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2、二次災害。
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あとは任せといてと兄さんに伝えると、兄さんは母さん似の麗しい顔を顰めたまま、仕事に戻るからとフェンリル様を伴って建物内に戻っていった。
兄さんを見送ってからノームたちに近付くと、横の方には魔法で作ったレンガが重ねられ、親方が設計図を描いた紙を手に皆に指示を出しているところだった。
「どれくらいで出来そう?」
「そうさな、この規模なら、この人数で夕刻までには出来上がるじゃろ」
「流石だね」
感嘆の声を上げると、親方はフンと鼻息荒くして、「これくらい当たり前じゃ」とそっぽを向いた。
崩れた建物の中を覗いてみると、ノームたちの手によってここで働く人たちが近寄れないようにされていて、遠巻きにこっちを見ている人がちらほらいた。
上を見ると、二階三階部分まで危ない状態になっている。ノームたちは壁をひょいひょいと登って、中に入っては出て来るので、上の方もまた近寄れないようにしているのがわかる。
「これで人は近付かんだろうから、始めるとするか」
親方の声に、三階の崩れた壁からノームが二人顔を出した。オッケーのハンドサインらしきものを出している。
「気を付けて降りてきなよー」
声を掛けると、二人とも嬉しそうに「わかったー」と手を振ってから、壁に取り付き、下りてこようとしたところで、ピシ、と嫌な音がした。
危ない、と声を掛ける間もなく、その上のレンガがボロリと崩れる。それからは一気にガラガラガラと一角が崩れ落ち、ノームたちが巻き添えになって、目の前に新たなる瓦礫の山が出来上がった。
「大丈夫か!」
慌てて皆で駆け寄って、瓦礫を除けていくと、顔を出していたノーム二人と、もう一人が瓦礫の中から現れた。
慌てて瓦礫を風の魔法で吹き飛ばし、その人を救い出す。
今の崩落に巻き込まれたらしい。
助けた男は、ううう、と顔を顰めて呻いている。良かった、生きてた。
「大丈夫ですか! 意識ありますか! どこか痛いところは⁉」
半身を抱き起こして声を掛けても、男は答えられないのか、呻き声しか口から飛び出さない。
四階から落ちて生きていることが奇跡に近いので、仕方ないのかもしれない。
ざっと身体を見たところ、沢山の小さな傷はあるし、立派な服はボロボロになっていたけれど、大きな怪我はなさそうだ。
すぐ近くにいたノーム二人を見れば、こちらも転がったまま呻いていた。
「大丈夫?」
「ううう……ダメだ。最後に酒をくれ……」
「今日はもう酒飲んで寝ていたいくらい痛い……酒を飲ませろ……」
大丈夫なようなので、男に向きなおる。
ほとんど王城には来たことがないので、多分この人とは面識がないと思う。
けれど、サラリとした銀の髪が、どこかの誰かたちを彷彿とさせる。
そう、この国において、銀の髪というと、王族特有なのだ。
……王族かぁぁぁ……
王族というとどうしても第一王子と第二王子が頭にちらついてしまって、もしかしてこのまま放っておいた方がいいのかも、なんて思ってしまう。けれど、こんな二次災害を放置して、この人の状態が悪くなっても心情的にあまりよろしくない。
仕方ない、と溜め息を吐いて、あまり上手ではない治癒魔法を使う。
外傷がなくても中身が傷んでいたらことだよな。
俺は魔法を掛けながら、瓦礫を運んでいたノーム一人に声を掛けた。
「ごめん、王城の治癒師を呼んできてくれないか?」
「はいよー。誰か知らんから適当でええかの」
「適当じゃだめでしょ」
「んじゃメルクリオ殿に声かけて来るかの」
「ん、よろしく」
頼まれたノームは目の前で光となって消えていった。
他のノームたちが瓦礫の片付けを始めたので、身体強化の魔法を掛けて男を抱き上げ、邪魔にならない場所に移動することにした。
「……君は……っ」
「あ、起きました? 今ちょっと安全な場所に移動するんで、そのまま大人しく運ばれていて下さいね」
俺に横抱きで運ばれていることに気付いた男が身動ぎしたので、とりあえず注意すると、男はハッとしたように身体を固くした。
少しだけ顔を顰めたところを見ると、まだどこか痛いところがあるんだろう。
修繕現場から少し離れた木陰にそっと男を下ろすと、男は自力で身体を起こした。
「もしかして君が私を助けてくれたのか? 崩落に巻き込まれた、のだよな」
自分の姿を見下ろして、男が破れた服に眉を寄せる。
「そうですね。四階から落ちましたね。痛いところまだあります? 簡単な治癒しかできないので、もうすぐ来る医者に見せてもらえると」
俺の言葉に、男は自分が落ちたらしい場所を見上げ、ほんの少しだけ眉を顰めた。
「……私はよく助かったな」
「一応クッションがいたので」
「クッション?」
俺の言葉に男が首を捻るので、寝転がっているノームを指さすと、男は慌てて立ち上がり、足を引き摺りながら二人に近付こうとした。
それを慌てて止める。
「あの二人は大丈夫なんで」
「でも私のせいで怪我をさせてしまったのでは……」
「もし気になるようでしたら、後で酒を差し入れていただけるととても元気になります」
「酒……? わかった」
あまり納得していないような顔で、男は頷いた。おお、王族なのに素直。
あの王子二人から感じる打算的なものや見下す雰囲気が全くない。
でも、王族って王と王子二人の他に銀髪持ちっていたかな。
思い当たらなくて首を捻っていると、男がその場にしゃがみ込んだ。
「足ですか。治せなくてすみません」
「いや、ここまでしてもらって謝ることはないだろう。こちらこそ、助けてくれてありがとう」
苦笑するその顔に、ちょっと罪悪感が湧く。
巻き込まれたのはこの人なのに。
もともと悪いのは兄さんの陰口叩いたイキリ護衛なのに。よし、この人の治癒料金もちゃんと請求しよう。民間の治癒魔法行使代金に倍掛けだな。貴族だし。偉そうだし。
頭の中で請求額を算出していると、向こうから兄さんを抱いたフェンリル様がすごい勢いで走って来た。
「すまねえ! 巻き添えが出たって⁉」
瞬く間に俺たちの前に着くと、肩に乗っていた伝言ノームを下ろし、下ろしてと騒ぐ兄さんをそのままに男の前にしゃがみ込んだ。空いている片手を足にかざし、俺のヘッポコ魔法とは段違いの治癒魔法を男に掛けると、すまなかったと頭を下げた。
「いや……前よりも身体が軽いくらいだ。こちらこそ礼を言う。そなたは銀狼王か?」
「おう。あんたは……北に行った王の弟か?」
「ああ。わかるのか。アラン・グラシエール公爵だ。そちらの者はそなたの契約召喚師だろうか」
兄さんは無理やりフェンリル様の腕から抜け出すと、膝をついて首を垂れた。
「お初にお目にかかります。メルクリオ・コル・ヴィーダと申します。この度は……」
「よい。私はこの者……」
「マーレ・ヴィーダと申します」
フェンリル様が言うところの王弟殿下、グラシエール公爵が俺を指さしたのでついでに自己紹介しておく。すると、グラシエール公爵はふと首を傾げた後、フッと目を細めた。
「君もヴィーダ公爵家の者だったか。本当にありがとう。君のお陰で一命を取り留めた」
グラシエール公爵は笑みを乗せた顔でもう一度俺に頭を下げると、今度こそスッと立ち上がってズボンの土ぼこりを払った。
「さて……」
懐から懐中時計を取り出し、時間を確認したグラシエール公爵は、顔を上げて、ノームたちが一生懸命片付けている瓦礫の方の視線を向けると、そのまま少し視線を彷徨わせた。
けれど、目の前にあるのはまだまだレンガや石の欠片などの瓦礫の山。片付けで更に時間がとられる状況だった。
ふぅ、と息を吐くと、グラシエール公爵は懐中時計をしまった。
「……出直し、か」
ポツリと呟かれた言葉は、諦めの色が滲んでいた。
もしかして、急ぎの仕事途中で大事な書類か何かをこの瓦礫の中に……
「探し物はどのようなものですか? それはまだ有効期限内でしょうか。少しくらい汚れていても大丈夫でしょうか」
横に立って口を開いた俺の、矢継ぎ早の質問に、グラシエール公爵は驚いたようにこちらに目を向けた。その瞳は琥珀のような蜂蜜のようなとても綺麗な赤みの強いオレンジ色で、あの王子二人とは全く異なる色であることに少しだけホッとした。
「あの瓦礫の下にあるのですね。探し出すこと……というかもっと早く瓦礫をどかすことは可能です。どうなさいますか」
