、俺はたまらず義父の服にしがみ付いて顔を埋めた。
「高いところが怖いのかい?」
「こ、怖いです……人が崖に近付くのを見るのも怖い」
兄様に質問されて誤魔化す余裕もなく答えると、兄様の眉がギュッと寄せられた。
「そんなに怖いのに、一人で来ようとするなんて」
「僕もこんなに高いところが怖いとは思いませんでした……」
不甲斐ない思いで俯くと、義父がそっと僕の頭を撫でた。
「父様の騎士は強いから大丈夫だよ。怖いなら発作が起きないように、そのまま顔を埋めていなさい。大丈夫。何があっても父様がアルバを護るからね」
「僕はいいので、兄様を護ってほしいです……」
「言い換えよう。父様は強いから君もオルシスもしっかり護るよ。これでいいかい? 父様にとっては、オルシスも君も大事な父様の子なんだから」
血が繋がっていないのにここまでしてもらっていいんだろうか。このポンコツの俺に。
なんだかとても心強くて嬉しくて、目の奥がジンとした。思わず鼻を啜ると、義父の袖を握りしめる俺の手に、もう一つ手が重なった。
今世で一番安心できる、兄様の手だった。
それと同時に、高らかな声が聞こえる。
「ありました! 崖から少し下に足場となる岩棚があり、その奥に亀裂を見つけました!」
義父は「ほら言っただろう?」と言わんばかりの笑みを俺たちに向けてから、崖の下に視線を向ける。
「降りることは可能かい?」
「縄の準備がないので難しいかと」
「わかった。下がっていい」
義父は騎士を労うと、じゃあ行こうか、と兄様に手を差し出した。
待って。今騎士さんが難しいって言ってたよね。どうやって行くの。怖いんだけど!
心の中で悲鳴を上げて義父にしがみ付いたら、義父はそんな俺の様子にくすっと笑って、何かを詠唱した。
義父の手から氷が飛び出して固まっていく。
パキパキと音をさせて螺旋状に伸びていく氷は、まるでこの世のものとは思えないほどに綺麗だった。氷は崖の下まで伸びていき、見えなくなった。あっという間に出来上がった氷の階段を、義父は俺を抱いたまま優雅に進み始める。
氷の階段は、崖の岩棚まで続いていた。
「す、すごい……!」
下を見ると、渓谷が怖いけれど、階段はとても美しい。
しっかりと手摺まで付いていて、階段は下りやすいよう緩やかに丸くカーブを描いていた。こんなに繊細な氷の階段を作れるなんて義父すごい。
これ、本気で一人で来てたら詰んでたよ。兄様と義父には感謝しかない。
その言葉は感嘆と共に零れていたらしく、義父に小さくお礼を言われてしまった。独り言なんだからスルーしてほしい。
振り返ると、兄様も小さいながらにしっかりした足取りで氷の階段を下りていた。義父の肩越しに兄様を見ていたけれど、まるで氷の城の王子様のような兄様にノックアウト寸前だった。美しい物が似合いすぎる。
残念だったのは、服にちょっと汚れがついてしまっていることだけれど、そんな汚れを吹き飛ばすほどに最推しショタと氷のコラボレーションは眼福だった。
あまりの眩しさに両手で目を覆うと、義父に「怖いなら父様にしがみ付いていなさい」と見当違いの気遣いをされてしまった。もう下なんて見る余裕はないよ。最推しの一瞬一瞬が心に刻まれているので!
程なくして岩の裂け目に辿り着いた。
岩、崩れないよね。ここの奥から上に行く道があるはずなんだけど、暗くてよく見えない。
上を見ると、先程覗いたところから結構な距離があった。
ホント、最推しはどうやってここから落ちて致命傷を受けなかったんだろう。聞いてみたいけれど、答えてくれる人はいないのが残念だ。
「さて。中に入ってみようか。ダム、光を」
「はっ!」
義父が振り返ると、先程とは違う騎士が前に出て、手に光を掲げてくれる。
細い道だったけど、岩棚はある程度の広さがあるからもう怖くはなかった。
真っ暗で何も見えなかった亀裂の中がほんのり見えるようになると、奥に奥に洞窟は続いている。その中に目を走らせた騎士が義父を振り向く。
「魔物二体確認。排除します」
その言葉と共に、サッと二人の騎士が前に出て、裂け目の中に入っていく。何やら音がしたと思ったら、すぐに二人は帰ってきた。
「入り口の魔物、排除完了いたしました。私が前に立って道の確保をします」
「頼んだ」
ハッと敬礼した騎士とダムと呼ばれた騎士が前に立ち、進み始める。
「ほら、オルシス」
義父は俺を片手で抱くと、もう片手で兄様と手を繋いだ。おずおずと義父の手を握り返す兄様の照れ顔はいただきました! 今日は夢の中で照れ兄様を愛でることにします。
俺たちの後ろにも騎士が立ち、奥へ奥へと進む。
たまに先頭の騎士が走っていっては魔物を斃して帰ってくる。でも奥に消えてから帰ってくるまで、一分もかかっていない。どれだけ強いのあの騎士さん。
「すっご」「つっよ」と思わず呟いたら、義父が「ここにいる護衛は全員あれくらいは出来るよ」と教えてくれて、さらに俺を驚かせた。
しかも今は落盤の危険性を考えて剣しか使っていないけれど、魔法攻撃ならさらに強いらしい。
すごいなあ、と感激していたら、後ろの騎士が「主様の方が恥ずかしながら私どもよりお強いですよ」と教えてくれて、俺は思わずきらきらした目で義父を見てしまった。
やっぱり父様も兄様もすごい!
