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番外編

舐められたままではいけません。

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 魔力と気力が満たされた次の日、俺は兄様と共に陛下たちに会った。他にはツヴァイト公爵閣下とアドリアン君が一緒の机を囲んでいる。ちなみに残りの攻略対象者であるブルーノ君はサリエンテ公爵領で大々的にレガーレ農地を広げているので、そちらにかかりきりであり、リコル先生はようやくというかなんというか、高等学園の保健医をしている。
 俺が魔法を発動した時に、盗聴されないように用意された陛下たちとの会合の部屋。会合とは名ばかりで、雑談や息抜きにも使われるそこは、学生時代のような気軽さで接することが出来る唯一の場所だ。俺が普段もなれなれしくしちゃったら陛下が侮られるから、そこは俺も気を付けている。

「昨日から、某伯爵には監視を増やしている。前々から動きがおかしいとツヴァイトに忠告を受けていたから、気にしてはいたのだ。それと、南の国は取り敢えず泳がせる。一斉に全国の王族を集めるのに、南の国だけ拒否は出来ないからな。それとなく私から忠告は入れよう。それでも動くようなら、国として抗議する。まだ何も起こっていないから、注意することしか出来ないのが申し訳ないな」

 眉尻を下げて、ヴォルフラム陛下が軽く謝る。
 国的にはこちらの方が歴史は長いとはいえ、友好国として三代前の王様が停戦協定を結んだ国だ。たった三代での仲違いは新王となって立ったばかりのヴォルフラム陛下には厳しいものがある。
 そして若輩者として、彼の国はヴォルフラム陛下に変わった瞬間こちらを侮るようになったらしい。
 一応陛下のお父様であるブレイド閣下も睨みを利かせてはいるらしいけれど、こればかりはこれから歳を重ねていかないと難しい。
 だったら、と俺は手を上げた。

「丁度魔法で見た魔術陣を作ってみたんで、それがちゃんと作動したらこちらから攻めていくというのはどうでしょうか」

 俺の発言に、その場にいた全員が顔を顰めた。

「却下」

 全員が声を合わせた。
 でも、だって。と俺は口を尖らせた。

「今、ここで叩いておけば、後々舐められることはないでしょう。僕だって彼の国からのお祝いの言葉、ちょっと頭に来てるんですから」


 事はヴォルフラム陛下の戴冠式。
 様々な国に招待状を送り、皆王族は平等ということで、他の国が中枢の王族の誰かを送ってよこした中、彼の国は国王の庶子であり、認知されていない、王子ともいえない王族の者を送って来たんだ。その人自体も好人物とは言い難い人で、渡された手紙には、『若くして戴冠したなんて、どんな手を使ったんだ。何でも教えてあげるよ、勿論、裏の方法も』みたいな事が書かれていて、それを読んだミラ王妃が笑顔のまま青筋を立てて、一瞬にして消し炭にしてちょっとだけ問題になったんだ。後々その内容の愚痴をミラ王妃から聞いてしまい、一緒になってぷりぷり怒っていた俺だ。
 そんな舐め腐ったことをする国なんて、今のうちにぎゃふんと言わせた方がいいと思う。
 それに、これはもう道筋は出来ている事だから。

「まずはこの魔術陣を、小さくして低価格で広めましょう。これを使ったら救助信号だから近くの衛兵か騎士が向かうという触れ込みで。そうすれば、これが使われたら何か事件か事故があったと、国の皆が認識するようになってくれますし。ああ、売るのではなく、国民に配布しましょう。そして、ピンチの時は迷わず使えって。そうすればこれが使われたら何か事件があったと皆思うようになりますから。ぼやだったとかそういう言い訳も効かなくなりますよ」

 仕事は倍増するけれど、これ、出来上がるまでは試行錯誤したけれど、その中にはいかに魔術陣を簡単に描くかも入っていて。必死で頑張った俺は、一枚数分で描ける程度の簡略魔術陣にすることに成功した。まだ試してはいないけれど、この部屋でやるのは、部屋中が煙だらけになるから無理。

「刻魔法では、一瞬だけ闇属性の防御魔法が甘くなったと言っていました。多分、それはヴィルフラム陛下に何かが起きたんだと思いますが、当日は陛下の周りの警備を厚くして、わざと相手の油断を誘うためにしたらいいと思います。タイミングがつかめるのとそうでないのは雲泥の差ですから。そこをついて僕が攫われますので、そっと追ってください。場所は、国境付近で、地下牢のある貴族の建物かどこか。結構広範囲ですが、限定するとそこまで難しくはないと思います。俺を運んでいるので、大通りはさけて、でも山の方まで行かないルートを通ると思われます」

 バッと国の地図を開き、国道が描かれている場所を指で辿る。
 皆、その指の動きを視線で辿り、そこで盛大に溜め息を吐いた。

「アルバ本人を誘拐させるなど、私は反対だ。『刻属性の魔法で視た』と言えば済むかもしれないだろう」
「信憑性に欠けます。だって僕が嘘を吐いてもわからないじゃないですか。そんなのはこの先現れる『刻属性』の子たちを苦しめるだけです。なので、やっぱり視たものを有効活用したほうがいいかと思います」
「ううむ……」

 ヴォルフラム陛下が唸る。ツヴァイト閣下もアドリアン君もうんとは言わない。そんな中、兄様がフッと俺の首元に手を伸ばした。
 
「タイが曲がっていたよ。タイピンに、僕の蝶をつけてくれるなら、許可してもいい。けれど、それでアルバに危害が加えられたら、一瞬で殲滅するけれど」
「兄様の蝶! あの時の僕、それがすごく欲しかったんですよ。あればすぐに連絡が取れるのにって。ようやく誘拐した相手と場所が特定できたのにって悔しかったんです。でも、この魔術陣を使って部屋中を煙で充満させて、あとは転移魔術陣で兄様の元に逃げましたけど」
「その煙が空に届けば、場所の特定も容易……か」
「地下ではあったんですけど、光が入っていたので、外に繋がる天窓はあったと思います。臭いとは思わなかったので、外と通じているのかと」
「……アルバが有能すぎて、刻属性の重要性がわかってしまった。これは、一度味わったら手放せなくなるな……すまない、アルバは大事な私の友だというのに、こんなことを言って」
「いいえ。陛下のお役に立てるなら嬉しいです」

 少しでも陛下の役に立ちたいからね。そう言うと、兄様に抱き締められた。

「陛下にはあげません」
「じゃあ私が貰ってもいい? 一緒にお茶を飲みたいし、楽しい話で盛り上がりたい。気軽に話が出来る子って貴重なのよ」
「ダメです。妃殿下にも誰にもあげません」
「兄様……」

 拗ねた様な顔の兄様が可愛すぎて、俺はへらりと笑って兄様に抱き着いた。俺はいつでもどこでも兄様の兄様による兄様だけのものです。
 そんなこんなで、絶対に引かなかった俺に根負けした陛下がやけくそで『アルバが安全に誘拐されるための作戦』会議を始めたのだった。
 
 
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