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番外編5
魔大陸開墾編 10
しおりを挟む「三つ、ください」
「ありがとう。そうね、本当なら一つ百万ガルくらい頂くんだけど……半額でいいわ」
「おー! 半額! 三つで百五十万ガル! 一人四十万ガル程度なら楽勝! あれ、でもネットでは一つの相場が百二十万ガルで、場合によってはもっと高いって書かれてたけどほんとにいいのか?」
「もちろんよ。今日の護衛代も込みで。ありがとう。あと、おまけにこれをあげるわ」
サラさんは、エンブレムと共に魔大陸行商人召喚のチケットを四人に一枚ずつ渡した。
皆チケットを掲げて目をキラキラと輝かせている。あのチケット、プレイヤーたちの間では物凄くプレミアがついた激レアチケット扱いになっていたりするんだよ。チケットを使ってルーチェさんたち魔大陸行商人を呼び出せば、他では手に入らない珍しいアイテムがほぼ外れなく売っているから。その中には俺が作った、他では売れない錬金アイテムもあるんだけれど、ぼったくりじゃないかという値段で売られている。一番人気は起爆剤だ。
皆が躊躇いなくお金を払っているのを見て、俺はそっと目を逸らした。
雄太たちはそもそもこっちを見ていない。
大喜びする副業薬師の皆を優しい目つきで見つめていたサラさんは、そっとお金をしまうと、ユイにそろそろ帰りましょうか、と声を掛けた。
ユイの魔法陣でクラッシュの店に戻ってくると、既にルーチェさんも戻ってきていた。
「あ、セイジセイジ。俺あんたの奥さんからチケットもらったんだけど今使っていいか?」
ルルーさんがルーチェさんを見つけた瞬間さっき貰ったチケットを手に走り寄る。
ルーチェさんはチラリとサラさんに視線を向けてから、笑顔をその顔に乗せた。
サラさんの手、親指と人差し指で円を描いていた。まるで「たんまり稼がせてもらったわよ」と言っているようだった。目で通じ合う行商人夫婦怖い。
「なんだよ水臭いな。この場にいるんだからそのチケット使わなくても商品ぐらい見せてやるよ。その代わりそれを使ってまた俺たちを呼んでくれ。クラッシュ、場所借りるな」
「どうぞ」
「場所提供代は弾む」
「ルーチェさんからは取りません。好きに使っちゃってください」
副業薬師の皆の歓声をBGMにクラッシュの返事を聞いたルーチェさんは、鼻歌を歌いながら商品をずらっとテーブルに並べ始めた。俺も見たことのないものが沢山あった。
これを見ると欲しくなっちゃうのわかる。
もちろん、俺から買い取った錬金アイテムも並んでいる。
「どれだ。あれだ。これだ。さっきマックが使ってたアイテム絶対欲しかったんだ。あの光の柱作ったやつ。魔物に投げたらヤバい威力出るんだろ? ネットで話題になってて、一度は使ってみたいと思ってたんだけど、手にする機会がなかったんだ」
「ああ。『起爆剤』な。アレは魔法の威力を上げるやつだからルルーはいまいち使えないと思うぞ。俺だったらフィットに持たせる」
「じゃあじゃあ私買う! 在庫ある?」
「たんまりある。何個くらい欲しい? 上限は十ってところか」
笑っちゃうような単価を示したルーチェさんは、さっき皆で百五十万ガルポンと払ったのにまたしてもポンと現金を出す副業薬師の人たちに、すごくいい笑顔で「サンキュ」とお礼を言った。
ここら辺の人たちの金銭感覚凄いな―と感心の眼差しで見ていると、ルーチェさんがほらほらと俺を手招きした。
「マックも欲しいのあるか?」
「その蔦みたいな素材欲しいです。初めて見る。錬金素材?」
「ああ。これな、『エセス』の渓谷で運よく洞窟のある棚に風で飛ばされた時だけ手に入る素材だ。一束五十万ガルだけどどうする」
「十束ほどください」
真顔でキリッと答えると、副業薬師の人達がざわめいた。金払い半端ねえ、と。素材に費用をケチっちゃだめだよ。渓谷の風に飛ばされて運よく辿り着いた洞窟なんて、行きたくもないもん。お金で解決できるならする、それが俺。
「毎度あり。やっぱマックが一番お得意様だな。あと、起爆剤仕入れていいか?」
「もちろん。今手元に二百ぐらいしかないんですけどいいですか?」
「ありったけ頼む」
値段は既にわかっているので、その会話だけで交渉が終わる。
俺が商品をルーチェさんに渡すと、副業薬師の人たちが「製造元はそこかああああ」と叫んでいた。
「これ、実は俺が売るのはダメなやつなんで、買えるのは魔大陸行商人の所からのみです」
俺が注釈を付けたら、皆一斉にルーチェさんから十個ずつ入手していた。ルーチェさんはホクホク顔で、仕入れたばかりの『起爆剤』を売りつけていた。
「さてと。あ、マック。今日納品してもらったやつ、追加で頼んでいいか?」
「大丈夫です。同じくらいでいいですか?」
「ああ。早めに頼むな」
「了解です。出来上がったらクラッシュに渡しておきますね」
「そん時呼べば手が空いてりゃ文字通り跳んでくるぞ」
売れなかった商品をカバンにしまうと、ルーチェさんは「んじゃ次行くか」とサラさんの腰に腕を回した。
ルーチェさんに抱き着いたサラさんは、とても楽しそうな顔で「今日は楽しかったわ」と手を振り、ルーチェさんの魔法陣魔法と共に消えていった。
「俺、今日で大分散財した……悔いはない。でも金がないの心もとないから魔物倒して稼ごう」
「あ、今日作れるようになったハイパーポーション売ればいいんじゃない?」
「売れんのか?」
副業薬師たちの会話にクラッシュの脇腹を肘で突くと、クラッシュはサムズアップしてルルーさんの肩に腕を回した。
「ハイパー作れるようになったの? やった! 今手に入る伝手があんまりないから高値で買い取りさせてもらうよ。売って売って」
「店主さんさすがぁ。ところで買い取り額はいかほどに?」
「マックのがこれくらいで、でもあれは味も高価も段違いだから、これくらいになるけどどう?」
「わ、下手な魔物の素材よりも買い取り額高いじゃん。でもさあ、まだ仕入れ先が少ないなら、もう少し上げてくれてもよくない? マック君直伝だから、味もいい感じよ」
「うわあ、それを言われちゃうと高くしないとだめだよね。じゃあねえ……」
ルルーさんの肩を抱きながら、クラッシュはまんまるさんと商売人の駆け引きを始めてしまった。
とても楽しそうなその顔に、横やりを入れるのは悪いなと思ったので、後を振り返って雄太たちに帰ることを伝えた。ルーチェさんに追加で頼まれたしね。素材もゲットしに行かないと。
「今日はすごく有意義だったよ。ありがとう海里」
「今日手に入れた素材でどんなものが出来上がるのか教えてくれたら、また同じようなシークレットダンジョンを見つけた時声を掛けるわよ」
それは嬉しい。ぜひ教える約束をして、俺は皆にお別れの挨拶をした。一応組んでいたレイド登録は解除し、残ったのは増えたフレンドの名前。
今度一緒に採取に行く約束をして、俺はグランデの地に戻って来た。
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