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番外編2
大型イベント来る! 5
しおりを挟むギルド魔大陸支店がある村の周りはあまりにもプレイヤーが多かったので、今度は俺の転移魔法陣で魔王城のあった場所の近くの村に跳ぶことにした。多分あそこならそんなにプレイヤーはいないだろうと踏んで。途中にある村も浄化されてないから休憩しづらいだろうし、先に進むのはかなり難しいと思うから。
皆と共に魔王城近くの村に跳んだ。
その村はしっかりと浄化されていて魔物が入ってこない場所なので、一旦皆で休憩をすることにした。
広場のボロボロの石段に腰を下ろし、ドロップ品を確認する。
長光さんの地図でこの村の位置を教えると、『サンシーカー』の三人から変な視線を向けられた。
「どうしてマックさんがこんな中枢に来れるのか……」
「いや、マック先輩だし」
「なんつうか、常識が通じない……」
「待って、俺、そんなおかしなことしてないからね!? それに長光さんだって魔王城に行けるから!」
「魔王城って……あんたたち二人生産職でしょうが……俺ら自信無くすよ……」
三人のため息交じりの言葉に、長光さんが腹を抱えて笑っている。
とりあえずドロップ品を確認すると、『高級肉』が数個あったので、簡易調理キットを取り出してセットする。一つはヴィデロさんにお土産って持って帰ろう。
もちろんそのままじゃ食べれないので、ディスペルポーションで洗う。
俺の一連の動きを、三人が食い入るように見ていた。
「マックさん、ちょっと質問イイすか」
「何?」
「そういう情報、どこで手に入れたんっすか」
「そういう情報って?」
肉が綺麗な霜降りになったのを確認して、水を切っていると、隼がそれそれ、とディスペルポーションの入った器を指さした。
「魔大陸のモノを綺麗にする方法とか」
「ああ、これね。前にディスペルハイポーションを作る過程で出来たポーションがね、穢れを取るだけのモノだったんだよ。もしかしたら使えるかなって思って使ってみたら有効だったんだ」
「じゃあ、自力……」
「うんまあ、自力と言えば、自力?」
まな板の上で肉を薄めに切りながらこたえると、三人は目を輝かせてすげえ! と騒ぎ始めた。
そんな中、熱したフライパンの上にトレアムさん作のバターを軽く引いて、切り分けた『高級肉』を載せる。
ジュワーッと美味しそうな音が響き、凄く食欲をそそる香りが漂い始めた。
塩と胡椒で軽く味付けして、果物のソースの入った瓶を取り出した。作り置きしてるのホント便利。
俺の作業を見て、長光さんが懐から小さめのテーブルを取り出した。余りにもあんまりな光景に、思わず声を出して笑うと、HARUが「懐の神秘……」とかわけわからない言葉を呟いていたのが耳に入って来て、更に笑う。
長光さんテーブルの上に、面白がってタクトが綺麗なレース地の布を敷いたので、その上に焼けた肉の乗った皿をどんと置く。
パンも取り出して、皿の横に山にして、果物を取り出す。野菜も欲しいかな、と葉物野菜を軽く切って簡単サラダを作ってドレッシングを出す。モントさんの所のリモーネベースのドレッシングはイタリアンドレッシングみたいですごく美味しいんだ。酸味が強いけどそれがいい。
その分果物は甘いペスカを切り分ける。
小さめのテーブルは、それだけでいっぱいいっぱいになった。
スープとかも出したいけれど、置く場所がないな。
と考えていると、それが口に出たらしく、皆の目が凄く輝いていた。
「地面直置きでもいい、スープ欲しい」
「俺も、地面にはいつくばってもいい、マック先輩のスープ欲しい」
「欲を言えばタルトも食ってみたいけど、そこまで贅沢は言えないからスープ欲しい」
「俺もマック君お手製スープ飲んでみたい。対価は何がいい?」
長光さんの言葉に、三人がザッとインベントリから魔物素材を取り出して俺に差し出す。
