これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 2

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「何があった」



 ジャル・ガーさんがすぐさま守護樹に近付き、手のひらをくっつける。

 すると、脳内に声が響いた。



『タスケテ、エルフノサトヲタスケテ』



 この声は、ここに居た全員に聞こえたらしい。

 全員が手を止め、すぐさま動き始めた。

 カイルさんがアルルを家まで送ってくれることになって、ケインさんは子供たちを家に連れ帰ってから現場へ。俺は皆を連れてエルフの里へ行くことになった。

 聖獣たちも異変を察知したのか、全員がすでに転移を果たしている。

 獣人の村とエルフの里は良き隣人という付き合いがあるので、お互いが何かあれば助け合ってきたからか、いつも怠惰なヨシュー師匠も行きたくないとは言わない。こういう時は獣人たちはとても頼りになる。

 ヒイロ師匠とヨシュー師匠とジャル・ガーさんを連れて、俺は早速エルフの里に跳んだ。







 エルフの里は、張りつめた空気が漂っていた。

 いつもののんびりとした雰囲気とはまるで違うのは、行き交うエルフの人たちが皆緊張した面持ちをしているからだ。

 俺たちは躊躇わずに奥の長老の館に向かった。

 やましい気持ちがあると攻撃される細い道は、こんな時でもひっそりと俺たちを迎え入れてくれて、そこを通り抜けると見えて来る館は、やはりいつもとは雰囲気が違っていた。

 いつもは襖がフルオープンになっている館は、全てきっちりしまっていた。

広い座敷にちょこんと座っている長老も、今は雨戸に阻まれて姿が見えない。

それだけで今が非常事態だということが伺えた。

俺たちの気配を察してか、館の陰からロウさんが出てきて挨拶してくれた。



「何があった」



 ジャル・ガーさんが問うと、ロウさんは険しい顔をして、口を開いた。



「神の御使いの欠片が見つかった」



 ロウさんの言葉に、皆が息を呑んだ。



 神の御使いの欠片。



 それは、昔人族が欲に塗れた使い方をし、欠片の暴走により魔王が誕生してしまったという曰く付きのヤバい奴である。

 そして、またの名を『錬金釜』ともいう。

 そう、俺が毎日大活用している、あの錬金釜である。

 ちなみにヴィデロさんも所持しているので、うちには『神の御使いの欠片』が二つも揃っている。

 ちょっとだけ、ホッとしたのもつかの間、獣人たちまで警戒し始めたことに疑問が沸く。



「それって、そんなに重大なことなんですか?」



 何でそんなに警戒するかわからずにそっと横にいるジャル・ガーさんに訊くと、ジャル・ガーさんは「ああ」と重々しく頷いた。



「マックが使ってるのは、ちゃんと御使いの欠片が自身で主を決めた、いわば主の手でしか作動しない安全な釜だ。そういうものが見つかったのなら、問題なかったんだ。ただ、今回見つかったのは多分、主のいない、言い方は悪いがいわば野良御使いの欠片だな」

「野良御使いの欠片……」



 野良ってつけていいんだろうか。雰囲気ぶち壊される。

 でもその野良発言をしたジャル・ガーさんはいたって真面目な顔で続ける。





「主のいない御使いの欠片ってのは少々厄介でな。すこーし素質があればだれでも使えるんだ。そして、主の魔力じゃなくても中の魔水は満たされる。間違えて入れちゃならねえものだって呑み込んじまう。例えば、生きたままの魔物とかもな」

「ひぇ……」



 確かにヤバい物だった。

 俺のやつはもちろん、決まった素材じゃないと入れられないし、もし手順や入れるアイテムを間違えたら、ボムっと煙が出て失敗となる。失敗したって使った魔力は戻らない。

 そして、ああ、と納得した。

 魔王が誕生したのは、錬金釜を手に入れた王様が、錬金釜から出来上がる物をひたすら欲したから。入れる物がなくなってもやはり錬金されたものが欲しくて、周りの人たちを全て釜の餌にしたんだったか。

