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第二章

43、そんな求婚はいらないですが

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 るんるん気分のまま、私は皆に今日の出来事を報告した。

「じゃじゃーん! 我がマリウス国のドッケン氏著の本を手に入れました!」
「いやいや、学園の報告をしようよ」
「学園はまあ普通でした」
 
 学園報告はそう一言で終わらせようとしたけれど、同じところで一緒にご飯を食べていたバールさんが「ちゃんと報告する約束だろ」とツッコんできたので、首を傾げる。

「前の学園と似たようなものだったので、そんな報告することもないかと……」

 私の言葉に反応したのは、グロリア様。

「前の学園って……あの時と同じように、特定の方に睨まれたり、何かが始まっていたりしないですわよね……?」

 こういうときだけうっかり発動しないグロリア様リスペクトです。

「今日馬車に乗せて一緒に帰ってきた本屋の店員さんは攻略中ってなってましたけど、私そもそもそこまで学園に通いませんし、あんまり関係ないかな~って」

 あははと笑うと、バールさんが「それでか……」と苦笑した。

「どうかしたのか、バール。問題でも?」
「いやぁ……問題というか、ローズ嬢を帰りにずっと睨んでる女生徒がいたから、どうしたのかと思ってな。なるほどあの優男の兄ちゃんにお熱の女生徒か……ローズ嬢、もうちょっとだけ身の回りに気を付けたほうがいい」

 私は全く気付かなかったけれど、バールさんはずっと私たちの馬車を睨み続けている女生徒を気に掛けていたらしい。まあ、攻略中の男が他の女の馬車に乗ったらそうなるよね。でも、皆私の見た目を忘れて亡いかな。

「これがグロリア様くらい超絶美人だったらそうなるかもしれないですけど、私ですよ……?」

 気持ちを込めて呟くと、殿下は盛大に溜息を吐いた。

「あのな、ローズ嬢だってそんな酷い見た目してないからな……?」
「その言葉に嘘はありませんか?」

 ぐいっと身を乗り出すと、殿下はさっと目を逸らした。

「男性用制服のほうが似合うことを自分で知ってますし、男性用制服を着た瞬間兄のクローンになるのも知ってます。そんな私の容姿は自分ではそこそこ気に入っているので問題ないですが、こんなちんくしゃな見た目の女生徒をライバル視しているその女性は、前の学園の例の彼女のようにとても可愛らしく可憐ですよ? 並んじゃいけない奴ですよ私なんか」
「でも実際に、その連れ添った男はその可憐可愛い女よりもローズ嬢の方を気に入ってるんだろ? 見てる奴は見てるんだよ。……なんかまたローズ嬢がやらかさないか心配になってきたから、俺ちょっと明日から送り迎えするか」

 そんなことを言い出したザッシュ様は、よいしょと年寄り臭く立ち上がって、荷物を開き始めた。

「送り迎えなんてそんな……バールさんだっているのに」
「あのな嬢ちゃん、俺は皆と違って爵位はねえから、あの学園の生徒に何かをされても助けに入れねえんですわ」
「俺だったら勇者称号あるから切っても問題ない」
「いや切っちゃダメでしょ」

 裏拳でツッコむと、ザッシュ様はえーという不満の顔をした。切る気満々だ。

「もうめんどくさいから俺と婚約者ってしとけばいいんじゃないか」
 
 ザッシュ様が真顔で私をじっと見る。
 
「それ、私にメリットないような……?」
「一応ローズ嬢の家よりは家格上だし、婚約だ何だって煩わされることないだろうし、何より彼氏がいるって言えばその女も引くんじゃねえの?」
「その分ザッシュ様に秋波飛ばしてる女性から睨まれますし、なんだかんだで両家が納得しちゃったら解消がめんど……大変だしそうなると私がザッシュ様の奥さんにならないといけない流れになってデメリットのほうが多いですよね……?」
「何だよ、俺は嫌いか?」

 じっと私を見つめてくるザッシュ様は相変わらず乙女ゲームだなっていうイケメンで、それだけで腰が引ける。
 私は別にイケメンは好きじゃないんだ。顔より心。一緒にいて心安らぐ人がいいのだ。とはいえ、こっちから選べるほどに周りに男性はいないんだけど。むしろイケメンしかいないんだけど!
 答えないで、じっとその視線に受けて立っていると、ザッシュ様は少しだけシュンとした表情になった。

「そうか……俺としてはローズ嬢は一緒にいて疲れないし気安いし心安らぐし菓子同盟の仲間だし、気に入ってるんだけどな……」
「振られたならきっぱりと諦めろザッシュ。ローズ嬢だってちゃんと好みがあるんだよ」

 な、と優越感に満ち満ちた顔でザッシュ様の肩をポンポンと叩いたシーマ様は、「グロリア嬢だって好みはあるだろ」とやり返されて、グロリア嬢に「好みを教えてくれれば僕はその好みに全てを合わせます……!」と突進していった。
 
「いやまず婚約とかそういうのは置いといて。しかしローズ嬢はそういう女生徒に絡まれるのが当たり前なのか……? とりあえず学園に通う時はザッシュが送迎をするとして」
「いやいやいや、殿下たちもやらなきゃいけないことが沢山あるじゃないですか。私ごときに煩わされるのも申し訳ないです」
「とはいえ、ここの精霊様はもう問題ないわけだろ? そして次の精霊様のところに行くにはローズ嬢が必要不可欠なわけだ。と言うことは、ローズ嬢の身柄が空くまで、俺らは図書館やら古書店やら市街で精霊様の噂や逸話を拾うことくらいしか今はすることないんだよ」
「要するに暇なんだよ。一人でスイーツ店を回っても入れない雰囲気の場所も多いしな。その点、ローズ嬢を迎えに行けば帰りに買い食いも出来るわけだ」
「スイーツの買い食いですか……」
「まあまあ。私もローズ様のことはとても心配しているのよ。だから、少しだけザッシュ様の厚意に乗ってみたらいかがかしら」

 グロリア様まで、ザッシュ様送迎賛成派になってしまった。実際送迎をしてくれるバールさんはホッとしたような顔をしているのがなんとも複雑。

「とりあえず一週間ほどは通わないといけないので……その間、よろしくお願いします」
「今の間がよろしくして欲しくなさそうで面白いからもちろん」

 すごくいい笑顔でそんな答えを返してくれるザッシュ様は、やっぱり婚約者にするにはちょっと問題有りだと思う私なのだった。

 

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