808 / 830
番外編4
第三の神の御使いの欠片を求めて 2
しおりを挟む「何があった」
ジャル・ガーさんがすぐさま守護樹に近付き、手のひらをくっつける。
すると、脳内に声が響いた。
『タスケテ、エルフノサトヲタスケテ』
この声は、ここに居た全員に聞こえたらしい。
全員が手を止め、すぐさま動き始めた。
カイルさんがアルルを家まで送ってくれることになって、ケインさんは子供たちを家に連れ帰ってから現場へ。俺は皆を連れてエルフの里へ行くことになった。
聖獣たちも異変を察知したのか、全員がすでに転移を果たしている。
獣人の村とエルフの里は良き隣人という付き合いがあるので、お互いが何かあれば助け合ってきたからか、いつも怠惰なヨシュー師匠も行きたくないとは言わない。こういう時は獣人たちはとても頼りになる。
ヒイロ師匠とヨシュー師匠とジャル・ガーさんを連れて、俺は早速エルフの里に跳んだ。
エルフの里は、張りつめた空気が漂っていた。
いつもののんびりとした雰囲気とはまるで違うのは、行き交うエルフの人たちが皆緊張した面持ちをしているからだ。
俺たちは躊躇わずに奥の長老の館に向かった。
やましい気持ちがあると攻撃される細い道は、こんな時でもひっそりと俺たちを迎え入れてくれて、そこを通り抜けると見えて来る館は、やはりいつもとは雰囲気が違っていた。
いつもは襖がフルオープンになっている館は、全てきっちりしまっていた。
広い座敷にちょこんと座っている長老も、今は雨戸に阻まれて姿が見えない。
それだけで今が非常事態だということが伺えた。
俺たちの気配を察してか、館の陰からロウさんが出てきて挨拶してくれた。
「何があった」
ジャル・ガーさんが問うと、ロウさんは険しい顔をして、口を開いた。
「神の御使いの欠片が見つかった」
ロウさんの言葉に、皆が息を呑んだ。
神の御使いの欠片。
それは、昔人族が欲に塗れた使い方をし、欠片の暴走により魔王が誕生してしまったという曰く付きのヤバい奴である。
そして、またの名を『錬金釜』ともいう。
そう、俺が毎日大活用している、あの錬金釜である。
ちなみにヴィデロさんも所持しているので、うちには『神の御使いの欠片』が二つも揃っている。
ちょっとだけ、ホッとしたのもつかの間、獣人たちまで警戒し始めたことに疑問が沸く。
「それって、そんなに重大なことなんですか?」
何でそんなに警戒するかわからずにそっと横にいるジャル・ガーさんに訊くと、ジャル・ガーさんは「ああ」と重々しく頷いた。
「マックが使ってるのは、ちゃんと御使いの欠片が自身で主を決めた、いわば主の手でしか作動しない安全な釜だ。そういうものが見つかったのなら、問題なかったんだ。ただ、今回見つかったのは多分、主のいない、言い方は悪いがいわば野良御使いの欠片だな」
「野良御使いの欠片……」
野良ってつけていいんだろうか。雰囲気ぶち壊される。
でもその野良発言をしたジャル・ガーさんはいたって真面目な顔で続ける。
「主のいない御使いの欠片ってのは少々厄介でな。すこーし素質があればだれでも使えるんだ。そして、主の魔力じゃなくても中の魔水は満たされる。間違えて入れちゃならねえものだって呑み込んじまう。例えば、生きたままの魔物とかもな」
「ひぇ……」
確かにヤバい物だった。
俺のやつはもちろん、決まった素材じゃないと入れられないし、もし手順や入れるアイテムを間違えたら、ボムっと煙が出て失敗となる。失敗したって使った魔力は戻らない。
そして、ああ、と納得した。
魔王が誕生したのは、錬金釜を手に入れた王様が、錬金釜から出来上がる物をひたすら欲したから。入れる物がなくなってもやはり錬金されたものが欲しくて、周りの人たちを全て釜の餌にしたんだったか。
確かに、錬金釜は俺専用だけれど、それがストッパーにもなっていたなんて。
ストッパーのない釜が次々色々ツッコまれたらそりゃ暴走するよね。
欲望に塗れた『神の御使いの欠片』は、更に欲し、すでに何を欲しているかもわからない状態で欲し、魔王を生んだ。
その魔王を生みかねない『神の御使いの欠片』が見つかったなんて、そりゃ一大事だ。
ことの重大さが分かり、俺も気を引き締めた。
でも、どうしてそれがエルフの里のピンチに繋がるのかはいまいちわからない。
わからない事尽くしだから、誰か説明して欲しい。
「今は、長老様が全力で『神の御使いの欠片』の力を削いでいる。が……最近は長老様の力も衰えが生じていて……今回の騒動が終われば、代替わりも、ありうると」
「長老様が……」
視線を落として、ロウさんが苦渋に満ちた表情でそう言った。
エルフの村の代替わりという一大事の中の重大事件だった。
「中に入ることは出来るのか」
「いいえ、今は……」
「じゃあ壊すことが出来ねえな」
「力をつけてしまっていて、我々では壊すまでに至らず……適合者を探すことしかできません」
「俺らでもダメか」
「無理です。下手をすると、力を奪われてしまいます」
ふぅ、とジャル・ガーさんは嘆息した。
「適合者っつってもな。それ最終手段だろ」
「もう最終手段しか残っておりません故」
「他の手はなし、か。急がねえと長老の嬢ちゃんが危ねえな」
「はい。里の護りが手薄になるため、我々がこの場所を長く離れるわけにもいかず。守護樹が皆様に救助を求めた次第です」
「わかった。ここはお前らに任せた。俺らは適合者を探す」
「よろしくお願いします」
ロウさんに頭を下げられ、ジャル・ガーさんは鷹揚に頷いた。
「なあに、こっちには運がある。今日は幸い、マックが一緒だ。勝機はあるさ」
「はい……! どうぞ、よろしくお願い致します……!」
ロウさんは、俺にも深々と頭を下げた。
「俺が一緒だから勝機があるって、どういうこと?」
何でそうなるんだ、と思わぬところからのご指名に戸惑っていると、ジャル・ガーさんが俺を見下ろした。
「マック。頼む、お前だけが頼りだ」
「と言われても。俺は何をすれば?」
「『神の御使いの欠片』を貸して欲しい」
錬金釜を、貸す?
あれって貸していい物なのかな。
問題ないならいんだけどね。
はい、と錬金釜をインベントリから取り出して、ほい、とジャル・ガーさんに差し出す。
「でもこれ、俺専用っぽいから、他の人は使えないかもしれないですよ」
「そこだ。それで適合者を探すんだ」
「え?」
「適合者ってのは、ある程度は他のやつの欠片でも物を作ることが出来るものなんだ。その原理を利用して、マックの欠片を使えるやつを探す。何人でもいい。その中からあそこで暴走している釜と相性のいい奴を探すんだ」
「ああ……なるほど」
サラさんの錬金釜を俺が使えたのと一緒だね。とはいえ、クラッシュから買い取らされたから所持上は俺の持ち物に分類はされたんだけど。ヴィデロさんは俺の錬金をよく手伝ってくれてたから釜に見初められるのはわかる。あんな綺麗なキラキラ魔力、ヴィデロさんならではだもん。金粉散らしたみたいで。
「これをまともに使える人か……それって、異邦人?」
「だな。異邦人か、獣人か、エルフ……」
「人族は?」
「魔王が誕生した時点で、この世界の人族にはこれを扱う資格はなくなった」
「でも、ヴィデロさん……」
「あいつは半分お前らの血を継いでるだろ」
「そうですけど」
確かにそうだ。
ヴィデロさんはこっちの世界の人族だけれど、半分はアリッサさんの血を継いでいるから、純粋なここの人族とは言えないんだ。いいのか悪いのか。でもあの錬金釜、ヴィデロさんが手伝ってくれるとランクが高かったりとかしたから、純粋にヴィデロさんに惹かれたんだろうなあ。
「探すのは……冒険者ギルドと、獣人の村と、ここだな」
「いいえ、この村にはおりません。もしいたらこのような事態にはなっておりませんので」
ロウさんの言葉に、ジャル・ガーさんが納得したように頷いた。
「マック。まずは獣人の村に行くぞ。しっかり『神の御使いの欠片』持ってろよ」
「はい」
しっかりと頷いて、俺は皆と共に獣人の村に行くべく、工房に跳んだ。
624
お気に入りに追加
8,993
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる