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37、移住希望
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足止めを食ったけれど、その後は順調に次の村に着いた。
「魔獣が隣領で出没しているらしいが、ここら辺の被害はないか?」
「この季節は魔獣も身を肥やして雪の季節に備えますからな……ある程度は仕方のないことです」
視察のために村長の家を訪問し、魔獣に関して問えば、村長は苦笑しながらそう答えた。なので、一応情報共有のため隣領のことを伝えると、村長は途端に顔を顰めた。
「もしかしたら隣領で増えているかもしれないから、気を付けてほしい」
「それでしたら……」
村長は深々と頭を下げて、村人の移住の話を出してきた。
たしかここは最初の時には移住はしないと言っていたはずだけど。
俺の管轄かな、とアラン様の横から顔を出すと、村長は俺にも深々と頭を下げた。
「皆、本当は生まれた村を捨てたくないんですが……ここは領都からも遠い。毎年のこととはいえ、魔獣が出ると一人や二人の犠牲はつきものです。けれど村中のものが逃げ出す程の魔獣が来られたら、このちっぽけな村なぞひとたまりもない。領都には騎士団もでき、腕の立つ幻獣様もおられるのでしょう。こわごわ暮らすよりも、もっと心安らかに暮らしたいのです……」
少しは余裕が出来たとはいえ、どこもまだカツカツ。そこに魔獣なんて天災のようなものが出てきたら、もうひとたまりもないよね。
俺は相槌を打ちながら、移住予定を頭の中で計算した。
そして、窓の外にいる村人たちに視線を向けた。まだまだ体力はありそう。さっきの人達みたいにもう体力もないような状態の村人は見る限りまだいない。
だったら。
「アラン様。ここからはUターンですよね。今の時期をのがしたら、雪の季節にはいっちゃいますよね。まだ皆体力はありそうです。もし数日で用意できるなら、このまま連れて行っちゃうこともできるんじゃないですか? 幸いまだ住居は空いていますし。来年予定の人達の住居を後で作ればいいのでは?」
たしかここの村は全員で五十人もいないくらいだから、移動時の食料さえなんとかなれば強行軍で行けそう。
村長はその答えを聞いて、目を潤ませながら深々と頭を下げた。
「あとは魔獣がこっちに流れてこないように、ベルラッド侯爵と討伐の相談をしないといけないな……」
「だったら子フェンを連れて隣領に狩りに行けばいいんじゃないですか、アラン様。子フェンたちもそろそろ成長させないといけない時期だし」
「……しかし、村一つ占拠する程の数となると……」
「一匹で十体の魔獣とか普通に狩れますよ? 下手したらフェンリル様も腕が鈍る! とか言って飛び出しそうです」
「……」
アラン様は複雑な顔で、庭で遊んでいる子フェン二匹をチラ見した。
そのチラ見が面白くて顔がにやける。
「自領じゃない場所で無償の魔獣討伐って、どうなんですか?」
俺もアラン様の視線を追いながら訊くと、アラン様は難しい顔をした。
「領主と場所によるな。もし他も魔獣が出て、どこそこの領では無償でこちらが有償とは何事か、と言われる場合もある。私が相手だとそういうことを言う相手も出てくるだろうな」
「うわ腹立ちますねそれ。そういう生意気な奴らは高額請求もありです」
「隣の領主はそんなことはしないからな」
キリッと答えれば、アラン様は笑いを堪えた顔をして、村長はあんぐりと口を開けて俺を見ていた。
「……マーレ様は、もしかして喧嘩っ早いのですかな……?」
「私よりはよほど好戦的ではあるな」
「これはこれは頼もしい……」
別に好戦的じゃないよ。アラン様のことを悪く言う人には報復したいだけだよ。
「魔獣が落ち着けば移動したくない? 俺はどっちでも大丈夫だけど」
「そうですな……村人たちは移住を希望する者が多いのが現状です」
やっぱり端のほうは領都からの助けも時間が掛かるから不安だよね。
しかもここの近くの村は移住計画に入っているから、周りから次々人がいなくなるのもまた不安材料だよね。
とりあえず村の移住を考えながら、俺はゴウドさんの元に急ぎ、この村が移住する旨を伝えることにした。
前もゴウドさんはしっかりと護衛してくれたから、安心だ。
「予定より帰りが遅くなるのだけが問題か……でも兄さんもサウスさんもいるしいっか」
頼りになる人達がいるってすごくいいよね。
移住は村の総意だったらしく、皆ほぼすぐにでも出られるように荷物をまとめていたらしい。元々まともな家具もないような貧しさだから、衣類と携帯食料と暖を取る道具なんかを上手いこと一つの荷物にまとめて持ち出していた。小さい子も風呂敷を背負っていて、その隙間から人形の手がはみ出ていた。
予定よりもゆっくりとぞろぞろ移動し、十日ではなく十五日掛けて帰ってきた俺たちは、げっそりと頬をこけさせたサウスさんに迎え入れられた。
