これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
822 / 830
番外編5

魔大陸開墾編 6

しおりを挟む

 店の前でルーチェさんと別れ、俺たちは雄太たちの言うシークレットダンジョンまでユイの魔法陣で跳んだ。
 場所は大陸の南側の国。『エピ』という名の国の端のほうだった。
 代り映えのしない景色の中、ブレイブが一点を指さした。

「まんまる、そこの次元の裂け目、見えるか?」
「……信じらんないけど、見える。お宝の匂いがする……」
「あるぜ、お宝。たんまりと」

 ブレイブがニヤリと笑うと、まんまるさんがキャーと奇声を上げた。

「でもでも、どうやってここに入るの? 見えるだけじゃだめでしょ」
「だからこその、魔法陣魔法」
「フィットちゃん、やってみる?」

 ユイにそそのかされて、フィットさんが頷いている。全員で十人という大所帯。この人数での転移は大変そうだな、なんて思っていたけれど、さすがは前線で魔術師を張っているフィットさん、無事全員シークレットダンジョンの中へと転移していた。
 周りを見渡すと、うっそうと茂るジャングル。
 鑑定眼で目を凝らしてみると、確かに全てが錬金素材だった。
 垂涎のお宝である。

「本当にすべて錬金素材ね。マック、ここはエルフの里と違って取り放題よ。早速採取しましょ! 周りにはこんなに魔物護衛してくれる人たちがいるんだもの!」

 サラさんが嬉しそうに素材に手を伸ばす。
 確かに、俺以外の全員が魔大陸の魔物を対処できる人たちだから、護衛としてはピカ一。

「採取に時間かけていいの?」
 
 周りに聞けば、皆すごく目を輝かせて頷いていた。

「錬金素材って……謎素材って錬金素材だったの?」

 まんまるさんが早速ゲットした蔦を覗いている。
 でも、あの蛇紋石のついたアクセサリーを使えるまんまるさんでも、ここの素材は『謎素材』と出るらしい。徹底してるよ、謎素材。

「えっと……じゃあ、薬師マックの副業って、あの激レアの錬金術師?」
「激レア……う、うん。もしかして錬金術師ってもう巷に出回ってたり?」
「あの新ジョブチャレンジあったじゃん。あれがじつは錬金術師なんじゃないかって推測が出回っててさ。『グランドメーテル』っていうMMOやったことある? あれの錬金術師がまさにあんな感じの釜を掻き混ぜてアイテムを作るやつだったのよ。面白いのよ」

 私たちもチャレンジしたんだけどダメだったのよねー、とまんまるさんとルルーさんが頷き合っている。

「ああ、だからあの時門番さんが錬金釜の前にいたのね」

 なるほど納得、と頷かれて、ルルーさんたちは俺たちの方じゃない方でチャレンジしたことがわかった。

「マックの旦那君も錬金術師の卵だものね」
「まあ……」

 実際には鑑定を身に着けていないから謎素材の判別は見た目でしかできないんだけど。釜は扱えるからそうなのかな。
 さすが俺のヴィデロさん、と一人ホクホクしていると、早速魔物が現れた。
 そして、雄太たちに瞬殺されていた。
 サラさんが出る間もない。というかサラさんは嬉々として素材採取をしている。
 戦力は全く問題なさそうなので、俺も採取に勤しんだ。
 進んでは採取、進んでは採取と、かなりのゆったりペースで進んでいた俺たちだったけれど、何やらいわくありげな遺跡が目の前に出て来た。
 そこまで広くはなさそうだけれど、何やら雰囲気が怪しいその建物に、皆が目を輝かせる。

「こういうの待ってた!」
「すっげわくわくする」

 ルルーさんと雄太のセリフである。
 俺は建物自体より建物の周りに生えている鉱石みたいな錬金素材の方が正直気になる。
 だってあれ、初めて見る素材だから。ここまでの道にはなかった素材だから。
 そして今までの道中でわかったことだけど、『副業薬師』の皆さんはだいぶ好戦的。
 でも前衛が魔物を倒している間に後ろの方で調薬とかしてるの見ると大分面白い。色んな人がいるよね。

