これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編3

最強パーティー肉を食む 5

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『コウキュウニク! ガンバレ! コウキュウニク!』

「それじゃ魔物を応援してるみたいだよ」



 ティーロイのわけわからない応援をBGMに、『高級肉』狩りは佳境を迎えた。

 南の方に足を延ばしてみると、ラッキーなことに『高級肉』をドロップする魔物の群れに行きあったんだ。あの群れを見つけた時の三人の顔、すっごくキラキラしていた。ヴィデロさんまで嬉しそうだったのがなんていうか、うん。ヴィデロさんも健啖家だからね。作っていて気持ちいいくらい。

 俺はというと、群れの中心に『上級感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』を投げつけ、たまに興奮しすぎて飛び上がろうとするティーロイを優しく捕まえ、ティーロイを撫でて、ヴィデロさんの雄姿をながめていた。三人が前に立つと、全然俺の所に魔物がやってこない。

たいやきくんは、職業『万物調理師オールコック』というだけあり、魔物のドロップ内容は食に関する物をゲットする率が高いらしいけれど、だからってこの強さはない。だって調理師だよ。長光さんも鍛冶師なのにあの強さ。

 生産職も戦えてなんぼ、みたいなところがあるよね、トップクラスの生産職の人たち。



『マック! ウシロ、ウシロ!』



 ティーロイの声で皆が俺の方に注目した時には、後ろからいきなり現れた実態のない魔物に俺たちは囲まれていた。

 この魔物、マップにマーカーが絶対に出ないんだよね。そして剣がほぼ効かないから、不意打ちされると普通は危ないんだ。救いなのは、こいつらも直接攻撃は一切してこないこと。闇魔法でしか攻撃してこないから、相手が魔法を唱える前にこっちが魔法を出せばそんなに怖い魔物じゃない。



「マック君!」



 焦ったようなたいやきくんの声に、俺は「大丈夫」と答えた。



「たいやきくん、あの魔物なら大丈夫。ドン引きレベルでマックと相性いいから」

「は? だって戦闘ダメって……っと、あぶねえ」

「いいからいいから」



 雄太が攻撃の手を止めずにたいやきくんを宥める。

 俺は腰に下がっていたルミエールダガールーチェを今日初めて手に取った。



「至高の神よ、その気高き神気で魔を打ち倒し給え、『聖球ホーリーボム』」



 聖短剣を構えて早口で詠唱すると、俺が飛ばしたホーリーボムで先頭の二匹が悲鳴と共に消え去る。

 まだまだいるのに前衛組三人は『高級肉』の群れで手が離せないので、こっちは任せて、とインベントリから『起爆剤』を取り出す。



「至高の神よ、その気高き聖なる炎で、この穢れた魔の群れを消し去り給え。『聖火炎獄セイントフレイムプリズン』!」



 詠唱しながら集団で影の魔物の立っている場所に『起爆剤』を投入。

 すごい轟音と共に、残りの影の魔物たちが聖なる青い極太の炎の柱に閉じ込められた。炎が消えると、魔物は綺麗さっぱり消え去っていた。俺が魔大陸で危なげなく倒せるのって、今の魔物くらいなんだよね。スッキリ。



『マックノマホウ、オイシイ、オイシイ!』



 出会ったばっかりの時のリザみたいなことを言いながら、ティーロイが喜んでいる。聖魔法を浴びるのがすっごく好きなんだよね。俺が聖魔法を出すときは大抵うっとりした顔をしているのが凄く可愛い。だからたまに工房はティーロイのために浄化されていたりする。

 そうこうしているうちに、魔物の群れ殲滅も終わったみたいだった。

 ホクホクしながら戻って来た人たちをお迎えすると、たいやきくんがおかしな目を俺に向けていた。



「ごめん……俺、誤解してた」

「え?」

「なんかさ、マック君って戦闘は苦手なんだと思ってたけどさ」

「えっと、苦手だけど」

「なんつうか……強いのな。誤解してたよ。俺、あの厄介な魔物をあんなに簡単に倒せる奴ってユキヒラ位だと思ってた。もしくは高橋の彼女。ごめん、マック君魔法トップクラスじゃんか。めっちゃ強くて正直怖かった」



 こ、怖がられた?

 たいやきくんの言葉に愕然としていると、雄太が同情しているような変な顔で、たいやきくんの肩にポンと手を置いた。



「言ったろ。マックの聖魔法は正直ドン引きレベルなんだって」

「ああ……。あの魔物があんなに簡単に全滅させられるなんて、俺、思ってもみなかったよ」

「俺もな、最初そう思ったよ……でもな、あいつ、辺境の墓地を完全制覇した男だから……」

「うわぁ……」



 二人で俺を変な目で見ているけれど、無視無視。

 俺はヴィデロさんに駈け寄って、お疲れ様、とくっついた。



「マックもお疲れ様。サポートありがとな。『高級肉』沢山ゲットしてきた」

「嬉しい。どうやって食べようか」

「シチューに入れればティーロイも美味しく食べられるんじゃないか?」

「そうだね。味がすごくいいのにそんなに魔力はないのかな」

「ティーロイが反応しないならそうだろうな。今度はティーロイも美味しく食べられる魔物も探してみるか」

「うん」

『オイシイニク、ティーロイモタベタイ! マホウモタベタイ!』

「そうだね。おいしいの食べたいね」



 二人でティーロイを撫でていると、それを見ていた雄太が、ぶはっと吹き出した。



「会話が家族! 子供生まれたばっかりの夫婦の会話にしか聞こえねえ!」

「はっ、確かに!」



 同意するたいやきくんの言葉に、俺はヴィデロさんと目を見合わせた。

 家族って。



「俺たち普通に家族だからおかしなところないよね」

「ふふ、そうだな」



 俺の愛するパートナー、とヴィデロさんがティーロイごと俺を腕に抱き込んでローブにキスをした。ふは、こういうのすごく照れるけど嬉しい。

 ニヤニヤしそうな顔を必死で宥めていると、いきなりキン、と空気が震えた。



「さ、狩りの時間ですわよ、奥様! 奥様は影の魔物を頼みますわよ!」



 雄太が奥様口調になりながら、大剣を構える。

 ブワッと辺りを包むのは、鳥肌が立つほどの威圧。

 ヴィデロさんも俺の前に立つと、剣を構えた。



「危なくなったら逃げろよ、ティーロイ。大物だ」

『ワカッタ! マックニゲル!』

「よし、いい子だ!」



 魔物の咆哮と共に、ヴィデロさんの背中に青い羽根が広がった。

 丁度その場面を見ていたたいやきくんは、空に舞い上がっていくヴィデロさんを見送りながら、包丁を構えるのも忘れて、一言つぶやいた。



「ティーロイちゃんの、お父さんだ……」



 緊迫した空気はその一言で霧散したよね。



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