これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編3

最強パーティー肉を食む 4

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 雄太とたいやきくんは、ガンガン前に進んで、大笑いしながら魔物を倒している。傍から見るとちょっと怖い。そのせいで俺とヴィデロさんは全く出番がなく、ただただ二人の奇行を見ているだけになっている。

 俺の懐に入っているティーロイはひたすら大人しい。

 そっと覗くと、ぐっすりと寝ていた。小さな青い頭を指で撫でると、くりくりの目がパッと開いた。キョトンと俺を見上げた後、キッと目を細めて、怒っていることを俺に伝えてくる。放置しちゃったからなあ。ごめんって。

 ティーロイは小さな声で『モウオハナシシテイイ?』と訊いてくる。

 どうやらヴィデロさんに人前では俺たちから離れるな、お話するなとしつけられていたらしい。

 一度ヴィデロさんと二人で飛行訓練をしていた時、ティーロイが連れて行かれそうになってしまったらしい。なんでも、すごく上手に飛べたとハイテンションになったティーロイが、なぜか魔法を発動してしまってヴィデロさんの目の前から消えちゃったんだとか。そしてティーロイがついた先は練習していた森とは全く別の場所。プレイヤーに保護されたんだけど、ティーロイがその時喋っちゃったことで、「こういうのがしゃべるってあれじゃね? 今はやりのテイマー。こいつに名前つけてゲットすれば俺もテイマーじゃね?」みたいなノリでティーロイを連れて行っちゃったらしく、ヴィデロさんが鬼の形相で探し回ったらしい。幸いにも、ティーロイが俺たちの聖獣だっていうのを知っているプレイヤーがその人たちに説明して返して貰って何とか穏便に済んだけれど、ヴィデロさんの心情的には生きた心地がしなかったと。初めて知った。見つかった経緯はSNSらしいんだけど、ヴィデロさんもうSNS使いこなしてるのか。流石としか言えない。 

 雄太の前では大騒ぎするから、お話していい人物はヴィデロさんによって教え込まれている模様。たいやきくんは初めましてだからずっと静かにしていたらしい。



『ティーロイ、ヴィレロトマックカラハナレナイ。イイコ。ツレテイカレナイ』



 ヴィデロさんが、後悔しまくりな顔で話す内容を聴いたティーロイも、ちょっとだけプルプル震えていた。怖かったんだね。



「ティーロイ、たいやきくんは大丈夫だ。たいやきくんに正式に紹介しよう。そうしたら、ティーロイも思う存分話せるぞ」



 ヴィデロさんがティーロイの小さな頭を指先で優しく撫でる。ティーロイは目を細めて気持ちよさそうにした後、嬉しそうにピイヨと鳴いた。





「おお! 噂のマック君の子供!」

「どんな噂だよ!」



 ティーロイを紹介した時のたいやきくんのあんまりな反応に、思わず俺はツッコんでしまった。なんかどこかで同じことを突っ込んだことがあるようなないような。

 ティーロイはおっかなびっくり俺のインナーの首元からぴょこっと顔を出して、じっとたいやきくんを見た。



「絵面が可愛い」



 たいやきくんの言葉に、雄太が吹き出す。そしてヴィデロさんが若干不機嫌そうな顔になった。



「言い直そう。絵面がファンシー」

「いや意味わからないから」

「ティーロイちゃん可愛いなってことだよ。うわあ、こんにちは、ティーロイちゃん! お近づきのしるしに!」



 たいやきくんは、サッとカバンを開けて、中から串焼きを取り出した。それをティーロイの前に差し出す。



「これをどうぞ」

『イラナイ』



 ティーロイに一刀両断されて、たいやきくんは崩れ落ちた。

 きっと魔力が低めの魔物の肉だったんだね。ティーロイの味覚は魔力が多い物程美味しいと感じるらしいから。最近ではスープを作るのにも、魔法陣魔法で出した魔力濃いめの水を使っているくらいだ。多分普通の肉じゃお気に召さないと思う。



「く……っ、料理人としてこれほど屈辱的なものはない……絶対に美味いと言わせて見せる……! ちなみにティーロイちゃんはどんなものが美味しい?」



 あ、本人に訊いちゃうんだ。思わず吹き出すと、ティーロイは俺の顎の下からキリッと『オイシイモノ!』と返答していて、雄太の腹筋を鍛えた。





 ヴィデロさんから顔を出していてもいいというお許しを貰って、ティーロイは俺の頭の上に陣取った。フードを付けているから、ちょっと離れた所にいる雄太とたいやきくんの話も丸聞こえである。

 滅茶苦茶ハイテンションで魔物を狩っている二人は、会話もテンション高めである。



「わはは、またしても『高級肉』! ここいら辺群生地なのか!?」

「群生地って魔物生えて来ねえだろって。違うよ、ヴィデロさんとマックとティーロイの強運コンボのお陰だって。ありがてえ、ありがてえ。今日俺は寝る前にヴィデロさんを拝む!」

「あ、俺も拝んどこ! ところでティーロイちゃんの好きな食べ物ってなんだかわかるか?」

「ティーロイはマックの料理しか食わねえぞ」

「何……! 俺より上の料理人がいる、だと……⁉」

「いやいや、分野違いだっての。何せ親だから子供の好みは把握済みってことだろ」

「親、そうか、親か。やっぱりティーロイちゃんはあの二人の実の子供なのか?」

「それマジで言ってるんだよなあ。信じてる奴はかなり多いけど。多分あれだ。ヴィデロさんが特殊スキルを持っていて、青い翼を出して空を飛べるからなんじゃねえの? 翼ヴィデロさんはかなり目撃されてるから」

「な、何、初めて聞いた……! マック君はそんな偉大な人と結婚したのか!」

「そ。俺が知ってる中でこっちの人で強い人ランキング5位に入る」

「五位ってことは、もっと強い奴もいるってことか!」

「勇者が第一位、だったんだけど、最近では勇者三位に下がったかな」



 そんなことを、ひっきりなく来る魔物を狩りながら話をしている。

 ヴィデロさんは二人とは逆の方からくる魔物をやっぱり心なしか微笑みながら屠っている。一人でも安定の強さだ。

 ある程度魔物が落ち着くと、俺たちは再び村に戻った。その間、俺は一度も戦闘に参加していない。臨時のパーティーを組んでいるからか、経験値が入ってくるのが申し訳ないくらい。ということで、怪我した時のアイテム提供は俺の役目。ハイテンションな割にこまごま傷を作っている二人に、無言でハイパーポーションを差し出すと、二人はハイテンションのまま「サンキュウ!」といい笑顔でもらって、一気飲みした。



「ま……負けた! 味も効能も何もかも……! 美味い! もう一本欲しい」



 ください、と串焼きを差し出してくるたいやきくんに、何の勝負だよと笑いながらもう一本渡すと、たいやきくんは今度は味わっているのか、ゆっくりと瓶を傾けた。

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