ADO始めました《こぼれ話より》

朝陽天満

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マック

ADO始めました【マックの場合・4】

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 門番さん二人に見送られて、教えてもらった方に行ってみると、本当に薬草群生地があった。ウノ、ドゥエの道中にあった薬草よりも、ランクが一つ上の薬草を沢山ゲットした俺は、ホクホクしながら帰路を進んだ。そして出てくる、狼型の魔物。  
 剣で魔物に応戦しながら、全然HPが減らないことに焦る。確かに、この剣じゃあんまり攻撃が通じない。でも、だからと言って、店で売ってる剣は、重くて持てそうもないのが辛いところだ。細身の剣もあったけど、値段が値段で、素材を買ってた方がまだいいと思って全然武器屋をまわってなかった。宝の持ち腐れになりそう名な気がしたし。  
 魔物が吠えながらとびかかってくる。  
 剣を振るうと、それを避けた魔物が俺の腕に噛み付いた。一気にHPが削れて、装備も紙だということに気付かされた。でも、装備にしても剣にしても値段が……いたた。  
 食いついた魔物に必死で蹴りを入れると、魔物は俺の腕の肉を食いちぎりながら少し離れた。  
 これ、倒せなくない? 死に戻り確定かな、と諦めながら、噛みつかれてない方の手で、落ちた剣を拾う。  
 またも魔物がとびかかってきたので、がむしゃらに剣を振るうと、今度こそ魔物の鼻先に剣がぶち当たって、魔物の顔が弾かれた。  
 魔物が下がったところで、そこらへんで狩りをしていたプレイヤーが「手伝うか?」と声を掛けてくれたので、ありがたく助けてもらった。
 通りすがりのレベル上げプレイヤーだったらしく、真顔で「もう少しレベル上げてからこっちの森に来いよ」と助言してくれたので、神妙に頷いてお礼代わりに自作ポーションを渡すと、プレイヤーはそれを受け取ってまた森に消えていった。  
 助かった。  
 そう思いながら齧られた腕を見下ろして、顔を顰める。表面が血で肉は見えなかったけど、見てるだけで痛い。  
 インベントリから自作ポーションを取り出してそこに掛けると、すぐに血が止まって傷が治っていった。ホッとしながらもう一本を飲み干す。
 減っていたHPも増えて、流れていた血もキラキラと消えていき、俺はホッとしながら街に急いだ。  
 次の日も、学校から帰るとすぐにログインして、貸工房に向かった。  
 昨日採取した素材と、調薬キットを取り出す。  
 初めての簡易じゃない普通の調薬キットにドキドキしながら、店員さんから買い取ったレシピを開くと、そこにはトレに来て初めて目にしたギルドや雑貨屋で売ってるハイポーションのレシピが載っていた。
 ここまではポーションしか売ってなかったからこれはかなり嬉しい。  
 やった! とワクワクしながら薬草を擂り、手順通りに作っていく。  
 そして、最後の素材を入れながらレシピに目を通していると、気付いたときには黒い物体がキットの中に出来上がっていた。  

「うわあ、栄えある最初の調薬は失敗だあ……」   

 黒い塊を取り出して、キットを簡単に洗う。洗浄場所がすぐ近くにあるのって便利だなと思いながら、気を取り直して、もう一度挑戦した。  
 二度目。今度こそハイポーションランクDが出来上がった。  
 嬉しくなって沢山調薬する。手元の素材がなくなるまでひたすら貸工房で調薬していた俺は、調薬レベルがかなり上がっていたことに気付いてさらに楽しくなった。  
 でもさすがに腕の肉を食いちぎられてもう一度魔物と戦う気概は既に今日はない。  
 ということで、出来上がったハイポーションランクDを冒険者ギルドで買い取ってもらいつつ、農園に行ってみようと腰を上げた。  
 思った以上に買い取り額が高かったこともあって、俺は農園で売ってる状態のとてもいい薬草をゲットすることが出来た。ウノ付近の薬草がランクE~D、ドゥエからトレまでの間にある素材がランクD、トレの森にあった素材がランクD~C。 辺境まで行くともっとランクは高いんだろうけどまだまだ先に行けるレベルじゃない。
 でも農園で買える素材は全てランクA~Sだったんだ。ギルドや雑貨屋でも売ってるランクの低い薬草からするとかなり割高だけど、量より質の薬師作業。 
 手持ちに二千ガルを残して、他全てを農園での素材買取に使った。  

 農園からの帰り、宿屋に向かおうとして、薬草以外の素材が切れかけていることに気付いた俺は、溜め息を吐きながら南門へと足を向けた。  
 門に近付くと、何やら言い争う声が聞こえてきた。  
 マップ上のマークは、文句を言ってる方がプレイヤーである青色を指し示していた。  
 相手は門番さん。  
 何事かと思って近寄ると、プレイヤーが腰の剣を抜き、その剣が門番さんの兜に当たって金属音が辺りに響く。  
 このゲームって、確かNPCに攻撃するとペナルティか何かが発生するんじゃなかったっけ。懸賞金とかかかってるような人以外に攻撃しちゃダメなはずじゃ。  
 ガランガランと転げ落ちる兜を見て、俺は息を呑んだ。
 魔物を退治する人たちはよく見かけたけれど、こういう風に私闘をしようとするプレイヤーを見ることはほとんどなくて、そしてそのプレイヤーの「NPCのくせに」とか「ゲームなんだから好きにしていいだろ」という言葉が、とてつもなく酷い言葉にしか聞こえなかった。  
 兜の取れた門番さんは、緑色の瞳を冷たく光らせて、つまらないとでもいうように、プレイヤーをいなしていた。手に持った槍はほぼ剣を止めるだけにとどめ、自らは全然攻撃を仕掛けない。強さは見ただけでどっちが上かすぐわかった。 
 それはそのプレイヤーも一緒だったらしく、しばらく剣を振り回した後、悪態をついて去って行った。  
 野次馬たちが散り散りになっても、俺は足が動かなかった。  
 門番さんたちは、あのプレイヤーに対峙した門番さんを労わるように話しかけている。
 兜を拾った門番さんも、さっきまでの冷たい雰囲気は霧散し、苦笑する顔を見せていた。そんな顔を見ていると、初めのころから思っていた、NPCたちにもちゃんと感情があるんじゃないか、っていう疑問が次々湧き上がってくる。 
 だって、彼らはちゃんと笑ったり、怒ったり、困ったり、苦笑したり、笑いたいのに我慢して変な顔をしているみたいな複雑な表情をするんだ。俺たちと何も変わりないんだ。そのせいなのか何なのか、俺はなんだかすごくプレイヤーである自分が恥ずかしかった。
 ただNPCだから好きにしていいなんて態度、人として好きになれない。  
 ちょっとだけ落ち込んで、顔を上げて、ふとその人の足下に目が引き寄せられた。 
 地面に、一滴の血が垂れていた。  
 この世界の魔物も、俺たちプレイヤーの血も、流れてもすぐにキラキラと光になって宙に消えてしまう。でも、門番さんの血は垂れたそのまま、赤いままで、地面にぽたりと落ちていた。  
 血のもとをたどると、門番さんの鎧の腕の所が傷ついて、そこから血が見えた。さっき掠った傷口みたいだった。本人は気にしていないみたいだったけれど、俺は消えて行かない血が目に焼き付いて、思わずその人に走り寄ってしまった。  
 幸いにも、カバンの中には作ったハイポーションがまだ沢山入ってる。これで傷くらいは消えるかもしれない。まだランクが低いから全快するかはわからないけれど。
 走り寄る俺に気付いたのか、顔の見せる門番さんは俺にふと目を向けた。少しだけ警戒した色が見える。そうだよね。俺もプレイヤーだもんね。  
 インベントリからハイポーションを取り出して、俺はその人の前に立って、瓶を差し出した。  

「これを、使ってください」  

 金色の髪を手で掻き上げ、門番さんがびっくりしたように視線を俺の手に向ける。

「これは、君の大事な物だろ。自分用に取っておいた方がいい」  
「俺が、作ったハイポーションです。沢山あるから、あの、効果低いけど、使って欲しくて」  
門番さんは困ったような顔をして、でもハイポーションには手を伸ばさなかった。 
「……ごめんなさい。同じプレイヤーがあんなこと……」 

 門番さんの手を取って、無理やり握らせると、俺は唇を噛みしめた。楽しかったはずのゲームが、なんだかすごく怖いものに感じた。  

「ほんとに、ごめんなさ……」   

 もう一度謝ろうとすると、門番さんがそっと俺の口に指をくっつけた。  

「君は、さっきの異邦人じゃない。君が謝ることはないんだ。君は君なんだから。高価な薬を、ありがとう」   

 俺の口からそっと指を離すと、門番さんはフッと柔らかく微笑み、俺が無理やり持たせたハイポーションを怪我した腕に掛けた。すぐに血が止まったので、ホッとする。  

「使ってくれてありがとう」  
「君がお礼を言ってどうするんだ。俺こそ、ありがとう」   

 柔らかく笑った顔はとても綺麗で、その瞳がとても深い森のような緑色をしていることに気付いた。なんだかその瞳から目が離せなくなりそうで、俺は誤魔化すように、インベントリからありったけのランクDハイポーションを取り出して、差し入れ、とその門番さんに渡した。  

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