828 / 830
番外編5
魔大陸開墾編 12
しおりを挟む『南国エピ、復活』
運営からの号外で、こんな文字が躍った。
無事定数以上のエンブレムが地上に顕現され、それが国を覆ったことで、その国の魔素はさらに落ち着いたらしい。
魔物もこっちのセィ城下街周辺あたりの強さに落ち着いたんだそうだ。
でもそれじゃレベル上げ大変じゃないかな、と思っていたら、とあるアイテムをゲットするとシークレットダンジョン入り放題という噂が出てきて、皆気合いを入れてそのアイテムをゲットしようとしているんだって。
グランデの四個目の街に売ってるのに魔大陸を探すのか……
遠い目をしながら運営からの通知を閉じると、俺はうーんと伸びをして錬金釜を取り出した。
ルーチェさんからの追加クエストをクリアするためだ。
そのクエストの内容は、『古泉浄石』の追加発注。報酬はサラさんの持っている錬金素材。垂涎だ。俺にとって素材さえあれば『古泉浄石』は比較的簡単な錬金アイテムだから。
前にすっごく苦労して作ったアイテム類は、今持っている釜で作るとあら不思議、めちゃめちゃ簡単に作れてしまう。
謎液体を満たして素材を放り込んで、グルグルしながらレシピを覗く。
ああ、新しいものが作れるようになってる。
次これを作ろう、なんて思いながら回していたら、いきなりぐっと攪拌棒が重くなった。
「うわ! もしかして失敗? 調子に乗ったから⁉」
慌てて力いっぱい棒を動かす。
錬金術の失敗はボンと破壊音がして煙が出て素材がなくなる状態だから、少なくとも今はまだ失敗じゃないはず。
「お……おも……懐かしい、この感覚……っ」
ぐぎぎとうめき声を上げながら回していると、小さくなったティーロイがそっと錬金釜の後ろから顔を出して、口に咥えていた何かをポトン、と錬金釜に入れた。
原因はこれか!
上腕二頭筋を叱咤激励しながら必死で微々たるものしか動かない棒を回していると、隣から「マック?」というイケボが聞こえてきた。
「今、錬金、お、おも……っ」
必死で返事をしながら腕に力を入れていると、ヴィデロさんが慌てて工房に来てくれた。そしてそっと俺の後ろに立って棒に手を添えてくれる。
グルン、と力強く棒が回り始め、錬金素材が瞬く間に掻き混ぜられていく。
この力強さ、好き。
そしてこの構図、懐かしい。前はこうやっていっぱい手伝って貰ったんだよね。幸せな思い出だよね。
にへら、と顔を緩めながらヴィデロさんと共に回していると、ティーロイがさらにもう一つ何かを加えた。
「ティーロイ、今何を入れたんだ?」
ヴィデロさんの問いに、ティーロイは小さな翅をパタパタさせて口を開いた。
『あのね、あのね。きのう聖域で見つけた実! リザお姉様がおやつにってくれたの! でもこれに入れたら絶対おいしいのができあがるのよ!』
「美味しいのって……石を作ってたのに。本当に美味しいのかな?」
「まあ、作ってみようか。まだ失敗じゃないんだろう?」
「うん。とりあえずは。俺の腕力がなさ過ぎて危なかったけど。ヴィデロさんこのまま手伝ってもらってもいい? ごめんね疲れてるところ」
今まで外を飛び回り続けていて、絶対に疲れてるのに。家でゆっくりしようと思ったら俺に手伝わされるって、ヴィデロさん全然休めないよね。
「いや、こうしてマックとくっついていられるのは嬉しいし、久しぶりに手を貸せるのも嬉しいから。ぜひ手伝わせてくれ。こうしてマックと一緒に錬金するの好きなんだ」
「好き……! 俺も、俺も好き!」
「はは、俺に向けてその言葉を言って欲しいけどな」
ちらりと横を見れば、ヴィデロさんもだいぶ力を入れているのか、上腕二頭筋がカッチカチのゴリゴリ状態だった。
あああ好き。この筋肉、そしてこの包み込まれる安心感。そして悪戯しているようにしか見えないティーロイの行動も好き。
色々な物を堪能しながら棒を回していると、ようやく釜の中身がコロンと固形になった。
ティーロイがこっそり入れた薄いピンク色の実と同じ色をした石ができあがり、それを鑑定してみると。
『聖桃石:聖域に出来る偽桃の実の成分を含んだ浄化石。浄化作用がある』
「偽桃の実……?」
聞き慣れないアイテムに首をかしげていると、ティーロイがゴソゴソと自分の身体にかかっている小さいポーチから薄いピンク色の石をコロンと取り出した。
大きさは直径五ミリほどの丸い石のような固い実で、鑑定眼で見ても『可食』とは書かれていなかった。どこからどう見ても食べられる実には見えない。ただ、魔力はとても豊富に入っているらしく、石を主食にしているリザにとってはご馳走なのかもな、と納得した。香石をゴリゴリ食べておいしそうにしているし。
問題は、ワクワク待っているティーロイがこれを食べられるかなんだけど。
『固い。おいしくない。いい匂いなのにたべられない』
泣きそうな雰囲気でポツンと言葉を零したティーロイに、俺はそっとインベントリに入っていたペスカの実をあげた。匂いはおんなじだから、食べられる実を食べるといいよ。
「きっとこれはリザの好物なんだね。ティーロイのことが好きだから、好物を分けてくれたんだよ」
『リザお姉様優しいのよ。じゃあこれ、お礼にあげていい?』
ティーロイが羽をパタパタさせながら、今出来上がった『聖桃石』を口に咥えた。
聖獣二人の交流にほっこりした俺は、相好を崩して「いいよ」と答えた。
すると、ティーロイが声高にピー―――――ィィィィィィィロロロロ、と長い鳴き声を上げた。
「ぅわ!」
鳴き声が二巡する間に、そんな叫び声と共に工房から見える窓の外に光が集約した。
何だ、と思ってヴィデロさんと共に窓から外を覗くと、そこにはリザが首に巻き付いた状態で『リターンズ』のメンバーが立っていた。
あの光はリザの光魔法だね。
急いで『リターンズ』の名前の横にチェックを入れると、ヴィデロさんと共に外に出た。
「おお、マック。ここどこだ? マックがいるってことは、トレか?」
「まだ目がちかちかする……」
「今のやつリザの魔法か?」
『呼ばれたのよ。ティーロイに。来て頂戴って。緊急事態かもしれないから、すぐ来ないとダメでしょう?』
エリモさんの首に巻かれていたリザが、俺の頭に乗っているティーロイに視線を向けた。
『リザ姉様! マックに素敵なプレゼント作ってもらったの!』
『ティーロイ、無事なのね。怪我はない?』
『ないよ。ここにいたから』
かみ合わない会話に首を傾げながら、『リターンズ』を工房に招き入れる。
リザの羽はしばらく見ない間に前よりもさらに育っていた。まるで蝙蝠の羽の様で、可愛らしかった。けれど、まだ身体を支えられるほどではないみたいだった。エリモさんにへばり付く姿はとても可愛らしい。
「ここ、俺の工房なんで、どうぞ」
「へぇ、だいぶ立派だな」
「増築を重ねたからね」
「すっげ―立派」
ティーロイのために。
一生懸命リザに工房の案内をするティーロイを微笑ましく見ながら、改めていきなり呼び出したことを謝った。
リザも緊急だと思って、エリモさんたちの都合も考えずに光魔法で跳んで来てしまったらしい。一度リザの小さい手でティーロイは顔をむにゅっと挟まれて、反省を促されていた。リザが立派なお姉さんに見える。
「ティーロイ、非常時じゃない限りは、相手の都合を確認するのが大事だぞ」
ヴィデロさんにも怒られて、ティーロイはちょっとション……となって小さくごめんなさいと謝った。
その姿を見て、『リターンズ』のメンバーは「いいよいいよ」と快く許してくれた。
魔大陸の中央から下の方を探索していたんだって。リザも一緒に魔大陸でハッスルしていたらしいんだけど。
「でも、これさっき皆で力を合わせて作ったやつ、リザにあげたかったのは本当。リザが前にティーロイに好物をプレゼントしてくれたんだって」
俺の言葉に、ティーロイが先程出来上がったばかりの石をくちばしに挟んで、リザの前に運んだ。
リザの前にコロンと小さな薄桃色の石が転がる。
『すごく、いい香り。これ、偽桃? でももっと美味しそう』
『あの綺麗なピンクを、マックの釜に入れて作って貰ったの!』
ちゃんと出来上がったのは本当に偶然で、ヴィデロさんが来なければ、組み合わせが悪ければ、きっと失敗していたと思う。ちらりとティーロイを見ると、俺と目が合った瞬間嬉しそうに笑った。
ご機嫌なティーロイを指で撫でていると、リザが目を輝せて目の前に転がった石をぺろりと舐めた。
「リザ、待て、それ滅茶苦茶高価なやつじゃないか? 香石みたいに。釜に入れたってことは普通に作るの無理なやつだろ」
「マック、対価はどれくらいだ?」
「やべえ、最近シークレットダンジョン用に装備一新したばっかだぞ」
三人は顔を寄せて、ティーロイからリザへのプレゼントの対価の話をしている。
いや、それ対価取れないから。ティーロイが拗ねちゃうし。
苦笑している間に、リザがぱくっとそれを食べてしまった。
「リザ!」
エリモさんが名を呼ぶ間にも、リザの口からはゴリゴリと石を噛み砕く音がしてくる。
『あぁあああ! これ、美味しい!』
噛み砕き呑み込んだリザが、恍惚とした表情で声を上げた。
すると、リザの身体がキラキラとし始めた。
それは、リザが未成獣の時に成長していたのと同じ感じで。
「実はヤバいモノだった……?」
「リザが進化……?」
「成獣になったからもう進化しないんじゃないのか?」
『リターンズ』も固唾を飲んでリザのキラキラを見守っている。
そんな中、ティーロイはニコニコとリザに寄り添った。
リザの鱗がポロリと床に落ち、一つが二つに、ついでザアァァァと全体的に鱗が剥がれ落ちる。それと同時に眩しくてリザが見えないくらいにその身体が発光し、思わず目を覆ってしまった。
眩しさが消えて、目を開けると、そこには白から薄ピンクに染まり、背中の羽がまるでドラゴンのようになったリザがいた。
今までの身体に見合わない大きさの羽は、鱗が剥がれたと同時に成長したらしい。
今度こそ、その羽で空を飛べそうな大きさになっていた。
816
お気に入りに追加
9,297
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる