これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 1

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「工房を広くして、温室を作ったんだ。だから、カイルさん。土の改良お願いします!」



 よく行くトレの農園で、俺は深々と頭を下げていた。

 ことの起こりはいつもの如く、クラッシュのゲリラ即売会。

 そこで、かなりの額が俺の懐に入ってきた。

 タルト一切れ二万ガルとか何。暴利でしかない。でも完売したことに乾いた笑いしか出ない。そして潤う懐。

 使う用途もないので、ヴィデロさんと共に隣の土地を買い、ティーロイも大きくなっていくからと増築に増築を繰り返した工房に、温室を増設した。

 ついでに、持て余し気味だった守護樹の枝、ヴィデロさんの取り分を挿し木したら定着した。前にエルフの里で依頼を受けた時に作ったものをあげたら一発で定着した。ぐんぐん育った守護樹の植樹は、手を添えて挨拶するたびに聖水雨を所望し、いつの間にやら温室が聖域のようになっていた。

 まずはティーロイが温室をねぐらにし始め、先輩ブルーテイルを誘い、守護樹の枝が定位置となった。たまに遊びに来る聖獣テイム組も、温室を気に入っていた。リザなんかは長くなった身体を守護樹に巻き付けて休んでいたりして、ちょっとかわいい。成獣になったリザの姿は龍って感じでとてもカッコいいのに、樹に巻き付いているのがなんだかのんびりする風景で面白いんだ。ディーもノワールも守護樹の周りで寝そべるのがお気に入りで、たまにしばらくログインできない人たちが温室に預けて行ったりする。可愛いからいいけどね。

 そして、広い温室。ただ守護樹があるだけではもったいない、と奮い立った俺は、カイルさんに土を弄って貰って薬草とか珍しい素材を自分で育ててみよう、と思い立ったのだった。





 温室は中からと外からの両方から出入り可能。俺がしばらく顔を出せない時はカイルさんが様子見によってくれるという破格の約束で、うちの温室をカイルさんが弄ってくれた。

 一方的にいいのかな、とカイルさんの言い出したことに戸惑っていると、カイルさんにも利点はすごくある、ということだった。

 土を弄ってみてわかったらしいけれど、うちの温室、聖域化しちゃっているので、土も上質らしいんだ。だから、聖域でしか育たない珍しい薬草なんかも育てられるんだって。下手するとエルフの里にある物も育てられるみたい。それは守護樹が教えてくれたので、後々貰いに行く予定。

 カイルさん指導の下、薬草、聖域にしかないオレンジ色の薬草、聖域にしかない果樹の樹、聖域にしか生えない蔦系の素材を育て始めた。

 蔦は一緒に立てた棒と網を伝ってぐんぐん伸び、綺麗な黄色い花を咲かせている。鑑定眼で見ると、こんな街中では育つはずのない植物らしく、カイルさんが遠い目をしていた。

 でも育つものは育つ。カイルさんちの文献で調べたり、図書館で調べたりして、二人で色々土壌を植物たちに合うように弄っていたら、全てが安定して育つようになった。

 

「それにしてもここは壮観だな」

 

 カイルさんが土で汚れた軍手を外しながら、大きな樹を見上げる。

 上の方の木の枝にはティーロイとブルーテイルが鎮座し、その下のほうの枝にリザが絡まり、根本ではディーが大きいまま寝そべり、それに小さなノワールが寄り添っている。

 しばらくの間は閃光さんたち、後期試験の真っただ中でログインする暇ないんだって。他のメンバーも皆先生らしく、同じような状態だということで、ディーはうちでお留守番。ノワールの相棒の霧吹さんは仕事が詰まっていて連日睡眠不足でログインどころじゃないらしい。 

 たまによろよろしながらうちの温室に来て、預かってくれるお礼にとロミーナちゃんの店の近くのお菓子屋さんから何かしら差し入れてくれる。いいのに。ノワールがいると和むから。

 リザは、たまに自由に空を飛んでうちに遊びに来る。というか、大抵エリモさんたちの所にいないならうちにいる、という認識となり、エリモさんたちも安心して放し飼いしているらしい。自由だね、リザ。たまに小さくなって香石をガリガリ食べながらまったりしている。勿論エリモさんが持たせてくれるリザのおやつだ。引き取りに来た時にいつもついでに買ってくれるので、香石作りは続いている。

 



 そんな聖獣ふれあいパークの様相を呈しているうちの温室。

 その温室から採れる素材を、今度は師匠たちが気に入ってしまって、しかも空気が美味しい! と言い出して、結構な頻度で温室に入り浸るようになった。

 ディーがいると、ヨシュー師匠の寝床はディーのお腹の上になり、ヒイロ師匠はいつものぐうたらどこ行った、という程、畑仕事を楽しんでいる。自分ちの裏の畑では絶対作れない物がここに在るから、と、オランさんとジャル・ガーさん、そしてエルフの長老の許可を勝手に取ってきて、うちの温室の一角と自分の村を魔法陣でつないでしまった。すっかり直通。いいのかなあ。

 更に増えたモフモフパラダイス。

 そこに遊びに来るのはジャル・ガーさんとユイルとケインさんとまだちっちゃい娘ちゃん。奥さんがさらに妊娠して、気が立っているからと、あまり家ではゆっくりできないらしく、よく子供連れで遊びに来る。ここは安心だからって。

 そして、更によく遊びに来るようになったアルルがユイルと仲良くなった。二人で薬草採取してくれるのを見るのはすごく和む。



「あのね、そこは違うの。匂いがね、ちょっと違うんだよ」

「でも僕匂いってよくわからないから」

「そっか……人族はちょっと不便なんだよね……ええとね、泡がね、下からぽこって一つ出たら、火を弱めるの。それから心の中でいーち、にーい、さーんって数えて火を止めると、すごくいい感じに出来るんだよ」



 ユイルに調薬を教わって、アルルが一緒に数え始める。

 畑の中で戯れているヒイロ師匠に視線を向けると、ヒイロ師匠は俺と目が合った瞬間首を横に振った。俺が何を訊きたいのかわかったらしい。

 ユイルもヒイロ師匠に調薬を教えてもらったのかと思ったけれど、違ったようだ。

 その割にはかなり動きがしっかりしていて、まるで今までも調薬をしてきました、と言わんばかりの手つきに首を捻っていると、ジャル・ガーさんが「そういえば」と口を開いた。

 

「うちの近所によく笑える呪いを拾って来てはヘロヘロになってるやつがいたんだよ。そいつが呪われる度に呆れながらフォリスが呪いを解く薬を調薬したもんだったんだ。器用なやつでな、文字書きの傍ら、俺のためにと色々勉強しては薬を作ってくれたもんだ。舐めときゃ治るっつうのに、俺の傷を見てまるで自分が怪我したような顔になってたな……」



 頬杖を突きながら、ジャル・ガーさんがユイルを愛し気な視線で見つめる。

 なるほど。だからあれだけスムーズに調薬が出来るのか。

 自分の話題を出されていたのが分かったのか、ユイルがひょこっと顔を上げた。

 ジャル・ガーさんと視線が合うと、ユイルはまるで歳を感じさせないような愛情たっぷりな笑顔で、ジャル・ガーさんに笑みを向けた。

 こういうところが、魂で繋がっているっていうのかな。

 人族はそこまでの繋がりがないっていうけれど、なんていうか、ちょっと羨ましい。

 もう一人の番カップルは、畑で土塗れになっているし。栗鼠のふさふさ尻尾が土だらけの状態でちびっこ子栗鼠ちゃんがころころと転がってはヒイロ師匠に捕まっている。可愛い。

 ケインさんは既にあきらめ気味で、げっそりしながらも二人の子供を見守っている。「今度生れて来るもう一人もさっさと番を見つけちまったら俺もう生きる気力がなくなる……」なんてげっそりしながら呟いたのを聞いたときは、ご愁傷様、とそっとタルトをごちそうしたっけ。





 そんな平和な日の夕暮れ時。

 今まで穏やかな雰囲気だった守護樹が、ブワッと葉を揺らした。

 一瞬で穏やかな空気は霧散し、張りつめた様な雰囲気が温室内にたちこめた。




-・-・-・-・-・-・-・-・-・-


読んでくださってありがとうございます。

この話の時系列は、こぼれ話7の後くらいで、サイドストーリー6よりも前です。

アルルは弟子ではなく、遊びに来ている状態。

ちょっと妹栗鼠ちゃんの歳があいまいですが、そこらへんは目を瞑ってください。

(自分でもいつ頃生まれたんだっけ??となってます。探さなきゃww)




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