仕事しすぎかと思ったら子フェン不足過ぎて寝れなかったそうだ。ごめんね。子フェンたちもサウスさんが気の毒だと思ったのか、二日ほどサウスさんの足下でうろうろしていて、すっかりサウスさんの顔色も戻った。
「魔獣が隣領で出没しているらしいが、ここら辺の被害はないか?」
「この季節は魔獣も身を肥やして雪の季節に備えますからな……ある程度は仕方のないことです」
視察のために村長の家を訪問し、魔獣に関して問えば、村長は苦笑しながらそう答えた。なので、一応情報共有のため隣領のことを伝えると、村長は途端に顔を顰めた。
「もしかしたら隣領で増えているかもしれないから、気を付けてほしい」
「それでしたら……」
村長は深々と頭を下げて、村人の移住の話を出してきた。
たしかここは最初の時には移住はしないと言っていたはずだけど。
俺の管轄かな、とアラン様の横から顔を出すと、村長は俺にも深々と頭を下げた。
「皆、本当は生まれた村を捨てたくないんですが……ここは領都からも遠い。毎年のこととはいえ、魔獣が出ると一人や二人の犠牲はつきものです。けれど村中のものが逃げ出す程の魔獣が来られたら、このちっぽけな村なぞひとたまりもない。領都には騎士団もでき、腕の立つ幻獣様もおられるのでしょう。こわごわ暮らすよりも、もっと心安らかに暮らしたいのです……」
少しは余裕が出来たとはいえ、どこもまだカツカツ。そこに魔獣なんて天災のようなものが出てきたら、もうひとたまりもないよね。
俺は相槌を打ちながら、移住予定を頭の中で計算した。
そして、窓の外にいる村人たちに視線を向けた。まだまだ体力はありそう。さっきの人達みたいにもう体力もないような状態の村人は見る限りまだいない。
だったら。
「アラン様。ここからはUターンですよね。今の時期をのがしたら、雪の季節にはいっちゃいますよね。まだ皆体力はありそうです。もし数日で用意できるなら、このまま連れて行っちゃうこともできるんじゃないですか? 幸いまだ住居は空いていますし。来年予定の人達の住居を後で作ればいいのでは?」
たしかここの村は全員で五十人もいないくらいだから、移動時の食料さえなんとかなれば強行軍で行けそう。
村長はその答えを聞いて、目を潤ませながら深々と頭を下げた。
「あとは魔獣がこっちに流れてこないように、ベルラッド侯爵と討伐の相談をしないといけないな……」
「だったら子フェンを連れて隣領に狩りに行けばいいんじゃないですか、アラン様。子フェンたちもそろそろ成長させないといけない時期だし」
「……しかし、村一つ占拠する程の数となると……」
「一匹で十体の魔獣とか普通に狩れますよ? 下手したらフェンリル様も腕が鈍る! とか言って飛び出しそうです」
「……」
アラン様は複雑な顔で、庭で遊んでいる子フェン二匹をチラ見した。
そのチラ見が面白くて顔がにやける。
「自領じゃない場所で無償の魔獣討伐って、どうなんですか?」
俺もアラン様の視線を追いながら訊くと、アラン様は難しい顔をした。
「領主と場所によるな。もし他も魔獣が出て、どこそこの領では無償でこちらが有償とは何事か、と言われる場合もある。私が相手だとそういうことを言う相手も出てくるだろうな」
「うわ腹立ちますねそれ。そういう生意気な奴らは高額請求もありです」
「隣の領主はそんなことはしないからな」
キリッと答えれば、アラン様は笑いを堪えた顔をして、村長はあんぐりと口を開けて俺を見ていた。
「……マーレ様は、もしかして喧嘩っ早いのですかな……?」
「私よりはよほど好戦的ではあるな」
「これはこれは頼もしい……」
別に好戦的じゃないよ。アラン様のことを悪く言う人には報復したいだけだよ。
「魔獣が落ち着けば移動したくない? 俺はどっちでも大丈夫だけど」
「そうですな……村人たちは移住を希望する者が多いのが現状です」
やっぱり端のほうは領都からの助けも時間が掛かるから不安だよね。
しかもここの近くの村は移住計画に入っているから、周りから次々人がいなくなるのもまた不安材料だよね。
とりあえず村の移住を考えながら、俺はゴウドさんの元に急ぎ、この村が移住する旨を伝えることにした。
前もゴウドさんはしっかりと護衛してくれたから、安心だ。
「予定より帰りが遅くなるのだけが問題か……でも兄さんもサウスさんもいるしいっか」
頼りになる人達がいるってすごくいいよね。
移住は村の総意だったらしく、皆ほぼすぐにでも出られるように荷物をまとめていたらしい。元々まともな家具もないような貧しさだから、衣類と携帯食料と暖を取る道具なんかを上手いこと一つの荷物にまとめて持ち出していた。小さい子も風呂敷を背負っていて、その隙間から人形の手がはみ出ていた。
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