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30、国最大の慶事

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 俺たちの婚姻の書類は通ったらしい。反対する王子たちを陛下が宥めたとか。いまだに俺が手に入ったら王位を手に入れられるとでも思ってるのかね。
 砦も出来上がり、領都は一体化して倍以上の広さになった。
 閑散としていた領都は今やかなり大きな街となっている。
 俺とアラン様の慶事は速やかに領内に広まり、反対する者は全くと言っていい程いなかった。それどころか、まだまだ貧しい村からも祝いの品が届いた。皆、自分たちの食料を削って送ってくれたらしい。どうお礼をしたらいいんだろう。
 婚姻の式自体は簡単に済ませたいねとアラン様と言い合っていたら、サウスさんに二人でしこたま怒られた。
 ここで大々的に式を挙げることで、領民たちの意識を上向けることが出来る云々、王都からの横やりも入りにくくなる云々、理由は色々あるらしいけれど、そこらへんは全てサウスさんに任せることにした。
 そうしたら、式は一年後になった。それなのに今から用意を始めないと間に合わないと言われて、眩暈がした。そ、そんなに用意大変なの? すごく簡単に考えちゃってたよ俺。

「王族の血を引く者とヴィーダ家直系の婚姻など、国が興って以来最上級の慶事ではありませんか」

 テレン室長までそんなことを言い出し、混乱していた俺に、騎士服を身に着けたゴウドさんまで呆れた視線を向けた。

「アラン様はそんな覚悟ありました?」

 机に向かって書類に目を通しているアラン様に話を振れば、アラン様はフッと笑った。

「そうだな……よく考えたら、王族とヴィーダ家の直系が結ばれたことは王国史上一度もなかったな。傍系の者に王女が嫁いだことは二度ほどあったが」
「そっかぁ……そうですよね。俺ら、基本幻獣様たちと番うから俺みたいに番じゃない精霊たちと契約した人じゃないと降嫁も何も出来ないし。俺が知ってる幻獣様と番わなかった直系の人は一人だけで、でもその人はすごく仲の良かった村の女の子と結婚したって聞いたことあるし。百五十年くらい前だったかな」

 ようやく俺とアラン様が婚姻することの重大さに気付いた俺は、横にいたラズリに『マーレサマニブーイ』ともう何度目かわからない程言われたセリフをまたしても言われた。
 


 太陽の季節は、皆が短い暑さを堪能しながら農作業に精を出した。雪の季節が長いと、この太陽の季節の暑さは嬉しいものだ。
 去年よりもかなり農耕地を広げている。酒蔵を増やすためだ。
 来年の計画として俺がアラン様に提出したのは、北の酒のブランド化。
 ノームたちの頑張りによって酒の製造量がかなり増えたので、他の領地にも出せるようになってきたことから、ついでだから稼いでしまおうとブランド化をアラン様に勧めたのだ。
 今までは少ししか生産できなかったので細々と出していたけれど、王都で買いたたかれていたのでそこまでの収入にはならず、領が潤う程にはならなかった。
 けれど、数村まとめた今、人も集まりある程度の量を出せる生産体制になったので、大々的に売り出せるようになったのだ。勿論味は俺と親方のお墨付き。
 まずは販路、と思って父親に相談した瞬間、生産の半分をヴィーダ家で独占契約しようと母さんが言い出してしまって大変なことになった。
 言い出したらきかない幻獣様である母さん。グラシエール領の酒が大変お気に召したようで、北に引っ越すとまで言い出したらしい。

「とりあえず並行して領事館近くに立派な神殿を建てないといけないのか……自分の結婚式のために神殿を建てるって」
「貧しかったのでボロボロの神殿の残骸しかなかったですからな。それと並行して王都の神殿から神官なども派遣していただかないといけませんな」

 見栄えのする素晴らしいものをお願いいたします。とサウスさんから釘を刺されて、俺ははーいと適当に返事した。
 本来だったら立派な神殿を建てるなど、一年では出来ない。ノームたちがいるからこそだ。それを考えると、確かに一年では普通は時間が足りないのかもしれない。
 豪華絢爛な服まで作らないといけないらしく、どこかに相手の色を取り入れて、生涯たった一度だけの服を目玉の飛び出そうな値段で作るらしい。そんな服を作れるお針子はグラシエール領にいないので、王都か伯父さんの所から借り受けないといけない。
 こうしてみると、少しはましになったかと思ったグラシエール領は、まだまだないない尽くしだ。

「もっとこう、アラン様の領を盛り立てたいのになあ。時間がかかりそう」
「その心意気が我々にはとても嬉しいものなのですよ」

 そんなもんかなあ、と首を傾げながらサウスさんから書類の束を受け取る。
 幻獣たちは皆番の幸せに一番重きを置く。そんな状態をずっと見て来たので、俺もついついアラン様に幸せに感じて欲しいと思ってしまうんだ。 
 兄さんはフェンリル様に愛されることが幸せだと言い、ネーベルはフェニックス様を愛することがとても幸せだという。
 俺は愛したいし愛されたいから、もしかしたら誰よりも欲張りなのかもしれない。

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