君の瞳に乾杯(「ADO」クリスマス短編)

朝陽天満

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君の瞳に乾杯(「ADO」クリスマス番外編)

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 俺は今、ヴィデロさんと共に光の洪水の中を歩いている。

 そして前にはクラッシュとヴィルさん。

 4人で歩く街並みは、普段とはまた違っていて、今日がクリスマスイブだと否応なく実感させてくれる。

 溢れる人、そして夜空を明るく彩る電光の波。

 そう。クラッシュはヴィルさんが行ったり来たりして整備したあの世界間をつなぐ道を通って、俺たちの世界に遊びに来ているのだ。

 明るい色のジャケットの下にフード付きの服を着て、足元にはジーンズとブーツ。ニットの帽子を耳まで被ると、そこらへんにいる兄ちゃんの出来上がり。でも顔はとんでもなくイケメン。ヴィルさんもヴィデロさんも俳優バリにかっこいいから、その中に紛れる俺は一人地味。いいんだもん。ヴィデロさんがかっこいいから全然問題ないんだもん。

 どうして人混みの中を4人で歩いているのかというと、クラッシュの店でプレイヤーたちからクリスマスの話題が出て来て、それに興味を引かれたクラッシュが、ヴィルさんに「クリスマスっていう祭りを堪能したい」と詰め寄ったらしい。

 その頃にはもうクラッシュは何度かこっちに遊びに来ていたので、普段の街の様子を知ってはいたらしい。主にヴィルさんと出掛けるから俺はあんまりどこに行ってるのかわからないけれど。 

 クラッシュはにこやかに、「マック達はクリスマスデートしないの?」と俺たちに話を振った。クラッシュの仕入れた知識は、「買い物をして、豪華なご飯を食べて、街のイルミネーションで雰囲気を盛り上げて、宿屋にしけこむ」という物。たしかにね。間違ってはいないよ。そういう流れでデートする人たちもいるよ。

 でも、クリスマス時のイルミネーションが光り輝く並木道は、大抵ロマンチックを求めたカップルであふれ、雰囲気を盛り上げる前に人ごみに流され、もみくちゃにされてホテルに着いたときには息も絶え絶えで、愛し合う前にダウンすると思うんだよ。

 真顔でそう返すと、ヴィルさんが声を出して笑っていた。



「それはマックだからじゃないの? 今の姿、向こうでの姿より小さいじゃん。俺の顎じゃん。もみくちゃにされるのはきっとマックだけだよ」

「クラッシュが伸びただけでしょ。俺の一番気にしているところ抉らないで欲しい」

「いいじゃんいいじゃん。ヴィデロはその姿のマックが一番なんだし。身長小さくてもきっとヴィデロはそれが可愛いとか思ってるんだよ。このロリコン!」



 ヴィデロさんを肘でウリウリと突いて、最近覚えたこっちの言葉をヴィデロさんに投げる。待って、聞き捨てならない言葉を投げやがったよこいつ!

 よりによって、ヴィデロさんがロリコンなんて!

 俺が反撃しようとしたところで、ヴィデロさんは真顔で「それは違う」と訂正した。



「ロリコンというのは、幼い女性を好む男性の性癖のことだろ。俺が好きなのはケンゴなんだから、それは当てはまらないぞクラッシュ」

「そうなの? 可愛い小さい子を好きなやつをロリコンっていうんだと思ってた」

「天使、弟の性癖はロリコンではなくて、ショタコ……」

「俺成人してますから!!」



 もう二十代も半ばまで来ているのに、ショタ枠に入れられるなんて酷すぎる。

 心の中で「ヴィルさんには手作りケーキ八分の1欠片決定」と呟いて、フンスと鼻を鳴らした。

 クラッシュはヴィルさんが言いかけた言葉に興味を示していたけれど、早く用意しないと出かけられないじゃん! と発破を掛けて、半ば強制的に会話をぶった切った俺なのだった。





