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11、アラン様も子フェンは可愛い

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 視察から一週間後。
 フェンリル様に宛てた手紙の返事が来たので、夜に寛いでいるアラン様と後ろに控えるサウスさんの元を強襲した俺。
 
「サウスさん。子フェン三匹の養育確保しましたよー。あと、フェンリル様から養育費出るって言ってました。だから可愛がってねって」
 
 俺は手紙の内容をサウスさんに教えた。
 養育費の件は、母さんが手を回したらしい。子供を預けるからには養育費を払わないといけないとかなんとか。
 手紙には兄さんも無事王宮を辞したって書かれていた。
 揉めに揉めたらしいけれど、俺がいなくなってからも王宮は二度ほど壊れ、まだどちらも直せていないらしい。通常であれば半年ほどはかかるから、王宮の方が困っていたらしい。
 俺がいなくなってからって……あれえ、まだ一週間経ってない……
 まあ、それで困った陛下が苦渋の末、兄様たちの辞職を認めたんだとか。代わりに誰か来ないと盟約が……みたいに盟約をちらつかされたけれど、母さんが物凄い笑顔で、そこは何の問題もありません、と言い切ったらしい。理由を訊かれたけれど、私が問題ないと言っているのに何か文句ありますの? とそれはもう迫力満点で使者を追い返したらしい。
 まあ、俺がここに居るからね。王族に付いてるからね。
 最終的には皆で北に来るのがうちでは目標になっている。
 ただ、ネーベルはどうあっても王都かヴィーダ家の領地に残ることになるんだって。そっちの方がフェニックス様には住みやすいからね。フェニックス様が寒いのは嫌、と口を尖らせたらしい。今は伯父さん伯母さんたちが治めてくれている温かい場所がうちの領地だ。勿論伯父さん伯母さんたちの契約獣たちも大活躍している。
 ちなみに水の精霊王の母さんは雪は好きなので、北に来たいと言っているらしい。父さんが寒がりだけど、母さん優先だから問題なし。
 円満に北に来れればいいんだけど、皆でぞろぞろ移動するとさすがに陛下が何をするかわからないので、まずは手始めに子フェンを育てつつ、うちから少しずつ資金援助して北を発展させることにしたらしい。というのがすべて手紙に書かれていた。
 アラン様には手紙ごと渡して、うちの現状を知ってもらった。
 手紙を読み終えたアラン様が眉間にしわを作って深い深い溜息を吐いた。

「こちらに身を寄せてから陛下の動向にはある程度は注視していたけれど、ここまでヴィーダ家に嫌われていたとは……」
「いやまあうん……」

 同じ血を分けた兄弟が最悪だっていう場合、ほんと困るよね。うちは兄弟超優秀だから俺が困ることはないけど。
 陛下のことは、俺は何一つフォロー出来ないし、母さんは蛇蝎の如く嫌ってるからなあ。
 殿下たちの行動もアラン様は目の前で見ているから、アラン様自身もお兄さんのフォローを入れられないらしい。むしろアラン様は被害者。

「という訳で、まずは親方を呼んで、子フェンを三匹連れて来て貰いますね」

 まだ手紙を前にうんうん唸っているアラン様に笑顔を向けると、俺は親方を召喚した。
 そのすぐ横には尻尾をはち切れんばかりにブンブン振っている子フェンが三匹いる。

『ユキスキ!』
『ココスム!』
『ゴハンハユキ!』
「こら、まずは挨拶じゃろ」

 親方にツッコまれ、子フェンたちは揃ったように一斉に頭を下げた。可愛い。
 後ろで控えていたサウスさんは頽れるようにしゃがみ込むと、床に両手を突き悶えている。

「子フェンたち。この人達がお前らの主だ。フェンリル様から言われただろ。いい子で言うことを聞くんだぞ」
『ガッテンショウチ!』
『オレイイ子!』
『イウコトキク!』

 ブンブン尻尾を振ってアラン様の周りをグルグル回りだした子フェンたちに、みけんにしわのあったアラン様も表情を和ませた。
 一匹を捕まえ、持ち上げ、顔の前に持ってくると、「名は」と子フェンに訊く。