その時の追加料金はもちろんイキリ護衛から分捕ります、と心の中で付け足すと、グラシエール公爵は「出来るならば、ありがたいが……」と言葉を濁した。
兄さんを見送ってからノームたちに近付くと、横の方には魔法で作ったレンガが重ねられ、親方が設計図を描いた紙を手に皆に指示を出しているところだった。
「どれくらいで出来そう?」
「そうさな、この規模なら、この人数で夕刻までには出来上がるじゃろ」
「流石だね」
感嘆の声を上げると、親方はフンと鼻息荒くして、「これくらい当たり前じゃ」とそっぽを向いた。
崩れた建物の中を覗いてみると、ノームたちの手によってここで働く人たちが近寄れないようにされていて、遠巻きにこっちを見ている人がちらほらいた。
上を見ると、二階三階部分まで危ない状態になっている。ノームたちは壁をひょいひょいと登って、中に入っては出て来るので、上の方もまた近寄れないようにしているのがわかる。
「これで人は近付かんだろうから、始めるとするか」
親方の声に、三階の崩れた壁からノームが二人顔を出した。オッケーのハンドサインらしきものを出している。
「気を付けて降りてきなよー」
声を掛けると、二人とも嬉しそうに「わかったー」と手を振ってから、壁に取り付き、下りてこようとしたところで、ピシ、と嫌な音がした。
危ない、と声を掛ける間もなく、その上のレンガがボロリと崩れる。それからは一気にガラガラガラと一角が崩れ落ち、ノームたちが巻き添えになって、目の前に新たなる瓦礫の山が出来上がった。
「大丈夫か!」
慌てて皆で駆け寄って、瓦礫を除けていくと、顔を出していたノーム二人と、もう一人が瓦礫の中から現れた。
慌てて瓦礫を風の魔法で吹き飛ばし、その人を救い出す。
今の崩落に巻き込まれたらしい。
助けた男は、ううう、と顔を顰めて呻いている。良かった、生きてた。
「大丈夫ですか! 意識ありますか! どこか痛いところは⁉」
半身を抱き起こして声を掛けても、男は答えられないのか、呻き声しか口から飛び出さない。
四階から落ちて生きていることが奇跡に近いので、仕方ないのかもしれない。
ざっと身体を見たところ、沢山の小さな傷はあるし、立派な服はボロボロになっていたけれど、大きな怪我はなさそうだ。
すぐ近くにいたノーム二人を見れば、こちらも転がったまま呻いていた。
「大丈夫?」
「ううう……ダメだ。最後に酒をくれ……」
「今日はもう酒飲んで寝ていたいくらい痛い……酒を飲ませろ……」
大丈夫なようなので、男に向きなおる。
ほとんど王城には来たことがないので、多分この人とは面識がないと思う。
けれど、サラリとした銀の髪が、どこかの誰かたちを彷彿とさせる。
そう、この国において、銀の髪というと、王族特有なのだ。
……王族かぁぁぁ……
王族というとどうしても第一王子と第二王子が頭にちらついてしまって、もしかしてこのまま放っておいた方がいいのかも、なんて思ってしまう。けれど、こんな二次災害を放置して、この人の状態が悪くなっても心情的にあまりよろしくない。
仕方ない、と溜め息を吐いて、あまり上手ではない治癒魔法を使う。
外傷がなくても中身が傷んでいたらことだよな。
俺は魔法を掛けながら、瓦礫を運んでいたノーム一人に声を掛けた。
「ごめん、王城の治癒師を呼んできてくれないか?」
「はいよー。誰か知らんから適当でええかの」
「適当じゃだめでしょ」
「んじゃメルクリオ殿に声かけて来るかの」
「ん、よろしく」
頼まれたノームは目の前で光となって消えていった。
他のノームたちが瓦礫の片付けを始めたので、身体強化の魔法を掛けて男を抱き上げ、邪魔にならない場所に移動することにした。
「……君は……っ」
「あ、起きました? 今ちょっと安全な場所に移動するんで、そのまま大人しく運ばれていて下さいね」
俺に横抱きで運ばれていることに気付いた男が身動ぎしたので、とりあえず注意すると、男はハッとしたように身体を固くした。
少しだけ顔を顰めたところを見ると、まだどこか痛いところがあるんだろう。
修繕現場から少し離れた木陰にそっと男を下ろすと、男は自力で身体を起こした。
「もしかして君が私を助けてくれたのか? 崩落に巻き込まれた、のだよな」
自分の姿を見下ろして、男が破れた服に眉を寄せる。
