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第二章
49、やってきました文化祭
しおりを挟む結局私は、説明文は省いた。ただ古代の記録とだけ皆に伝えた。流石に言えない。性癖暴露とか黒歴史とか。
それに実際書かれている古代文字は読めないわけだし。まあ読めないところで困ることはないから、今のところは覚えなくてもいいかな。
そんなことを思いながら、殿下が魔法鞄にそのボロボロの暴露本をしまうのを見ていた。
そして、私が口を挟む前に、学園祭に依頼で出向くのは殿下とザッシュ様の二人に決まった。
恋愛ゲーム的な立ち位置の人達がいるので、流石に全員で出向いて誰かに目を付けられるのは嫌だからね。特にグロリア様は天然可愛い超美人だし、狙われたらシーマ様のぶち切れ具合が怖すぎて想像したくもない。
嗚呼、私も早く自由になりたい……。
その後の話し合いで決まった私たちのクラスがする出し物……出し物というより見世物。せっかく依頼をして呼び出した勇者たちに何かをさせる訳じゃなく、講堂でトークショー的なことをやらせようと思っているらしい。一日三講演で。
それが決まったときに帰り道の馬車の中でザッシュ様に教えたら、とてつもなくげんなりした顔になった。せめて剣の模擬戦とかそういうヤツだろ、と小さく呟いた言葉に、私は全力で同意したけれど、私が口を挟めるような雰囲気ではなかったんだよね。所詮よそ者だからね。
「トークショー……って? 講堂で俺たちに話を聞くだけ? え、俺ザッシュと二人で模擬戦でもすればいいと思ってた……俺たちの勇者的強さって関係ないんだ。もしかして肩書きだけ? まあ、そうだよな。肩書きだよな。誰も俺たちの強さなんて関係ないよな……一体ナニを話せばいいんだ」
ちょっとやさぐれた殿下の肩に、ザッシュ様の手がポンと乗る。
慰めるのかと思いきや、そっとザッシュ様が囁いた声が聞こえてしまった。
「話はさっさと切り上げて、その場で模擬戦にもってこうぜ。俺、話すの苦手なんだよ……」
「確かに。一番似合わないやつを選んじゃったかな。でもそこにシーマをもってったらシーマの毒舌と冷たい視線で場が凍るからなあ」
「そうだね。まずは勇者に無駄話なんてさせるやつを人材の無駄遣いではとこき下ろすかな」
半眼でフッと笑ったシーマ様はまさに氷の貴公子カッコ笑い。その袖を、グロリア様がくいくいと可愛らしく引っ張った。
「でもシーマ様が本当は優しいのを、私は知っておりましてよ」
「僕はグロリア嬢にしか優しくないですよ! 愛しているのはあなただけですから……!」
グロリア様のフォローに途端に相好を崩したシーマ様のその落差に、辺りに残念感が漂う。
質問の内容は私たちには知らされていない。そこら辺は全てマリーウェル様が用意するとのこと。かなり残念な質問が飛び交うんじゃないかなって思う。勇者とは全然関係ない質問とか恋のお相手はとか。
「ザッシュ様……間違っても私に求婚しているとかそこら辺言わないでくださいね」
その後が面倒だから、と言外に匂わせると、ザッシュ様はまるで意味が通じていないかのように首を傾げた。
「勇者にそんな質問、普通するか?」
「しますね、まず間違いなく」
だって勇者たちを使って婚約者をすげ替えようとしている女性だよ。
そこら辺を忘れちゃいけない。そう呟けば、さらに殿下とザッシュ様のテンションが急降下した。
やってきました文化祭当日。
私たちは勇者トークショーの会場作りをせっせと行っていた。
場所は講堂。とても広く、舞台の上には拡声の魔道具が設置されている。マリーウェル様は横から指示出し口を出し。私たちはコマネズミのように使われた。舞台に置く椅子の重いこと重いこと。私を指名したのは絶対に嫌がらせだと思う。
来るのは二人だけと伝えてあるはずなのに、豪華な椅子は三つ、テーブルを挟んで設置された。
最後にテーブルの上に花が飾られて、用意は終わった。重厚なテーブルと椅子は、簡単には片付けられそうもない。これは模擬戦はさせて貰えないよね。ザッシュ様のもくろみは辛くも散った……。
開演時間になると、講堂内は人で一杯になった。
勇者がそんなに珍しいんだろうか。珍しいか。他にはいないもんね。
そもそも大々的に宣伝して国を出たのが良くなかったんだろうか。でもたまに精霊がいる場所ってその国の偉い人が管理していたりするから、ちゃんと打診とか根回しとかするためにはやっぱり宣伝は大事なんだよね。ほぼすべての根回しをアレックス殿下がやってくれるのがありがたい。有能過ぎる。それでもアレックス殿下いわく、王太子殿下の方がもっと有能だっていうからすごい。めっちゃ疲れた顔している王太子殿下しか思い浮かばないけれど。
殿下たちは今日は私と一緒の馬車に乗ってきて、すでに控え室で待機状態。
魔法鞄から紅茶とお菓子を出して、ゆったりくつろいでいる。そこにマリーウェル様がずっとついて、仲良くなろうと必死で頑張っている。チラリと見えた控え室の中の二人は、目が死んでいた。しかも返事は「あー」とか「うー」という本当に適当な返事だった。マリーウェル様はそんな適当勇者にも笑顔で話しかけている。ある意味根性だね。
「お時間となりましたので、どうぞ舞台の上へ」
マリーウェル様に促されて、すでに疲れ切っている顔を切り替えた二人は、キリッとした顔で舞台の上に向かっていった。
二人の姿が皆の前に出た瞬間、拍手と歓声が飛び交う。これはライブ会場ですか。舞台袖にいた私にチラリと視線を向けたザッシュ様は、ものすごく帰りたいと目で訴えていた。報酬は貰っちゃったでしょ……。
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