『オレナナゴウ!』
『オレハジュウイチゴウ!』
『オレジュウハチゴウ!』
「番号……名はないのか」

 番号で答えた子フェンたちに呆然とするアラン様に、俺が苦笑しながら付け足す。

「主になる人が名付けるのが通例です。が、普通はフェンリルの子供たちと主従契約をする人はあんまりいないんですけどね。血族でもない限り。でも俺とフェンリル様が認めてるんで大丈夫です。良ければアラン様が名付けてあげてください」
「そうなのか……疎くてすまない」

 アラン様はじっと三匹を見つめると、「オニキス、シトリン、ラズリ」と一匹一匹を抱き上げて名を付けた。
 皆、目の色と同じ鉱石の名を貰ったようだ。それこそさっきの比ではないくらいに喜んでいる。尻尾がもげないか心配になるほどぶんぶんと振って。

『オレオニキス!』
『オレシトリン!』
『オレラズリ!』

 キャンキャン大喜びする子フェンたちに、アラン様は真面目な顔で「よく聞け」と言葉を掛けた。

「後ろにいるサウスがお前たちの世話をする。言うことをよく聞けばきっと可愛がってもらえるから、しっかりな」

 わかった! と返事した子フェンたちは、あまりの可愛さにまだ悶絶しているサウスさんに突撃していき、サウスさんの顔を蕩けさせていた。あれはきっということを聞かなくても可愛がるやつだ。

「サウスさん。子フェンたちは基本餌は雪とか魔獣とか魔力があるもの。雪が解けたら綺麗な雪解け水も食事になります。一緒に山まで行って魔物を狩ったり水を飲ませるのもアリです。子フェンたちも運動が必要ですから。もし手が空かない場合は親方たちに任せましょう。それと、寝床は既に親方が用意してます。後で持ち込んでくれるので、子フェンたちの部屋をお願いします」

 子フェンたちにたかられてデロデロなサウスさんに、聞いているかわからないけど、と一応飼い方説明をすると、サウスさんからきちんと了承をもらえた。

「それと、子フェンたちも幻獣なのでお酒は好きで、飲むとヘロヘロになって甘えまくるそうです」
「わかりました酒蔵発展でございますな。善処しましょう」

 今までで一番いい返事をして、サウスさんは三匹の子フェンとと共に部屋を出て行った。
 養育費は毎月金貨百枚だそうだ。
 フェンリル様のポケットマネーで、酒蔵を沢山作れという伝言を別口で貰ってしまった。
 きっとああ言えばサウスさんは酒蔵を一番に増設するだろうとほくそ笑んでいると、アラン様がくすっと笑った。

「マーレ殿はアレだな」
「殿はつけない」
「……マーレは自分のことを平凡で取り柄がないと言っていたが、なかなかに人を使うのは上手いな」
「それ、褒められてます? 褒められてると思いますね! やった、アラン様に一つ認められちゃった?」
「認めるも何も……マーレは自分の魅力に気付いていないのか」
「魅力……? そんなもん俺にないでしょ」

 魅力なんて言ったら、それこそアラン様でしょ。と口を尖らせる。
 民に寄り添い領地を愛し、領地のために奮闘するアラン様はとても尊敬できる人だ。
 今の王族にはこんな魅力的な人は他にいない。
 
「その親しみやすい性格は、少なくとも私にはとても眩しいものだ」
「庶民的って言われますね」
「それとマーレのよく動く表情は見ていて飽きないし、笑顔を絶やさないのでこちらまでつられてしまう」
 
 そう言ってアラン様もニコッとはにかんだ。
 その笑顔はとても温かみがあり、俺まで嬉しくなってしまった。
 
「とりあえず、雪が解けたら一緒に親方と共に山まで視察しましょうね。子フェンたちに連れられて。ああ見えてちゃんと馬車一台や二台引けますので」
「そ……え……大きさ、膝に乗るくらいだったが……」
「フェンリル族ですから」

 にこやかにそう言うと、アラン様はそっと扉の方を向いて、「サウスは大丈夫か……?」とちょっと心配げな顔をした。
 



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