31 / 46
30、国最大の慶事
しおりを挟む俺たちの婚姻の書類は通ったらしい。反対する王子たちを陛下が宥めたとか。いまだに俺が手に入ったら王位を手に入れられるとでも思ってるのかね。
砦も出来上がり、領都は一体化して倍以上の広さになった。
閑散としていた領都は今やかなり大きな街となっている。
俺とアラン様の慶事は速やかに領内に広まり、反対する者は全くと言っていい程いなかった。それどころか、まだまだ貧しい村からも祝いの品が届いた。皆、自分たちの食料を削って送ってくれたらしい。どうお礼をしたらいいんだろう。
婚姻の式自体は簡単に済ませたいねとアラン様と言い合っていたら、サウスさんに二人でしこたま怒られた。
ここで大々的に式を挙げることで、領民たちの意識を上向けることが出来る云々、王都からの横やりも入りにくくなる云々、理由は色々あるらしいけれど、そこらへんは全てサウスさんに任せることにした。
そうしたら、式は一年後になった。それなのに今から用意を始めないと間に合わないと言われて、眩暈がした。そ、そんなに用意大変なの? すごく簡単に考えちゃってたよ俺。
「王族の血を引く者とヴィーダ家直系の婚姻など、国が興って以来最上級の慶事ではありませんか」
テレン室長までそんなことを言い出し、混乱していた俺に、騎士服を身に着けたゴウドさんまで呆れた視線を向けた。
「アラン様はそんな覚悟ありました?」
机に向かって書類に目を通しているアラン様に話を振れば、アラン様はフッと笑った。
「そうだな……よく考えたら、王族とヴィーダ家の直系が結ばれたことは王国史上一度もなかったな。傍系の者に王女が嫁いだことは二度ほどあったが」
「そっかぁ……そうですよね。俺ら、基本幻獣様たちと番うから俺みたいに番じゃない精霊たちと契約した人じゃないと降嫁も何も出来ないし。俺が知ってる幻獣様と番わなかった直系の人は一人だけで、でもその人はすごく仲の良かった村の女の子と結婚したって聞いたことあるし。百五十年くらい前だったかな」
ようやく俺とアラン様が婚姻することの重大さに気付いた俺は、横にいたラズリに『マーレサマニブーイ』ともう何度目かわからない程言われたセリフをまたしても言われた。
太陽の季節は、皆が短い暑さを堪能しながら農作業に精を出した。雪の季節が長いと、この太陽の季節の暑さは嬉しいものだ。
去年よりもかなり農耕地を広げている。酒蔵を増やすためだ。
来年の計画として俺がアラン様に提出したのは、北の酒のブランド化。
ノームたちの頑張りによって酒の製造量がかなり増えたので、他の領地にも出せるようになってきたことから、ついでだから稼いでしまおうとブランド化をアラン様に勧めたのだ。
今までは少ししか生産できなかったので細々と出していたけれど、王都で買いたたかれていたのでそこまでの収入にはならず、領が潤う程にはならなかった。
けれど、数村まとめた今、人も集まりある程度の量を出せる生産体制になったので、大々的に売り出せるようになったのだ。勿論味は俺と親方のお墨付き。
まずは販路、と思って父親に相談した瞬間、生産の半分をヴィーダ家で独占契約しようと母さんが言い出してしまって大変なことになった。
言い出したらきかない幻獣様である母さん。グラシエール領の酒が大変お気に召したようで、北に引っ越すとまで言い出したらしい。
「とりあえず並行して領事館近くに立派な神殿を建てないといけないのか……自分の結婚式のために神殿を建てるって」
「貧しかったのでボロボロの神殿の残骸しかなかったですからな。それと並行して王都の神殿から神官なども派遣していただかないといけませんな」
見栄えのする素晴らしいものをお願いいたします。とサウスさんから釘を刺されて、俺ははーいと適当に返事した。
本来だったら立派な神殿を建てるなど、一年では出来ない。ノームたちがいるからこそだ。それを考えると、確かに一年では普通は時間が足りないのかもしれない。
豪華絢爛な服まで作らないといけないらしく、どこかに相手の色を取り入れて、生涯たった一度だけの服を目玉の飛び出そうな値段で作るらしい。そんな服を作れるお針子はグラシエール領にいないので、王都か伯父さんの所から借り受けないといけない。
こうしてみると、少しはましになったかと思ったグラシエール領は、まだまだないない尽くしだ。
「もっとこう、アラン様の領を盛り立てたいのになあ。時間がかかりそう」
「その心意気が我々にはとても嬉しいものなのですよ」
そんなもんかなあ、と首を傾げながらサウスさんから書類の束を受け取る。
幻獣たちは皆番の幸せに一番重きを置く。そんな状態をずっと見て来たので、俺もついついアラン様に幸せに感じて欲しいと思ってしまうんだ。
兄さんはフェンリル様に愛されることが幸せだと言い、ネーベルはフェニックス様を愛することがとても幸せだという。
俺は愛したいし愛されたいから、もしかしたら誰よりも欲張りなのかもしれない。
412
お気に入りに追加
3,237
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる