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第一章
14、いじられ魔王
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ものすごい勢いで書類整理を終わらせたライ君は、カタンとペンを置いて顔を上げた。
「あの」
ライ君の一言に、皆の注目が集まる。
「昨日、俺だけ生徒会の仕事しなかったみたいで……すいません。ローズクオーツ様が生徒会を手伝ったと聞いて、俺も一緒しなくてよかったのかなって」
ほんとすんません、とぺこりと頭を下げるライ君に、アレックス殿下が眩しい笑顔を向けた。
「大丈夫大丈夫。本当だったらローズ嬢もそっち側に言って貰うところだったんだけど、ちょっと人手が足りなくなっちゃって頼み込んで手伝って貰っちゃったんだよね。ごめんねローズ嬢。だからライは楽しんでくれて正解」
本当はボッチだったのを拾って貰ったんですけどね。誤魔化してくれた殿下にそっとサムズアップすると、殿下は優雅なウインクを返してくれた。その仕草はまさに乙女ゲームセンターの貫禄。
そういえば、ライ君が皆に対する好感度とか、どんな感じなんだろう。
マイナス表記はなかった気がするけど、喧嘩すると赤く染まっているハートが青くなるんだよね。
そっとライ君を見ると、バッチリと目が合った。何でこっち見てるの。想像通り、五つ並んだハートはほぼ白いまま。けれど、ほんの爪の先程だけ染まっている好感度は、青じゃなくて、ちゃんと赤かった。少なくとも、今はライ君的に私は敵じゃないっぽい。どういうこと。
首を捻りながら殿下に視線を移すと、殿下がライ君に向けた時のハートが一つ染まっていた。
……仕事出来る後輩が気に入ってるってことだね。敵に回ったら、殿下たちはちゃんとライ君と対峙できるんだろうか。非情になりきれるのかそれが心配。
ってそれ、まんま私も何だけど。憎めないんだよね、ライ君。勇者候補と本当に仲良くなってるしね。
「とはいえ、講堂では一緒に立っててもらうけどな。景品持ち係だ」
「それぐらいいいっすけど。でも本当に昨日何もなかったんすか? なんかローズクオーツ様皆から愛称で呼ばれてるし」
あ、そこ着目しちゃうんだ。
さっきのアレックス殿下の一言で皆と私の距離が近くなったことにツッコむあたり、やっぱり知力が高いのは伊達じゃない。
「うん、まあね。一緒に行動して、ちょっとしたアクシデントでローズ嬢にはすごく助けられたって感じでさ。ねー、ローズ嬢」
「ねーって言われましても……」
いきなりの距離感に半眼になると、アレックス殿下は席を立ってライ君に近付いた。
そして、後ろから肩をガシッと掴んだ。
「なになに、一人だけ除け者みたいで寂しくなっちゃった?」
「そんなんじゃないっすよ。そもそも、俺は平民なんすから、元から立場は違います」
「そんな気持ちでいたのか。そっか」
アレックス殿下に頭をグリグリと撫でられて、ライ君の表情はかなりおかしなことになっている。
そのことに皆が気付かないはずはないのに、微笑まし気に見ていて、誰も口を挟まないのが不憫すぎる。
「じゃあ、ここでは爵位関係なしの無礼講といこう。どうせここに補佐に来たってことは、王宮官吏候補なんだから、ここで慣れておくのがいいと思う。まあ、ライが王宮で働くのは嫌だっていうのなら仕方ないけど。俺たちと仲良くしておけばへいみーんなんていじめられても助けに入れるしな。俺らの友人だ文句あるかってな」
「あんた第三王子だろ……」
思わずというような呆れた声がライ君の口から零れる。
無礼講、という言葉が効いたのか、ライ君は少々乱暴にアレックス殿下の手を振り払った。ちょっとくせ毛交じりの黒髪は、あっちこっち収集が付かないくらいに乱れている。これから皆の前に立つのにそんなんでイイのかな。
