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23、陛下とアラン様の違いは
しおりを挟む陛下と第一王子は親方の言葉に目を剥いた。
「つ、番……? マーレ殿は、番はいないはずでは……」
「わしと水の精霊王様と火の精霊王様とフェンリル様が証人じゃ。主はもう番を得ておる。主にそこの王子を宛がおうとしたら、ここの城が壊滅するぞ。勿論どれだけ金を積まれようとわしらは一切修繕には手を貸さん」
呆然と呟いた陛下に、親方が真顔で答える。
さっき決まったばっかりだけどね。
そうだ。アラン様がああやって俺に誓ってくれたから、もう理不尽な第一王子の求愛も陛下の婚約打診も意味がないんだ。連れ込まれることもないんだ。
嬉しくなってちらりとアラン様を見れば、アラン様も俺の方を見て小さく微笑んでくれた。その笑顔に、アラン様が俺を守るって、こういうことだったんだとじわじわ胸が温かくなる。
「そんな届け出は私は受理していない」
陛下が表情を取り繕ってそんなことを言っているけれど、先に幻獣様たちに認証されちゃったから届け出なんて後でも全然問題ないんだ。
「まだ出してないんで受理するわけはないですよね」
「ああ。きちんとお互いの気持ちを確認したのは今朝だからな」
ね、と顔を合わせて笑い合えば、陛下がぐらりと傾いだ。
それを慌てて第一王子が支える。
「父上、しっかり!」
「あ、あ、相手は……よりによってアランか……?」
手で額を支えながらじろりとこっちを見る陛下は、この部屋に入って来た時の爽やかさはどこにもなかった。
「そうです。書類は後日提出しますね。受理お願いします」
「受理……アランとヴィーダ家の婚姻の受理だと……?」
ギリィ、とこっちまで音が聞こえそうなほど、陛下が奥歯を噛んでいる。
どうしてそこまでアラン様を嫌うんだろう。たった二人の兄弟なのに。
「たとえ陛下が私たちの婚姻を受理されても、私が王宮に返り咲くことはなく、ただマーレと北を支えていきたいと思っているだけです。陛下が懸念するようなことはありませんので、心配なく」
「受理はする……っ!」
アラン様の言葉に、陛下は叫ぶように答えた。
そして、やっぱり恐ろしい形相でアラン様を睨みつけた。
「リヒトは二人に謝罪し、業務に戻れ」
「は? しかし父上……!」
「これは国王命令だ。早くしろ」
「……」
睨みつけたまま、陛下は第一王子に命令を下した。
第一王子は、普段絶対に見せることのない陛下の顔を見て、そのあまりの形相に戸惑いを隠せないようだった。
反論しようとしたところを制され、一度口をつぐむ。そして小さく息を吐くと、俺たちにほんの少しだけ頭を下げた。
「……突然の訪問、申し訳なかった……」
俺たちの返事を聞くこともなく、陛下の様子だけを気にしながら、第一王子が応接室のドアに向かう。
あれだけ俺の話を聞かなかった第一王子も、さすがに今の陛下の状態には何か感じるものがあるらしい。
逃げたな、というのが、俺の感想だった。
パタン、と第一王子が部屋を出ていったドアの音がすると、陛下は物凄く盛大に溜息を吐いた。その後、目を瞑って動かなくなる。まるで自分を落ち着かせようとしているようだった。
激高のままに怒鳴ることをしない陛下は、こういうところは少し見習うべきところかもしれない。
目を開けた陛下は、まだ少し憔悴した様子が残っていたけれど、先ほどの激情は見えなかった。
「……丁度ここに、幻獣殿もいることだ。一度、聞いてみたかった」
開いた口から飛び出した言葉は、俺たちに対しての何かではなくて、親方に向かっていた。
親方も「わしでよければ」と居住まいを正している。
「アランがヴィーダ家と婚姻関係を結ぶということは、私が国王失格でアランが国王たり得る人物だということだろうか」
「まずはその言葉が、器の違いを表しておるの」
