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番外編4
第三の神の御使いの欠片を求めて 5
しおりを挟む一瞬後にはルーチェさんとサラさんが目の前に立っていた。
部屋までドンピシャの転移魔法陣って凄すぎる。
「んで、欠片関係ってどういうことだよ」
「新しい欠片が見つかったらしい。隣の部屋で今適合者を探してるところだ」
「新しい欠片? 私も挑戦していいかしら。また錬金がしたいわ」
サラさんが見えないだろう隣の部屋に視線を向けて楽しそうに口元をほころばせる。
「でも私の釜はマックの手に渡ったから、その時点で私の資格は失われちゃったのよね」
「そうなんですか?」
「そうよ。私の場合は特殊だったんだけれどね。ルーにも資格はあったんだろうけど、釜と相性悪かったのよね」
「だな。興味もねえよ」
「あら、私が作るのを楽しそうに見ていたじゃない」
「あれでなんかを作ってるサラを見てたんだよ」
言わせんな、と言いながらも俺たちがいる前で堂々と惚気るルーチェさんは、魔王討伐前後から一皮むけたらしい。ちゃんと夫婦として生活しているから当たり前なのかもしれないけれど、何となく微笑ましい。
魔法陣から流れて来る隣の部屋の会話を聞いていると、一人のプレイヤーが文句を言い始めた。
『なんだよ! ジョブチャレンジってなれねえんじゃ意味ねえだろ!』
『なに怒ってんだよあんた。あんたがこれに気に入られなかったから仕方ねえだろ』
ヒイロ師匠の疑問の声に、プレイヤーはさらに声を張り上げた。
『上級職に就けるチャレンジじゃねえのかよ! ふざけんな!』
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『あんたは何か。そんなに偉いのかい? 俺はね、上から目線のやつが嫌いなんだよ。単純に腹立つからな。だから、あんたに俺から依頼を出すことはねえなあ。あんたの今後まで責任負えねえし』
『責任負うって何だよ』
『いいかい。依頼を出すってことは、その人を信頼しているってことだ。逆に、信頼していないやつには絶対に依頼を出さない。そいつが依頼を投げ出しても、そいつを信頼して依頼を出した俺が基本悪くなるからな。わかるか? まず信頼関係を築かないと、俺らからの依頼なんて、絶対に行かねえんだよ。そして、しっかりと依頼をこなしてくれたその人柄が、上級職になることへ認められることに繋がるんだ。そんな怒鳴り散らしたところで、何もいいことねえよ。あんたもったいねえなあ。人生損してる』
心配するような口調のヒイロ師匠に、今まで怒鳴っていたプレイヤーはだんまりになった。チッと舌打ちの音がして、普通に廊下からドアの閉まる音がした。
それにしてもヒイロ師匠、いい事言うなあ。心に刻んでおこう。
「あれはヒイロか。なかなかカッコいいな」
「そうね。あの言葉で異邦人たちもちょっとは改心するんじゃないかしら」
「どうかな。異邦人たちはなかなかに曲者が多いぞ」
「アルが一発剣で吹っ飛ばせば従順になるじゃねえかよ」
「そんな手が効いたのは最初の頃だけだっての」
三人でおしゃべりに興じているので、そっとお茶を出す。
その横に保存タルトを添えると、サラさんが目をキラキラさせた。
「これがあの噂の十万ガルのタルトね!」
「十万ガル⁉」
俺と勇者とルーチェさんが一斉に驚いた声を上げた。
何その暴利。
そんな高いタルトじゃないよ。
全員の視線が俺に釘付けになったので、必死で首を横に振る。
「そんな高くないですよ!」
「あら、じゃあ、何百万ガルかしら」
「いやだから……」
「そういや俺も訊いたことがあるな……高橋たちが、マックからホールのタルトをオーブ一つと交換したとかなんとか……」
「ウン千万ガル……」
オーブってそんなに高い物だったんだっけ。
確かにオーブと交換したことあるけど。
あれは海里が言い出したことで。
わたわたと言い訳をしていると、ガチャっとドアが開き、疲れた顔のヒイロ師匠とヨシュー師匠、そしてジャル・ガーさんとサリュが入ってきた。
部屋の隅に置かれていた椅子を各自が出して、息を吐く。
「おう、賢者。息災だな」
ジャル・ガーさんが気楽に挨拶すると、ルーチェさんも「久しぶりだな」とあいさつをする。
「今一切れウン千万ガルのタルトを食べていたのよ。希代の英雄も食べない?」
「その呼び方はよせよ。お前らの方にも英雄がいるんだろ、偉大なる魔術師」
「そっちの小さい奴はモロウに似てるな。モロウの血筋か?」
「はい。僕はサリュと申します。欠片が適合したので、連れて来て貰いました。大爺様は先にエルフの里に向かいました」
「そうか。サリュ、大変なことかもしれないが、頑張れよ」
勇者に頭を撫でられて、サリュは元気に「はい!」と返事した。
皆にもお茶を出して、タルトを出すと、ヒイロ師匠とヨシュー師匠がごくりと喉を鳴らして、「これがウン千万ガルのタルトか……」と呟いた。違うから。
サリュが「そんな高価なタルト、僕が食べるなんてできません!」って恐縮しちゃうから本当にやめて欲しい。
一休みの後、もう一度ジョブチャレンジを再開したけれど、めぼしいプレイヤーは現れず、俺たちは隣のノヴェの街にルーチェさんの魔法陣で跳んだ。エミリさんの滞在するギルドの裏側の部屋は大抵どこも入ったことがあるらしく、ピンポイントで奥の部屋に跳ぶ。
すごいなあ、と感心していると、ルーチェさんは呆れた様な目で、「俺だって猊下の目の前にいきなり転移するとか出来ねえからな。あれはマックくらいしか出来ねえだろ」とおでこを指で弾かれた。
隣の部屋でジャル・ガーさんたちが始めると、俺たち4人はまた控室で盗聴しつつ寛いでいた。
「そういえばさっきのサラさんの資格云々ですけど、そもそも何で錬金釜を扱えるようになったのか訊いてもいいですか?」
ずっと気になっていたことを聞くと、サラさんは「いいわよ。マックになら教えてあげる」と意味深な微笑みを浮かべた。
「私とルーはね、小さい頃から一緒に遊んでいたの。一番好きだったのが、ルーのお父さんの持ち帰ってくる古代書。二人で、謎解き感覚でそれを読んでいたのよ。ね、ルー」
「だな」
「謎解き感覚で古代魔道語……」
まず頭脳の作りが違うのかな、なんて思いながら相槌を打つ。
「ある時、うちに商品を持ってきた荷物の中に、とてつもなくボロボロの古い書物が入っていたことがあったのよ。いつもは厳選して綺麗な書物しか持ってこないのに珍しいと思って訊いたところ、手に入れた記憶がないって言われて。どこかで紛れ込んだんだろって言ってたから、頼んで私が貰ったの。そして、いつものようにルーとそれを見ていたら、中に魔法陣が描かれていて。二人で面白がってそれをなぞっちゃったの。そしたら本が光り出して、私達にその光が降り注いで……魔王討伐に行けるほどの魔力を身に着けちゃったのよね」
そんな話を前にも聞いたことがある、気がする。いつだったかな。とても後悔しているような口調だったようなおぼろげな記憶だけがフッと浮かぶ。
でも、そうだよね。あんな十何年も水晶の中に閉じ込められるような事態になるとは普通思わないよ。
「その魔力が、どうやら魔大陸の魔力に近かったらしくて、私達の魔力は今の人たちとは違うんだっていうのが、釜と共に手に入れた書物に描かれていたの。あれはもう消えちゃって見せてあげられないけれど、私達の沢山の身体能力が描かれた書物だったわ。何かをするたびに数値が変わって、とても楽しかったのを覚えてる。けれど、その書物も魔力で出来た物だったらしくて、私が釜を使えるようになったら消えちゃったのよ」
「それって、俺たちが標準装備してるステータスみたいなものですか」
「ステータス、そうね。そんな感じよ。それで、私とルーの魔力の大きさを知ったの。限界も知ったから、どれだけ魔法を使えば限界を迎えるのかとか沢山体験したわ。あの経験は、魔王を討伐しに行くとき、本当に役立ったわ。異邦人ってああいうのがいつでも見られるのね。ちょっと羨ましいわ」
「ええと、じゃあ、サラさんとルーチェさんの魔力は、魔王が出て来る以前の魔力のような物になっちゃったってことですか?」
「そうみたいね。はっきりと説明できることではないんだけれど」
これでなんとなくすっきりした、気がする。余計にわけわからなくなった気もしないでもないけれど。
この世界は本当に魔力でなんでも起こる世界だから、不思議なことがあってもおかしくはないんだっていうのが実感できるというか。
だからこそ俺たちが今ここに立っているわけだし。その魔力を使いこなせているから、アリッサさんはステータスなんてものを皆に見せたり魔素の身体を作ったりできるわけで。
なるほど。皆天才か。皆普通じゃない。ヴィルさん含め。
きっとその普通じゃない中にヴィデロさんの強さも入るんじゃなかろうか。だってすっごく強いし。カッコいいし。向こうに生身で渡れたし、言葉もすぐに覚えたし。天才だったそうだった。好き。
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