これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編2

大型イベント来る! 2

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 そんなこんなでイベントは始まった。



「門番さーん。俺ら魔物討伐に貢献したって投書してよ」

「お前ら横から参入してきて何言ってんだよ。俺らだけで余裕の魔物だっつの」



 俺が森に採取に向かうと、遠くからロイさんの声が聞こえてきた。

 揉めてるのかな、とちょっと焦って近付いて行ってみると、プレイヤーと門番さんたちが向き合って言い合いしていた。



「でも怪我人もなく無事魔物倒せたじゃん」

「あんな魔物に怪我人なんか出るかよ。お前らが混ざると俺らの肉の取り分が少なくなるんだよ。最近飯に肉が少なくて力でねえんだよ! 邪魔すんな!」



 どうやら門番さんたちはやたら共闘しようとするプレイヤーたちに食材を奪われている模様。確かに、門番さんにとって森の魔物のドロップ肉は貴重な食材。ドロップ率っていうのはいまいちわからないけれど、門番さんたちの肉料理が少なくなるってことは、討伐人数が多いと何か内容が色々変動するのかもしれない。あんまり大勢で討伐ってしないからそこらへんはよくわからないけれど。でも肉のドロップって比較的少ないからなあ。

 とりあえず食べ物を差し入れようと近付いていくと、プレイヤーさんたちのあっけらかんとした声が聞こえてきた。



「あ、なんだそっちか。肉? ごめん俺らが入ると確かに肉ドロップ減るもんな。確か確率的に討伐人数多くなるとドロップ内容レア率下がるんだっけ。誰か検証してた気がする」

「肉なら大量にストックしてるから、よければ差し入れるよ。セッテの果物も大量に買ってるからそっちも。あと、セィの野菜も美味いからこの間大量買いしちまってインベントリ圧迫してるからそれも持ってってくれ。沢山あるから遠慮すんなよ」

「俺らはただ、門番さんに怪我させたくなくてさ。ま、ポイントも欲しいっちゃ欲しいんだけど」



 ごめんな、とカバンから大量の食材を取り出して、ロイさんにドカンと渡したプレイヤーを手始めに、その場にいたプレイヤーたちが次々沢山の食材を門番さんたちに渡し始めた。見る見るうちに、門番さんたちの両手は食材で埋まっていった。

 門番さんたちは声を詰まらせるように「お前ら……」と感極まっている。



「ちょっとぶっちゃけすぎる気がするけど、食い物は素直に嬉しいぜ。よし、わかった投書する。沢山の食材を分けてくれて助かったと」

「そっちかよ。って、ありがたいけどな。食事事情が酷いと辛いよな……また溜まったら差し入れるな」

「ははは、期待しとくよ」



 門番さんたちの感激に、プレイヤーたちも笑いながら和解していたので、俺はホッとして、素材のある方に足を向けた。









 そして出会った、ユニークボス。

 俺一人の時に。笑えない。しかもかなりの強さ。ううう、調子に乗って山の近くまで来るんじゃなかった。でもこっちの方にしかない素材があるんだよ。

 長光さんの刀で応戦しているけれど、たまに入るクリティカル以外はそんなにダメージを与えることができず、聖魔法を唱えようとしても、詠唱の最中に攻撃されて詠唱ストップしてしまう。

 逃げればいいのに、って思うかもしれないけれど、魔物のHPはあと4分の1程度なのが惜しい気がする。

 それに、最近では鑑定眼のレベルが上がったからか、半々の確率で落とすドロップ品がわかっちゃうんだ。目の前の特大兎の魔物がごくたまに落とす『炎輝石フレイムパイロキシン』はアクセサリーとしても錬金素材としてもかなり凄い素材なんだよ。ドロップ率は5%程度だけど。ここまで削ったら夢見てもいいじゃん。

 特大兎は超凶悪な顔つきで俺を見下ろすと、その腕をブンと降ってきた。

 パンチひとつとっても滅茶苦茶早い。よけきれなくて腕に当たって飛ばされる。痛い。

 すぐにハイパーポーションを頭から掛けつつ、樹の間を走る。

 大きいから森の中は戦いにくいんじゃないかな、なんて思った時もありました。

 二足歩行大型うさぎは、驚くほどスムーズに木の間をスルリと抜けてこっちに飛び出してきた。

 剣で兎の爪を押さえる。

 ガキン、と金属音が響いて、腕にとんでもない負荷がかかる。

 あと少しでHP削り切れるのに! あと少しが遠い。

 錬金アイテムを投げても効果は薄く、余計に怒らせただけだったし。

 ピキン、と刀から音がして、刃が欠けたのが見えた。ああああ、大事な刀が。かといって刀を引いたらあの爪のシュレッダーにかけられるって知ってる。

 かぎ裂き状態で蘇生薬かけたら斬り刻まれた状態で生き返るのかな。

 でもここまで来て死に戻りは悔しすぎる。



 周りが皆強いから、そんな中に混ざってたから、俺も少しは強くなったのかも、なんて驕ってたよ!

 トレの森のユニークくらいなら一人で行けるかも、なんて馬鹿なことを考えてたよ。反省。

 腕が痺れて来て、そろそろヤバい、と思ったら、横からもう一本の腕が飛んできて、俺はもろにそれを食らった。



「が……っ!」



 横に吹き飛ばされて、樹の間を滑っていく。

 今のでほぼHPが削られた。回復しようにも身体が麻痺して動かない。

 ああ、死に戻り決定……。

 跳躍する特大兎を視界に入れてしまい、キラキラになる覚悟を決めた次の瞬間、ウサギが変な方向に飛んで行った。



「大丈夫か!」



 声を掛けられても、麻痺で声が出ない。

 ガキンガキン、とまるで金属でも殴りつけるような音が数度響いて、助けに入ってくれた人たちの手によって、すぐさま特大兎は宙に消えていった。それにしてもこの麻痺はいつ消えるのか。瀕死なんだけど。

 兎をやっつけてくれた人たちがフードに隠された俺の顔を覗き込み。



「あれ、マックさん?」

「やべ、瀕死じゃん」

「回復薬ある?」



 聞いたことのあるような声が、聴こえてきた。





 俺を助けてくれたのは、前にトレの隠し洞窟で一緒に行動した中学生三人組のHARU、隼、タクトDXだった。

 すぐに隼に麻痺を取って貰って、ハイパーポーションを飲む。ああ、よかった、全快。



「ありがとう。すごく助かったよ」

「マック先輩薬師じゃなかったっけ。何一人でユニークボスと戦ってんだよ」



 HARUからツッコミが入り、俺は居たたまれない想いでハハハと笑った。

 一体なら倒せるんじゃないかと思ったんだよ。でもあの強さならヴィデロさんなら一撃で倒せそうだけれども。



「それにしてもよく俺のこと覚えてたね」



 俺がそう言うと、三人は呆れたような顔を俺に向けた。



「だってマック先輩有名じゃん。俺今薬師マックスレ読んでるよ。結婚したんだっけ」

「彼氏……結婚したなら彼氏じゃないのか。NPCだと一緒にイベント出来ないから一人で歩いてたんですか?」

「それにしても、今の魔物で結構なポイント入ったよ。大分強かったんだな。岩みたいな手応えだったし、あんなのがここら辺にいるんだな」



 タクトの言葉に、俺含めた皆が一斉に参加の証であるポイントを振り分けられる魔道具を取り出す。

 確かに、今の魔物だけで300ポイントくらい入ってる。通常のトレ付近の魔物は一体につき30ポイントくらいだから、かなり破格と言っていい。ちなみに辺境の壁付近の魔物は一体につき150ポイントくらい入るらしい。雄太談。

 俺はポイント確認の魔道具をしまって、ついでにドロップ品を見た。

 そして思わずガッツポーズ。『炎輝石』きた!



「皆のお陰で狙ってたドロップ品が手に入ったよ。ありがとう」



 一人喜んでいると、HARUが「ならよかった」と笑いを堪えていた。



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