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番外編4
第三の神の御使いの欠片を求めて 7
しおりを挟む合格者は結局輪廻とサリュの二人だけだった。
じゃあ次に行くか、と皆でギルドの転移魔法陣でセィ城下街に移動すると、丁度ヴィデロさんたちが今まさに適合者を探しているところだった。
セッテよりも沢山の冒険者がずらりと順番待ちしている。俺たちはそこを迂回して、奥の部屋に向かった。
エミリさんたちは向こうの様子を見つつ、少しだけ打ち合わせをするからと別室に行ってしまい、師匠たちは腹が減ったからと食料を調達に向かったので、俺と輪廻が案内された部屋に入ると、そこには一人のプレイヤーが待機していた。
俺も知っているプレイヤーだった。
「……セブン」
「……あ、マック、か」
かなり前に一度フレンドになって、その後俺が一方的にフレンド解除したプレイヤーだった。
あの時はヴィデロさんから貰ったアクセサリーを壊されて、頭にカッと血が上ってしまって、フレンドを解除してしまったんだ。
頭が冷えてから、流石に言い過ぎたと反省したけれど、その後一度も会うことがなかったし、謝る機会を作ることもしなかったセブン。
ここに居るってことは、もしかして。
「錬金釜の、適合者……?」
「ここで待機してろって、門番さんに言われてさ」
とても気まずい空気が流れる。
でも、ここで会ったのも何かの縁。
俺はようやく謝れる、と口を開いた。
「あの」
「あのさ」
同時くらいにセブンも俺に声を掛けて来たので、また気まずくなる。
そっちからいいよ、先にどうぞ、と譲り合いをしていると、輪廻が呆れた様に「何やってんの」とツッコんできた。
「あのさ、俺、マックにもう一回ちゃんと謝りたくて……フレンド解除しちゃったから連絡取るのもどうかなって、ずっと気になってて……」
「俺こそ、あの時はすごくキツく言いすぎて、ごめん……」
頭を下げると、セブンが「マックは悪くないって」と慌てた。
「あの時は、あのアクセがどれだけ大事な物だったのか、俺、理解してなくてさ。でも、上級職になった時、師匠からこれでお前も一人前だって師匠が作った物を貰った時、その大事さが分かって……ああ、俺はこんな大事な物を壊しちゃったんだって……ほんと、ごめん」
「セブン……あのアクセサリー、ちゃんと直ったんだ。すぐに直してもらえて、ほらこれ」
俺がマント留めを見せると、セブンはようやくホッとしたように息を吐いた。
その顔を見て、俺もホッとした。
セブンとフレンド解除したことは、ふとした折に、例えば、誰かとフレンド登録するたびに、フッと思い出していた。けれどそれは怒りを伴ったものじゃなくて、あんな言い方しなくてもよかったんじゃないか、という苦い後悔。ネットゲームはそんなことの繰り返しだ、なんて雄太は言ってくれたけれど、でもやっぱり思い出せば後悔していて、けれど謝りに行くきっかけがなかった。
同じような顔をしているセブンが俺のことをどう思っていたのかはわからないけれど、それでも、また言葉を交わせたことは、俺にとってはよかったと思う。
「あのさ、今更だけど、改めてフレンド登録してくれないかな」
セブンは、おずおずとそう切り出してきた。俺は頷いて、こっちからフレンド申請を飛ばした。ピロン、と承認の通知音が鳴るのを聞いて、自然と顔がほころんだ。
輪廻もセブンと自己紹介して、まだまだ続きそうな列をその部屋で待っていると、ガチャリとドアが開いた。
入ってきたのは、ヴィデロさんとヴィルさんとクラッシュだった。
皆も疲れ切った顔をしていた。そりゃそうだよね。今日ログインしている人たちで、話を聞いたプレイヤーの対応をずっとしていたんだから。運営から一斉告知もされていて、今日限定のクエストとして、皆一斉に集まったらしい。
「マック、お疲れさん。こっちはそこに居るセブンというプレイヤー一人だけだ」
「お疲れ様です。こっちは輪廻とサリュの二人だけでした。サリュは今、師匠たちと買い物に行ってます。さっき沢山果物食べたんですけど……」
ヴィデロさんにそそそ、と近寄りながらヴィルさんと情報を交わす。
ヴィデロさんの手には俺からヴィデロさんに受け継がれた錬金釜があったので、気を使いながらヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはフワッと笑みを見せてくれた。
「緊急で呼び出された時はどうしたのかと思ったが。思ったよりも大事だったんだな。マック、お疲れ」
「ヴィデロさんこそ。プレイヤーが投げ出されたりするのを見たけど、ヴィデロさんもあれやったの?」
「三人ほど放り出したな」
真顔でそんなことを言うので、思わず笑ってしまう。
ヴィデロさんはそんな俺を見てから、セブンに視線を移した。
そして目を細めた。
「マック、フレンドの再登録、したのか?」
「え……」
ハッと顔を上げると、ヴィデロさんがすべてをわかっているような顔で口もとを緩めていた。
「セブンと、仲直りしたのか」
「えっと、う、うん。何で知ってるの」
驚いてセブンに視線を向けると、セブンはバツが悪そうな顔をして、視線を逸らした。
「あのあと、その門番さんがマックにアクセをプレゼントしたんだってことを聞いて、謝りに行ったんだよ……大分後だけど……」
「ああ。セブンの師匠に連れられてトレの門に来たんだ」
「そうなんだ……」
ヴィデロさんは今までそんなそぶり見せたこともなかったので、驚いて二人を見比べていると、セブンが口を尖らせた。
「俺さ、鍛冶の師匠が出来たんだよ。で、弟子入りの条件に『心に棘が刺さっていると目が曇る』とか言って、その心に引っかかっていることを解消して来いって。無理だって思ってたら、師匠に首根っこ掴まれて門番さんの前に引き摺られて。そこで謝ったら、よし、って弟子にしてもらったんだ」
「すごい師匠だね、セブンの師匠。俺鍛冶師は全然詳しくないけどさ、なんか話聞いてるだけで腕がよさそう」
はー、と感心していると、部屋のドアが開いてエミリさんたちが入って来た。
そこまで広くない部屋は、ちょっと手狭になった。
エミリさんの後ろから来た勇者が、セブンを見て「お」と声を出す。
「セブンじゃねえか。ここに居るってことは、釜に気に入られたか」
「気に入られた……って言うんですかあれ」
「ああ。使えるやつは本当に少ないし、特殊だからな。な、サラ」
勇者がサラさんに話を振ると、サラさんも笑顔で頷いた。
なるほど。辺境の鍛冶師だったら、勇者もおなじみだよね。ってことは、長光さんは知ってるってことかな。
鍛冶師はほぼ長光さん以外交流がないからな、と親密そうな勇者とセブンを見た。
あれだけ周りの人たちを見ていなかったセブンが、鍛冶師に師事して勇者たちと交流しているのを見るのはとても不思議な気分だった。
獣人たちが帰ってくると、既に部屋は満員御礼状態。きりがないので、皆でエルフの里に飛ぶことにした。まとめてクラッシュとルーチェさんが連れて行ってくれるらしい。
すぐにエルフの里に戻ると、ロウさんが出迎えてくれた。
候補の三人を見て、険しい顔を少しだけ緩めた。手には、錬金素材が山ほど載せられたざるを持っている。
「よかった。そろそろ長老様の体力が切れそうだったのだ」
それはいけない、と皆で急いで奥の屋敷に走った。
奥の屋敷に通じる細い道を抜けると、そこはやっぱり物々しい雰囲気を醸し出していた。
あのフルオープンの障子戸が閉められているだけでこんなにも雰囲気が変わることに、胸が痛くなる。長老様は大丈夫だろうか。
心配しながら、案内のロウさんに付いていくと、
ロウさんが屋敷の入り口で、釜を扱える者だけを中に通す許可が下りていると俺たちに伝えた。
師匠ズと勇者たちも、何かあった時にいてくれると心強いから、と待機してもらって、候補の三人と、サラさんとヴィデロさんと俺が中に入ることになった。
これで適合者がいなければ、釜は壊されるらしい。そして異空間に廃棄するんだって。
通された部屋に入ると、そこは何やら空気が重かった。
肌に空気が粘りつくような何とも言えない感覚を味わいながら部屋に入ると、長老様がいつもの所で座っていた。
けれど、顔色は悪い。
奥の守護樹へ通じる障子まで閉めているので、閉塞感が物凄かった。何十帖もありそうな広い部屋のはずなのに。
「よくきてくださいました、皆様」
長老様は、笑顔で迎えてくれた。
けれど、それを喜ぶことが出来なかった。
長老様の後ろにある床の間に置かれている錬金釜が、誰も手を触れていないのに謎液体を溢れさせ、ボコボコと反応しているから。素材すら入っていないあの状態は、かなりの異常事態だった。
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