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20、決戦前の大勝利
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そしてやってきました呼び出しの日。
陛下のご温情で大事にはしたくないからと謁見の間じゃなくて公にならない応接室に呼び出すそうなんだけど、何やら画策の匂いがする気が。
なんて思いながら用意をして玄関に向かうと、そこには俺が今着ている服と同じ色の服を身に纏っているアラン様と家族たちがいた。
「うわ、アラン様その色めっちゃ似合う! かっこいい!」
思わず叫ぶと、アラン様はフッと目元を綻ばせた。
「マーレもとても素敵だ。ラフな格好も好きだが、そういうきっちりとした格好もなかなかだな」
微笑をしながらの言葉に、うちの家族の視線が俺に突き刺さった。
「ラフな格好で仕事を……?」
「グラシエール公、もしやうちの息子は北で粗相をやらかしているのでは……」
そうくるよな。正解。一応シャツとかは着るけれど、そんなきっちりした上着は持ち歩くだけで羽織ることなんてほとんどないから。
何せ、一年の半分は外回りをしてノームたちと一緒に村人と戯れるからね。しっかりした服を着ると逆に仕事が出来ないんだよ。
「ヴィーダ公、北ではこのような服を着ていては、仕事にならないのだ。馬車に乗り村々を歩き、この目で領地を見ないとひとりひとり領民を少しずつこの手から取り零してしまうから。北は厳しい。だからこそ、このような服など些末事なのだ」
「そうでしたか。うちのは迷惑をかけているわけではないのですね」
「それどころか、彼が来てくれてから、嬉しい笑いが止まらない。凍える恐ろしさを味わわずに雪解けを迎えられることのどれほど幸せなことか。私は、マーレが来てくれて、初めて安穏とした夜明けを迎えた。その夜明けは、総てマーレが導いてくれてことだ」
「アラン様大げさすぎ!」
アラン様の言い方についついツッコむと、アラン様が声を上げて笑った。
アラン様はあんなことを言っているけど、俺がやったのはノームに魔力を渡したことのみ。あとは新人がやるような書類整理と、親方と領事館との橋渡しだけ。それが何やら大仰な業績になってる気がする。
「大げさなものか。ようやく雪が融けたかと思うと、報告されるのは村が減ったことと、領民が減ったこと。気が滅入るなんてものじゃない。雪解けは待ち遠しいけれど、それ以上にもう雪解けを迎えたくないという思いがずっとあった」
「あー……それは」
滅茶苦茶いろんな人から聞いたけどね。花の季節は憂鬱だって。人が減る時期なんだって。雪の季節に亡くなっていくけれど、それを実感するのは花の季節だから。人との別れの季節なんだって。
聞いているだけで胸が痛いのに、それを毎年一番実感していたアラン様の悔しさはどれほどのものだったんだろうって、想像しただけで辛かった。
「だからマーレ……陛下に何と言われようと、また北に戻って来て欲しい」
そっと手を重ねられ、頬が緩む。
純粋に、嬉しいと思う。
「もちろん。既に北は俺の住処。いくらでも魔力を注ぐ所存」
「ちがう、そうじゃないんだ」
だからまだ雇っていてね、と言おうとしたところで、アラン様が首を横に振った。
「魔力がとか、ノームがとか、ヴィーダ家がとか、そういうのは些末事だ。私は、マーレがすぐ隣で笑っていてくれるのが、一番心が安らぐ。無理せず、私の横で笑っていて欲しい」
「えっと……? 魔力じゃ、ない……?」
「マーレ自身が欲しい」
「こここ告白みたいですね!」
王宮に行く朝ですよ!
しかもすでに用意万端で、家族たち皆見送りに出て来てる状態!
それでこのセリフって、家族たちに誤解されるよ?
というか、俺がいいように誤解しちゃうよ?
なにせ俺はアラン様に惚れてるんだから。
固まってじっとアラン様を見上げていると、アラン様は俺の手を取ったまま、父さんに顔を向けた。
「マーレの伴侶は、私ではだめだろうか。口約束だけでもしてもらえたら、王宮でも守ることができる。王族はヴィーダ家に無理強いをすることは出来ないから」
「それを決めるのは、マーレ自身です。私は父として、マーレの幸せを一番に考えておりますので」
驚いて口をパクパクしている俺の視線の先では、父さんがしれっとした顔でそんなことを言い出した。
待って、それ、俺を嫁に出すみたいじゃん。待って。
「嫁でも伴侶でも部下でも、呼び方は何でもいいんだ。私はマーレがこれ以上兄と甥達に振り回されないように、心穏やかにいられるようになるのであれば、なんでもいい。マーレ、私と共に、北の地に骨を埋めてくれないだろうか」
「北はめっちゃ好きだから、ずっといる予定ですけど! アラン様、話が飛びすぎでしょ」
プロポーズ! それプロポーズだから!