 確かに、錬金釜は俺専用だけれど、それがストッパーにもなっていたなんて。

 ストッパーのない釜が次々色々ツッコまれたらそりゃ暴走するよね。

 欲望に塗れた『神の御使いの欠片』は、更に欲し、すでに何を欲しているかもわからない状態で欲し、魔王を生んだ。

 その魔王を生みかねない『神の御使いの欠片』が見つかったなんて、そりゃ一大事だ。



 ことの重大さが分かり、俺も気を引き締めた。

 でも、どうしてそれがエルフの里のピンチに繋がるのかはいまいちわからない。

 わからない事尽くしだから、誰か説明して欲しい。



「今は、長老様が全力で『神の御使いの欠片』の力を削いでいる。が……最近は長老様の力も衰えが生じていて……今回の騒動が終われば、代替わりも、ありうると」

「長老様が……」



 視線を落として、ロウさんが苦渋に満ちた表情でそう言った。

 エルフの村の代替わりという一大事の中の重大事件だった。

 

「中に入ることは出来るのか」

「いいえ、今は……」

「じゃあ壊すことが出来ねえな」

「力をつけてしまっていて、我々では壊すまでに至らず……適合者を探すことしかできません」

「俺らでもダメか」

「無理です。下手をすると、力を奪われてしまいます」



 ふぅ、とジャル・ガーさんは嘆息した。



「適合者っつってもな。それ最終手段だろ」

「もう最終手段しか残っておりません故」

「他の手はなし、か。急がねえと長老の嬢ちゃんが危ねえな」

「はい。里の護りが手薄になるため、我々がこの場所を長く離れるわけにもいかず。守護樹が皆様に救助を求めた次第です」

「わかった。ここはお前らに任せた。俺らは適合者を探す」

「よろしくお願いします」



 ロウさんに頭を下げられ、ジャル・ガーさんは鷹揚に頷いた。



「なあに、こっちには運がある。今日は幸い、マックが一緒だ。勝機はあるさ」

「はい……! どうぞ、よろしくお願い致します……!」



 ロウさんは、俺にも深々と頭を下げた。

 

「俺が一緒だから勝機があるって、どういうこと?」



 何でそうなるんだ、と思わぬところからのご指名に戸惑っていると、ジャル・ガーさんが俺を見下ろした。



「マック。頼む、お前だけが頼りだ」

「と言われても。俺は何をすれば?」

「『神の御使いの欠片』を貸して欲しい」



 錬金釜を、貸す?

 あれって貸していい物なのかな。

 問題ないならいんだけどね。

 はい、と錬金釜をインベントリから取り出して、ほい、とジャル・ガーさんに差し出す。



「でもこれ、俺専用っぽいから、他の人は使えないかもしれないですよ」

「そこだ。それで適合者を探すんだ」

「え?」

「適合者ってのは、ある程度は他のやつの欠片でも物を作ることが出来るものなんだ。その原理を利用して、マックの欠片を使えるやつを探す。何人でもいい。その中からあそこで暴走している釜と相性のいい奴を探すんだ」

「ああ……なるほど」



 サラさんの錬金釜を俺が使えたのと一緒だね。とはいえ、クラッシュから買い取らされたから所持上は俺の持ち物に分類はされたんだけど。ヴィデロさんは俺の錬金をよく手伝ってくれてたから釜に見初められるのはわかる。あんな綺麗なキラキラ魔力、ヴィデロさんならではだもん。金粉散らしたみたいで。

 

「これをまともに使える人か……それって、異邦人?」

「だな。異邦人か、獣人か、エルフ……」

「人族は?」

「魔王が誕生した時点で、この世界の人族にはこれを扱う資格はなくなった」

「でも、ヴィデロさん……」

「あいつは半分お前らの血を継いでるだろ」

「そうですけど」



 確かにそうだ。

 ヴィデロさんはこっちの世界の人族だけれど、半分はアリッサさんの血を継いでいるから、純粋なここの人族とは言えないんだ。いいのか悪いのか。でもあの錬金釜、ヴィデロさんが手伝ってくれるとランクが高かったりとかしたから、純粋にヴィデロさんに惹かれたんだろうなあ。



「探すのは……冒険者ギルドと、獣人の村と、ここだな」

「いいえ、この村にはおりません。もしいたらこのような事態にはなっておりませんので」



 ロウさんの言葉に、ジャル・ガーさんが納得したように頷いた。

 

「マック。まずは獣人の村に行くぞ。しっかり『神の御使いの欠片』持ってろよ」

「はい」



 しっかりと頷いて、俺は皆と共に獣人の村に行くべく、工房に跳んだ。

 



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