「ほんとにな。どうして俺第三王子になんて生まれたんだろな……」
ライ君に払われた手を振りながら、しみじみとアレックス王子が呟く。
「生まれたものは仕方ないだろう。生まれを嘆くより、自分がやりたいことをやれる範囲でどうするかを考えた方が建設的だと思うが」
シーマ様がアレックス殿下の頭を容赦なくペシンと叩くと、殿下は「いで」と大げさな声を上げた。
シーマ様の言葉はとても正論で、だからこそ、私の心に引っかかった。
私のやりたいこと。
それは今まで、あまり考えたこともなかったことだったから。
ローズクオーツという一個人よりも、私の頭にはローズクオーツというサポートキャラとしての生が先に立っていたから。主人公ちゃんにいいように情報を与えて消えていくのはやだ、とか。攻略対象者を好きになっちゃったら当て馬状態かも、とか。
そこにはアレックス殿下やザッシュ様、シーマ様などの個人の存在もなくて、全てがキャラとして認識していた。
皆を個人として見ることができるようになったのは、まさにここに来てから。一人一人が、画面の向こうで甘い言葉を囁いていたキャラとは全然違っていて、酷くホッとしたんだ。
それに、もう一人の攻略対象者、庶民枠のライ君。本当は魔王とか笑い話にもならない。でも実際にライ君は魔王で、スピリットクリスタルラスボス。鑑定がそう私に告げている。
でも実際見ているとラスボスはいやに人間臭く、あの無慈悲の魔王とはかけ離れている。今も周りの勇者に警戒して縮こまってる。
じゃあ、サポートキャラじゃない私がやりたいことは?
何をしたいんだろう。家を継ぐのは兄さんで、妹の私は政略結婚して誰かの嫁になるだけ?
勉強を頑張って王宮に職探し、なんてそんなこと思ったこともなくて、逆に鑑定で国に召し抱えられて、半軟禁とか絶対ごめんこうむる。
「「やりたいこと、か」」
つい口を出た言葉は、図らずもライ君のそれと重なった。
「あの」
ライ君の一言に、皆の注目が集まる。
「昨日、俺だけ生徒会の仕事しなかったみたいで……すいません。ローズクオーツ様が生徒会を手伝ったと聞いて、俺も一緒しなくてよかったのかなって」
ほんとすんません、とぺこりと頭を下げるライ君に、アレックス殿下が眩しい笑顔を向けた。
「大丈夫大丈夫。本当だったらローズ嬢もそっち側に言って貰うところだったんだけど、ちょっと人手が足りなくなっちゃって頼み込んで手伝って貰っちゃったんだよね。ごめんねローズ嬢。だからライは楽しんでくれて正解」
本当はボッチだったのを拾って貰ったんですけどね。誤魔化してくれた殿下にそっとサムズアップすると、殿下は優雅なウインクを返してくれた。その仕草はまさに乙女ゲームセンターの貫禄。
そういえば、ライ君が皆に対する好感度とか、どんな感じなんだろう。
マイナス表記はなかった気がするけど、喧嘩すると赤く染まっているハートが青くなるんだよね。
そっとライ君を見ると、バッチリと目が合った。何でこっち見てるの。想像通り、五つ並んだハートはほぼ白いまま。けれど、ほんの爪の先程だけ染まっている好感度は、青じゃなくて、ちゃんと赤かった。少なくとも、今はライ君的に私は敵じゃないっぽい。どういうこと。
首を捻りながら殿下に視線を移すと、殿下がライ君に向けた時のハートが一つ染まっていた。
……仕事出来る後輩が気に入ってるってことだね。敵に回ったら、殿下たちはちゃんとライ君と対峙できるんだろうか。非情になりきれるのかそれが心配。
ってそれ、まんま私も何だけど。憎めないんだよね、ライ君。勇者候補と本当に仲良くなってるしね。
「とはいえ、講堂では一緒に立っててもらうけどな。景品持ち係だ」