思わずアワアワツッコむと、母さんが俺の背中をポンと叩いて正気に戻してくれた。
「マーレ、いい? これはなかなかにいい案よ。あなたの魔力での約束は、幻獣王様の盟約をひっくりかえすまではいかなくても、とても強い契約になるわ。見届け人には、私、フェニックス、フェンリル、そして、ノームの首領がなる。あなたグラシエール公が好きなんでしょ。ここは男らしくバーンと将来の約束しちゃいなさい! 私たちも盟約を破ることなく安泰、あなたは幸せ、そしてそのことにあいつらは口出すこともないわ。最高じゃない」
「母さん……」
ニコニコする母さんは、父さんに「直球過ぎるよ」とツッコまれても気にせず、幻獣様たちに合意を取り付けている。
そうだね。一石四鳥くらいだね。
俺の気持ちは追っつかないけどね!
「アラン様はそれでいいんですか? 王宮で俺の身を守るためだけの伴侶とかだったら俺絶賛落ち込みますけど」
「私の血族がマーレに今までどれほどに酷いことをしたのかは知っているが、そのせいではない。いつも言っているだろう、マーレは魅力的だと。私の言葉はそんなに信用できないか?」
「魅力的って……俺、そんなこと言われ慣れてないから」
「奇遇だな。私も言い慣れていない」
「いや、そこで奇遇とか言われても……」
どうだろうか、と繋いだままだった手を持ち上げられ、そこに薄い唇をそっと近付けられる。
言われ慣れてない人の仕草じゃない。色っぽすぎる。胸が痛い。そういう仕草の一つ一つが好きだなって思う俺はもう末期。
顔から火を噴きそうなほどに熱くなりながら、俺は物凄く小さい声で「嬉しい」と呟いた。
さっきアラン様と交わした口約束の伴侶契約。
それは母さんたちの威光を持って幻獣界で広く流布されることになった。
こうなると、王家からの口出しは難しい。うちでじゃなくて、幻獣界でのことだから。
アラン様と同じ馬車に詰め込まれながら、俺はどうしてこうなったと王宮に着くまでひたすら首を捻り続けた。
そういう色っぽいことなんて、そんななかったよな?
前方から『マーレサマニブーイ!』という鳴き声が聞こえてきた気がしたけれど、気のせい気のせい。
王宮に着くと、俺とアラン様にそれぞれ案内が付いた。
「二人が行くわけではないのか。呼び出しは、私がマーレの上司であることで責任が生じるからという内容だが。その場合、別々に呼ばれるのはおかしくないか」
「そう言われましても、陛下からのご指示にございますので、どうか」
「どうかも何も、こちらに落ち度はほぼない。先触れもよこさず乗り込み目も回るほど忙しい時期にこちらの手を煩わせた甥は、どのような処遇を受けたのだ?」
「いえ、それは」
「ほう、もしや私たちの話を元に処遇を決めると。なるほど、だったらまだ処罰を受けていないことにも納得できよう」
アラン様は最初から喧嘩腰だった。
カッコいい。
俺が口出す隙も無いくらい、案内役の人をコテンパンにしていた。
同じ部屋に通さないならここから動かないというアラン様に困った案内が陛下の所に確認に走ったくらいだ。
カッコいい。
周りには騎士たちもいたけれど、さすがに俺とアラン様に剣を向けるようなバカなことはしないで、ただやり取りを見守っていた。でも何やら見たことがあるような奴もいるから、もしかしてここで何かをしたら俺に城を壊されると思ってる人がいるのかもしれない。その節は城の補修代ありがとうございました。懐あったかいです。
そんな目で見ていたら、目を逸らされた。
フェンリル様三度目の爆発は、第一王子が俺を部屋に連れ込もうとしたのを風の噂で聞いた兄様が怒り狂ってその怒りをフェンリル様が代わりに城にぶつけたことによる損害だったらしいからね。勿論俺を担いだあいつからも請求はさせてもらった。取り立ては母さんがしたらしいけど、館が水に埋もれたのかどうかはわからない。
ここで立っているってことは、一応近衛騎士として身を立ててるってことか。
実質お咎めないんだね。甘すぎる。それだけ俺が軽んじられてたってことなんだよな。
吐きそうになる溜息を呑み込んでいると、そっとアラン様が俺の腰に腕を回して、寄り添ってくれた。
陛下のご温情で大事にはしたくないからと謁見の間じゃなくて公にならない応接室に呼び出すそうなんだけど、何やら画策の匂いがする気が。
なんて思いながら用意をして玄関に向かうと、そこには俺が今着ている服と同じ色の服を身に纏っているアラン様と家族たちがいた。
「うわ、アラン様その色めっちゃ似合う! かっこいい!」
思わず叫ぶと、アラン様はフッと目元を綻ばせた。
「マーレもとても素敵だ。ラフな格好も好きだが、そういうきっちりとした格好もなかなかだな」
微笑をしながらの言葉に、うちの家族の視線が俺に突き刺さった。
「ラフな格好で仕事を……?」
「グラシエール公、もしやうちの息子は北で粗相をやらかしているのでは……」
そうくるよな。正解。一応シャツとかは着るけれど、そんなきっちりした上着は持ち歩くだけで羽織ることなんてほとんどないから。
何せ、一年の半分は外回りをしてノームたちと一緒に村人と戯れるからね。しっかりした服を着ると逆に仕事が出来ないんだよ。
「ヴィーダ公、北ではこのような服を着ていては、仕事にならないのだ。馬車に乗り村々を歩き、この目で領地を見ないとひとりひとり領民を少しずつこの手から取り零してしまうから。北は厳しい。だからこそ、このような服など些末事なのだ」
「そうでしたか。うちのは迷惑をかけているわけではないのですね」
「それどころか、彼が来てくれてから、嬉しい笑いが止まらない。凍える恐ろしさを味わわずに雪解けを迎えられることのどれほど幸せなことか。私は、マーレが来てくれて、初めて安穏とした夜明けを迎えた。その夜明けは、総てマーレが導いてくれてことだ」
「アラン様大げさすぎ!」
アラン様の言い方についついツッコむと、アラン様が声を上げて笑った。
アラン様はあんなことを言っているけど、俺がやったのはノームに魔力を渡したことのみ。あとは新人がやるような書類整理と、親方と領事館との橋渡しだけ。それが何やら大仰な業績になってる気がする。
「大げさなものか。ようやく雪が融けたかと思うと、報告されるのは村が減ったことと、領民が減ったこと。気が滅入るなんてものじゃない。雪解けは待ち遠しいけれど、それ以上にもう雪解けを迎えたくないという思いがずっとあった」
「あー……それは」
滅茶苦茶いろんな人から聞いたけどね。花の季節は憂鬱だって。人が減る時期なんだって。雪の季節に亡くなっていくけれど、それを実感するのは花の季節だから。人との別れの季節なんだって。
聞いているだけで胸が痛いのに、それを毎年一番実感していたアラン様の悔しさはどれほどのものだったんだろうって、想像しただけで辛かった。
「だからマーレ……陛下に何と言われようと、また北に戻って来て欲しい」
そっと手を重ねられ、頬が緩む。
純粋に、嬉しいと思う。
「もちろん。既に北は俺の住処。いくらでも魔力を注ぐ所存」
「ちがう、そうじゃないんだ」
だからまだ雇っていてね、と言おうとしたところで、アラン様が首を横に振った。
「魔力がとか、ノームがとか、ヴィーダ家がとか、そういうのは些末事だ。私は、マーレがすぐ隣で笑っていてくれるのが、一番心が安らぐ。無理せず、私の横で笑っていて欲しい」
「えっと……? 魔力じゃ、ない……?」
「マーレ自身が欲しい」
「こここ告白みたいですね!」
王宮に行く朝ですよ!
しかもすでに用意万端で、家族たち皆見送りに出て来てる状態!
それでこのセリフって、家族たちに誤解されるよ?
というか、俺がいいように誤解しちゃうよ?
なにせ俺はアラン様に惚れてるんだから。
固まってじっとアラン様を見上げていると、アラン様は俺の手を取ったまま、父さんに顔を向けた。
「マーレの伴侶は、私ではだめだろうか。口約束だけでもしてもらえたら、王宮でも守ることができる。王族はヴィーダ家に無理強いをすることは出来ないから」
「それを決めるのは、マーレ自身です。私は父として、マーレの幸せを一番に考えておりますので」
驚いて口をパクパクしている俺の視線の先では、父さんがしれっとした顔でそんなことを言い出した。
待って、それ、俺を嫁に出すみたいじゃん。待って。
「嫁でも伴侶でも部下でも、呼び方は何でもいいんだ。私はマーレがこれ以上兄と甥達に振り回されないように、心穏やかにいられるようになるのであれば、なんでもいい。マーレ、私と共に、北の地に骨を埋めてくれないだろうか」
「北はめっちゃ好きだから、ずっといる予定ですけど! アラン様、話が飛びすぎでしょ」
プロポーズ! それプロポーズだから!
思わずアワアワツッコむと、母さんが俺の背中をポンと叩いて正気に戻してくれた。
「マーレ、いい? これはなかなかにいい案よ。あなたの魔力での約束は、幻獣王様の盟約をひっくりかえすまではいかなくても、とても強い契約になるわ。見届け人には、私、フェニックス、フェンリル、そして、ノームの首領がなる。あなたグラシエール公が好きなんでしょ。ここは男らしくバーンと将来の約束しちゃいなさい! 私たちも盟約を破ることなく安泰、あなたは幸せ、そしてそのことにあいつらは口出すこともないわ。最高じゃない」
「母さん……」
ニコニコする母さんは、父さんに「直球過ぎるよ」とツッコまれても気にせず、幻獣様たちに合意を取り付けている。
そうだね。一石四鳥くらいだね。
俺の気持ちは追っつかないけどね!
「アラン様はそれでいいんですか? 王宮で俺の身を守るためだけの伴侶とかだったら俺絶賛落ち込みますけど」
「私の血族がマーレに今までどれほどに酷いことをしたのかは知っているが、そのせいではない。いつも言っているだろう、マーレは魅力的だと。私の言葉はそんなに信用できないか?」
「魅力的って……俺、そんなこと言われ慣れてないから」
「奇遇だな。私も言い慣れていない」
「いや、そこで奇遇とか言われても……」
どうだろうか、と繋いだままだった手を持ち上げられ、そこに薄い唇をそっと近付けられる。
言われ慣れてない人の仕草じゃない。色っぽすぎる。胸が痛い。そういう仕草の一つ一つが好きだなって思う俺はもう末期。
顔から火を噴きそうなほどに熱くなりながら、俺は物凄く小さい声で「嬉しい」と呟いた。
さっきアラン様と交わした口約束の伴侶契約。
それは母さんたちの威光を持って幻獣界で広く流布されることになった。
こうなると、王家からの口出しは難しい。うちでじゃなくて、幻獣界でのことだから。
アラン様と同じ馬車に詰め込まれながら、俺はどうしてこうなったと王宮に着くまでひたすら首を捻り続けた。
そういう色っぽいことなんて、そんななかったよな?
前方から『マーレサマニブーイ!』という鳴き声が聞こえてきた気がしたけれど、気のせい気のせい。
王宮に着くと、俺とアラン様にそれぞれ案内が付いた。
「二人が行くわけではないのか。呼び出しは、私がマーレの上司であることで責任が生じるからという内容だが。その場合、別々に呼ばれるのはおかしくないか」
「そう言われましても、陛下からのご指示にございますので、どうか」
「どうかも何も、こちらに落ち度はほぼない。先触れもよこさず乗り込み目も回るほど忙しい時期にこちらの手を煩わせた甥は、どのような処遇を受けたのだ?」
「いえ、それは」
「ほう、もしや私たちの話を元に処遇を決めると。なるほど、だったらまだ処罰を受けていないことにも納得できよう」
アラン様は最初から喧嘩腰だった。
カッコいい。
俺が口出す隙も無いくらい、案内役の人をコテンパンにしていた。
同じ部屋に通さないならここから動かないというアラン様に困った案内が陛下の所に確認に走ったくらいだ。
カッコいい。
周りには騎士たちもいたけれど、さすがに俺とアラン様に剣を向けるようなバカなことはしないで、ただやり取りを見守っていた。でも何やら見たことがあるような奴もいるから、もしかしてここで何かをしたら俺に城を壊されると思ってる人がいるのかもしれない。その節は城の補修代ありがとうございました。懐あったかいです。
そんな目で見ていたら、目を逸らされた。
フェンリル様三度目の爆発は、第一王子が俺を部屋に連れ込もうとしたのを風の噂で聞いた兄様が怒り狂ってその怒りをフェンリル様が代わりに城にぶつけたことによる損害だったらしいからね。勿論俺を担いだあいつからも請求はさせてもらった。取り立ては母さんがしたらしいけど、館が水に埋もれたのかどうかはわからない。
ここで立っているってことは、一応近衛騎士として身を立ててるってことか。
実質お咎めないんだね。甘すぎる。それだけ俺が軽んじられてたってことなんだよな。
吐きそうになる溜息を呑み込んでいると、そっとアラン様が俺の腰に腕を回して、寄り添ってくれた。
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