 そして今に至る。

 俺は人ごみにもみくちゃにされ、他の3人は背が高いので全然問題なく歩く人の群れの中。

 あまりに前に進めない俺を、ヴィデロさんは苦笑しながら手を引いてくれる。手が繋がれてるのに前に進めないってどうなんだよ。ともすれば外れそうになるのが辛い。人多すぎ。ロマンチックのロの字もないよ。

 歩く女の子たちもオシャレにヒールを穿いているせいか、俺よりもちょっとだけ身長の高い子が多くて、手を離しちゃったら一瞬で迷子になるレベルの人ごみに辟易していると、ふわっと身体が浮いた。

 いきなりイルミネーションが目の前に広がり、視界が開ける。

 すぐ真横にヴィデロさんの羽織るライダースジャケットの襟があり、そしてとても綺麗に笑うヴィデロさんの顔があった。

 そう、俺は、子供のように片手に抱き上げられていた。ううう、ヴィデロさんはこっちに来ても全然筋肉衰えてない。素敵すぎる。だけど俺、一応しっかりと体重あるんだからね。



「これなら絶対にはぐれることもないし、二人がケンゴを目印に出来ていいんじゃないか?」



 確かにね。今やヴィデロさんよりも頭の高くなった俺は、いい目印だよ。その分目立つけどね! 子供抱っこだしね! でも何度か離れそうになった手を、ヴィデロさんがとても気にしていてくれたのはわかって、ちょっとだけ嬉しかった。うそ、ちょっとじゃない。大分嬉しかった。やり方はどうあれ。



「俺がヴィデロさんの腕に引っ付いていればよかったのかな」

「それだとケンゴが歩きにくくないか?」

「そうでもないと思うけど」

「じゃあ、俺が腰を抱いて歩く……と、そのまま家にUターンしたくなるからダメだな。まずは飯をたべないといけないんだろう。でも、逸れたふりをして二人で動くのはアリか」

「ヴィデロさん……」



 確かに腰を抱かれたら俺もヴィデロさんの誘惑に負けちゃうからダメかも、と思いつつヴィデロさんの首に腕を回すと、美形二人が振り返って俺を見て笑ったのが、見えた。





 

 ヴィルさんが予約を取っていたのは、前にアリッサさんたちと来た料亭。

 三人の見た目が日本人離れしているからなのか、ヴィルさんの要望なのか、奥にある個室のテーブル席が用意されていた。

 そして、懐石料理。何度来てもこういう格式高い料理を前にすると緊張する。

 そんな俺の心境とは正反対に、クラッシュは一口大に盛られた色とりどりの綺麗な料理を見て、テンションをあげていた。



「すっごいじゃん! なにこれ、芸術? こんな料理初めて見たんだけど! でも量が少なくない? ヴィデロこれじゃ満足できないんじゃないの?」

「大丈夫だ。さらに頃合いを見て追加されるから」

「へえ! 面白いシステムだね」



 早速料理にフォークを伸ばすクラッシュは、一つ食べては「これ、美味しいけど不思議な味」「これ腐ってない? ちょっと味がヤバいよ」と無邪気に感想をヴィルさんに伝えている。クラッシュ、お酢の味が苦手なんだね。

 クラッシュ以外は箸で料理を味わい、俺的に大分お腹いっぱいになってきたころ、ふすま越しに女将さんの「よろしいでしょうか」という声が聞こえてきた。



「空いたものをおさげしてよろしいでしょうか」



 俺たちが頷くと、大半の皿が綺麗に片付けられ、その後、空いた場所に木製の船がドンと置かれた。

 その上には、新鮮なお刺身と、カニが大量に乗せられていた。うわあ、豪勢すぎる!