「そうですね。四階から落ちましたね。痛いところまだあります? 簡単な治癒しかできないので、もうすぐ来る医者に見せてもらえると」
俺の言葉に、男は自分が落ちたらしい場所を見上げ、ほんの少しだけ眉を顰めた。
「……私はよく助かったな」
「一応クッションがいたので」
「クッション?」
俺の言葉に男が首を捻るので、寝転がっているノームを指さすと、男は慌てて立ち上がり、足を引き摺りながら二人に近付こうとした。
それを慌てて止める。
「あの二人は大丈夫なんで」
「でも私のせいで怪我をさせてしまったのでは……」
「もし気になるようでしたら、後で酒を差し入れていただけるととても元気になります」
「酒……? わかった」
あまり納得していないような顔で、男は頷いた。おお、王族なのに素直。
あの王子二人から感じる打算的なものや見下す雰囲気が全くない。
でも、王族って王と王子二人の他に銀髪持ちっていたかな。
思い当たらなくて首を捻っていると、男がその場にしゃがみ込んだ。
「足ですか。治せなくてすみません」
「いや、ここまでしてもらって謝ることはないだろう。こちらこそ、助けてくれてありがとう」
苦笑するその顔に、ちょっと罪悪感が湧く。
巻き込まれたのはこの人なのに。
もともと悪いのは兄さんの陰口叩いたイキリ護衛なのに。よし、この人の治癒料金もちゃんと請求しよう。民間の治癒魔法行使代金に倍掛けだな。貴族だし。偉そうだし。
頭の中で請求額を算出していると、向こうから兄さんを抱いたフェンリル様がすごい勢いで走って来た。
「すまねえ! 巻き添えが出たって⁉」
瞬く間に俺たちの前に着くと、肩に乗っていた伝言ノームを下ろし、下ろしてと騒ぐ兄さんをそのままに男の前にしゃがみ込んだ。空いている片手を足にかざし、俺のヘッポコ魔法とは段違いの治癒魔法を男に掛けると、すまなかったと頭を下げた。
「いや……前よりも身体が軽いくらいだ。こちらこそ礼を言う。そなたは銀狼王か?」
「おう。あんたは……北に行った王の弟か?」
「ああ。わかるのか。アラン・グラシエール公爵だ。そちらの者はそなたの契約召喚師だろうか」
兄さんは無理やりフェンリル様の腕から抜け出すと、膝をついて首を垂れた。
「お初にお目にかかります。メルクリオ・コル・ヴィーダと申します。この度は……」
「よい。私はこの者……」
「マーレ・ヴィーダと申します」
フェンリル様が言うところの王弟殿下、グラシエール公爵が俺を指さしたのでついでに自己紹介しておく。すると、グラシエール公爵はふと首を傾げた後、フッと目を細めた。
「君もヴィーダ公爵家の者だったか。本当にありがとう。君のお陰で一命を取り留めた」
グラシエール公爵は笑みを乗せた顔でもう一度俺に頭を下げると、今度こそスッと立ち上がってズボンの土ぼこりを払った。
「さて……」
懐から懐中時計を取り出し、時間を確認したグラシエール公爵は、顔を上げて、ノームたちが一生懸命片付けている瓦礫の方の視線を向けると、そのまま少し視線を彷徨わせた。
けれど、目の前にあるのはまだまだレンガや石の欠片などの瓦礫の山。片付けで更に時間がとられる状況だった。
ふぅ、と息を吐くと、グラシエール公爵は懐中時計をしまった。
「……出直し、か」
ポツリと呟かれた言葉は、諦めの色が滲んでいた。
もしかして、急ぎの仕事途中で大事な書類か何かをこの瓦礫の中に……
「探し物はどのようなものですか? それはまだ有効期限内でしょうか。少しくらい汚れていても大丈夫でしょうか」
横に立って口を開いた俺の、矢継ぎ早の質問に、グラシエール公爵は驚いたようにこちらに目を向けた。その瞳は琥珀のような蜂蜜のようなとても綺麗な赤みの強いオレンジ色で、あの王子二人とは全く異なる色であることに少しだけホッとした。
「あの瓦礫の下にあるのですね。探し出すこと……というかもっと早く瓦礫をどかすことは可能です。どうなさいますか」
その時の追加料金はもちろんイキリ護衛から分捕ります、と心の中で付け足すと、グラシエール公爵は「出来るならば、ありがたいが……」と言葉を濁した。
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