「それぐらいいいっすけど。でも本当に昨日何もなかったんすか? なんかローズクオーツ様皆から愛称で呼ばれてるし」
あ、そこ着目しちゃうんだ。
さっきのアレックス殿下の一言で皆と私の距離が近くなったことにツッコむあたり、やっぱり知力が高いのは伊達じゃない。
「うん、まあね。一緒に行動して、ちょっとしたアクシデントでローズ嬢にはすごく助けられたって感じでさ。ねー、ローズ嬢」
「ねーって言われましても……」
いきなりの距離感に半眼になると、アレックス殿下は席を立ってライ君に近付いた。
そして、後ろから肩をガシッと掴んだ。
「なになに、一人だけ除け者みたいで寂しくなっちゃった?」
「そんなんじゃないっすよ。そもそも、俺は平民なんすから、元から立場は違います」
「そんな気持ちでいたのか。そっか」
アレックス殿下に頭をグリグリと撫でられて、ライ君の表情はかなりおかしなことになっている。
そのことに皆が気付かないはずはないのに、微笑まし気に見ていて、誰も口を挟まないのが不憫すぎる。
「じゃあ、ここでは爵位関係なしの無礼講といこう。どうせここに補佐に来たってことは、王宮官吏候補なんだから、ここで慣れておくのがいいと思う。まあ、ライが王宮で働くのは嫌だっていうのなら仕方ないけど。俺たちと仲良くしておけばへいみーんなんていじめられても助けに入れるしな。俺らの友人だ文句あるかってな」
「あんた第三王子だろ……」
思わずというような呆れた声がライ君の口から零れる。
無礼講、という言葉が効いたのか、ライ君は少々乱暴にアレックス殿下の手を振り払った。ちょっとくせ毛交じりの黒髪は、あっちこっち収集が付かないくらいに乱れている。これから皆の前に立つのにそんなんでイイのかな。
「ほんとにな。どうして俺第三王子になんて生まれたんだろな……」
ライ君に払われた手を振りながら、しみじみとアレックス王子が呟く。
「生まれたものは仕方ないだろう。生まれを嘆くより、自分がやりたいことをやれる範囲でどうするかを考えた方が建設的だと思うが」
シーマ様がアレックス殿下の頭を容赦なくペシンと叩くと、殿下は「いで」と大げさな声を上げた。
シーマ様の言葉はとても正論で、だからこそ、私の心に引っかかった。
私のやりたいこと。
それは今まで、あまり考えたこともなかったことだったから。
ローズクオーツという一個人よりも、私の頭にはローズクオーツというサポートキャラとしての生が先に立っていたから。主人公ちゃんにいいように情報を与えて消えていくのはやだ、とか。攻略対象者を好きになっちゃったら当て馬状態かも、とか。
そこにはアレックス殿下やザッシュ様、シーマ様などの個人の存在もなくて、全てがキャラとして認識していた。
皆を個人として見ることができるようになったのは、まさにここに来てから。一人一人が、画面の向こうで甘い言葉を囁いていたキャラとは全然違っていて、酷くホッとしたんだ。
それに、もう一人の攻略対象者、庶民枠のライ君。本当は魔王とか笑い話にもならない。でも実際にライ君は魔王で、スピリットクリスタルラスボス。鑑定がそう私に告げている。
でも実際見ているとラスボスはいやに人間臭く、あの無慈悲の魔王とはかけ離れている。今も周りの勇者に警戒して縮こまってる。
じゃあ、サポートキャラじゃない私がやりたいことは?
何をしたいんだろう。家を継ぐのは兄さんで、妹の私は政略結婚して誰かの嫁になるだけ?
勉強を頑張って王宮に職探し、なんてそんなこと思ったこともなくて、逆に鑑定で国に召し抱えられて、半軟禁とか絶対ごめんこうむる。
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