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26、アラン様の隣の部屋
しおりを挟むその日の執務を終え、一緒に夕食を取ると、アラン様自ら自室に招いてくれた。
いつも晩酌をする部屋の横、本当にプライベートの寝室には、とても立派な寝台が置かれている。
その部屋の更に奥にあるドアを開けると、俺の荷物が運び込まれたとても落ち着いた雰囲気の部屋がある。ほぼ何一つなかった部屋は、皆の力でとても素晴らしい落ち着いた部屋に生まれかわっていた。
「どうだろうか。気に入ってくれたならいいのだが」
「最高です。こういう趣ある家具いいですよね」
「よかった。ここにある家具は、手入れがされていて状態は悪くないんだが、王都で流行っているような洒落た家具はこの地にはなくてな」
使いもしない家具を買う余裕もなかったしな、と自嘲気味に笑ったアラン様の手を取り、ブンブン振り回す。
「俺、こういう家具大好きです」
ありがとうございます。とお礼を言えば、アラン様はホッとしたように顔をほころばせた。
そのまま寝室に戻り、座り心地のいいソファに並んで腰を下ろす。
用意されていた酒は、俺も大好きな酒精の強いグラシエール領の特産の酒だった。
綺麗な琥珀色の酒をグラスに注ぐと、ふわりとかぐわしい香りが鼻を刺激する。
いつもよりも濃い香りが気になってちびりと舐めてみると、芳醇な香りが口の中に広がった。美味い。
「これ、いつもと違いますね」
「そうだな。これは、私が生まれた年に採れた麦を使った酒だ。亡くなった父が私の成人に一緒に飲もうと保存しておいたらしい。兄の時もこうして生まれ年の麦の酒を一緒に飲んだと嬉しそうに笑っていたな」
「先王様が……」
目を細めるアラン様は、先王様のことを思い出しているようだった。いい王様だったらしい。父さんも母さんも先王様を慕っていたから。
「一緒に飲む日が楽しみだと言っていた父を思い出してしまい、成人した当時はこれを開ける気にはならなかったんだ」
「そうなんですね」
アラン様も、グラスに口をつけ、琥珀色の液体を口に含んだ。
「確かに美味いな。マーレと一緒に祝い酒として飲めるからこそ、普段以上に美味く感じる」
ふわりと笑うアラン様の笑顔は、一口目より二口目を更に美味しくさせている気がした。
じゃあ、もっと美味い飲み方も、あるのかもしれない。
グラスからアラン様の口の中に消えていく酒が、俺の目にはもっと美味そうに見えた。
「アラン様……」
そっと身を乗り出し、圧し掛かるようにしてアラン様に近付く。
顔を覗き込めば、驚いたようなアラン様の顔が間近にあった。
アラン様の握るグラスをそっと横に除け、酒の香りにつられるようにその口に顔を近付ける。
ぺろりとアラン様の唇を舐めると、想像以上に酒が美味くなった。
「マーレ」
「美味い」
もう一度ぺろりと舐めると、アラン様が俺の顔を手で押さえた。
「マーレ、いいのか? 時間を置いてゆっくりと私といることに慣れて貰おうと思って向こうの部屋にも寝台を置いたのだが。そんなことをしたら、婚姻前に同衾するぞ」
「俺は、アラン様の言葉に肯定した時からアラン様のものです。ってことは、アラン様も領主の仮面をかぶっている時以外は俺のものってことですよね」
酒の由来を聞いて、すごく嬉しかったんだ。ちゃんと先王様はアラン様を愛していたんだっていうことと、そんな大事な物を開ける相手に、俺を選んでくれたことに。
もう一度とても美味しそうな唇に舌を這わせ、きっと中も美味しいだろうとそっと自分の唇を重ねて舌を差し入れる。
アラン様は抵抗することなく、そっと俺の腰に腕を回して身体を支えてくれた。
舌と舌が絡まり合い、何とも言えないジワリとした幸福感が沸き上がる。
番と肌を触れ合わせると、そこから幸福感が沸き上がってくるんだ。
既に大分前から番の居る兄弟は、俺にそんなことを言って幸せそうな顔をした。
当時はよくわからなかったけれど、今ならわかる。
アラン様に触れたところ、アラン様に触れられているところが、甘く蕩けていくように感じる。
「ふ……」
「んン……」
二人の吐息が重なり、舌を十分に味わう。
酒も美味いけれど、アラン様の口が、とてつもない甘露に思えて、どん欲に貪った。
「今日、マーレのすべてを私のものにしてもいいだろうか」
「望むところです。むしろ、俺の全部を、蕩けさせて……」
唇を動かせば相手のそれに触れる位置で、アラン様が欲望を瞳に映しながら懇願してくる。その俺を見る瞳が好き。ちゃんを俺を見て、俺を欲しがってくれるアラン様が欲しい。
乗り上げるようにしてアラン様の首元に手を伸ばすと、ボタンを一つ一つ外していく。
ソファは二人が寝転がっても余裕のある大きさで、アラン様を押し倒しても余裕があった。
俺の腰の丁度下にあるアラン様の大事なところは、ちゃんと形を変えて、その気持ちをしっかりと俺に伝えていてくれる。
俺もトラウザーズの中で反応する自身を意識しながら、アラン様の服を脱がしていった。
「マーレ、せめて、ベッドまで待てないか」
「ここがいいです」
俺の答えに、アラン様は苦笑すると、俺の腰に手を回した。
好きなようにさせてくれるらしい。
無抵抗なアラン様の服をはだけさせていくのは、普段とはまた違う興奮が沸き上がる。
アラン様の手は、ゆっくりと俺の腰をなぞり、薄い腹を確かめているようだ。
「閨の用意はここからだと手が届かないんだが……ん」
無粋なことを言う唇を自分の口で塞ぐ。
いらない、とキスの合間に呟くと、アラン様がダメだと目を細める。
「最初は痛いと聞く。マーレが苦しいことはしたくないんだ」
「苦しいのも痛いのも最初だけだって聞きました」
「その最初が今だろう……最初すら、マーレには苦しい想いをさせたくない」
すっかり一思いにアラン様を受け入れようと思っていた俺は、首を横に振って更にトラウザーズの前を寛げるために手を伸ばした。
「マーレ、一度、喉をうるおさせてくれ」
やんわりと俺の手を止めたアラン様は、寝転がっていた上半身を起こし、酒の入ったグラスに手を伸ばした。
俺を乗せて腰に片腕を回したまま、グラスに口をつける。
「マーレももっと飲まないか」
「飲みます」
アラン様の口から滴る雫を目で追いながら答えると、アラン様はもう一度グラスに口を付け、酒を口に含んだ。
グラスをテーブルに置くと、その唇を重ねる。
口の中に濃厚なアルコールの香りが充満し、舌を焼くような液体が流れ込んでくる。
それを飲み下せば、心地よい酩酊感と甘い痺れが身体を満たした。
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