「ねえマック、ツルハシ持ってる?」
「ショボい奴でよければ一応」
「貸してもらえると嬉しいわ。これ、新しい素材よね」
「ですよね。俺も採取しよ」

 どうぞとツルハシを出してサラさんに渡すと、何故か慣れた手つきでツルハシを振るい始めた。
 皆が建物に夢中になっている中、カーンと硬質な音が響く。
 サラさんが二度ほどツルハシを振るうと、その鉱石はボロッと砕けて地面に落ちた。

「『紅蓮水晶クリムゾンクォーツ』ね……いい色ね。このままアクセサリーに加工しても人気でそうね」
「ですね。全部採掘しちゃっていいのかな」
「ふふ、シークレットダンジョンはボスを倒して外に出れば消えてなくなるのよ。そのダンジョンの魔力が維持できなくなるから。だから、手に入れないと損よ! 沢山採りましょ!」

 気合いを入れた超美人は、ガテン系のようなノリで力強くツルハシを振るう。
 周りの人たちが笑っているけれど気にせずいい笑顔で次々と鉱石を崩してはカバンに詰め込んでいく。
 二人で建物の周りにあった『紅蓮水晶』を全て取りつくすまで、雄太たちは出てくる魔物を次々切り刻んでいた。たまに魔法で爆散してる魔物もいたけれど。犯人は知ってる。
 俺とサラさんが満足したところで、建物の内部に入ることにした。
 一歩足を踏み入れると、サラさんが首を傾げた。
 
「ここの地下に大物がいるわね」
「わかるんですか?」

 ユイに訊かれて、サラさんが頷く。

「魔素の流れを感じない? ユイちゃんほどの子なら絶対にわかるはずよ。下から濃い魔素の残滓が沸き上がってきているのが。目を閉じて、そう、全身で感じて」

 サラさんの言葉通りに行動したユイは、しばらくの間動かずじっとしていたかと思うと、ハッと目を開けた。

「サラさん、わかりました。やった。魔力感知が上位変換された」

 新しいスキルになったらしい。ルーチェさんもそうだけど、新しいスキルを獲得する手伝いをしてくれるサラさんたちって凄すぎる。

「それね、マップを見るよりも便利なのよ」
「え、サラさんマップって知ってるんですか?」
「ええ。クラッシュに詳しく教えて貰ったの。あれは便利ね。敵対心を持ってる者は赤くなるのね。ここで私が殺気を出したらあなたたちのマップに映る私が赤くなるのかしら」

 そういうのやってみたいわよね、なんていうサラさんに、苦笑する。
 クラッシュと言えば、よく俺たちの世界に遊びに来るんだけれど、この間ヴィルさんからギアを借りて会社の汎用アカウントでADOにログインしていたっけ。
 あの時の大興奮はなかなかに面白かった。
 クラッシュじゃないクラッシュと一緒に歩いてきたヴィルさんは、クラッシュのアカウントキャラがちゃんと古代魔道語と魔法陣魔法、上級魔法などを使えることを確認して満足していた。あれも仕事と好奇心の一環だったらしい。
 一度死に戻りをしてみたいというクラッシュは、本当に一度魔物にやられてキラキラとした状態でヴィルさんの家に戻って来ていた。すごく複雑な顔をして。
 その話はまあ置いといて。
 皆で建物を地下に向かって下りていくことにした。
 建物の中にある宝箱はどれもランクの高いレアアイテムばかりで、素材でホクホクしている俺とサラさん以外の人たちで山分けすることにした。
 作り方がめっちゃ気になるエクスポーションなんかも出てきて、俺はブツよりレシピが欲しいと叫んだ瞬間『副業薬師』の人たちの同意を得てしまった。
 そこから少し休憩することにして、休憩中に薬師講義が始まった。

 

しおりを挟む
感想 508

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...