そんなこんなで順調に俺たち一行は奥に進んでいった。
広くなったりいきなり狭くなったりと、全然安定しない道を、義父は俺を抱いてこともなげに進んでいく。途中兄様がこけかけたのを片手で引き上げるという技まで見せて、義父がいる安心感の大きさに胸が熱くなったりもした。……兄様の可愛らしくも尊い転びかけた姿よりは、記憶領域の使用優先順位は落ちるけれども。
「……だいぶ深いな」
義父が呟くと同時に、前を歩んでいた騎士が目を瞠る。そして、振り返って敬礼をした。
「先に日光の射す場所があります。魔物の気配はないようです」
「わかった。行こう」
義父の返答に、騎士は短く「はっ」と答えた。
少しだけ歩む速度を上げて、さらに奥へと進む。
するとやがてパッと目の前が開けた。
「ここって……!」
思わず声が漏れてしまう。
そこは、別世界と言っていいほどに美しい場所だった。
天井の岩はわずかに割れていて、そこから陽の光が届くのか、辺り一面に緑が繁っていた。
「見慣れない木の実もあるようですね」
きょろきょろと辺りを見回した騎士の視線の先を見る。
すると開けた土地の中央には数本の木があり、その木に実が生っていた。
みずみずしそうな実はまるで、メロンのようで……っておかしい。メロンは木に生らないはず。この世界では木に生るのが当たり前なの?
でも薄緑色の球体に白い網目状の線が入っていて、どう見てもメロンだ。しかも大きさは、俺の頭くらいある。でっか。
というか……
「美味しそう」
その実からちょっと甘い匂いが漂っている。風は岩の裂け目の方に舞い上がっていくので、洞窟の方にこの匂いは届かなかったようだ。
「見たことのない木の実だ……」
義父の呟きに、やっぱりここでもメロンは木に生らないのか、とホッとする。そして気付く。この世界にはメロンはないのか、がっかりだ。
メロンもどきの果実は、見た感じ質量と重量が十分にありそうなのに、枝が重みで垂れ下がっているということはなく、一つ一つがしっかりと木に生っていた。
「アルバ、その……新種の薬草がどれかはわかるの?」
「あ」
遠慮がちに兄様に手を引かれて思い出した。
俺はラオネン病に効く薬草を探しに来たんだった。
薬草薬草、と辺りを見回すけれど、義父の見る限り新種のものは生えていないようだ。
あれ、どういうのが魔力を閉じ込める新種の薬草だっけ。
必死で記憶を掘り起こそうと、脳みそをフル回転させる。
確かゲームのスチルでは、崖下に落ちた最推しに少しだけ頬に傷がついていた。そして洞窟内部での一枚と、何かを見つけてほんの少しだけ目を見開いている感じの最推しを下からのアングルで写したのが一枚。
このスチルでは、最推しの手元は描かれていなかった。
その時のセリフは確か「これは、見たことがない物だね。調べてみようか」だったはず。
そこでその植物の鑑定をする流れになるんだけれど、鑑定をレベルマックスまで上げていると『魔力を吸収し取り込む植物。魔物が嫌がる成分が入っている』と表されて、トゥルーエンドに向かっていくきっかけになるんだ。
一つ思い出すとずるずると思い出が連なっていく。
鑑定レベルが低いまま進むと『なんらかの植物』としか出なくて、最推しの友人ルートに向かっていくから、あえて鑑定レベルは低くして進むことが多かった。
尊し、友人ルートの最推し。
――でも、植物?
