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番外編2
大型イベント来る! 11
しおりを挟む「ところで皆ポイントどれくらい溜まった?」
ドレインさんの一言で、皆がポイントを一斉に見せ合った。
そして目を剥く。
全員のポイントが、最後に見た時よりも3万ポイントくらい増えていたから。
雄太たちはガチで魔物退治と街の便利屋さんをしまくったらしく、二十万ポイント超え。多分ユイも。
ガンツさんと月都さんは仕事の都合で十万ポイントにあと一歩届かず。
ドレインさんは二人がログインしなくても他の人たちと臨時パーティーを組んでひたすら魔大陸で魔物狩りをしていたらしく、十八万ポイント。
「なんで魔物狩りに明け暮れた俺の方がポイント低いんだよ!」
「え、ドレインさん知らないの? 今回は魔物ブチ倒すだけよりも街の人からの声を重点的に聞いてたらしいよ、冒険者ギルドは」
「え……何それ、マジ?」
「マジもマジ。何で俺らが必死で街のパシリをしてたのか知らなかったのかよ」
「えーーーー! 何だよそれ、先に教えてよ! 俺、魔物討伐がいちばん効率イイと思ってたのに!」
「いや、俺らは言ったぞ。納品とかそっちの方のクエストはしないのかって」
「それなのにドレインがクエストなんて受けてる暇ないじゃん、って飛び出してったんだろ」
ガンツさんと月都さんの言葉に、ドレインさんは膝をついて頽れた。「俺って……」とか呟いていて、周りの皆が笑いを堪えていた。
そして俺のポイントはというと。
「ってかマックのポイント三十万近いって、もしかしてそういうこと……?」
俺の魔道具を覗き込んだドレインさんが悔しい! と叫ぶのをしり目に、俺はあれ、と首をひねった。確か、昨日は十万ポイント超えくらいだったのに。いつの間にこれだけ増えたんだよ……。大番狂わせってこれかよ。勇者納品ポイント一気に来たのかな。
いきなり増えたポイントに、せめて詳細を教えて欲しい、と切に思ったのだった。
トータルポイントが出ると、ようやくポイント詳細が端末型魔道具で見れるようになった。俺のポイントは、やっぱりというかなんというか主に増えたのはあのレアアイテムをひたすら勇者に納めたことで稼ぎ出したらしい。あとはトレの街の人たちが投書箱に投書してくれたポイントとか、ギルドの納品ポイントがボーナスがついたこととか。
とどめが、ニコロさんからのポイントだった。一気に増えた3万ポイントは、ニコロさんが冒険者ギルド経由で帰る際に、俺たちのことを投書したことで増えたんだって。ちなみにその後勇者も王女様の危機を救ったメンバーのことを納品とは別枠で投書してくれて、ドレインさんもそのポイントで二十万ポイントを軽く超えたんだそうだ。爆上がりのその数字に、いかに街のクエストが大切だったかを思い知って、更に落ち込んだのは笑うに笑えなかった。
『1位 長光 370,025P
2位 たいやきくん 351,766P
・
・
5位 マック 333,387P 』
発表された順位。
雄太たちは50位~100位の間をうろうろしていた。
今回は街の貢献度が高い人たちが主に上位総なめだった。
それにしても大番狂わせ……。確かに。
魔物を倒すことでポイントを稼いでいた人たちはあまり上位に食い込むことが出来ず、逆にギルド依頼をこなす方に重点を置いた方がボーナスが付くということで上の方にいた。
ちなみに、『サンシーカー』のメンバーは、あの後またダンジョンを探し当て、内部探索をしてマップと魔物の散布情報をギルドに提出したら、ボーナスポイントがとんでもなく多くて、雄太たち並の順位だったとか。ギルドや街の人の依頼を受けない人の中ではかなりの上位だったって。
それにしても俺が5位。
笑うしかない。だって5位。最後の日なんて仕事してからログインしたのに。5位。街の人たちの声は馬鹿に出来ないのよ、とエミリさんが超笑顔で言ったのが、忘れられない。きっと、エミリさんは街の人とプレイヤーたちの交流をメインの目的にしていたんだろうな、なんて終わってみると思う。だってイベント前よりも皆街の人たちと仲良くなってるみたいだから。
景品授与は代表で長光さんが手渡されていたのを、運営がネットで映像を流していた。
景品内容は多岐にわたるので何とも言えないけれど、俺の元にはよくわからない魔力を纏った本が来た。景品はレガロさんがエミリさんに乞われて用意したというから、きっとその人にとって重要な物がそれぞれ行き渡ったんだと思う。
ちょっと大変なアクシデントもあったけれど、イベントが終わってホッと一息。
ちなみに、俺が報告するよりも早く結果を知ったヴィルさんは、結果が発表されたその日にお祝いと称して激レア素材を俺に贈ってくれた。ログインしたら沢山の見たこともないアイテムがあって、実はそっちの方に戦慄した。一体お義兄さんはどこで何をしているの。
「マック、ちょっといい?」
イベント熱も落ち着いて、勇者の所に定期納品を送ろうと冒険者ギルドに行くと、俺は即座にエミリさんに捕まった。ついでに納品頼んでみよう、と思いつつ、エミリさんの執務室に向かう。
まずは、お疲れ様という慰労の言葉を言われて、俺も同じように返す。だってエミリさんの方が仕事量絶対多いし。
「改めてあなたにアルから感謝状が届いているわ。私からもお礼を言わせて。ジャスミンを助けてくれてありがとう。それと、猊下にもし会いに行くときは、猊下にも感謝を伝えて欲しいの。猊下、アルたちに子供が出来た事、胸一つに納めててくれてるみたいなのよ。一番アルが懸念していたのが、王宮がこれを機にジャスミンの懐妊を知って口出しや手出ししてくることだったから。でもあの聡明な方は、そこら辺を酌んでくれたみたいで。私も猊下にはなかなかお目通り出来ないから、本当にマックがいてくれてよかった」
「俺は、他のことは出来なかったので。でも、力になれてよかったです」
疑いもせずにすぐに腰を上げてくれたニコロさんには、俺もお礼をしに行かないと。
あとで差し入れを持って行こう、と思っていると、エミリさんが「そうそう、メインはこれなのよ」と手を打った。
「今回のイベント、上位10名の人には個別に渡しているのがあったの。盛り上げ報酬みたいな物なんだけどね」
そう言いながら取り出して来た物は。
「……『魔大陸出張行商人呼出券』? 何ですかこれ」
「ふふふ、あのね、上位10名、皆魔大陸でも活動できる生産組だったのよ。だからね、生産組の燃料になればって、協力者にそれを提供してもらったの。きっと採取に重きを置いてる人には垂涎ものだと思うわよ」
「魔大陸出張行商って……クラッシュですか?」
「違うわ。クラッシュは行商じゃないもの。あの子は雑貨屋魔大陸支店兼冒険者ギルド魔大陸支部統括代理よ」
「クラッシュが出世してるように聞こえる……」
「変わりはないんだけれどね。肩書があった方が、トラブルに対処しやすいのよ。色々と」
「あはい」
ふふ、と笑うエミリさんの顔は、ちょっとだけ悪い顔をしていたけれど、俺は見なかったことにした。
それにしても、この券って一体何なんだろう。
ちょっとだけ豪華そうなチケットを鑑定してみると、なんだか魔法陣が薄っすらと見えた。え、普通の紙じゃない。
『特定人物呼出用魔法書:この魔法書に魔力を込めると、魔法書に紐づけられた人物に連絡と位置情報が送信される魔法陣の描かれた書』
「召喚チケット……?」
「あら、見えたの? そう。魔大陸に行ったときに使ってみてね。絶対に他では手に入らないような素材を売り歩いている行商人だから楽しいわよ。そして、運が良ければまたそのチケットを本人たちから貰えるかもしれないわね」
他では手に入らないような素材!!
食いついた俺に、エミリさんは意味深な笑顔を残した。
イベント終了の打ち上げにアリッサさんから呼び出され、俺とヴィデロさんとヴィルさんと佐久間さんはアリッサさん率いる運営人と合流した。俺が行っていいのかなって思ったんだけど、皆に押し切られてしまった。
皆で食べて飲んで、解放感に大騒ぎの中、酒の匂いに当てられた俺は、ヴィデロさんと二人、店の外にある庭で涼んでいた。
「ヴィデロさんお疲れ様」
「ケンゴは楽しそうだったな、イベント。あの笑顔を見るためだけに頑張ったからな」
「すごく楽しかった。途中アクシデントがあったりしたけど」
「そうか」
ヴィデロさんの手にはグラスが握られ、そこには度の強いお酒が入っている。俺の手にはウーロン茶のグラス。
既に沢山食べたからお腹は一杯。
二人で並んで座ったベンチには、仄かな明かりが足元を照らしている。
「でも」
俺がヴィデロさんの腕に身を寄せると、肩に腕が回った。
「イベントも楽しかったけど、俺はヴィデロさんの無精ひげがかっこよくて仕方なかった」
本音を零すと、ヴィデロさんはちょっと考え込んでから、口を開いた。
「今度、髭伸ばそうか……」
「!!」
ヴィデロさんの何気ない呟きに過剰反応した俺。
え、待って。
何それ。
ヴィデロさんが髭を伸ばす……。
想像しただけでなんか、なんか。
俺はグラスをそっとベンチに置くと、両手で顔を覆った。
「ヴィデロさんは俺を殺す気かな……! 想像しただけでもう、もう……!」
ああああ絶対髭ヴィデロさんがかっこいいですありがとうございます。
天に向かって呟くと、ヴィデロさんは声を出して笑い始めた。
雄太発、大規模になったイベントは、運営にとって怒涛のような毎日と、不思議な報酬と、俺にとって思ってもみなかった極上の恩恵を残して、終わりを告げた。
だってヴィデロさんの髭だよ!? 目の保養以外の何物でもないよね……!
その後、髭の感触が下腹部を直撃して、わけが分からなくなるくらい感じ過ぎた俺に泣きが入って、髭を剃って貰ったのはまた別の話。視覚でも感覚でも快感3割増し(当社比)とか辛すぎるんだけど……。
終わり。
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