「うわあ、なにこれ魔物? にしては小さいよね」

「これは海から採れるカニという生き物だ。魔物とは違うな。殺しても光になるわけじゃないから」

「へえ、消えていかないんだ。こっちの生き物って面白いねえ」

「一度食べてみろよ。俺はかなり好きなんだ」



 ヴィルさんが食べ方をレクチャーしたのを真似して、クラッシュがカニの足に齧りつく。

 咀嚼し、呑み込み、あはは、と笑いだす。



「こんな味初めて食べた! でもちょっとあれに似てるよ、湖から採れる虫」

「……虫」

「結構デカくて美味いんだよマック。今度一緒に食べに行こう」

「……虫を」

「こんな感じの淡白な味だってば。でも見た目はこっちのカニってののほうが怖いと思うよ」



 そうだね、と遠い目をしながら話を流す。刺身は向こうで採れた魚を刺身にしたことがあるので、クラッシュも戸惑いもなく食べまくった。



「海産物、だっけ。美味しいねえ。マックの味に似てるよ。でも、こっちの『スノモノ』? これはもういいかな。絶対マックが作るご飯の方が美味しいって」



 クラッシュにかかれば、お高い料亭の懐石料理もこんなものである。まあ、食文化から違うから仕方ないんだけどね。そして店を予約してくれたヴィルさんは、苦笑。



「あまりお気に召さなかったようだな。じゃあ今度は全く違う店を予約しておこうか」

「えー、俺、外で食べるよりマックのご飯を食べたいんだけど。昨日作ってくれたなんだっけ、『スキヤキ』っていうの? あれ滅茶苦茶美味しかった。あれ何の魔物の肉?」

「あれは魔物の肉じゃないよ。牛という動物の肉だ」



 二人の会話がなんだか漫才っぽくてちょっと面白いな、と思いながら、俺は菊のおひたしに箸をつけた。







「さて、天使。先程の俺の失点を挽回したいんだが」



 料亭から高級ホテルのバーに移動して、4人で席に座った後、ヴィルさんはクラッシュの手を取ってそんなことを言い始めた。

 そして、ポケットからカードキーを取り出して、ヴィデロさんに差し出す。



「君たち用にスイートを予約済みだ。俺たちはもう少しここで雰囲気を味わってから違う部屋に泊まるから、君たちは好きにするといい。勿論ルームサービスも好きに使っていい。俺からの二人へのクリスマスプレゼントだ」



 ウインクをするヴィルさんは、今日のほぼすべてのお金を払ってくれている。クラッシュの買い物の他に、俺たちが買おうとしていた物すら、ヴィルさんが支払いをしてくれた。勿論懐石料理も。

 こんなにしてもらっちゃっていいんだろうか、とヴィデロさんとヴィルさんを交互に見ると、ヴィデロさんはそのキーを手にして、「今度奢らせろ」と言ってヴィルさんとグータッチした。そのやり取りかっこよすぎるんだけど。好き。



 何も頼まずに席を立った俺たちは、ヴィルさんから受け取ったカードキーを手にして、エレベーターに乗り込んだ。ヴィデロさんは俺の腰に腕を回していて、密着度が凄い。でも歩きにくくないっていうのがさらに凄い。



 エレベーターが上昇していく中、外のイルミネーションを見ていると、ヴィデロさんが俺の頬にキスをしてきた。



「エグゼクティブフロアも使えるらしいが、どうする?」

「エグゼクティブフロア……って?」

「特別メニューの置かれたバー、ちょっとしたカジノ、それとシネマシアターも使用可能らしい。あいつが事前に教えていてくれたんだ」

「ここの部屋を取るっていうのもヴィデロさんは知ってたの?」

「ああ。あいつも別の部屋を取ってるから、ケンゴは楽しんでくれればいい」

「楽しむって……俺、絶対バーに入ってもお酒注文できないと思う」



 口を尖らすと、ヴィデロさんはちょっとだけ肩を震わせた。とてもいい笑顔なんだけど。好き。



「そのバーで出す特別メニューを、スイートルームでなら注文できるらしいから、部屋でたまには一緒に呑まないか?」



 たまには酔って可愛くなるケンゴが見たいんだ、というヴィデロさんのお願いに、俺は胸をキュウウウウっと締め付けられながら、頷いた。







 部屋は、とても豪華だった。

 ベッドルームはとても広く、大きなベッドが一つ置いてあった。

 そしてリビングにはとても座り心地のよさそうなソファーとオシャレなガラス製のテーブルが置かれて、バルコニーには緑が上品に植えられていて、そこには木製のテーブルと椅子が置かれている。外でも楽しめる仕様になってるみたいだった。

 おしゃれな空間に慄いていると、ヴィデロさんが俺をソファーに促してくれた。

 差し出してくれたのは、ルームサービス内容が記録された端末。

 そこに部屋に持ってこれるメニューが書かれていて、見ているだけでも目に楽しい。

 色とりどりのカクテルや、日本酒、洋酒各種が沢山取り揃えられていた。



「これなんか、果物の酒だからケンゴも飲みやすいかもしれない。」

「果実酒かあ。カクテルとか気になってたんだけど」

「ここら辺は甘くて口当たりはいいが、結構アルコール度数は高いみたいだぞ」



 二人で並んでカクテルを端末で見ていると、ふと、とても綺麗な色のカクテルが目に入った。

 上の方は薄い緑で、下に行くほど深い緑になって行くカクテルは、まるでヴィデロさんの瞳の色みたいで、とても綺麗だった。



「これ」

「これは、少し度数が高いが」

「ダメかな。このカクテル、ヴィデロさんの瞳みたいですごく綺麗」



 思ったままを口に出すと、ヴィデロさんが片手で顔を覆った。



「……ケンゴの口説き文句が胸に刺さった……」



 あ、俺口説いてた? 自覚なかった。照れるヴィデロさんを見ていると、俺までカッと頬が熱くなった。不可抗力だからね。口説くとか、もっとスマートにかっこよく行きたいよ。無自覚とかじゃなくて!



「じゃあ、とりあえずこれを頼もう。俺は、ブランデーを」

「う、うん」



 酒を飲む前から顔が火照ってしまった。







 間接照明でムードを出し、高層ビルならではの星空を望みながら、俺たちは座り心地抜群のソファーに並んで座って、グラスを軽く合わせた。

 ヴィデロさんの瞳のような綺麗な森を連想させるカクテルは、フルーティーな甘さがとても飲みやすくて、ついぐいっと飲んでしまう。

 カクテル用の小さめのグラスのはずなのに、一杯を飲み干す頃には、とても頬が熱くなっていた。



「ヴィレロさん、これ、もう一杯欲しい」

「ろれつが回ってないからやめといたほうがいいぞ」

「れも美味しいし、綺麗らし、香りがいいし」



 ヴィデロさんがここにいるみたい、と胃の辺りを押さえると、ヴィデロさんはまたも手で顔を覆った。

 頼んだカクテルが届くと、俺は嬉々としてそれに手を伸ばした。



「おいしい」

「そうだな」

「ヴィレロさん飲んれる? 今日はお泊りらから、沢山のんれね。明日、一緒におうちに帰ろうね」



 ヴィデロさんと一緒に泊って一緒に家に帰れるんだと思うと嬉しくなって、口からくすくすと笑いが洩れる。

 グラスの中の、とても綺麗な液体が光を反射しながら揺れる。

 俺はその色をもっと見たくて、身を乗り出して近付いた。そして、その綺麗な色を覗き込んだ。

 ヴィデロさんの膝の上に跨って。くっついて。ヴィデロさんの瞳を。





「ケンゴ、今日は猫みたいだな」

「俺、ねこ? ヨシュー師匠みたいな耳ないよ?」



 ヴィデロさんの腕の中にすっぽり包まれながら、大好きなヴィデロさんの筋肉に包まれる幸せを堪能する。こういう時だけは、俺の身体がヴィデロさんの大きさにスポッと入るこの大きさなのが嬉しい気がする。俺も大きいとこんな風に入ることは出来ないから。