ずっと、ラオネン病を治すとしたら、その植物は『薬草』だと思い込んでいたけど、ゲームでは、ハッキリと薬草と言ってなかった気がする。
「あの……薬草って地図に書いちゃったけど、新種の植物としかわかりません。でも、薬を作るなら薬草かなって思い込んでいて」
そう言いながら、ふと気が付いた。
もしかしたら、目の前にあるこの実がそうなのかもしれない。というかそれ関係なしにちょっと食べたい。メロン食べたい。メロン超好き……はっ、思考が今五歳児になっていた気がする。
慌てて義父を見上げると、義父は微笑んで頷いた。そして、俺の頭を撫でて、「一度帰ろう」と言う。
「父様?」
「やることが出来た。今は帰ろう。それも大急ぎでだ。あの実がもしかしたらアルバの命を助けるかもしれないんだろう?」
その言葉に俺が目を丸くする間に、兄様が割って入る。
「ここまで来て帰ってしまうのは……! ようやく新種らしきものを見つけたのに、あの実を採取しないのですか!?」
「そうだね。『新種の薬草』を探しに来て、本当に新種の『何か』が見つかったのは僥倖だ。でもね、オルシス。この木は父様も初めて見る。もし、この実を採ったことで実の成分が低下もしくは消滅したら? 実を持ち帰ったとして、本当は葉の方が正しい素材だったら? もしくは葉が木から離れた瞬間劣化してしまったら? ――色々考えると、今すぐにどうこうすることは出来ないんだ。でも、最善は尽くす」
ぐうの音も出ないほどの正論をかました義父は、ちょっとだけ悔しそうな兄様の手を繋ぎ直した。
「――あとはいいかい? じゃあ、帰ろうか」
義父はそう言うと、周りの騎士に帰るよう促した。騎士たちが敬礼と共に岩の裂け目を戻っていく。
あれ? 俺たちは? と思って瞬きした一瞬後にはお家の玄関ホールにいた。もしかして父様って魔術陣を使わなくても転移魔法使えるのかな。……まさかね。
「スウェン、今帰った」
「おかえりなさいませ旦那様。無事お二人が見つかってようございました」
俺たちがいきなり現れたにもかかわらず、老齢に差し掛かろうとする執事であるスウェンは頭を下げて俺たちをお出迎えしてくれた。
義父は俺をまず地面に下ろすと、彼に上着を渡してかすかに頷いた。
「オルシスがちゃんと情報をくれたからね。お手柄だ。時にスウェン、手配してほしい物がある」
「かしこまりました」
スウェンが深々と頭を下げる。
「よし。ではアルバとオルシスは早く休みなさいね」
義父の言葉に、今度はメイド長さんに抱き上げられた。
「アルバさまはまずはお体を綺麗にしなくてはいけませんね。オルシス様はご一緒になさいますか」
「はい。アルバと一緒に湯あみをします」
キリッと答える兄様の返答に、俺は固まった。
湯あみ。お風呂。それは、あれか。サービスシーンか。あれぇ、スチルではそんなサービスシーンなかったよ? 全年齢対象の健全なアプリゲームだったからね。
クリア後に手を繋ぐとかキスくらいはあった気がするけれど、最推しのルートではキスすらなかったからね。
真顔で「君と共に歩みたい」とか言われただけだからな! いやもうそのセリフだけでいいから言われてえぇぇって思ってたし、めっちゃ言われた時は幸せだったんだけど! だからキスがなくても大満足だったんだけど!
っていうかお風呂だよ!
兄様の裸を拝むとか、どんな無理ゲー⁉ 俺、出血多量で死ねる自信があるよ。
ようやく生きる希望が持てる気がしたのに、鼻血で死ぬとか笑い話にもならないんだけど!
そそそそんなことよりも俺の生きる希望、そのままにして帰ってきちゃったよ! 義父がなんとかしてくれるって言っていたけれど、その言葉をどこまで信用したら……! あああ。せめてメロン一つでも隠し持ってきてたらよかったのに……。あ、でも持っているカバンは小さくて、俺の頭大のメロンは入らなかったかも。
ってことは……!
「……服に、服に隠し持って帰ってくればよかったんだ……!」
「アルバ、あの実は大きいから服に隠しても一発でバレるよ……」
兄様の冷静なツッコミで、俺の考えがすべて声に出ていたことが判明した。
あまりの恥ずかしさに、湯あみはせずにもう寝ます、とメイド長さんに申告する。
もう何もする気力がない。疲れた。歩いていたのは義父であり、俺はずっとその腕の中だったけれども。精神的にね。疲れたんだよ。止めが兄様の「一緒にお風呂」発言だったけれども。
俺の申告を聞いたメイド長さんは、兄様にお風呂に行くよう指示して俺のことは寝室に連れて行ってくれた。
身体をお湯で拭われて、着替えをさせられる。そのままベッドに詰め込まれて、その間多分五分くらい。手馴れてるね。
……ちょっと一緒にお風呂したかった気もしないでもないけれど、俺はまだ死にたくないので、回避できたことにホッとして目を瞑った。
だってさ。小さくてもあれそれは反応しちゃうんだよ。そして兄様が目の前にすっぽんぽんで……そんな破廉恥な状態を兄様に見られたら、恥ずかしさじゃない何かで憤死できる。無理すぎる……
だからよかったのだ、うん。そう頷いて俺は温かなベッドに埋もれたのだった。
1,625
お気に入りに追加
14,677
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
竜人の王である夫に運命の番が見つかったので離婚されました。結局再婚いたしますが。
重田いの
恋愛
竜人族は少子化に焦っていた。彼らは卵で産まれるのだが、その卵はなかなか孵化しないのだ。
少子化を食い止める鍵はたったひとつ! 運命の番様である!
番様と番うと、竜人族であっても卵ではなく子供が産まれる。悲劇を回避できるのだ……。
そして今日、王妃ファニアミリアの夫、王レヴニールに運命の番が見つかった。
離婚された王妃が、結局元サヤ再婚するまでのすったもんだのお話。
翼と角としっぽが生えてるタイプの竜人なので苦手な方はお気をつけて~。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。