陛下の問いには答えず、親方は楽しそうにガハハハと笑い声をあげた。
「北のはヴィーダ家と婚姻関係になったのではない。うちの主と添い遂げるということじゃよ」
「どう違うと?」
「わからんかの。あんたは我が主を自身の地位を盤石にするためにいいように使おうとした。北のは主と共に歩もうとした。主が心を動かされる方など、決まっておろうが」
「しかしアランはもう王族から外れ、王位継承権も」
「じゃから、わしらが知ってあんたらの盟約は、そんな人間の地位なんかとは違うんじゃよ」
わからんかのう、と親方が立派な髭を手で撫でる。
きっとわかっていてもわかりたくないんだと思うよ。特に地位とか権力とかに拘っちゃう人たちは。
アラン様と二人、黙って親方と陛下のやり取りを聞いている。
「盟約はの、初代様の血を継ぐ者のことを指しておるんじゃよ。だったら、あんたと血の繋がる北のは十分盟約を果たせるんじゃよ。勉強不足じゃの」
まったくまったく、と呆れたように肩を竦める親方の言葉は、陛下の何かを突いたらしい。
目に見えて陛下の肩が下がった。
「昔から、王宮に出入りする幻獣殿は私よりアランを可愛がった。それはアランがより濃く初代様の血を引いているからだろうか」
「あんたと北のは同じ親から出て来てるんじゃろ。濃いのなんのと、そんな馬鹿なことはないの」
「だったら、なぜ」
「そりゃ、北のの性根が幻獣共の好みドンピシャだからだ」
親方の返答は想像と違ったのだろう。陛下は何を言われたのか理解できないような顔つきで、「……は?」と声を上げた。
「好み……?」
「あんたらもあるだろう。好みというものが。わしらにもある、ただそれだけじゃよ。あんたの性根はわしらの好みからは外れるっちゅうことじゃな」
「じゃあ、じゃあどんなのが幻獣殿たちの好みにあたるのかは、聞いてもいいだろうか」
「まず姑息な手段を使うような者はダメじゃな。あと、魔力が濁ってる者もちょっと近付きたくないの。いつでも相手を貶めようと画策する者は顔に出るんじゃよ。それがわしらの目にはとても醜く映るんじゃ」
陛下はそっと親方から視線を外した。
アラン様を嵌めて蹴落としたことからして、既に幻獣たちに嫌われる行為だと言われているようなものだから。
「親方殿から見て、私は醜いだろうか……」
王子たちがいなくなったからだろうか。先程まではちゃんと王様の顔をしていたのに、今は少し疲れたおっさんに見える。おっさんと言っても顔の造作はいいので青年と言ってもいい見た目なんだけど。
若いうちに先王様が崩御して、あれよあれよという間に即位したというから、もしかしたら大変に苦労してきたのかもしれない。
「北のにした仕打ちは酷かったの。気持ちはわからんでもないが、先王さんがいいやつじゃったから余計に、わしらは皆がっかりしたぞ」
「そうか……これから気持ちを入れ替えたら幻獣殿たちも少しは私を認めてくれるだろうか」
どうかのう、と親方はニヤリと笑った。
子フェンたちはいい子で親方の足元で座っている。チラチラこっちを見ているから、何か言いたいんだというのはわかるけど、今は親方が陛下を叱っている最中だからと指で合図する。
「まずはしっかりと償いをすることだな。それ、その手に持ってる紙。しっかり払えよ。我が主はご立腹じゃからの。それと主に害を成そうとした者たちの処分が甘すぎる。そこらへんはあんたの仕事じゃろうが。主を不快にさせるでないわ」
「ああ、考慮する」
「次に来た時にまたあのクソ坊主が同じ場所に立っていたらどうなるかわかっているんじゃろうな?」
じろりと親方から睨まれて、陛下は神妙に頷いた。
その殊勝な態度が演技なのか、本気なのか、俺には全く分からなかった。
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