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第二章

45、それは無関心ですね

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「ところでリュビはあのローズ嬢を睨んでいた女性と恋人か何かなのか?」
 
 ザッシュ様が馬車に乗っているリュビさんにダイレクトアタックをかました。
 リュビさんは「へっ?」ととんでもなく呆けた顔をしてから、首を傾げ、「俺、恋人とかいないですよ?」と真顔で答えた。
 なるほどスルースキル! めっちゃ仕事してる!
 あまりのスルー振りに、少しだけあのヒロインちゃんが可哀想になってしまった。

「いやだって、リュビがローズ嬢と仲良くしてるから、あの女性かなり嫉妬していたぞ」
「ええ? そうなんですか? うわー知らなかった。ってか、ザッシュ様今日一日でよくそんなこと気付きますね。流石勇者、すげえ」
 
 リュビさんに尊敬の眼差しを向けられて、ザッシュ様が困惑顔になる。本当に知らなかったのか? とか思ってそう。あからさまだからね。むしろバールさんにすら気付かれてるからね。

「っていうかそういうザッシュ様はローズ嬢とどんな関係ですか? 送迎するとか手厚いっすね。それとも隣国ではこれくらい当たり前だとか?」
「いや、俺は今、ローズ嬢を口説いているところだ」

 ザッシュ様は背中にバーン! という効果音を背負う勢いでそう言い切った。
 もうさ、半眼にしかならないよね。その言い方! ときめきも何もない。
 溜息を吐いて顔を上げたところで、リュビさんが目を輝かせているのが目に入った。
 違うからね。ロマンスとかそこら辺何一つ私たちにはないから。

「リュビさん、この方はですね。他の女性に秋波を送られるのが面倒で、自分に靡かない私が一番楽だからと婚約を打診してくるような人なんですよ。口説かれてなんていませんし、ザッシュ様が私に懸想しているとかそういうことは一切ありませんからね」
「そういうところがすごくいいって言ってるんだが」
「楽だからでしょ」
「そう。それをわかってくれない女性が多すぎてつらい」
「そりゃあ、世の女性方は愛してるとか好きだとか毎日伝えられたり素敵な贈り物をもらったりするのが好きですからねえ。シーマ様を参考にするといいですよ」
「無理だ。俺はもっと気楽がいいんだよ」

 シーマ様の名前を出すと、ザッシュ様は眉を寄せて身を震わせた。
 楽な女性って。多分それを言った瞬間女性の恋心は砕けるんじゃなかろうか。ロマンスがない。疲れた親父のような癒しを求めてるってことでしょ。

「でもじゃあローズ嬢はどうなんだよ。四六時中シーマみたいに愛を囁いてきたり美しい君が好きだとか理想の女性を求められたりしてくる男がいたらどう思う?」
「全力でお断りですね」
「じゃあ、似合わないと言われ続けた自分の好きなものを肯定してくれて、気負うことなく自分をさらけ出しても気にせず、こびを売ることなくいつも通りに接してくれる人だったら」

 ザッシュ様の言葉に、溜息が出そうになってそれを呑み込む。
 その対応ってこっちに恋心が全くないってことですよね。なんなら、興味すらないんじゃないかと。ザッシュ様はいつもこびを売られて秋波を飛ばされる人だから、そういう人はとても新鮮で癒しかもしれないけれど、私はこびを売られたことも秋波を飛ばされたこともないので、その対応はいつも通りの対応なのでなんとも思わないのですが?
 
「ザッシュ様、それ、相手自分に脈なしって言ってるやつじゃないですか」

 笑いながら私の思ったことをリュビさんがツッコんでくれる。
 えっとザッシュ様がこっちを向くけれど、正解。

「そんな人はまず単なる知り合いって感じでしょうね。そこら辺の道を通り過ぎる赤の他人的な感覚なので、なんとも思いません」

 きっぱりと答えると、ザッシュ様は複雑怪奇な表情をした。
 そんなこんなで、なんとなく学生っぽい会話の中、本屋さんに到着した。

「流石に今はドッケン氏の本入ってないけど、見てく? あわよくば買ってく?」

 リュビさんに誘われて、笑ってしまう。売れたら給料が上がるのかな。

「ごめんなさい。今日はこのまま戻ります。また入ったら教えて欲しいです」
「もちろん。こっちこそ乗せてもらってありがとう。何かあったら声かけて。力になるよ」

 リュビさんはイイ笑顔で私とザッシュ様、そしてバールさんに手を振って本屋に入っていった。
 ザッシュ様は見送りもそこそこちらちらと周りを見ていたので、ここら辺のスイーツ屋さん情報を貰ったのかもしれない。

「寄っていきます?」

 そう訊くと、ザッシュ様の目が輝いた。

「なんで俺が菓子屋を探してるってわかったんだ? 鑑定か?」
「鑑定しなくても丸わかりです」
「流石ローズ嬢! グロリア様を御せるだけはある!」
「御すとか人聞き悪いですよ!」

 言い方にぷんすかしている間に、ザッシュ様はバールさんに行き先を告げていた。
 迷いなく馬車を出したことから、実はバールさんも場所を聞いていたようだ。
 一本先の通りで馬車を寄せると、あそこだと店の場所を教えてくれたので、早速二人でむかった。
 そして、ザッシュ様の手には大量の甘味が。
 少し乾燥させたオレンジを蜂蜜につけたもの、オレンジにチョコをかけたものなど、果物系甘味中心の店だったけれど、ザッシュ様はだいぶ満足したようだった。オランジェットとかめちゃくちゃ美味しそう。
 そして私もザッシュ様にお菓子を買ってもらって大満足だった。
 でも横から「俺と婚約すればこういうの買い放題」とか囁くのマジやめて欲しい。思わず頷きそうになるから。


 そして宿に帰ってきた私は、ザッシュ様に「ところで二人目のやつ誰だ?」って聞かれてようやく学園祭の内容を思い出した。
 そこから急遽勇者会議が始まった。

「クラスの出し物として、俺たちに依頼……って、俺らに何をやらせようとしているんだそのご令嬢は」
「トークショーとか質問コーナーとかでしょうか」
「……皆の前で、魔物をぐちゃっとした話とかスパッとした話をしろと?」
 
 困惑した表情でアレックス殿下が首を捻る。
 確かにまだまだ初心な学生に魔物をぐちゃっとかスパッとかした話は教育上よろしくないかもしれない。
 
「交遊会とかなんとか言ってたから、もしかしたら皆を囲んでおさわりオッケーのお茶会、とか?」
 
 呟いた瞬間、シーマ様が鬼の形相になった。

「僕とグロリア嬢は不参加で。グロリア嬢に触っていいのは僕だけだ!」
「シ、シーマ様……」

 シーマ様の叫びに、グロリア様の顔が真っ赤になる。かあわいい~。

「むしろ私は断りました。それでも押し通すなら冒険者ギルドを通じてちゃんと依頼料を払って下さいって言っときましたので、めちゃ高い料金じゃないと受けないってしてもいいんじゃないですか? 勇者なので、命の危険がない依頼に関しては基本受けていないでもイイですし」
「俺たちが断って、ローズ嬢の立場は悪くならないか?」
「全然問題ないですね。むしろ最初に断ってますので。やりたくないなら無理でいいと思います」

 交遊会という名の狩猟大会と化してしまいそうですしね。しかも学園祭だからクラスだけじゃなくて全学年が押し寄せてくるかもしれないし。

「数日のうちに学園の関係者から日付と予定などを聞かれるかもしれないので、アレックス殿下、対処の方よろしくお願いします。丸投げしておきますね」

 清々しく答えると、名指しされたアレックス殿下は苦笑で済ませてくれた。心が広い。イイ王様になりそうだよね。
 
 
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