 ぐりぐりと腕の付け根に頭を擦りつけると、ヴィデロさんが身動いで小さく笑った。



「ケンゴ、くすぐったい」

「くすぐったがるヴィレロさん好き」

「酔うとティーロイと同じ呼び方になるな。舌っ足らずで可愛い」

「ティーロイはいつれも可愛いよね」

「いや、ティーロイも可愛いけどケンゴが可愛い」

「ヴィレロさんも可愛い」



 きっと俺、喉が鳴るなら今まさに全開でゴロゴロしてる気がする。確かに俺、猫だ。

 ヴィデロさんの腕の中から手を伸ばして、残っていた緑色の液体を掴む。

 口をつけて、ほんの少しだけ口に含むと、甘いような、それでいて少しだけピリッとするような味が口に広がる。



「美味しい。ヴィレロさんも飲んれみる?」

「いいのか? ケンゴのお気に入りだろ」

「うん」



 じゃあ少しだけ味見しようか、とヴィデロさんが微笑んだので、俺は手に持ったグラスを傾けて口に入れた。そして、身体をぐっと伸ばして、ヴィデロさんの首に腕を回す。

 口をくっつけて、俺の口の中にあったお酒を流し入れようとして、俺の顔の方が下にあるからそれが出来ないことがそこでわかった。座っているヴィデロさんを見下ろすように、ぐいっと膝立ちして口をくっつけ直すと、今度こそヴィデロさんの口にお酒が流し入れられた。

 満足して離れようとすると、腰に腕を回されて、さっきのポジションに戻れなくなる。

 唇の間から舌を入れられて、絡められる。



「……ん、ふ……」



 じわっと広がる熱と心地よさに、甘ったれたような声が漏れると、ヴィデロさんの目がスッと嬉しそうに細められた。





 お腹の奥から湧き出すアルコールの熱と、更に奥から発生するヴィデロさんとの熱が、身体の中で交じり合ってたまらなくなる。

 優しく囁く声と、少しだけ力強く中を突く動き、そして、ヴィデロさんの熱い息遣い。

 どれも俺を官能の沼に沈めていく。



「あ、あ、はぁ……っん、んんっ」



 入口付近をゆるゆると擦られて身悶えると、いきなり奥の奥までぐっとヴィデロさんのヴィデロさんが穿ってくる。

 突きあげられるたびに口から高い声が漏れて、俺のモノからはしたなく液体が零れていく。閉じられた瞼の裏では闇がグルグルと廻り、頭の中が沸騰しそうになる。

 愛されている間ずっと身体中を沸騰しそうなほどの熱が巡って、感じすぎる身体がこわばる。でも、中はドロドロに溶けているかのようにヴィデロさんの熱を食む。

 感じすぎて怖いくらい、ヴィデロさんの律動が俺の身体を熱くする。

 ぐぽ、ぐぽ、と俺の奥から凄くおかしな音がして、ヴィデロさんが俺の最奥の先を抉ると、俺の身体は意識とは別に跳ねて、その都度頭がパーンと破裂したようになる。もう、俺のモノから零れる液体は、透明に近くなっているけれど、それでも突かれる度にピュ、と何かが飛び出す。

 もうだめ、しんじゃう。



「しんじゃう、きもちい……しんじゃう」



 半分意識を持っていかれながら、俺はあまりの気持ちよさとよすぎて辛いくらいの快感に、ただただ思ったことを口から零していた。



「ヴィレロさ……、あん、も、おく、あついの、あつい」



 うわごとのような言葉と同時に、ヴィデロさんのヴィデロさんが俺の最奥に、グボ、と潜り込む。

 あああああ、と悲鳴とも吐息とも取れない声が俺の口から洩れて、フッと目の前が真っ白になった。





 あれだけドロドロだった身体は、凄くさっぱりしていた。首の下にあるのは、ヴィデロさんの腕。

 引かれたカーテンの合間からは、朝日と思われる光が漏れている。

 すごく身体が重くて、頭が重い。

 後ろから抱き締められるように寝ていたらしく、背中にヴィデロさんの体温が感じられる。

 俺はヴィデロさんの顔が見たくて寝がえりを打とうとして、固まった。



 今、身動きをすると、何かがお尻から出そうで。

 ええと、これ、もしかしてヴィデロさんが俺の中に出したモノ?