いやいや、パーティー組んでるのに対価っておかしいから。
「俺全然戦闘してないから、その分こういうので貢献しないと足手まといじゃん。対価は貰えない。ええと、じゃあ、スープは飲みやすさ重視で瓶入りのにしよう。作り置きでよければ」
これからもう少し魔大陸魔物と戦うんだし、ステータス底上げしたほうがいいよね、と沢山作ってある色とりどり薬膳スープを皆の分だけ取り出して配ると、それを見た全員が息を呑んで瓶を見た。綺麗でしょ。この何層にも重なった色合い、見てるだけでも好きなんだ。
「じゃあ、腹ごしらえしようか。簡単ランチだけど」
「簡単でこの豪華さ……俺らもう二度と普段の食事には戻れない……」
「ほんとそれ……」
「俺、このこと一生忘れない」
隼なんて、半泣きで手を合わせていただきますしている。大げさなんだけど。
肉を焼いて野菜をサッと切っただけだよ。
俺もいただきます、と手を合わせて高級焼き肉を口に放り込む。
途端に広がる肉汁と旨味。
「うま!」
全員が声を合わせて感激の声を上げた。
「やべえ……『炎輝石』より『高級肉』の方が入手順位上に上がった……」
長光さんがおかしな呟きを発している。でもわかる。この肉は美味い。後戻りできない美味さだ。ヴィデロさんに沢山食べて欲しい。
次いで、恐る恐るスープを飲んだHARUが、目をカッと見開いた。
「なんだこれ……! 超絶美味い。身体がいきなりあったまるし、なんか闘志が湧いてくる気がする……!」
その言葉を聞いた長光さんが、瓶を手に取ると、じっと見始めた。あ、鑑定してるのかな。と思ってチラ見していると、ぐわっとこっちを向いた。
「とんでもなく高性能なスープなんだが……これもマック君が作ったのか?」
「あ、はい。流石に魔大陸だと魔物も強いし状態異常攻撃してくるのも多いから、バフがけしたいじゃないですか」
「いやいやいや、簡単に言うが、食事でバフがけってのはなかなかないぞ。俺が知ってるので、辺境で屋台出してる『たいやきくん』っていうプレイヤーが作るやつくらいだ」
「え、それ気になるんですけど、むしろその『たいやきくん』情報を教えて欲しいですけど」
「辺境から先で活動してるプレイヤーには有名な料理人っすよ」
「そうなんだ。今度買ってみよう」
いい情報を貰った、とワクワクしていると、そうじゃなくて、と長光さんに突っ込まれた。
「これだよこのスープ。これはさすがにタダでは貰えないんだが。値段付けると恐ろしい値段になるぞ」
「もともと売り出す予定はないから値段はつけませんって」
俺と長光さんのやり取りに、三人はスープ片手に固まった。
「せ、性能を聞いてもいいっすか……?」
ゴクリ、と誰かの喉が鳴った。
え、何この雰囲気。すごい緊張感が辺りを漂っている。スープひとつでこんなに緊張しないで欲しいんだけど!
「一定時間状態異常無効化、そして、一定時間スタミナ減少無し。どれだけ走ってもどれだけスタミナ使うスキル繰り出しても、スタミナが減らないってことだ」
「うわあああああああ有能すぎる!!」
「俺、なんてスープを飲んでるんだ!」
「えええええええ、そんなスープが野営中に出て来るなんて奇跡……! 俺、幸運の神様に感謝します! っつうかマックさんの非常識さは天元突破してた……!」
なんていうか、この中で一番おいしいのは肉なんだけど、肉の感動が半減してるよね。
溜め息を吐きながら、ゆっくりゆっくりスープを味わう面々よりも沢山肉を頬張った俺なのだった。とはいえそこまで胃袋大きくないからすぐいっぱいになるんだけどね!
結局、『高級肉』が沢山ゲット出来たら半分を俺にお供えする、ということで話はついた。お供えってなんだ。頼むから拝まないで欲しい。
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