これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
上 下
813 / 830
番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 7

しおりを挟む

 合格者は結局輪廻とサリュの二人だけだった。

 じゃあ次に行くか、と皆でギルドの転移魔法陣でセィ城下街に移動すると、丁度ヴィデロさんたちが今まさに適合者を探しているところだった。

 セッテよりも沢山の冒険者がずらりと順番待ちしている。俺たちはそこを迂回して、奥の部屋に向かった。

エミリさんたちは向こうの様子を見つつ、少しだけ打ち合わせをするからと別室に行ってしまい、師匠たちは腹が減ったからと食料を調達に向かったので、俺と輪廻が案内された部屋に入ると、そこには一人のプレイヤーが待機していた。

 俺も知っているプレイヤーだった。



「……セブン」

「……あ、マック、か」



 かなり前に一度フレンドになって、その後俺が一方的にフレンド解除したプレイヤーだった。

 あの時はヴィデロさんから貰ったアクセサリーを壊されて、頭にカッと血が上ってしまって、フレンドを解除してしまったんだ。

 頭が冷えてから、流石に言い過ぎたと反省したけれど、その後一度も会うことがなかったし、謝る機会を作ることもしなかったセブン。

 ここに居るってことは、もしかして。



「錬金釜の、適合者……?」

「ここで待機してろって、門番さんに言われてさ」



 とても気まずい空気が流れる。

 でも、ここで会ったのも何かの縁。

 俺はようやく謝れる、と口を開いた。



「あの」

「あのさ」



 同時くらいにセブンも俺に声を掛けて来たので、また気まずくなる。

 そっちからいいよ、先にどうぞ、と譲り合いをしていると、輪廻が呆れた様に「何やってんの」とツッコんできた。



「あのさ、俺、マックにもう一回ちゃんと謝りたくて……フレンド解除しちゃったから連絡取るのもどうかなって、ずっと気になってて……」

「俺こそ、あの時はすごくキツく言いすぎて、ごめん……」



 頭を下げると、セブンが「マックは悪くないって」と慌てた。



「あの時は、あのアクセがどれだけ大事な物だったのか、俺、理解してなくてさ。でも、上級職になった時、師匠からこれでお前も一人前だって師匠が作った物を貰った時、その大事さが分かって……ああ、俺はこんな大事な物を壊しちゃったんだって……ほんと、ごめん」

「セブン……あのアクセサリー、ちゃんと直ったんだ。すぐに直してもらえて、ほらこれ」



 俺がマント留めを見せると、セブンはようやくホッとしたように息を吐いた。

 その顔を見て、俺もホッとした。

 セブンとフレンド解除したことは、ふとした折に、例えば、誰かとフレンド登録するたびに、フッと思い出していた。けれどそれは怒りを伴ったものじゃなくて、あんな言い方しなくてもよかったんじゃないか、という苦い後悔。ネットゲームはそんなことの繰り返しだ、なんて雄太は言ってくれたけれど、でもやっぱり思い出せば後悔していて、けれど謝りに行くきっかけがなかった。

 同じような顔をしているセブンが俺のことをどう思っていたのかはわからないけれど、それでも、また言葉を交わせたことは、俺にとってはよかったと思う。

 

「あのさ、今更だけど、改めてフレンド登録してくれないかな」



 セブンは、おずおずとそう切り出してきた。俺は頷いて、こっちからフレンド申請を飛ばした。ピロン、と承認の通知音が鳴るのを聞いて、自然と顔がほころんだ。

 輪廻もセブンと自己紹介して、まだまだ続きそうな列をその部屋で待っていると、ガチャリとドアが開いた。

 入ってきたのは、ヴィデロさんとヴィルさんとクラッシュだった。

 皆も疲れ切った顔をしていた。そりゃそうだよね。今日ログインしている人たちで、話を聞いたプレイヤーの対応をずっとしていたんだから。運営から一斉告知もされていて、今日限定のクエストとして、皆一斉に集まったらしい。



「マック、お疲れさん。こっちはそこに居るセブンというプレイヤー一人だけだ」

「お疲れ様です。こっちは輪廻とサリュの二人だけでした。サリュは今、師匠たちと買い物に行ってます。さっき沢山果物食べたんですけど……」

 

 ヴィデロさんにそそそ、と近寄りながらヴィルさんと情報を交わす。

 ヴィデロさんの手には俺からヴィデロさんに受け継がれた錬金釜があったので、気を使いながらヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはフワッと笑みを見せてくれた。



「緊急で呼び出された時はどうしたのかと思ったが。思ったよりも大事だったんだな。マック、お疲れ」

「ヴィデロさんこそ。プレイヤーが投げ出されたりするのを見たけど、ヴィデロさんもあれやったの?」

「三人ほど放り出したな」



 真顔でそんなことを言うので、思わず笑ってしまう。

 ヴィデロさんはそんな俺を見てから、セブンに視線を移した。

 そして目を細めた。



「マック、フレンドの再登録、したのか?」

「え……」



 ハッと顔を上げると、ヴィデロさんがすべてをわかっているような顔で口もとを緩めていた。



「セブンと、仲直りしたのか」

「えっと、う、うん。何で知ってるの」



 驚いてセブンに視線を向けると、セブンはバツが悪そうな顔をして、視線を逸らした。



「あのあと、その門番さんがマックにアクセをプレゼントしたんだってことを聞いて、謝りに行ったんだよ……大分後だけど……」

「ああ。セブンの師匠に連れられてトレの門に来たんだ」

「そうなんだ……」



 ヴィデロさんは今までそんなそぶり見せたこともなかったので、驚いて二人を見比べていると、セブンが口を尖らせた。



「俺さ、鍛冶の師匠が出来たんだよ。で、弟子入りの条件に『心に棘が刺さっていると目が曇る』とか言って、その心に引っかかっていることを解消して来いって。無理だって思ってたら、師匠に首根っこ掴まれて門番さんの前に引き摺られて。そこで謝ったら、よし、って弟子にしてもらったんだ」

「すごい師匠だね、セブンの師匠。俺鍛冶師は全然詳しくないけどさ、なんか話聞いてるだけで腕がよさそう」

 

 はー、と感心していると、部屋のドアが開いてエミリさんたちが入って来た。

 そこまで広くない部屋は、ちょっと手狭になった。

 エミリさんの後ろから来た勇者が、セブンを見て「お」と声を出す。



「セブンじゃねえか。ここに居るってことは、釜に気に入られたか」

「気に入られた……って言うんですかあれ」

「ああ。使えるやつは本当に少ないし、特殊だからな。な、サラ」



 勇者がサラさんに話を振ると、サラさんも笑顔で頷いた。

 なるほど。辺境の鍛冶師だったら、勇者もおなじみだよね。ってことは、長光さんは知ってるってことかな。

 鍛冶師はほぼ長光さん以外交流がないからな、と親密そうな勇者とセブンを見た。

 あれだけ周りの人たちを見ていなかったセブンが、鍛冶師に師事して勇者たちと交流しているのを見るのはとても不思議な気分だった。





 獣人たちが帰ってくると、既に部屋は満員御礼状態。きりがないので、皆でエルフの里に飛ぶことにした。まとめてクラッシュとルーチェさんが連れて行ってくれるらしい。

 すぐにエルフの里に戻ると、ロウさんが出迎えてくれた。

 候補の三人を見て、険しい顔を少しだけ緩めた。手には、錬金素材が山ほど載せられたざるを持っている。



「よかった。そろそろ長老様の体力が切れそうだったのだ」



 それはいけない、と皆で急いで奥の屋敷に走った。

 奥の屋敷に通じる細い道を抜けると、そこはやっぱり物々しい雰囲気を醸し出していた。

 あのフルオープンの障子戸が閉められているだけでこんなにも雰囲気が変わることに、胸が痛くなる。長老様は大丈夫だろうか。

 心配しながら、案内のロウさんに付いていくと、

 ロウさんが屋敷の入り口で、釜を扱える者だけを中に通す許可が下りていると俺たちに伝えた。

 師匠ズと勇者たちも、何かあった時にいてくれると心強いから、と待機してもらって、候補の三人と、サラさんとヴィデロさんと俺が中に入ることになった。

 これで適合者がいなければ、釜は壊されるらしい。そして異空間に廃棄するんだって。

 通された部屋に入ると、そこは何やら空気が重かった。

 肌に空気が粘りつくような何とも言えない感覚を味わいながら部屋に入ると、長老様がいつもの所で座っていた。

 けれど、顔色は悪い。

 奥の守護樹へ通じる障子まで閉めているので、閉塞感が物凄かった。何十帖もありそうな広い部屋のはずなのに。



「よくきてくださいました、皆様」



 長老様は、笑顔で迎えてくれた。

 けれど、それを喜ぶことが出来なかった。

 長老様の後ろにある床の間に置かれている錬金釜が、誰も手を触れていないのに謎液体を溢れさせ、ボコボコと反応しているから。素材すら入っていないあの状態は、かなりの異常事態だった。



しおりを挟む
感想 503

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...