 なんか、凄く沢山入ってる気がする。

 ミシミシする身体に喝を入れて、零れそうになる場所を押さえようと手を動かした瞬間、フッと悩まし気な寝息が耳元にかかり、朝勃ちで元気なヴィデロさんのヴィデロさんが、俺の手に当たった。

 途端にズクンと疼く俺の下腹部。

 手で押さえたそこは、未だにトロトロな状態っぽくて、俺は顔を真っ赤にしながらヴィデロさんの腕に顔を埋めて唸った。

 身体は疲れ切ってるのに心がエッチしたいって、俺どれだけエッチなんだ。

 起きたのかと思ったヴィデロさんからは、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 お尻の真後ろには、ヴィデロさんの元気なものが。 

 そして、俺は今、すごく愛し合いたい。

 一緒に住んでいて、二人の時間が重なれば愛し合ってる俺たちだから、最近では一人ですることはなくなったけれど、でも。

 寝てるのを叩き起こして「挿れて」なんて言ったらドン引きされるに決まってる。

 どうしよう、と逡巡したのは一瞬。

 俺はそっと、零れないよう押さえていた手を、指を、欲望のままに挿入した。



 躊躇いつつも挿入した自分の指。挿れてしまうと、もう止まらなかった。昨夜の余韻も残っていたんだと思う。そして、いつもと違う部屋と、ヴィデロさんの温もりが。

 声を殺して指を抜き差ししても、そこから漏れる水音は消すことが出来なくて。

 そして自分の指では全く気持ちいい場所まで届かなくて。

 じれったさに声を漏らしたしまった瞬間、眠そうな声が耳に響いた。



「……ケンゴ……?」



 起きちゃった、と固まった俺の手に、ヴィデロさんのヴィデロさんが当たる。

 それですべてを察したのか何なのか、ヴィデロさんはムクっと上半身を少しだけ起こして、俺の顔を上から覗き込んできた。俺の身体を抱き寄せながら。

 あああ、気付かれた。抱き寄せられた際に上げちゃった声で。

 羞恥と気まずさと色々な感情がこもった目でヴィデロさんの方を見ると、ヴィデロさんは目をまん丸にして俺を見下ろしていた。

 次いで、俺たちの身体にかかっていた布団をばっと剥ぐ。

 そして露わになる俺の一人エッチの姿。待って、見ないで。でもこの指を抜くと、中のトロトロが絶対に零れ出るから抜くことも躊躇われる。



「……とんでもなく素晴らしいクリスマスプレゼントを、サンタクロースはくれるんだな……」



 俺の一人エッチの姿を見た第一声がそれだった。







 酒に酔ってしまって、いつも以上に盛り上がりつつもいつもよりも早くに意識を飛ばしてしまった俺に、無体なことをすることが出来なかったヴィデロさんは、その後、まだまだ愛し足りないのを我慢して俺の身体を綺麗にして就寝したらしい。

 本当は朝まで愛し合う気満々だったんだ、と、ヴィデロさんの愛塗れの俺の指を抜き去りながらちょっと拗ねたように告白したヴィデロさんは、まだまだトロットロの俺の中に、そのカッチカチのブツを挿入してくれた。

 待ち望んだ熱と感覚に、俺は突っ込まれた瞬間射精してしまって、更に羞恥を上乗せされた。でも欲しかったんだもん……。



「また、奥までむさぼっていいか?」



 そんなことを訊かれて、嫌なんて言えないよ。

 中だけじゃなくて身体の表面までドロドロに溶けそうだよ。



「すっごく感じてる顔してる。可愛い……もっと蕩けさせたい」

「これ以上溶けないよ……っ、あ、も、奥、だめ、だめ! や、いくから、待っ……」

「待てない。沢山イって。イくときのケンゴの顔、ずっと見ていたい……」

「あぁぁぁああ……っ」



 昨日から数えると、もう何度目かわからない絶頂を迎えた俺は、中でまたしても熱を放つヴィデロさんを感じながら、次々と湧き上がる熱と愛に翻弄されまくったのだった。







 ヴィデロさんの采配か、ホテルを出たのは夕方よりちょっと夜寄りの時間。

 暗くなっていく外には、ようやく歩けるようになった自分の足で出て、ホテルの前に止められたタクシーにヴィデロさんと共に乗り込んだ。

 そのまままっすぐ家まで帰ってくると、部屋に戻ろうとしたところで、ヴィルさんの部屋のドアから顔を出したヴィルさんに捕まった。



「今日夕食はケータリングを頼んだから、一緒にこっちで食べないか?」



 疲れ切っていて夜ご飯を作る気力もなかった俺は、一も二もなくその話に飛びついた。

 部屋に入ると、リビングのソファーには、ぐったりとしたクラッシュが転がっていた。



「クラッシュ、どうしたの? はしゃぎ過ぎた?」



 思わず声を掛けると、目を開けて俺を見上げたクラッシュが、ちらりとヴィルさんを見てから、眉をぐっと寄せた。



「昨日、アレからヴィルに色々と連れ回されたんだけど、あいつヤバい……」

「え……?」



 ほんとやばいよあいつ、と繰り返すクラッシュに、意味が解らなくて戸惑っていると、クラッシュはそっと頬を赤らめてから、はぁ、と溜め息を吐いた。



「あいつのエスコートほんと半端ない。なんていうか、本気で来られるとヤバい。何あれ、誰でも惚れるだろ、あんなの。何であんな手腕持ってるんだよって本気で思うのに、今は俺だけを見てるんだって全身で表してくるのがほんとヤバい。くっそ悔しい」

「……ヴィルさんに惚れちゃったの?」

「…………」



 ソファーの上で体育座りをしたクラッシュは、無言で顔を腕に埋めた。

 俺とヴィデロさんは目を見合わせてからちらりとヴィルさんを見ると、当の本人はいたって上機嫌で、俺たちに飲み物を入れるべくキッチンで作業している。鼻歌まで歌って。

 昨晩、二人があの後どこに行ったのか、何をしたのか、俺たちは何も知らないし、聞く気もない。

 ケータリングサービスが来て、テーブルの上が次々とホームパーティーの様相を呈していく中、微妙に前よりも立ち位置の変わったようなそうでもないような二人を見ながら、俺は努めてそのことには触れず、目の前に並べられていく豪華絢爛な料理を見つめていた。







 その後、俺とヴィデロさんはささやかなプレゼント交換をした。

 俺は以前からいいなあと眺めていたコートを贈って貰った。

 ヴィデロさんには、前に街を歩いていて俺が一目惚れしたキーケースを贈った。すぐに家の鍵を着けてくれたので、凄く感激した。贈った方が喜ぶのもどうかと思うけど。



 聖なる夜。



 部屋に戻り、一杯になった腹をさすりながらヴィデロさんと共に外に視線を向けると、そこにはひらひらと雪が舞っているのが見えた。





 終わり。

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感想 6

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みんなの感想(6件)

カヨワイさつき

最高を超えた最高❤️

解除
iku
2022.06.05 iku

ヴィルさん、種族の寿命でクラッシュを残してしまうことが分かってるから本気にならないようにしてるのかと思ってました・・・でもクラッシュはその辺りの覚悟、お父さんの一件でしてて、一緒に動いてるときに一喝したりしたのかなぁと。ヴィルさんが本気に口説いてて嬉しいです。

解除
pom
2021.03.12 pom

ヴィルさんとクラッシュがそうなったら良いな〜と思ってたので、見れて本当に嬉しいです💜

朝陽天満
2021.03.18 朝陽天満

読んでくださってありがとうございました。
二人がどこまで進んだのかは想像でお任せします。
私の中では二人はブロマンス……💓

感想ありがとうございました

朝陽

解除

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